158話_続・修行

シェイドの提案を受け、僕はまたモグマッチョ師範との修行を始めた。


ソフィアを守りたい気持ちはここ一番に高まっていた。


難易度は【手強い】。


師範の手数が急に増え出すこの難易度は、攻撃をしっかりと避けてカウンターを当てることが必須となる。攻守の切り替えを頭ではなく体が反応して出来るようにならないといけないのだ。


理屈はわかる。


しかし、僕の体はそれにすぐついていけるほど万能ではなく、師範にボッコボコにされて幾度となく天井を仰ぎ見た。


「つえぇ……」


途中からヘッドギアとグローブを付けだしたが、それでも痛みで顔がジンジンしていた。


「全然ダメみたいね」


ミュウは舐めていたポップキャンディを僕の口に突っ込む。


「ふごっ。師範、強いんだよ」


コーラとミュウの唾液のチョコの味が混ざって不思議な味がした。


「仕方ないわねぇ、私がお手本を見せてあげるわよ」


見かねたミュウがモグマッチョ師範とのスパーリングの手本を見せてくれることになった。


難易度は変わらず【手強い】のまま。


開始早々、あえて師範の懐に入り込み、出足のジャブ2発を弾くミュウ。距離を稼げないパンチはあっさりとミュウに阻止され、代わりにミュウのパンチと後ろ回し蹴りが綺麗に師範の胸元にヒットした。


「ヒット クリア」


「今3発当てた?」


「4発当てたわよ。パンチ2発と蹴り2発」


「うげ……マジか…」


全く見えなかった。


あっさりとクリアしてしまうミュウ。しかし、これでは実力差がありすぎて参考にならなかった。


「相手の適性リーチで攻撃させない、というのは有効だろう。それだけで威力を半減できる。中途半端に下がるより、いっそ懐に飛び込んだ方が相手も攻撃の選択肢が限られる」


「あと、撮ったビデオを見てみたんですけど、攻撃される瞬間に一瞬目を閉じるクセがあるみたいです。そこを意識できれば少し違うかも」


シェイド、ソフィアがアドバイスをくれる。男としては情けないと感じる部分もあるが、そこはちゃんと自分の弱さを認めないといけない。彼女達のアドバイスを持って再びモグマッチョ師範とのスパーリングに挑む。


結果は大敗。


しかし、シェイドの言うとおり、あえて前に出ることによってモグマッチョ師範のジャブの威力は先ほどより軽減出来たように思う(痛いことに変わりはないのだが)。


まばたきを減らし、目を凝らすことによって少しだが相手の攻撃を見ることが出来た。対応までは出来なかったが、それでもひとつずつ進歩している。


「旦那様、攻守の切り替えが遅いですわ。カウンターを狙うのであれば、相手の終わり際をしっかりと狙わないと。はい、ここです」


動画を僕に見せながらレクチャーしてくれるレティ(さりげに僕の後ろからくっついておっぱいを押し当てているが、真面目な話をしているので気にしないことにする。それを見たミュウは止めようとしたがシェイドに阻止された)。


彼女達に色々と教えてもらいながらモグマッチョ師範とのスパーリングに励む。


初日こそボッコボコにやられたが、1週間、2週間と繰り返すうちに少しずつモグマッチョ師範の動きに反応出来るようになってきた。


ソフィアとシェイドを除く2人は、予定が空いていればスパーリングに付き合ってくれた。彼女達のスパーリングも見てみたが、はっきり言って僕とは次元が違った。僕はよくズィアロに勝てたな、と思ってしまう。


そんな修行を始めて数週間のこと───。


スパーリング場所に博士がやって来た。エデモアの師匠、久しぶりの登場である。


「やぁシオリくん、元気にやってるみたいだね。エデモアに聞いたよ。なんでも強くなりたいんだってね」


「博士、久しぶりです。そうですね、エデモアに言ってスパーリング人形を借りてます」


「モグマッチョ師範か、懐かしいねぇ。この人は元々実在した天使でね。それはもうスパルタな教官で有名だったんだ。恐らくその時のをイメージしてつくったんだろう」


「(実在するんだ……)」


「強くなりたいのなら、人を紹介することも出来るけど、会ってみるかい?」


突然の提案に驚く僕。


「いいんですか?」


「性格はちょっとアレな人なんだけど、強さは間違いないから食らいつければ強くはなれるんじゃないかな」


「会ってみたいです!!」


僕は即答していた。


「良い返事だね。それじゃあここ、地図に○付けといたから、頑張って」


ポンと肩を叩き、地図を渡してくれる博士。


「あ、あと、ひとつだけ注意。ものすごくスケベな爺さんなんで彼女達は連れて行かない方がいいかも。何されるかわかんないからね」


「え……」


最後に気になる言葉を残し、博士は去っていった。


「ほう、天雅道場か」


「知ってるのか?シェイド」


「いや」


ズコーッ。久しぶりに往年の古いリアクションを取る。


「そこに行けば、シオリを強くしてくれる爺さんがいるということか」


「そうみたいだな、モグマッチョ師範とのスパーリングが一区切りついたら行ってみようかな」


「なら、私達も行くからちゃんと日付を教えてよね」


「でも、さっき博士が」


「ジジイにセクハラさせるほど落ちぶれてはいないわ。シオリは自分の心配をしなさい」


「そうです、旦那様は私のことは気にせず修行に集中なさってください」

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