96話_あの味を私にも
好きな人と一緒にいるとそれだけで楽しい。
時間はあっという間に過ぎて、また会える日までの時間が待ち遠しくなる。
ミュウはぼーっと外を眺めながらそんなことを考えていた。
この前したシオリとのキス。
彼の強さに比例しているのか、自分の気持ちに比例しているのか。
格段に気持ち良さが増していて気を抜いたら失神してしまいそうなほどだった。
「私が失神してどうするのよ……」
サキュバスに誇りはないが、ただの人間に
会えない時間が増えると、その分シオリのことを考えるようになった。
前はそこまででもなかったのに。どうしてなんだろう。
いつからこんな風になってしまったのだろうか。
いっそのこと忘れた方が楽になれるのではないか。
「でも……」
シオリが好き。抑えようとすればするほど、その気持ちは止められなかった。
「……あー、もう!!」
悩んでいてもしょうがない。
悩んでいるのは自分らしくないのだ。
ミュウは黒いワンピースに着替えると、部屋を飛び出した。
◆◆◆◆◆
シオリの部屋にて。
「ルキ~」
リアがニヤニヤと笑いながら僕の周りをぐるぐると回る。
「な、なんだよ」
「この前ソフィアと凄いことしてたでしょ~」
「す、凄い事って……」
リアは僕にコソッと耳打ちする。
「私とソフィアって心も共有してるんだ。だかは、お互いの過去を見れちゃうんだよね」
天井をちらと見た後、そのまま視線だけをずらしてこちらを見る。
リアは随分と意地悪そうな顔をしている。
「激しかったなぁ、あれ。ソフィアも凄くお気に入りの記憶にして置いてたよ。機会があればまたしてほしいって」
「!!?」
「なんてね~、ふふっ」
「茶化すなよ…。でも、この話してたらソフィアが起きちゃうんじゃないのか?」
「ソフィアは今ぐっすり寝てるから起きてこないよ~」
「だ か ら」
リアは僕の背中にこれでもかとおっぱいをくっつけてくる。
「私にもあれ、してほしいなぁ」
「あ、あれは!!ソフィアを救うためにだな!!」
「えぇ~、私のことは救ってくれないの?」
瞳を潤ませるリア。顔がソフィアなのは本当にずるいと思う。好きな人にそんな顔をされたら負けてしまう。中身は違うとわかっていても。気まぐれな猫のようにルキは僕にすり寄ってくる。
「ねぇルキ。私のことも助けて」
両手をこちらに広げてハグを求めるリア。
「シオリ……」
艶っぽい声で僕を求めるリア。
そっくりに喋られるとソフィアとの判別がつかない。
そのまま吸い込まれるようにリアを受け止める、その刹那。
むんずっ。
いきなり首根っこを掴まれ、後ろに引っ張られる。
「ぐえっ」
倒れた先、天井を見上げるとそこにはミュウの顔があった。
ワンピースのスカートの中が見えピンクと白のパンティとブラジャーが同時に目に入る。
見たことのない下着だな。彼女はどうやら窓から入ってきたらしい。
「なに鼻の下伸ばしてるのよ」
「ミュ、ミュウ。いつからそこに」
「ついさっきよ。姉様と何をしようとしていたのかしら?」
「え、いや、特になにも…」
リアはベッドに乗りペタンと座り込む。
「ルキにね、激しいキスをしてもらおうと思ってたの」
「リア!!」
「今は姉様じゃないのね。リア、今のセリフどういうこと?」
ミュウの顔つきが険しくなる。明らかに邪悪なオーラが背後に見えるようだ。
「ルキがね、ソフィアを助けるためにそれはもう濃厚なキスをしたの。その時私寝てたから、私にもやってもらいたいなーって」
「キス……」
ミュウはショックを受けたように、膝から崩れ落ちる。
「ミュ、ミュウ?」
心配して近寄ると、ミュウの目からポロポロと涙がこぼれ落ちる。
「ミュ、ミュウ……!?」
「うぅ、うわぁぁぁぁあん!!」
突如大声で泣き出すミュウ。突然のことに慌てふためく僕。どうしたらいいのかわからない。
「ど、どうしたんだよ急に!!ほら、泣くな。泣いたってわからないよ」
ミュウは僕など構わずに泣き続ける。
「ルキ泣かしたんだ~」
「リア!ミュウをなんとかしてくれよ」
「しらないも~ん」
フンッとそっぽを向くリア。
「そんな……」
大粒の涙をこぼして泣くミュウ。
こんなに感情を表すミュウは初めて会った頃くらいじゃないか。最近はクールなお姉さんになったかと思っていたが、子供の部分もあるんだな。
「ミュウ、泣いてたってわからないよ。僕に出来ることがあれば手伝うからさ」
「……ぐすっ…本当?」
「あぁ」
ミュウが涙目のままこちらを見る。少し泣き止んだようだ。
「……私にもしてほしい」
「ん?」
ミュウのかすれた声が聞き取れず聞き返す。
「私にも、してほしい」
ミュウは涙を拭いて僕の顔を見る。目が真っ赤に腫れている。
「してほしいって何を?」
「姉様にしたことと同じこと」
「え……!?」
ソフィアとの出来事を思い出して顔を真っ赤にする。あれはソフィアのため、と思ったからやれたものだ。
「うん…知りたい、どんな風になるのか」
「あ、あ、あれは、でも、ソフィアを救うために、や、やったもので、あって……」
「…うそつき」
「ぐっ」
言葉の矢が胸に刺さる。
「手伝ってくれるって言った。うそつき」
「ぐっ」
突き刺さる2本目。
「で、でもあれは……」
ミュウの目に涙がみるみるうちに溜まっていく。
リアは僕の背中に乗っかると、こそっと耳打ちしてきた。
「(やってあげたらいいじゃん)」
「(その、2人は怒らないのか)」
「(あんなに泣いてるってことはよっぽど悲しかったんだし、慰めてあげてってソフィアが。私は後でやってくれればいいからさ)」
ポンと背中を叩くリア。
最後の言葉が気にかかるが2人の承認も得たことだし。
「ミュウ、わかったよ」
ぐずるミュウの頭を撫でる。
「恥ずかしいけど…やろう」
「……本当?」
「あぁ」
ミュウの表情が一気に明るくなり、いつもの表情が戻ってくる。
「じゃあ、私お風呂に入ってくるわ。リアはその間に部屋を空けててちょうだい」
「しょうがないなぁ。ソフィアのおかげだからね」
「ありがとう姉様。それじゃシオリ、少し待ってて」
僕はリアの方を見る。ニコニコ笑っているリア。
「良かったんだよな?これで?」
「泣いてるミュウを見るよりいいでしょ?」
「まぁ、そうなんだが」
「それより~、先に私とする?」
「そ、そんなことしたらもっと大変になるだろ!!」
「アハハ、そうだよね。私は夜でいいからさっ」
「いいからさって…。リアも性格変わったよな」
「変わったんじゃないよ。混ざったの。ソフィアリアともソフィアとも混ざって、今までの私とはちょっぴり違う」
リアは満面の笑みを浮かべる。
「ちょっぴり新しいリアちゃんなのです」
◆◆◆◆◆
「上がったわよ」
ミュウは髪を結い、バスタオルを巻いた姿で現れた。うなじから肩にかけての曲線がとても綺麗だった。
キスをするだけなのにそこまで準備する必要があったのだろうか。
「は、裸ではないんだよな」
「そう思って下だけはちゃんと履いてきたわよ」
ファサッとタオルを開いてみせるミュウ。パンティ1枚の姿が部屋のライトではっきりと見える。くっきりくびれのある腰。控えめながら形の綺麗なおっぱい。下着に食い込む内腿にすらりと伸びる脚。
「み、見せなくていいから…」
「そのわりにはしっかり見ていたようだけれど」
バレていたらしい…。
「と、とにかくしまって」
「別にこのあと見るのだから、変わらないわよ。それよりシオリも早く脱いで」
「見ないよ!キスだけだろ!」
「あら、キスだけかはわからないじゃない」
「わかるよ!!」
ツッコミを入れる僕の近くまできたミュウはぺたぺたと胸を触ってくる。
「シオリ、やっぱり筋肉ついたわよね」
「そう?」
「そうよ。
「わりと見てるんだな」
その言葉にミュウの頬が赤くなる。
「べ、別に、たまたまなんだから!」
珍しくオーソドックスなツンデレセリフを吐いたなと思いながら、僕は軽く笑う。
「なによ」
「なんでも。…それじゃ、やるんだな」
「ん」
本当にするらしい。ミュウは目をつむって顔をこちらに向ける。
僕を信頼しているのがわかる、無防備な姿。僕は意を決して、ミュウの唇に自分の唇を近づける。
チュッ。柔らかさを感じる瞬間。その後、互いに軽く唇をついばむ。
唇を離し、こちらを見るミュウ。既に少し顔がとろけた表情をしている。
「…もう終わり?」
「も、もうって」
どうやらまだ満足できていないようだ。
「ねぇ、耳にもして」
少し緊張した風にもみあげを避けて耳を出すミュウ。
「耳にするのか?」
「そう、優しくね」
ゴクッ。
柔らかそうな耳たぶに綺麗な首筋。意図せず喉が鳴る。
「私、目つむってるから…」
「それじゃ……」
ドキドキが強くなる。ミュウの耳に優しく唇を近付ける。
「…あっ………」
ミュウの吐息が軽く漏れる。反応を確かめるように、耳の上から耳たぶにかけて優しくキスをしていく。キスをするたびに小刻みに震えるミュウ。
耳の外側に移り、付け根をそっと舌を這わせる。舌にチョコのような甘さが広がる。少しビターだ。
「きゃんっ」
ビクッと背筋を伸ばすミュウ。こちらをジロッと睨みつける。
「私の反応見て楽しんでる?」
「そんなことないよ!」
「…そう、ならいいけれど」
再び目を閉じるミュウ。徐々に呼吸が荒くなっていく」
「ハァ…ハァ…」
「少し、休憩するか?」
「いいえ、構わないわ。続けて」
ミュウは左手を出す。その手を軽くつかんでやる。
「ふみゅんっ…」
顔を真っ赤にして声を出すのをこらえながら目をつぶるミュウ。惚けた顔をしていて視線が定まっていないように見える。
「ミュウ?ミュウ?」
「へ?……あぁ、大丈夫よ」
気の抜けたミュウの声。僕の声に気づいたように意識を取り戻す。
「目が虚ろだけど……」
「大丈夫、大丈夫だから」
ミュウは体勢を直すと、僕に向かって脚を伸ばす。
「ここにキスして」
ミュウは左足を少し曲げると、足先から内側の膝を右手の人差し指でなぞる。
「…そこ?」
コクン。黙って頷くミュウ。自分で言って恥ずかしくなったのか、顔が真っ赤である。
僕はミュウに這う形になり、ひざに顔を近付ける。
「…いいんだな?」
「……聞かないでちょうだい」
僕はゆっくりとのひざの横に唇を近付ける。丹念に、丁寧に、ミュウがひとつひとつに反応するよう唇を動かしていく。
「…んっ!!……」
ミュウが一度ビクッと動いた後反応がなくなったように感じた。
恐る恐るミュウの顔を覗いてみると、どうやら気絶している。顔に耳を近付けるが、息はあるようだ。
「良かった…生きてた……」
気を失って倒れているミュウを抱えて、ベッドから落ちないように寝かせてタオルをかけてあげる。
「満足したのかな」
一息ついていると、ガチャッと扉が開きリアが入ってくる。
「…終わった?」
「リ、リア……もしかして聞いてた?」
「うん、聞いてた」
「私もだ」
顔を赤くしてシェイドもひょこっと顔を出す。
「シェイドも!?」
「しーっ、ミュウが起きてしまうぞ」
「2人して聞き耳を立ててたのかよ……」
「えへへ、気になっちゃってさ~。にしてもルキのキスはすごいなぁ」
「ミュウが失神するほどとはな」
「2人とも……」
「まぁまぁ、私たちは下で夕飯の準備するからまだゆっくりしていていいよ~。まぁ料理するのはソフィアだけど」
「私とソフィアで準備はするからシオリは休んでいてくれ」
「少し疲れたし、そうさせてもらうよ」
「またねっ」
リアとシェイドは部屋を出ていく。
2人に聞かれていたのか……とても恥ずかしいな。
僕はふーっとため息をつき、ミュウの隣にごろんと寝ころんだ。
姿勢を変え、僕に抱き着いてくるミュウ。
「シオリ……」
ミュウの安らかな寝息を見つめながら、僕も目を閉じて眠りに入った。
◆◆◆◆◆
口の中に甘さが広がる。
チョコレートが口内を歩き回るような、這いまわるような感覚。それに反応するように僕も感覚を追いかける。
徐々に意識が戻っていき、目を開けると目の前にミュウの顔があった。目を開けた僕に気付き、ミュウと目が合う。
「あっ……起こしてしまったかしら……」
「大丈夫……目が覚めたとこだから…」
「シオリ……」
「ん?」
「……なんでもないわ」
頬を染めて目をそらすミュウ。
「(ありがとう、私のわがままに付き合ってくれて……)」
ボソッと呟くミュウ。
「ミュウ?」
「…なんでもないったら」
ギュッと僕に抱き着いてくるミュウ。頭をぽんぽんと軽く叩く。
「ストレスが溜まったときにはまたお願いするわ」
「え、これっきりじゃないの?」
「何を言っているのよ。これで終わりなわけないじゃない」
ミュウはそう言うと、今までにないくらい
晴れやかな笑顔を見せたのだった。
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