95話_暴走の行く先
能力の限界値、それは誰もが持ち得るもの。
それを上回る能力を使い切ったとき、その者はどうなってしまうのか。
今回はそんなお話────。
その日は特に変哲もない穏やかな日だった。
天気も良く、散歩に絶好な日和だったので僕とソフィア、シェイドは外に出掛けることにした。
そこまでは特に問題なかったのだが、途中で事件が起きた。
わき見運転による車と車の衝突事故。ゴシャッという破壊音とともに炎と煙が燃え上がり
、日常があっという間に非日常へと姿を変えた。
その時、いち早く対応したのがソフィアだった。
リアと力を合わせて能力を展開させる。範囲1キロメートルの人間を支配する能力【支配領域(ドミネーションフィールド)】を発動させたソフィアは、支配した者に同タイミングで車のブレーキを踏ませることにより車同士の衝突を回避、玉突き事故を回避させた。
結果、ソフィアの判断によって事故は最小限で済み、その場は収まったのだが───。
「ソフィアの体調はどうだ?」
シェイドが心配そうに寝ているソフィアを見つめる。
「少し落ち着いたよ…」
スヤスヤと寝息を立てているソフィア。能力を使った反動で、ソフィアとリアのパワーバランスが変わってしまい、自身では制御できなくなってしまったらしい。
「サキュバスとしての能力が巨大化したのが原因なのか?」
「うん、いきなり能力を使ったからソフィアとリアの接続リンクが上手くいかなかったらしい。そのせいでこんな感じに」
ソフィアの部屋でソフィアをハグするように抱きかかえている僕。
「シオリとスキンシップをはかるのが一番の解決らしいな」
「ミュウ
「なるほどな。では今日1日はソフィアと一緒にいてやるといい、私やアイシャのことは気にするな。食事は後で持ってくる」
「あぁ、すまないな。シェイド」
「ソフィアがいなかったら大惨事になっていただろう。彼女はよくやったよ」
「そうだな」
シェイドは僕の顔を覗き、少し心配そうな顔をする。
「シオリも無理はするなよ、想像以上にハードなようだ」
シェイドは手を振ると部屋を出て行った。
「にしても…」
まるで子供のようにスヤスヤと寝息を立てているソフィア。リアの時よりも精神状態はもっと子供になっている気がする。
というのも、寝付くまでにずっとキスをせがまれていたのだ。それもワガママを言う子供のように。
キスをして頭を優しく撫でてやるとそのうち寝てしまったのだが、普段では考えられないソフィアの行動には少しばかり驚いた。
はちきれんばかりのボディが体に密着しているのを感じるが、これはソフィアを救うためだと自分に言い聞かせる。
「……んぅ……」
ソフィアがうめき声をあげる。
「ソフィア、起きたのか?」
「……んにゃ?」
寝ぼけ眼のまま、唇を近付けてくるソフィア。
唇が触れ合った瞬間、急激な虚脱感が僕を襲う。全てを奪われるような感覚。
先程も起きたこの感覚。今までソフィアとキスして起きたことはなかった、これが本来のサキュバスの吸魔の能力なのだろう。
制御できない状態でのサキュバスの能力。
これ以上エネルギーを吸い取られると、僕の生命にも影響が出る。
「……ップハァ!」
ソフィアから唇を離し、頭を撫でてやる。
ソフィアは満足したように再び目を閉じて眠り始めた。
「これが1日続くと、僕もたないかもな……」
僕は一抹の不安を覚えながら、ソフィアを抱きしめた。
◆◆◆◆◆
先程の疲れからか、僕も眠ってしまっていたらしい。シェイドが整えてくれたのだろうか。
僕とソフィアはいつの間にか横になって眠っていた。
ソフィアは寝ぼけながら僕の服の中に手を入れてくる。さわさわと軽く触られる感覚がくすぐったいので、手を服の外に出すようにする。そうすると、また手が服の中に伸びてくる。意識はないらしい、無意識にやっているようだ。
意外に甘えん坊なのかな?僕はそう思った。ソフィアがわがままを言ったことは聞いたことがない。それは優等生のようにとても楽だったことだが、果たしてそれは彼女の本心だったのだろうか。嫌なこともあっただろう。言いたいこともあっただろう。
僕はそれを聞いてやらないといけないんだ、そう思った。
「……んぅ…あつい……」
ソフィアがかすれた声で体をくねらせる。体にじんわりと汗をかいているのがわかる。体全体が熱を帯びているようだ。
「……あつい…」
プチプチとパジャマのボタンを外し出すソフィア。少し目を覚ましているようだ。上着を外すと、それを床に放り捨てる。
「ソフィア、暑いのか?」
「うん、あつい……」
「待ってろ、今冷たいタオル持ってくるから」
「いや、ここにいて。シオリも脱いで」
僕のシャツも脱がそうとするソフィア。
「ソフィア、ちょっと、ちょっと待って」
「イヤ」
すっかり目が据わっているソフィア。おむずかりのようだ。ソフィアにシャツを脱がされズボンも剥ぎ取られそうになる。
「ストップ!それはストーップ!!」
「……イヤなの?……グスッグスッ」
困り眉にして目に涙を浮かべるソフィア。
「イヤじゃない、イヤじゃないけど…心の準備が…」
「大丈夫、私はもう出来てる」
ソフィアは僕の顔を掴むとグイッと唇を押し当ててきた。ソフィアの舌が僕の口内をこじ開けていく。
「んっ!?」
それと同時に一気に襲い来る虚脱感。全身の力が抜けるように、力なくてはベッドに横たわる。
エネルギーを吸い出して満足したソフィアは僕のズボンを脱がし、自分もズボン、ブラジャーと外してベッドの横に放る。身につけているのは汗でぐっしょり濡れたパンティのみ。
水色レースのパンティが汗で濃い色に変わっていた。
ソフィアは獲物を狙うような目で僕を眺める。首筋を軽く舐めると僕に体をすり寄せてきた。ソフィアの体は大量の汗でてらりと光り、上品なスイーツの香りを漂わせている。
ソフィアの汗が僕の肌に染み込んでいくと、僕自身からスイーツの匂いがしていると錯覚するほどだった。僕はエネルギーを奪われてすっかり身動きできなくなっていた。もう一度キスされたら、どうなるかわからない。
ソフィアの柔らかい肌を直に感じる。温かく柔らかい肌。ソフィアは気持ち良さそうに僕に体をすり寄せる。
「…あっ…」
僕をソフィアの汗で満たしたいんじゃないかと思うほど、ソフィアは熱心に僕に体をくっつけ続けた。
どれくらい経っただろうか。
少しエネルギーが戻り、手が動かせるようになりソフィアの顔を触る。ソフィアは僕の手にキスをすると、小指、薬指と舐め始めた。
指を口の中で包まれるという不思議な感覚が僕を襲う。指で唇の柔らかさ、舌の巧みさを感じる。ソフィアも嬉しそうに僕の指をしゃぶり続ける。恥ずかしそうな嬉しそうな顔がとてもたまらなかった。
「ソフィア…」
「シオリ……」
「意識が戻ったのかい?」
「意識……わからない、よく思い出せない……けど、あなたは私にとって一番大切な人…あなただけを感じていたい…あとはどうでも…」
サキュバスの能力の影響だろうか。
瞳の中にハートマークを映し、憂いを帯びた表情を見せるソフィア。その破壊力はミュウの比ではなかった。ミュウよりもっと過激で濃厚だ。
ソフィアの下半身は汗がたまり、溜まりが出来るほどだった。布と布が擦れるたびに独特の音が生じる。
「シオリ、好き、好き、好き…大好き」
ありったけの好きをこれでもかとぶつけてくるソフィア。普段あまり聞かない言葉だけに、これも夢の中の出来事のように思ってしまう。
「私だけを見て…感じて……私だけのシオリになって…」
ソフィアは僕の手をつかみ、自分の胸にもってくる。
これがタガが外れたサキュバスの能力なのだろうか。性を貪るサキュバスの本性、それを垣間見た気がした。
それと同時に、ソフィアは今までこうなるのを必死に我慢していたんだと思うと胸が苦しくなった。解放すれば楽になれるものを、ソフィアは良しとしなかったのだ。
僕は、ソフィアの顔を引き寄せ唇を重ねていた。
僕くらいのエネルギー、どうにでもなる。ソフィアがこの苦しみから解放されるなら安いものだ。僕は積極的にソフィアの唇を吸い、挟み、舌を絡ませた。
途中、ソフィアが目を開け、頬を真っ赤にさせる。
「シ、シオリ…!?」
離された唇からは互いの唾液が糸を引く。
「こ、これは……きゃっ!!」
自身がほとんど裸だということに気付き慌てて体を手で隠すソフィア。ベッドの隅に移動し、縮こまるが、そこでなにかに気付いたように僕のそばまで近付いてくる。
「シオリ、もしかしてこれは、私が…?」
「ようやっと元に戻ったみたいだね」
ニッコリ笑う僕の顔を見てボッと顔を真っ赤にさせるソフィア。
「ごめんなさい、ごめんなさい、私のせいでこんな風になってしまって」
顔を覆い隠し謝るソフィア。おっぱいが丸見えだが、真っ赤になった顔も隠した手越しに見える。
「いいんだ、ソフィアが助けなかったらあの事故はもっとひどいことになってたんだから」
「あれからなんですね…私、意識を失ってしまって……」
「あぁ、ごめんなさいシオリ。私のせいで」
「大丈夫、平気さこのくらい。ソフィアに沢山好きって言ってもらえて嬉しかったよ」
ボッ、ソフィアの頭からまた湯気が出る。
「そ、そんなに言いましたか、私……」
「うん、そばで沢山言ってくれたよ」
「ああぁ……」
顔を隠して横にうずくまるソフィア。
「消えてしまいたいです……」
恥ずかしさで悶えるソフィア。
「僕も好きだよソフィア」
「…………ぅぅ」
右に左に体をくねらせる。
「だから、無理しなくていいんだよ。辛いときは僕を頼ってくれよ」
「辛いことなんか!!」
「でも、サキュバスの能力で苦しむ時があるんだろ?」
「それは……」
目をそらすソフィア。
「もう、そういうのも隠さないでいい関係だと思うんだ。僕ならいつだって受け止めるから」
「シオリ…」
ソフィアの右目から涙がこぼれる。
僕の体の上に乗ってくるソフィアの体。
「シオリは本当に私にとって唯一の人です」
「僕もそうだよ」
ソフィアの体を片腕で抱き寄せる。
「シオリ、大好きです……」
唇を重ねるソフィア。能力を吸われることなく、逆にエネルギーが戻ってくる。
「ソフィア、これは」
「もうたくさんエネルギーをもらいました。なので、少しだけお返しです」
ソフィアはニッコリ笑う。
「数カ所に1回くるサキュバスとしての衝動。今回は無理に能力を使ったことでその発情状態がかなり強くなってしまったみたいなんです。意識はもどったんですが、実はまだそれが収まっていなくて……」
「僕に出来ることならなんでもするよ」
ソフィアは軽く微笑んだ後、顔を真っ赤にさせて目をつぶりながら小さな声で呟いた。
「シオリだから……私の好きなシオリだから……言いますね……」
「う、うん……」
頬に手を当てて、どうしようと困った顔をする。
「大丈夫か、辛いんだろ?」
「はい……そうなんですけど、シオリにふしだらな女と思われたくなくて……それで……」
「大丈夫、僕はなにがあってもソフィアを軽蔑することはしない」
「……シオリ(そんなあなただから、失望させたくないから、余計に言いづらいんです……)」
意を決したようにソフィアは、僕に体を寄せると耳元で呟いた。
「もう一度、キスをしてくれますか」
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