124話_無計画のサプライズ

僕の言葉を聞いたレティは、言っている意味がわからないと首を振った。


「気でも狂ったのですか。誰がこの汚れた女と学校を救うと?冗談でも言ってよいことと悪いことがあります」


「冗談では言ってないよ」


本当に僕は冗談で言ってはいなかった。レティを救うんだ。


「であれば、尚更期待させるようなことを言うのはやめてください。学校の子たちは、皆親のいない子供たちです。30人はいる子供たちを救うなんて軽々しく言えるものではありません」


レティの言葉には怒りが節々から感じ取れる。


「シオリ、私も驚いた。まさかそこまでやる気とはな。ただ、私の主人はやると言ったらやる男だ。何か策はあるのだろう?」


「舞闘会の願いをこれにてる」


「!!?」


2人は一瞬、耳を疑った。しかし、僕は笑っていた。本気だったのだ。


「ふふふ……ハハハハ!!!!これを聞いたらミュウは怒るだろうな」


つられてシェイドも笑いだす。


「彼女の願いはまた別なのを考えるよ。僕が出来る範囲でね」


「何を……何を言っているのですか?私はあなたを途中で裏切ったのですよ?」


いろんな感情が入り混じっているのだろう。レティの表情をどう表現したらいいかはわからない。


「でも、僕達は優勝した。なら、それは別に気にしなくていいんじゃないか?理由もわかったことだし」


「おかしい……おかしいですよ、あなたは!!」


レティは僕の言っていることが理解できないと首を横に振る。


「まぁ、まともな考えではないんだろうけど――でも、決めたんだ。君の負担をなくして、それで終わりにする。僕も普通の生活に戻れるしそれでいいだろう。シェイド、帰ろう」


僕とシェイドはレティに別れの挨拶をして部屋を出ようとする。


「待って!!あなたにはひとつも得がない、何故そんなことをしようとするんです!!」


「レティ、君が尽くしてくれたから。その礼があってもいいだろう」


「でも、それは……」


「長のことは知らないよ。ただ、僕がそうしたかっただけ、それじゃあ」


言葉をなくし、その場に座り込むレティ。僕とシェイドはそのまま校舎を後にした。



◆◆◆◆◆



「というわけで……じゃないわよ!!」


開口一番、家に帰って事情をソフィアとミュウに説明したところ、案の定な答えが返ってきた。


「痛い、痛い苦しい、苦しみ……」


「言い方を変えても駄目よ。今日という今日はお説教しなきゃ気が済まないんだから」


ミュウにパロスペシャルをきめられ、身動きが取れない状態の僕。最早命は風前の灯火と化していた。


「ミュウ、勝手に決めたのは悪いと思っている……ミュウの願いをひとつ聞くから……」


「結婚して」


「ち、違うやつ…あだだだ」


更に厳しくなる腕の痛み。


「願いをきくって言ったでしょ」


「ち、違うやつでお願いします!!」


「じゃあ、ここに署名と印鑑を」


「婚姻届でしょ!?」


パロスペシャルから、次はロメロスペシャルへの移行。ロープはないのでギブアップは受け付けられない。


「シオリ、ここまできたら結婚までいかないと2人の気は済まないのではないか?」


「わ、私はシオリがその気になってからで構いませんよ」


コソッと耳打ちするシェイド。それでもこっそり手を上げて静かにアピールするソフィア。


「皆で決めようって言っていた願いを勝手に決めちゃったんだから、シオリに拒否する権利なんてないのよ」


ごもっともな言い分で。


「結婚するか、私の言うことに一生「はい」と言って暮らすかどちらかになさい」


「選択肢とは…痛い、痛い!ギブ!」


「ギブアップは認めないわよ」


「ミュウ、それくらいにしたらどう?」


「いいえ姉様、甘いわ。シオリにはここでしっかりと説教しておかないと」


「肉体言語の説教というやつだな」


「シェイド…納得してないで止めてくれよ……」


「シオリ、それだけの代償は支払わねばならん」


四面楚歌。味方はいなかった。この後20分くらいミュウのプロレス技を受け続け、解放された時には体はボドボドになっていた。



◆◆◆◆◆



「ハァ、ハァ……結局最後まで受け続けたわね……」


「なかなか見事なものだったな、ミュウ」


「ありがとう、でもそういうことではないの。シオリ、私の願いは違うのに決めたわ」


「……なんだ……」


僕は体を起こしてミュウの方を向く。


「私が悲しかったり、寂しかったりしたら必ずなぐさめること、わかった?」


ミュウの目には涙が溜まっていた。そこで僕は思い出した。ミュウはこういう娘だったと。寂しがり屋で、けれど強がりで、感情が溢れてしまう娘だってことを。


ミュウの気持ちをないがしろにしていたのは、自分だったのだ。


「……わかった」


僕は黙ってミュウを抱きしめる。


「ごめんな……」


「………サイテー、サイテーな男よ……シオリは……」


僕の胸をグーで叩き、泣き続けるミュウ。それを見て、近くに寄ってくるソフィア。


「私はシオリの決めたことに特に何も言いません。けど、ミュウのことも考えてあげて欲しかったです。ミュウの嫌いな女の子の方を優先した、と思われても仕方ないですから」


「そうだな……その点については謝るよ」


「ちゃんとミュウのこと、慰めてくださいね。それと、リアも怒っているみたいなので」


「……うん、わかった。後でいくよ」


それだけの代償は支払わなければならない。僕は軽率に決めた事の重大さに気付きながらも、それでもどこか心の片隅に残っていたしこりがなくなる感覚を覚えていた。



◆◆◆◆◆



後日、魔界から意外な人物がやってきた。来た人物は、なんとケルベロス。


「お前、こっちの世界に来れるのか?」


「長から許可をいただいた。お前と遊ぶのは良いそうだ」


「僕は良くないんだけど…」


面倒がまた増えた。


「まぁ、今日はその話ではない。これだ、これをお前に渡しに来た」


ケルベロスから手紙を渡される。差出人はレティケイトと書かれていた。


「レティから…」


「あいつの学校を救ったそうだな。長が働き手が減ったと愚痴をこぼしていたぞ」


「そうか、それはいいや」


僕は笑って返す。手紙にはレティからの感謝の言葉が添えられていた。教師が増えたこと、それから学校の子供たちがレティと楽しく写っている写真が入っていた。


「楽しくやってるみたいじゃないか。これって、手紙を書いたら届けたりしてくれるのか?」


ケルベロスは笑って首を横に振る。


「そんな面倒くさいことはせん。返事は直接言ってやるといい」


「直接って言ったって……」


そう言う僕の目の前に、ひょこっと青髪の女性が現れた。


「こんにちは、旦那様……少しお暇をいただきましたので、また少しこちらにお邪魔します」


「…………ウソー!!?」


目をまん丸にした僕は、朝一番大声をあげたのであった。



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