125話_真夏のスケアリースケアリー
これはレティが家を訪れる少し前のお話――。
夏の風物詩、怪談話。
今日はテレビでその特集が組まれており、僕、シェイドとソフィアの3人で見ていた。
ドキドキしながら見ていたのだが、これが後に厄介な事態になる。
――。
怪談特集が終わり、お風呂に入って寝ようとソファから立ち上がると、ソフィアに腕をぎゅっと掴まれた。ドッキリ系の怪談話が多かったものだから、その時点で驚き声をあげてしまう。
「!?ソフィア、どうかした?」
「シオリ、行かないで…私を1人にしないでください」
よく見ればソフィアは涙目で、今にも泣きそうな顔をしている。僕の声が裏返ったことに気付かないくらい。
「ソフィア、さっきのテレビ怖かった?」
コクコクと黙って頷くソフィア。どうやら黙っていなくなるのは悪いと思い、我慢していたらしい。
「私を1人にしないでください…」
「わかった、今日は一緒にいるから。大丈夫だよ」
ソフィアの手を握ってあげると、少し落ち着いた表情になる。
「シェイドは平気なの?」
「私にとってはモンスターとなんら変わりはない。害をなすなら倒すだけのこと」
「実にシェイドらしい返答だ」
「さてと、じゃあ僕は簡単にシャワー浴びてくるから」
「私も行きます」
握る手は強く。
「一緒に?」
「はい」
恥ずかしさよりも恐怖が勝っている。ソフィアの決意は固かった。
ソフィアと一緒にお風呂に入るため脱衣場に行くのだが、ソフィアが右手をいっさい離してくれない。
「ソフィア、手を離してくれないと服脱げないんだけど」
「あっ、ごめんなさい」
はしっ。瞬時に握られる左手。――なにかしら僕にくっついていないといけないらしい。
「わかった、それでいいよ…」
ミュウに片手を握られたまま、服を脱ぐ。腰をタオルで隠して風呂に入ろうとするが、ソフィアは服を着たままだ。
「ソフィア、服着たままだけど」
「私はこのままで」
「そのまま入って上がったら脱ぐの大変だろ!!」
気が動転しているソフィアの服を1枚1枚脱がしていく。一応彼女に配慮して、目はつぶったまま。なので、何がどこにあるかわからない。
「あ、ブラジャーのホックは背中です。そこ、よりもう少し下…はい、そこです」
プチッ。
格闘すること数分。ようやくブラジャーまで外す。相変わらず片手は離してくれないのでもう片方の手でなんとかするしかない。握られた手にはじわりと汗がにじむ。
「ソフィア、下は自分で脱いでもらっていいかな」
「は、はい…」
スカートがぱさっと落ちる音。目は閉じているのであらぬ妄想が頭をよぎる。
暴走する思考を制御しながら、なんとか風呂に入る準備が整う。
「じゃあ、入ろうか」
扉を開け、湯船に浸かろうとする。
ちゃぽん。
「冷たっ!!」
お湯だと思っていたのが、全て水とわかり慌てて足を引っこ抜く。僕が慌てたのを見て恐怖で体を密着させてくるソフィア。僕を離さないようにしっかりホールドしてくる。
「ソフィア、大丈夫。どうやら給湯器のスイッチが入ってなかったみたいだ。シェイドー、給湯器のスイッチ入れてくれるかー」
「わかったー」
シェイドに給湯器のスイッチを入れてもらい、お湯を入れ直す。
それまでの間、互いの体を洗うことにした。
ソフィアは僕に触れていればいるほど落ち着くらしく、積極的に体を洗いにきた。普段なら恥ずかしがって絶対やらないのに。それだけ恐怖が残っているということのようだ。
「まだ怖いか?」
「はい、凄く……」
「じゃあ…」
僕もソフィアの肩に触れてやる。安堵するソフィア。
「もっと触れてください、恐怖が消えるくらいに」
体をピタッとくっつけてくるソフィア。まるでミュウのようだ。ソフィア本来の良い匂いと、ボディーソープの匂いで頭がクラクラしてくる。
お湯もたまり、2人湯船へと浸かる。向かい合うのは恥ずかしいのだが、ソフィアの希望で向かい合う形になる。僕の顔が見えていないと怖いらしい。
「怖いの、苦手だって言ってくれれば良かったのに」
「あんな番組だと思わなくて……モンスターなら大丈夫なんですけど、ビックリ系は心臓に悪いです…」
「リアもダメなのか…」
「はい、リアは早々に寝ちゃいました」
「交代も出来なかったってことか…」
「シオリは大丈夫なのですか?」
「僕も昔は怖かったけど、もう慣れたというか。定番だからさ、ああいう番組って」
「そうなんですか…」
「大丈夫、今日は僕が一緒にいるから」
「お願いします…早く忘れたい」
ギュッと僕にくっついてくるソフィア。イレギュラーなこととはいえ、これだけ僕を頼ってくるソフィアは珍しかったので、こういうのも悪くないのではと思ってしまった。
お風呂からあがり、パジャマへと着替える。その際も、怖がるソフィアの体をバスタオルで拭いてあげたりと、ミュウに知られたら面倒が増えそうなことを一通り終え、リビングへと戻る。
「ふぅ~、気持ち良かった」
「シオリ、お湯加減はどうだった?」
「あぁ、最初は水でビックリしたけど。あとは大丈夫だったよ」
「そうか…」
「どうかした?」
「いや、なんでもない」
「そっか、じゃあ僕たちはこのまま寝るから」
「おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ」
シェイドをリビングに残し、階段を上がっていく。
今日はソフィアの希望で僕の部屋で寝ることにした。ソフィアが発情期以外で一緒に寝るのも珍しいな、と思いながらベッドへと潜り込む。
「それじゃ、寝ようか」
「はい、あの、シオリ、ごめんなさい。私のワガママで」
「僕がちゃんと確認しなかったのも悪かったよ。今度はちゃんと確かめてから見るようにするよ」
「はい…」
「…ソフィア?」
ソフィアが黙って体を近づけてくる。
「シオリの鼓動を直接感じていないと怖くて…」
体が密着する。
「…これで落ち着く?」
「はい、シオリを感じます。これなら眠れそうです」
「そっか、なら良かった」
「シオリ、何か下の方がモゾモゾしてますが…」
「気にしない!なにもないから気にしないで!さぁ、寝ようか」
「はい、おやすみなさい、シオリ」
「おやすみ、ソフィア」
あらぬ妄想と闘いながら、僕は眠りについた。
「ん…んぅ……」
体全体に重さを感じる、これが例の金縛りか。そう思い、目を開けると仰向けになった僕の上にソフィアが乗っかってスヤスヤ寝息を立てていた。
「ぐっすり寝てるみたいだな」
ソフィアを横に下ろし、頭を軽く撫でる。これでエアコンが壊れていたら寝苦しい1日になっていた。それだけはならなくて良かったと思いながら起き上がる。
起床した後は、ソフィアも昨日恐怖がとれ、すっかり普段通りになった。ずっとくっついていたことを謝られたが、まぁ、こういう日がたまにはあってもいいのかもしれないと思うのだった。
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