168話_犯人捜索

「というわけで」


僕達は犯人をおびき寄せるための作戦を開始した。


場所は、最初に被害にあった天使が発見された近くの場所。ベンチに腰掛けて犯人が来ないか待ち伏せをすることにした。シェイドは白いワンピースに麦わら帽子、赤いハイヒールを履いてスタンバイしている。


「にしても、シェイドが着るとなんというか」


か弱さの欠片もないと思ってしまったのであった。強者のオーラを感じる者はわかるだろう。


「変だったか?」


「変ってわけじゃないんだけど、モデルみたいで」


「ひとまずやってみましょうよ。果たして、これで犯人が釣れるのか」


「まぁ、そうだな。シェイド、そしたら僕達は陰に隠れて監視してるから。何かあったら内線で連絡する」


「わかった。それでは行ってくる」


シェイドは所定の位置に着くと、ベンチに腰掛けた。背筋はピシッと伸び、微動だにしない。どことなく、主人を待つ忠犬のような、そんな雰囲気を感じるのであった。


待つこと30分────。


「特に何も起きないわね」


「まぁ長期戦になるとは思うから、待つしかないよなぁ」


「シオリ、はい。あんぱんと牛乳です」


「ありがとう、ソフィア。そうそう、張り込みと言えばこのあんぱんと牛乳だよな。にしても、よく知ってたね」


「テレビドラマでやってましたので」


確かに、昼の再放送で昔の刑事ドラマやってたっけ。ソフィアの持ってきたあんぱんを食べながらシェイドの様子を伺う。


そこに、なにやら酔っ払いの金髪青年がやってきた。


「なんだよめっちゃ可愛い子いるじゃ~ん。俺といいことしようぜ~」


見た感じ青年天使。大学生なりたてでサークルの初めての飲み会ではっちゃけ過ぎたような、やけにハイなテンション天使だった。


「お前が最近天使を襲っている犯人か?」


シェイドは表情を変えず、背筋をピンと伸ばしたまま言葉を返す。


「襲う~?なんのこと言ってるかわかんねぇけど、君みたいな可愛い子だったら襲っちゃうかもね~」


そう言ってふらつきながらシェイドの方に腕を伸ばす青年。


ドサッ。


シェイドはその場から素早く離れ、勢い余った青年がベンチに激突し、気を失う。


「シェイド、その人は気にしなくていいよ。外れだ」


シェイドに通信で話をする。


「了解した。ただの酔っ払いのようだな」


「すいませ~ん、大丈夫ですか?」


そこに、茶色にスーツに身を包んだ別の青年がやってきた。探偵を思わせるようなマントに帽子、物腰柔らかそうな顔付きをしている。


「あなたは?」


「私は天使警察のクルモロというものです。天使連続殺害事件を追ってまして」


クルモロ、と名乗った青年は警察手帳のようなものをシェイドに見せた。


「この時間帯は被害に遭った時間に近いので、町を巡回しているんですよ」


「なるほど、こちらは酔っ払いがいましたが特に心配はありません」


「そうでしたか。ありがとうございます。では、そちらの人はお連れの方では?」


「関係ないですね」


「わかりました。それでは、その青年はこちらの方で引き取りますので。失礼しました」


そう言ってクルモロは気絶している青年を抱えて連れて行く。


「そうだ、犯人の手掛かりなんですけど、カップルを狙った、なんて情報も入っているみたいです」


「なんと。犯人の姿は見たのですか?」


「いえ、そこまではわからないらしいです。くれぐれも気を付けてくださいね」


それでは、とクルモロは青年を引きずっていなくなってしまった。


「シェイド、今のは…」


「どうやら天使警察の者らしい。巡回しているようだ」


「警察も警戒しているみたいだな。そりゃそうか」


「彼の言うことには、どうやらカップルが狙われているらしい」


「そんな情報あったんだ」


「私達も、囮をするならカップルのフリをした方が良さそうだな」


ピン、とカップルという言葉に反応する面々。


「仕方ないわね、それなら私がやるわ」


「いえ、私の役割です」


「………(一応自分もシオリの彼女候補を頑張ってアピール)」


「安全面を考えるとここは私とシオリでいいだろう」


「あ、差し支えなければ私も候補に入れてもらえると。ほら、天使隊なわけだし、安全だし」


皆一斉に僕の方を見る。


「え?」


急に五択を迫られるのであった。


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