167話_渇きの手

霞郷から家に戻って数日、僕はシェイドとともに天界の町を訪れていた。


霞郷に向かう途中にある町、干からびた天使が複数発見されるという不気味な場所であった。


「すまないな、シオリにまで来てもらって」


「気にしなくていいよ。放っておくのもなんだか怪しいし」


「そう言ってもらえると助かる。被害は4人まで増えているらしい。全て若い男女が狙われているそうだ」


「全員干からびた状態で発見されている、というのも何かありそうだな」


「あぁ、何らかの能力を持っていると見て間違いないだろう。ひとまず、色々な天使に話を聞いてみることにしよう」


僕とシェイドは、天界で起きている連続怪死事件の犯人を追っていた。


元々はシェイドが僕に会いに行く途中でたまたま耳にした話なのだが、シェイドにとって気になる話らしい。チャミュからもその話は聞いていて、天界ではちょっとした事件になっているようだ。


チャミュからのお願いということもあり、僕とシェイドはこうして犯人探しに出ることになったのである。とはいえ、危険なことなので後でソフィア達も合流する予定となっていた。


今回の事件で不可解な点は、被害にあった天使が全て水分を抜き取られたように干からびた状態で発見された、ということ


いわゆるミイラ状態だ。


「なにか手掛かりでもあればいいんだけど」


「ひとまず現場に向かってみるのはどうだ」


「たしかに、それは良い考えだ」



◆◆◆◆◆



僕とシェイドは最初の被害が遭ったとされる場所に来た。

町の大通りからは外れた薄暗い場所、少し声を出しても町の人には気付かれないようなところだった。


1人で歩いているところを襲われたとしても助けは来ないだろう。


「ここで襲われたら1人でなんとかするしかないな」


「ああ、犯人もこの場所をわかっているように思うが」


「その可能性もありそうだね」


そこに、チャミュがやって来た。今日は天使隊の服装らしい。スーツやバイトの格好ばかり見ていたので逆に新鮮だ。


「シオリ君」


「チャミュも来たんだね」


「2人に手伝ってもらえるのはありがたい。どうやらただの天使が犯人ではなさそうでね。化け物退治の専門家がいると心強い」


そこまで化け物退治に特化もしてないけどね、と心の中でつぶやく。


「で、なにか手掛かりはあった?」


「つい先ほど、犯人らしき者を見たという子供が現れてね。そこに行こうと思っていたんだが」


「証言者がいるのか、それはなにか手掛かりになるかも」


「2人も来てくれるか」


「あぁ、もちろん」


チャミュの案内で犯人の手掛かりを知っているかもしれない子供の家に向かうことにした。



◆◆◆◆◆


家に着いた僕達を迎えてくれたのは、10歳くらいの男の子だった。


「君が犯人を見たって子かい?」


「うん、そうだよ」


少年は無邪気に笑うとシェイドにするりと近寄る。スカートに手を伸ばしたかと思うと、ブワッと上に持ち上げた。


シェイドの白いパンティーが見える。


「あっ、お姉さん白だ」


ゴツンッ!


少年の頭に容赦ないシェイドの鉄拳が振ってくる。


「あっ、シェイド」


「すまない、つい」


守護天使の制裁を食らい気を失う少年。


僕達は気を失っている少年の回復を待つことにした。


「うぅ……」


「目が覚めたか、少年」


「あれ、一体何が…」


「きっと疲れていたんだろう、急に眠ってしまったようだったからな」


平然と嘘をつくシェイド。


「おじさんは一体誰?」


「おじさんではない、お兄さんだ」


そこまで老けていないだろう。


「僕は天使隊の1人、シオリだ。この街で起きた殺人事件の犯人を追っている」


家に着く前、チャミュとその方がスムーズに会話を聞けるだろうということで、天使隊として調査していることにしていた。


「ふーん……そっちのお姉さんは?」


「私も彼と同じ天使隊の一員だ」


そう答えたチャミュにするりと近寄った少年は、ペロッとチャミュのミニスカートをめくる。


「なっ…!?」


スカートの中から姿を表す紅色のレースのパンティー。どうやら少年は常習犯らしい。


「赤か…。お姉さん勝負パンツ?」


ゴツン!!


少年の頭に制裁を食らわせるチャミュ。再び気を失う少年。


「あっ!すまない、つい……」


「まぁ、仕方ないな……」


少年が悪いことに違いはない。仕方ないので、また少年が目覚めるのを少し待つ。


「うぅ……、頭がガンガンする……」


「気のせいだ。それで、早速だけど話を聞かせてほしいんだ。変な腕の化け物の話をね」


「おじさん、僕の話を聞いてくれるの?」


「いやだからおじさんではないって。…まぁいいや、君の話を聞きたいんだよ」


「警察のおっさんも全然相手にしてくれなかったんだ。僕見たんだよ!数日前の夜に左腕だけが異様に長い化け物がいたのを!」


「それはどんな姿をしてたんだ?」


「一瞬だったから姿までは覚えてない。ただ、前傾姿勢で明らかに天使じゃなかった。左腕は地面につきそうな長さだったよ」


「なるほど、貴重な意見ありがとう。チャミュ、どう思う?」


「そのような発見例は報告されていないが、気になる点ではあるな。その線も踏まえて捜索してみよう」


「少年、ありがとう。犯人はまだ捕まっていないから戸締まりには十分気をつけるように」


「お姉さん、あの、」


少年がチャミュの近くに寄ってくる。


「さっきはごめんなさい」


意外にしおらしく謝る少年。


「反省してくれたならいいんだ、女性にとっては恥ずかしいことだからな」


ポンポンと少年の頭に手を乗せるチャミュ。大人の対応である。


「それじゃあ、僕達はこれで」


そう言って家を出ようとした瞬間、少年はチャミュのスカートをペロッとめくる。


「後ろはTバックだったんだね、やっぱり勝負パンツだったんだ!」


「!?」


チャミュの鉄拳が再び少年にクリーンヒットした。



◆◆◆◆◆



「最近の子供はあんなにマセているのか……」


チャミュは顔を真っ赤にしながら、昨今の少年の態度をうれいていた。


「まぁまぁ、子供のやることだから…」


「シオリくんは…見たか?」


「え…あ、まぁ、どうだろう」


見たのだが。はい、とも言いづらい。


「(シオリくんに久しぶりに会えるから気合を入れてきたのが良くなかったか…しかし、これで彼へのアピールになったのだろうか…ううむ)」


「チャミュ?」


「あ、あぁ、考え事をしていただけだ。気にしなくていい」


そこに、ソフィア、ミュウ、レティが合流する。


「また面倒な事に首を突っ込んでいるのね」


「今回は私が言い出したことだがな。シオリには付き合ってもらっているだけだ」


付き合っている、という言葉に一同ピクリと反応するが、言葉の違いに気付き、すぐ元に戻る。


「旦那様、何か手掛かりは見つかったのですか?」


するりと近くに寄ってくるレティ。ポジショニングに余念はない。


「ようやく手掛かりになりそうな証言を得たところ。まぁ、子供の言った内容だからどこまで本当かはわからないけどね」


「あら、子供でも異変に気付く子はいますわ」


「そうか、レティは学校の先生だったな」


彼女が言うと説得力がある。


「そうです。子供達の感受性は豊かですから。旦那様、私達の子供もそろそろ計画致しませんと。人数は何人にいたします?6人、9人。なんなら12人でも───」


「なにがそろそろよ、青女。シオリは私との子作りで忙しいんだからあんたの出る幕はないのよ」


ややこしい方向で喧嘩が始まりそうなので、僕はミュウの耳元で「後でたっぷり愛してやるから(ワード選定はシェイド)」と囁く。


一気に虚脱状態になり気を失うミュウ。


最近覚えた喧嘩を強制的になくす方法であった。ミュウは耳元は愛を囁かれるのに滅法弱いらしい。あえて懐に飛び込む、修行で得た新しい方法(それが正しいのかは知らない)。


「話を戻そう。その子供が言っていた左腕が長い化け物、こいつの正体を突き止めてみようと思う。囮になるのが一番早いと思うのだが」


「まぁ、それが早そうではあるな。よし、じゃあ」


「旦那様はダメですよ、危ないですので」


「うんうん(頷くソフィア)」


「え、でもそれこそ皆を危険な目に遭わせるわけには」


「私がやろう。シオリは皆が心配してしまう。それに、この体では干からびることもあるまい」


「じゃあ、シェイドに頼むことにするか」


かくして化け物探しが始まったのであった。

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