149話_終息の弾丸
巨大化したズィアロは、その腕力にものを言わせて豪快に腕を振るってきた。
その攻撃を各自散らばって避ける。
「どうした!!逃げるだけでは私は倒せんぞ!!」
「シオリ、まずはここは私が」
シェイドはズィアロの攻撃を下に潜ってかわすと、ひざ目掛けて打撃を繰り出す。
「うおっ!!?」
態勢を崩しかけたところにもう一撃、次は胸元に蹴りが入る。体格差をものともしないパワーにズィアロが思わずよろける。
「これだけ大きいとかえって戦いやすいな。吸収される恐れがあった時の方が
よっぽど厄介だ」
拳を軽く振ると、シェイドはズィアロに向かって振り返る。
「この……調子に乗るなよ!!」
間髪入れずにミュウの剣がズィアロを切り刻む。
「余所見をしている暇があるのかしら」
「わざわざ待ってやる必要もあるまい」
ミュウラゼルドとともに、ズィアロに連撃を叩き込む。
「ぐぅぅ!!このぉ!!」
力任せに攻撃するズィアロを
「随分とゆっくり動くのね。私達が苦戦した敵とは思えないわ」
「同感だ」
ザシュッ!!ザシュッ!!
まるで遊んでいるかのように駆け回り、攻撃を仕掛けていく。
「せっかく色々能力があるだろうに、何故使わないんだ?」
僕はズィアロの動きを不思議に思っていた。知性の欠片もない、ただただ力任せに攻撃を繰り返すだけ。とても賢い《クレバー》選択とは思えない
「シオリ、恐らくだが、先ほどの影響で吐き出してしまったのではないのか?」
「僕達以外も?」
「そうだ」
シェイドの読みは当たっていた。シオリ達を吐き出す影響で、ズィアロには
「何故だ…何故こうも能力がなくなっている……私が今まで集めたものを……」
「ズィアロ、最早お前は図体がでかいだけの化け物だ。お前の野望もここで潰える」
「ガキの分際で舐めたことを!!!」
三下以下の台詞を吐くようになったズィアロ。彼を恐れるものは微塵もなくなっていた。
「終わらせよう、ズィアロ」
僕は目を閉じ、意識を集中させる。背中に大きな翼を生やし、ズィアロに向かって飛んでいく。
「「シオリ!!」」
「おりゃあぁぁぁぁあ!!!」
ミュウ、ミュウラゼルドから投げられた剣を手に取り、一刀両断。ズィアロの額の宝石を砕き割った。
「ぐぅぉぉぉおおお!!!!」
額からは大量の光が溢れ出ていく。
それとともに体が徐々に小さくなっていき元の人間の姿へと戻っていく。
「終わったようだな」
「…クク、ここまでやられるとはな……」
「無駄だ、お前はもう別の世界に行くことはできない。ここで終わりだ」
顔に悔しさを滲ませるズィアロ。
「…私が、こんなところで…終わるはずがない!!」
ズィアロは懐からラヴェラポームを取り出すと、自らの胸を突き刺し、溢れる血を林檎に濡らしていく。
「ぐっ……!!」
真っ赤に染まっていくラヴェラポーム。全てが真っ赤に染まった時、それは邪悪なオーラを放ち出した。黒いオーラは溢れ出る汚水のように、地面を徐々に浸食していく。
「これは…これが、ラヴェラポームの能力なのか!?」
「わからない!!だが、これは様子がおかしい!!」
オーラは境界一体を覆い始める。
「皆、ここから出るんだ!!このままここにいてはあのオーラに取り込まれる!!」
ラヴェラポームを手に絶命したズィアロを置き去りにし、僕達は点の境界から脱出を図る。ラヴェラポームからあふれ出たオーラはズィアロも取り込むと、形の定まらない異形のものへと変貌していく。
「あれを外に出すのはまずいな……エネルギー値が徐々に高くなっている」
「シェイド、一体どういうことなの?」
「ラヴェラポームから溢れ出ているオーラはなにかしらのエネルギーの塊だ。本来は願いを成就するために使われる
「じゃあ、あのまま放っておいたら……」
「どこまで影響が出るかはわからないが、この辺一帯は吹き飛ぶだろうな…」
「そんな……」
言葉を失うミュウ。
その時、僕にはある1つの考えが浮かんでいた。
「シェイド、そのエネルギーは爆発させたら消えるのか?」
「あぁ、おそらくは。だが、あれを爆発させると……」
「“結界の中”だったらどうだ?」
「?シオリ、どういうことだ?」
僕は、ズィアロがやっていたことをイメージしながら手を横に振る。すると、天の境界一体にズィアロが使っていた結界陣が姿を現す。
「シオリ……これは……」
「上手く説明できないんだけど、頭の中にイメージ出来ているんだよね。これが“出来る”って」
ズィアロが使っていた能力を僕が使えるようになっている。
その状態を説明できるのは難しい。ある日突然自転車が乗れるようになっていたようなものだ。
「この結界内で爆発させれば…」
「ダメよ!!そんなの!!」
ミュウが近寄ってくる。
「結界だって、術者はダメージを受けるのよ。あれだけのエネルギー量、無事なわけがないじゃない」
「でも、そうでもしないと全員吹き飛んでしまうだろう」
「だったら一緒に死んだ方がマシよ」
「まぁまぁミュウ、落ち着いて。全員助かる方法を探したいのは確かだ。シオリだけを
危険な目には遭わせられない」
「けど、他に有効な手段は……」
「私が…一緒にやります…」
声の方を振り向くと、ソフィアが起き上がってこちらを見ていた。
「私がシオリのサポートをします。怪我をしても、私ならすぐに治せます」
「姉様、その体では無理よ」
「いいえ、ここでなんとかしないと、この事態は収まらないわ。そうでしょう?シオリ」
「あぁ、やろう。ソフィア」
◆◆◆◆◆
暴走する愛しき者で塗らした
オーラはとめどなく溢れていく。
僕は上半身裸になり、結界を天の結界全体に張り巡らせる。そこにソフィアが後ろから僕にくっつく形で腰に手を回す。
回復能力を最大限に出すために、僕もソフィアも直に肌を重ね合わせている。
そこにミュウが肌が見えないよう白いマント地のようなものを被せてくれた。
「全く、見てらんないだから」
「ありがとう、ミュウ」
その光景をほほを染めて見つめているチャミュ。気になったシェイドは声をかける。
「ドキドキしているのか?」
「い、いや、そんなことはない!!」
慌てて否定するが、そんなことは全然あった。
「旦那様に密着するのは許せませんが…今回限りはソフィアに免じて許しましょう」
「なにが許すよ、青女に選択権なんてないわよ」
「ゴシック女が相手だったら私は死を選んでいました」
「なにをー!!」
「あのなぁ、こっちも恥ずかしいの我慢してやってるんだから、少しはおとなしくしててくれ」
「シオリ、そろそろ始めよう」
「……了解!!」
僕は結界を強固にするようイメージをする。
「ミュウ」
ミュウラゼルドが、ミュウのことを呼ぶ。
「自分に自分の名前を呼ばれる、というのは変な感じね」
「私も同じ気持ちだ」
ミュウラゼルドは軽く笑うと、薔薇の装飾が入った拳銃をミュウの手に置く。
「これは?」
「遠距離の武器も使えた方がいいだろう」
ミュウラゼルドはミュウに拳銃を構えさせると、どす黒く光るラヴェラポームに向かって狙いを定める。
「シオリ、始めるが準備はいいか?」
「いつでもどうぞ!!」
ミュウラゼルドとミュウが構えた拳銃から放たれた弾丸は、ラヴェラポームの中心を貫いた。
「ドンピシャだな」
弾を貫通したラヴェラポームは一瞬時が止まったかのような反応を見せた後、
一気に爆発を引き起こした。
結界内に連続的に起きる爆発。それと同時に、僕の体にも激痛が走る。
ブシュッ!!
腕と足に突然の裂傷が走る。結界の限界値を超えたダメージが直接僕の体へとフィードバックされる。
「シオリ!!?」
「…大丈夫だ!!!このまま耐えきる!!」
「シオリ!!今治療しますから!!」
ソフィアは自身の能力を高め、僕の周囲に治癒のオーラを高めていく。予想以上のスピードで肉体が回復していく。
「このまま、爆発が終わるまで耐えきる!!」
連続的に引き起こされる爆発。大小様々な爆発を受けながら、ソフィアの治療のおかげで耐えしのぐ。
しかし、予想以上に爆破が長い。溢れた分、それが独立したエネルギーとなり、爆発を長引かせているようだった。
「ぐっ……」
ソフィアの回復スピードを超えてダメージが僕の体に迫ってくる。このまま強烈なダメージを受けすぎると一発でショック死するといった可能性もある。
だが、ここで結界を解いては全員が爆発の餌食だ。
「Please youe pain《あなたの痛みをください》」
ミュウラゼルドが僕の手を取る。ダメージが分散され、オーバーフローしたエネルギーが
波及する。傷が走り、服に大きな裂け目が入る。
「私も」
シェイドも同じく、僕の反対の手をとる。
「1人じゃないんだから」
ミュウ。
「旦那様、私もいます」
レティ。
「私もいる、だから諦めるな」
チャミュと手を繋ぎ、エネルギーを分散させていく。
「皆……ありがとう!!あと少しだ!!」
残る力を振り絞って結界の力を強める。最後にひとつ、眩い光が結界内に起きたかと思うと極大の爆発が境界全体に広がっていく。
僕は爆発を最小限にするため、結界内を分厚く、小さくしていく。
「うぉぉぉぉぉおおお!!!!耐えろぉぉぉぉおお!!!!」
「「「「「「「いっけぇぇぇ!!!!」」」」」」」
7人全員の想いは、爆発を押しとどめギリギリのところで崩壊を免れた。
お世辞にもスマートとは言えないが、それはそれ。
ひとまず、最悪の事態は免れたということで良しとしよう。
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