148話_魔を生み出した代償

※状況が不鮮明だったので145話にシオリの途中描写を加筆しました。8/8(日)までに147話まで読んでいる方すみません。


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研究の果てに、少年は他を凌駕する知識と知恵の持ち主となった。


だが、最高の《知識》ソフトをいくら詰め込んだところで《器》ハードが伴わなければ意味はない。


その研究は少年を成長させることにおいては重きが置かれていなかった。それもそのはずだ。成長させるつもりなど毛頭なかったからだ。


ある日、眠っていた男性が、自ら研究の実験台となり少年との実験に臨んだ。


結果はいつもと違った。男性が意識をなくしたまでは同じ。


だが、


少年の様子が変わっていた。眠っていた男性と同じ仕草をとるようになっている。


その時、俺は気が付いた。少年が少年ではなくなっていることに。


彼は、実験を利用して自分の新しい器を用意していたのだ。よわい10にして世界最高峰の知恵を持つ最高の器を。


そこで少年は人ならざる者へと変貌を遂げた。あらゆる者を吸収できるようになり、ただひたすらに他を求めた。


軍のコントロールさえも破り、彼は文字通り最強の魔物になっていた。


研究所を焼き尽くし、少年はその場を去っていく───。


俺が見せられた映像は、世の理不尽さそのものだった。少年には選択肢がなかった。生まれた時点で決まっていた。


あれは彼自身だったのだ。自我をなくした彼の唯一残した一片。


そこで俺は、意識を取り戻した。


「旦那様、大丈夫ですか?」


レティとチャミュが心配そうに俺の手を握っていた。


「あぁ……」


「ユースケ、何を見たんだ?」


「これは、彼そのものだった」


「彼、とは?」


はてなマークを浮かべる3人に、俺は見たことを説明した。研究所のこと、少年のことを───。



◆◆◆◆◆



「では、その少年がズィアロということなのか」


「正しくは、少年の体に移り変わった男のことですね」


「その男がそうまでしてラヴェラポームを欲するのは何故なんだ?理想の体を手に入れたのではなかったのか」


その時、俺はシェイドの言葉で何かを思い出した。


「違うのかもしれない……」


「どういうことだ?」


「前にミュウラゼルドが言っていたんだ。ズィアロの目的は、奴が求めている【誰か】と2人きりで暮らすことだって。けど、違う。違う気がする」


先程見た記憶を思い出す。少年の方ではなく、ずっと研究をしていたあの男性のことを。


そこで、俺はある結論に至る。


「彼は求めているんだ。理想の自分を」



◆◆◆◆◆


「さぁ、これで終わりにしよう」


ズィアロは意識を失ったリアの元へと歩み寄る。


リアを抱えて距離をとろうとするミュウラゼルドだが、その先もズィアロに読まれあっけなく捉えられてしまう。


「くっ…!!」


「もう無駄だ」


「姉様を放せ!!」


突進してきたミュウの攻撃を、その場から動くことなくかわし、カウンターを的確に与えるズィアロ。


「きゃああ!!」


「お前達にはまだ最後の役目がある。黙って見ているといい」


倒れるリアに手を伸ばすズィアロ。


「姉様!!」


ミュウの叫ぶ声が届いたのか、

その手がリアに届きそうなところで、ピタッと手が止まった。


なにやら異変をきたし始めるズィアロ。

表情が明らかに焦りのものへと変わっている。


「これは…どういうことだ……」


ズィアロは突然後ろにさがって苦しみ始める。


「何が起きているんだ……」


突然のことにミュウとミュウラゼルドは、その光景を黙って眺めている。


「そんな…馬鹿な…奴は…吸収したはずだ…」



◆◆◆◆◆



ズィアロが苦しむ少し前、僕はある手段に出ていた。


状況を見て、今僕がいるのは奴の中。どういう構造になっているのかはわからないが、それは違いないはずだ。


「奴の望みは、この世界で断たないといけない。シェイド、次元固着装置はあるか?」


「あぁ、幸いにして残っているようだ」


シェイドは装置を僕に渡してくれる。その装置を地面にセットし、作動させる。


装置から電撃のようなエフェクトが走り、地面を這っていく。


「奴の望みは誰も幸せにしない。そんな奴に僕達の世界を壊されてたまるか」


「そうだな、シオリの言うとおりだ」


「その通りです、旦那様」


「奴のいない世界が一番安心だな」


皆一様に頷く。


その時、背景が急にグニャグニャと歪み始めた。


「なんだ、これは!?」


「装置の影響?」


「わからない!!とにかく、皆手を繋いで近くに集まるんだ!!」


景色は更に歪みを増し、そのまま混沌の渦へと巻き込まれていった。



◆◆◆◆◆



「うぉぉぉぉぉおおお!!!!」


突如、雄叫びを上げるズィアロ。


「何、一体どうしたっていうの?」


事態を飲み込めず、戸惑うミュウ達。


「わからない。ただ、奴に異変が起きているのは確かなようだ」


苦しむズィアロの体から光が溢れ出したかと思うと、シオリやシェイド達が外に飛び出してきた。


「シオリ!!」


「ミュウ!!無事だったか!!」


「それはこっちの台詞よ。一体どういうこと?」


「わからない…多分奴の中に取り込まれていたのが脱出できたんだと思う」


「私達は奴の空間に閉じ込められていた。シオリが来なければ目覚めることはなかっただろうな」


「奴の目的は大体把握した。奴を他の世界に行かせてはいけない。次元固着装置は使用した。後はここで決着をつけるだけだ」


「まったくもう……心配したんだから」


ミュウがシオリのお腹をぽふっと叩く。


「心配かけたな……って僕!?」


ミュウの後ろで寝ている僕の姿を見つけて驚愕する。

僕が2人存在して…いる?


「それ、僕だよな……?」


「そうよ。死んだのかと思って心配してたんだから。余計訳が分からなくなっちゃったわよ……」


「とにかく、その問題は置いといて。まずはこっちを片付けようか」


「(旦那様、見なかったことにしましたね)」


「クソッ……何故貴様らが私から抜け出ることが出来た……」


苦しみながら起き上がるズィアロ。


「お前にとってシオリは天敵のようなものだったということだ。誰にでも苦手なものはある」


「シェイド、そんな嫌いな食べ物みたいな感じで言われても……」


「私は完璧だ…完璧のはずだ!!!」


「でも、納得はしていないんだろう?だからラヴェラポームの力を使おうとしている」


「……貴様、私の過去も覗いたようだな」


「そうだ。見せてもらった、お前の研究の数々を」


「なら話は早い。あれを見たお前にならわかるだろう。あれでも私の願望は完成しなかった。何故なら──」


「命があるからだ」


僕は、奴が何を欲しているかを確信していた。“ないものを創造する道具”ラヴェラポームを使って何をしようとしているのかを。


「若い体に知識を詰め込み、自身の人格を移すことでもう一度人生をやり直そうとした。それでも、足りなかったんだろう?」


「ふむ、意外とさといな。そうだ、私が求めるものは人間の体では足りなかったのだ。他にも色々と試したが、ベースが人間ではどうもダメでな」


「そのために、ソフィアを殺させるわけにはいかない」


「案ずるな。寂しくないようちゃんと全員葬ってやる。あの世で静かに過ごすといい」


ズィアロの言葉に、僕は戦闘をする構えをとった。


「僕の相手をする奴はエゴの塊のような奴ばっかりだな。やりやすくてせいせいするよ」

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