173話_竜のお姫様

夜になり、僕達は早速囮作戦を始めることにした。


対象は僕1人、他はバックアップとして付いてくる形だ。ソフィア、ミュウ、レティ、チャミュ、シェイドの5人とクルモロが周りを監視することになった。


「さて、今回は来るのかどうか…」


少年が言っていた、左腕が変な怪物を想像しながらベンチに横になる。万全な格好では犯人も油断しないだろう、と具合が悪くて寝ている風を装うことにした。


霞郷を離れてからも、自分自身鍛錬は続けていた。霞食かしょくも、霞郷程ではないにせよ、大気中に含まれるエネルギーを吸収することは可能で、そのおかげで体も幾分か速く動くようになっていた。


例え相手が来たとしても反応できれば問題ない。そうやって、犯人を待つこと数十分──。


「(誰かが来たな…)」


僕の元に近付く存在を感じる。

足音は徐々に近くなる。


「おい、そこで寝てる奴」


女性の声がして目を開ける。


そこにいたのは霞郷で共に修業をしていたリュウキだった。チャイナ服に装甲をつけたような服を着ている。相変わらず変な服を着ているな。


「バニー先輩じゃないですか」


「なっ!?ゴミ!?なんでお前がここに?」


僕の顔を見て驚くリュウキ。


「なんでって、それはこっちの台詞ですよ。まだそんな変な服着てるんですか」


「お前殺すぞ。これは正装だよ!!あんな変なコスプレじゃねえ!!」


「(正装なら尚更問題だけど…)」


「なんか文句あんのか?」


「いや、ないです…」


チッとリュウキは舌打ちする。


「まぁいい。ゴミはなんでここにいる?」


「連続殺人犯をおびき寄せてるんですよ」


「ほう、どんな奴だ?」


「天使を干からびさせるんですよ。今までに被害が出てる4人も」


「いや、もっとだな」


リュウキからは予想してなかった言葉が出てきた。


「被害者はもっといる」


「どういうことですか?」


「そいつは、俺の国を滅ぼした奴だからな」



◆◆◆◆◆



「国を滅ぼした?」


リュウキの話は、僕が全く予想していないものだった。


「そうだ、お喋りはこれくらいだな。俺は復讐を始める」


リュウキが構えると、周りから骸骨達が溢れてくる。


「こいつらは!?」


「お前の魂を取りに来た奴だよ。ぼやぼやしてると食われて死ぬぞ」


リュウキは骸骨の顔面を素手で砕くと、次々と敵を蹴散らしていく。


「ちったぁ強くなったのか見せてみろ!!」


「言われなくても!!」


リュウキの叫びをかき消すかのように、僕は骸骨達に攻撃を仕掛ける。


ボロボロと崩れ去る骸骨達。しかし、攻撃をしてもすぐに修復されてしまう。


「核を狙わないと敵は死なないぞ!!」


「うぉぉおおお!!!」


リュウキのアドバイス通り、肋骨に守られている紫のコアを砕く。


10体程の敵を倒したところで、骸骨達は跡形もなく消え去っていた。


「終わったか……」


「これは一体なんだったんだ…」


「ただの傀儡かいらいだ。敵は別にいる」


「別?」


「あぁ、もう隠れている必要もないだろう。出てこい」


リュウキはそう言うと、物陰を指さす。そこにいたのはクルモロだった。


クルモロは軽い笑みを浮かべながらこちらに歩いてくる。


「おやまぁ、随分と久しぶりな方がいらっしゃいますね。お姫様。尻尾を巻いて逃げたのではなかったですかな?」


「逃げたんじゃねぇ…お前を倒すために、今まで修業を重ねてきたんだよ」


リュウキは拳を強く握る。


「クルモロが、バニー先輩の仇?」


「あぁ、こいつは俺の国を滅ぼした張本人だ」


「そんな……」


天使警察というのは嘘だったのか、それじゃあ今回の事件の犯人は――。


「残念ですが、今日はお姫様の相手をする気はありませんので、私はこれで失礼しますよ」


クルモロは煙幕のようなものを放つと、僕たちの目の前から姿を消した。


それと同時にソフィア達の姿も見えなくなっていた。

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