153話_明日へ向かって

ミュウラゼルドがいなくなって数日、家には平和が戻ったが何か大事なものを失ったまま、過ごしているような気がしていた。


彼女との出来事はたった数日間だが、その時間はあまりにも濃く、僕もソフィアも少なからずその影響でどこか元気がなかった。


そんな様子をレティも気付いたのか、ある日僕はレティに無理矢理デートに連れて行かれた───。


「レティ、どこ行くっていうんだよ」


「特に、ここということはございません。旦那様が元気がないようでしたので、そこは気遣うのが妻としての務め、今日は私のプランに付き合っていただきます。というわけで」


ガッシリと恋人つなぎをするレティ。そして、もう片方に持っていた携帯でソフィアに電話をする。


「もしもし、ソフィア?今日これから旦那様とデートに行きますので。止めたければ止めにいらっしゃい、それとあのちんちくりんな妹にも伝えておいてもらえるかしら。ゴシック女がふてくされている間に私は旦那様と最高の時を過ごしますわ、と」


高笑いと共に、携帯を切るレティ。


「レティ、今のって」


「さぁ、準備は整いました。参りましょう、旦那様」



◆◆◆◆◆



レティに連れられてやってきた場所は、魔界にある獄重橋ごくえきょうと呼ばれる大きな橋だった。


何の影響なのかわからないが、橋を支える柱がだいぶ痛んでおり、幾人もの悪魔がその修理にあたっている。


「レティ、ここは?」


状況を飲み込めず、レティに問いかける。


「ここが今日の旦那様とのデートの場所です。さ、早速行きましょう」


レティは気にすることもなく、橋の下で働いていたドカタの悪魔に話しかける。


「おぉ、レティさんでないかい。いつもすまねぇな」


悪魔はうやうやしくレティに礼をすると、何やら話を始めた。


魔界にもこんな場所があったのかと驚くが、なによりレティがこういった場所の悪魔と関わりがあったことも初めて知り、レティの新しい一面を知ったのだった。


戻ってきたレティは、僕に軍手を手渡す。


「それでは旦那様、早速働きましょう。私は皆さんの食事を用意しますので」


「え、レティ?」


ささっと行ってしまうレティ。そこに、屈強なドカタ悪魔が僕の肩を叩く。


「あんちゃんが新入りやな、早速やろうやないかい」


「えっ、あれーーー」


*


そこから2時間程、僕は汗だくになりながら橋の補修作業を手伝っていた。悪魔とは思えない勤勉なマッチョ悪魔達に囲まれて、僕は必死に木材やら他の道具を運ぶ。


「ほら、あんちゃんしっかり働け!!」


悪魔に尻を叩かれながら、僕はまわりに置いていかれないよう食らいついていた。


それを遠くから眺めているレティ。同じく食事を準備していた姐さん悪魔がレティに声をかける。


「あんたが男を連れてきて働かせるなんて珍しいねぇ。男には全員奉仕するんじゃなかったのかい?」


「全員ではないわ、それはきちんと支払ってくれた人だけ。それに、あの人はそういう対象ではないの。私にとって初めて出会った漢の人なんだから」


「あんたは惚れた男にはスパルタになるんだねぇ」


そんな2人の会話など知らず、僕は働き続けるのであった。



◆◆◆◆◆



「シオリが青女と出て行った?」


喫茶店の自分の部屋で電話を受けたミュウは、ソフィアと話をしていた。


「ええ、なんだかシオリと楽しい時間を過ごすから、とかって。ミュウにも用があるみたいだったけど」


「それ、私を挑発してるのよ姉様…。で、なんで姉様は着いて行かなかったの?」


「え、えぇっと、それは……」


なにやら口ごもるソフィア。


「まぁいいわ、で、シオリと青女の向かった場所はわかるのかしら?」


「ええ、携帯の方に詳しい地図は送るから見てみて頂戴」


「ありがとう、見てみるわ」


ソフィアとの電話を切るミュウ。


「あの青女、一体どういうつもりなのかしら………」


わざわざシオリとデートをするなんて邪魔されたら面倒な情報を流してくるとは。もしかして、邪魔されるのを狙っている?


青女のことだから何かを企んでいる可能性は充分にあった。けれど、売られた喧嘩を買わないのはミュウの性に合わなかった。


「やってやろうじゃないの…」


ミュウは勝負服に着替えると、喫茶店を颯爽と出て行った。





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