159話_天に登りつめた者

博士の紹介で、僕は天界の外れにある霞郷かすみきょうという場所を訪れていた。名前の通り、霞がかかったような周囲がはっきりしない場所なのだが、しばらく上に向かって階段を上る。


「この階段、何段あるのかしら。だいぶ緩やかなようだけれど、先は長いみたいね」


「仙人が住むような場所だな。このような風景は本で見たことがある」


確かに、中国の仙人でもいそうな感じの怪しさはあった。


「本当にこんなところに道場なんてあるんでしょうか」


レティも疑問を投げかける。


結局、ソフィア、ミュウ、レティの3人は僕が止めたにも関わらずついてきてしまった。


シェイドは家で大人しく留守番をしている。最近ではシェイドが一番聞き分けが良くなってしまっていたりする。


そんなこんなで長い階段をひた歩いていると道場の門が見えてきた。


「あっ、シオリ。門が見えてきたわよ」


「本当だ。天雅道場って書いてる」


「早速中に入ってみましょうか」


レティが門を押そうとするが、ビクともしない。


「あれ?開きませんね?」


「力が足りないんじゃないかしら。貸しなさいよ」


レティに代わりミュウが門を押す。しかし、それでも全く動く気配はない。


「鍵でもかかっているんじゃないの?」


「いや、そういう扉ではないと思うんだけど。すいませーん………うおわっ」


僕が門を叩こうと門に手をつくと、ギギギとひとりでに動き出した。思わず前につんのめる。だいぶカッコ悪い。


「開いたわね」


「シオリ、中に行ってみましょう」


中は綺麗に掃除された庭と、日本さながらの古い道場があった。


中に入ってみると道場に一人、静かに正座をしている女性がいた。年はソフィアと同じくらい。薄い金色の髪を一つ手に結び、精神統一をしているようだ。傍目に見ても美人だと思われる。しかし、気になるのは頭にはウサ耳をつけて、黒いバニーガールの衣装を着ている。足は網タイツだ。


…何故?


「なんなの、あれは」


思ったことが口をついて出るミュウ。その声に気付いて正座をしていた女性が立ち上がり、俊敏な動きで構える。


「何者だ!?」


キリッとした表情が僕たちを睨みつける。


「あ、あの、ここに、武術を教えてくれる方がいるって紹介されて、」


「門は固く閉ざされていたはず。師範は今弟子の募集などしていない。さては、この道場に盗みに入ったな。この不届き者が!!」


女性は僕目掛けて一気にこちらに向かってくる。僕の首を掴まえようとした腕をレティが反応し、すんでのところで防ぐがそれもすぐ対応されてしまい、4人とも吹き飛ばされてしまう。


「きゃあっ」


飛ばされてしりもちをつく女性達。


「泥棒とはいえ、この姿を見られて生かしておくわけにはいかない。死ねっ!!!」


バニーガール女の鋭い手刀が僕の胸を貫く――――前に誰かが僕の頭上を通り過ぎた。


「あいたっ」


バニーガール女の頭をポカッと叩いた人物は綺麗に着地を決めると、僕の前に姿を現した。


身長70センチくらいだろうか、ちんまいおじいちゃんがこちらを向いて立っていた。右目を黒い眼帯で隠し、白い顎髭あごひげをたくわえ、真っ白な髪をなびかせている。


「リュウキよ、こやつは泥棒ではない。門が開けられておった」


「天雅師範、しかし……」


「言い訳するでない。ほれ、尻を突き出せ」


「ええっ!?ここでですか!?で、でも…」


「突き出せ」


「…は、はい」


リュウキと呼ばれたバニーガールの女の子は、渋々師範と呼んでいた初老の男性に四つん這いで尻を突き出す形をとる。


「喝!!」


男性はリュウキのお尻に向かって、パシィン!と、それはとても気持ちの良い平手打ちをお見舞いしたのだった。


「いったー!!!」


計3発の平手打ちをくらい片方の尻が真っ赤に腫れ上がるリュウキ。恥ずかしさと痛さで顔を地面に突っ伏していた。


「勝手に戦おうとした罰じゃ。さて、そこの若いの。門は閉めていたはずなんじゃが」


「え、でも、僕が触ったらひとりでに開いたんだけど…」


「ほう、門が認めたか。で、ここになんの用じゃ?」


「強くなりたい、ここなら強くなれると聞いてやってきた」


「なるほど、ではお主は儂に何を与えてくれる?」


「ぐえっ」


師範はバニーガール女の尻の上に乗っかり、こちらを見つめる。


「何って…」


「そりゃそうじゃろう、わしゃ何も無償で教える気などない。強くなるには相応の代価が必要じゃ。この女は、わしの好みの衣装を毎日着ることを条件に修行をつけておる」


そう言って、リュウキの尻をペチンと叩く。


「金で済ませたいのなら――そうさな、宮殿が買えるくらいの額は欲しいのう」


「そんな額!?」


もちろん、払えるはずもない。


「ちょっと、さっきから黙って聞いていれば随分とひどいんじゃなくて?」


ミュウが僕の前に出たところで、一瞬師範の姿が見えなくなる。


モミモミ、モミモミモミ。


「ふむ、ふむふむ。これはなかなか小ぶりながらに上等じゃのう」


ミュウのおっぱいをもむ師範。その時間、まさに一瞬の出来事だった。


「感度は良さそうじゃの。ほほ、これは良い」


「な、な、な………何してくれてんのよ!!!」


一方的にセクハラの限りを尽くされ、怒髪天を突く勢いのミュウ。頭に血が上り両手に持ち出した剣を師範に向かって振り下ろす。


完全に殺意のこもった斬撃。それを止める暇すらなかった。


「なっ…!?」


ピンと伸ばした人差し指1本でミュウの剣を受け止める師範。まるで爪楊枝でも乗せているかのように軽々しく対応している。


「気は済んだかの?」


「そんなわけないでしょ!!」


ヒュッヒュッヒュッ!!!


ミュウの連撃を全てかわす師範。


「ゴシック女が完全に手玉に取られてますね」


「ただ者じゃないな、あの爺さん…」


「強さは相当なものみたいですね」


ミュウの攻撃を全てかわしきり、それでも汗一つかいていない。


「ハァッ、ハァッ……」


「もう終わりかの?」


「ま、まだよ……」


攻撃が当たらずイライラが募るミュウ。しかし、立て続けの攻撃で息が切れてしまっていた。


「そこの女達はお前のかの?」


「僕のじゃない、皆仲間だ」


そういう言われ方にはムッとしてしまう。


「ほう、仲間か。どうじゃ、3人とも毎日わしの世話をしてくれれば教えてやらんこともないぞ」


「なっ!!?」


師範は驚くべき提案をしてきたのであった。



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