魔界からのお嫁さん編

94話_サキュバスと久しぶりの休暇

最初の印象は、後の印象で徐々に姿を変えていく。それは良いことであっても悪いことであっても───。




その日、僕はソフィアと2人で遊びに出掛けていた。正確にはリアも含めて3人になるのだが。


「シオリと出かけるのも久しぶりですね」


「そうだね、最近も色々あったからね」


本当に色んなことがあった。ありすぎて最早どこから思い出したらいいのだろうかと悩むくらいだ。そんな日常からは考えられないくらい、今日は穏やかな始まりだった。


こんな1日を見過ごすのはもったいないと、ソフィアと出掛けることにしたのた。

ソフィアは白地のセーターに紺色の長めのスカート、露出は相変わらず少なめの上品な感じの服装だ。


「ソフィアもすっかり人見知りしなくなったよな」


「そうですね。シオリに限って言えば、もうそういうのはなくなりましたね」


僕の顔を見て微笑むソフィア。そこには目線を逸らして話をする彼女の姿はなかった。


「もうだいぶ昔のことのようです。けど、数か月前のことなんですよね」


「あぁ、随分一緒にいる気がしてるけどね。今日はシェイド達も気を遣ってくれたから、3人で楽しもうか」


ソフィアの左目がきらりと光る。


「はいっ」



◆◆◆◆◆



僕たちがまず最初に来たのはショッピングモールだった。


「リアが、動きやすい服が欲しいって。私のだと全部厚ぼったすぎるらしいんです」


たしかに、ソフィアの衣装は露出がかなり低く、顔、手足以外は見えないことの方が多かったりする。


「じゃあその辺探してみよっか」


「はい、そしたらリアに変わりますね」


目を閉じると、淡い光がソフィアを包む。両目が紫色になり、無邪気な笑みがこちらを向く。


「ルーキッ」


ガバッと抱きついてくるリア。ソフィアと違い積極さはリアの方が断然強い。


「この服って伸びが足りないから動きづらいんだよねぇ」


胸の部分を伸ばそうとするリアの手を押さえる。


「服、探してみようか」


「うん。いこいこっ!」


一軒目。


「うわ~っ!色んな服があるんだねっ」


並んでいる服をキラキラした目で見つめるリア。


「試着することができるから。着てみたい服があったら持ってきて」


「うん、わかったー!!」


リアは店中を周り気に入った服をかごいっぱいに持ってくる。


「結構持ってきたな…」


「早速着てみるねー!!ルキも一緒に入る?」


「それは遠慮しとくよ」


「チェッ、なんだー。それじゃあ着替えるから待っててねー」


カーテンを閉じ、着替えを始めるリア。カーテン越しにリアの裸があるかと思うとドキッとする。


「ルキッ、こんなのどう?」


カーテンをシャッと開き、ヘソ出しシャツ、ショートパンツ姿でビシッとポーズをとるソフィア。


ブフッ。


役得。いや、露出がガツンと増えて鼻血が出そうになる。


ソフィアが健康管理に気をつけているだけあって、すらっとして吸い付きたくなるようなお腹に綺麗なくびれ。お尻も丸っと張りがある。


「可愛いんだけど、流石にソフィアが恥ずかしがるんじゃないかな…」


「え~、動きやすいのにぃ。ソフィア、ちょっと見てよ」


リアが目を閉じると瞳の色が変わる。


「え?………きゃーっ!!?なんですかっ!この服は!?」


ソフィアに戻り、自身の格好を見て硬直する。両手で胸を隠して顔を真っ赤にするソフィア。騒ぎが大きくならないように、しーっとソフィアの口を塞ぐ。


「(あまり騒がないで。店員さんが来ちゃう)」


「(どういうことですかシオリ!!どうしてこんな裸みたいな服を着せてるんですか!!)」


「(リアが着たいって言ったんだよ)」


「(それにしたって限度というものがあります!!これはやりすぎです!!)」


「(わかった、もうちょっと抑えるように言うから!!)」


「リア、戻って別の衣装にチェンジ!!」


「えぇ、これダメなの~。じゃあ仕方ない次」


数分後、再びカーテンが開く。


「これならどう?」


淡い桜色のフレアスカート型のワンピース。腰回りがきゅっとなっていて、襟とボタンがついている。リアは袖を少し捲り短くする。これならさっきとは違い、露出はほどほどの服だ。


「うん、可愛いと思うよ」


「えへへ、やった。生地が伸び縮みして見かけより動きやすいんだ~。でも」


そう言ってスカートを捲るリア。真っ白なパンツが僕の目に飛び込んでくる。

健康的な太ももに食い込んだパンツをバッチリみてしまう。だって男の子だから。


「このパンツだと地味だよね?」


ボフッ!


リアの手が強制的にスカートを閉じる。右目が光ったのでおそらくソフィアが無理矢理押さえたんだろう。


「ソフィアが恥ずかしいって。そんな恥ずかしがることないよね?」


「いや、そんなことはあると思うぞ…」


僕は鼻血が出ないように上を見ながら対応する。


「ねぇ、次は下着の店に行きたいなぁ。胸もこのままじゃ、きついし」


胸周りがきついアピールをしてくるリア。


「う、うんリアがそういうなら行こう。ソフィアも大変だろうし」


「わーい、それじゃあ行こーっ!!」


「まずは会計すませてからな!!」



◆◆◆◆◆



買った服をそのまま着て、僕とリアは下着ショップへとやってくる。

こういう店には来たことがないので、どこに目をやったらいいのか本当に困る。右も左も下着だらけ。


「ルキ、これ見てみて。どう?」


レースのついた真っ赤なブラジャーを持って自分と合わせてみせるリア。


「わ、わからないよ!!」


ちゃんと見るのも恥ずかしいので目をそらす僕。


「え~っ、ちゃんと見てよ~っ」


ぷーっと膨れるリア。


「お客さん、お相手さんのことはちゃんと見てやらなあきまへんで?」


そこに店員らしいおしゃれな服を着たネツキがやってきた。首から肩が見える紅色のセーターにタイトなスカート。主張する部分がしっかりと主張されている。


「ネ、ネツキ?」


「今日は臨時でこの店の手伝いやねん。チャミュもおるで。お~い、チャミュ~」


「どうしたネツキ……ってシ、シオリくん!?」


そう言えばチャミュとは色んな店で会うことがあったな。久しぶりだ。


「ど、ど、どうしたこんなところで」


たどたどしく喋るチャミュ。


「リアが新しい下着がほしいってさ。それで来たんだけど、ここは男は居づらいな…」


「ルキー!!ちゃんとこっち見てよー!!」


「わかった、わかったから」


急かされてリアの方に歩いていく。


「ほら、ちゃんと手伝ってやらな」


チャミュの背中をおすすめネツキ。


「だが、彼らの邪魔をしては…」


「このままやとシオリも困るだけやろ。助けてあげたらええ」


ネツキはカラカラと笑いながら背中を叩く。


「ネツキ、絶対この状況をたのしんでるだろ」


「はて、なんのことやろなぁ」


渋々リアの方に歩いていくチャミュ。


「リア、サイズをきちんと測ってから着用するのがいいだろう。私が手伝う」


「えぇ、いいよ~1人でやるから」


「リア、こういうのは知ってる人にやってもらうのが確実なんだ」


「ぶ~。じゃあルキも一緒にいて。そしたらやってあげる」


「い、一緒って…」


「シオリも困るだろう。さぁ、こっちに」


「イヤ!ルキと一緒じゃないとイヤ!」


だだをこね始めるリア。こうなると、なだめるのに時間がかかる。


「……わかった、そしたら目をつむって近くにいるから」


「じゃあ手短にやろう。2人とも試着室に」


僕はリアに連れられ一緒に試着室に入る。リアの後ろでリアの腰を掴んでいる。


リアはワンピースを脱ぎ、チャミュにバストサイズを測ってもらっている。


「これは、前より大きくなったのかもな」


「へぇ、そうなんだ。チャミュはいくつなの?」


「わ、私か!?私は…」


「いいじゃん、女同士なんだし」


「(僕もいるんだが……)」


口を挟むことは出来ず、黙っている。


「リ、リアよりは小さいだろうな…おそらく」


「やった~!!じゃあ私の勝ち~。ルキ聞いてた?」


「(僕に振らないでくれ)」


「リア、これでサイズがわかった。後は気に入った下着を探しておいで」


「わかった~」


「おっと、服を着てからね」


リアの着替えを手伝ってやり、リアはショップの下着を色々と見て回る。


「チャミュ、そこにいるのか?」


「あぁ、いるよ」


「もう目開けていい?」


「あ、あぁどうぞ!!」


数分ぶりに目を開ける。

下着の試着室に男が店員といるというのもなんだか危うい感じがするが…。


「チャミュのおかげで助かったよ。僕1人だとどうしたらいいかわからなかった」


「なに、お安いご用さ。リアもソフィアと一緒になったことで丸くなったみたいだし」


「そうだな」


前のようなトゲトゲしさはなくなったように思う。眠っていた時間を取り戻すような子供のような無邪気さ、純粋さ。リアはそういうものを持っていた。


「ねぇルキ~。これって意味あるの~?」


「ブッ!!」


リアが持ってきたレースの下着はブラジャーもパンツも先に縦に切れ目が入っていて開くようになっているものだった。


「リア、これはいいんだ。そういうお客様用のだから。私と探そう」


顔を真っ赤にしながら対処してくれるチャミュ。リアは訳が分からないとはてなマークを頭に浮かべている。


「(あれは説明できないよな……)」


数分後――。

リアはチャミュと一緒に下着を探して良さげなものを見つけたらしい。


チャミュとネツキに礼を言い、店を後にする。


「あ~っ、楽しかった!あとでルキにも見せてあげるね!!」


「う、うん。気が向いたらでいいよ」


「私楽しめたから今日はこの辺でいいよ。ありがと、またねっ、ルキ!」


リアは僕の体をギュッと抱きしめると目をつぶる。


溢れる淡い光。

ゆっくりと目を開けると瞳の色は緑に戻っていた。


「もう、リアったら…。シオリ、ごめんなさい」


「いや、大丈夫だよ。リアも楽しんでくれたし。それに、」


ソフィアの顔を見つめる。


「もう少しこうしていたいかな」


「…はい」


僕はもう一度ソフィアを優しく抱きしめた。



◆◆◆◆◆



ソフィアと2人、公園をゆっくりと歩く。


「この公園も、色々ありましたね」


「そうだな、カゲトラたちにあったり、リアが目覚めたり。意外と重要な場所だったりするのかな」


「ふふっ、そうなのかもしれませんね」


ソフィアは軽く笑う。


「これ、さっき買ってきたんだ」


僕はソフィアに小さなケースを差し出す。ネイビーの立方体の箱。それを開けると中にはピンク色の宝石が埋め込まれたネックレスが入っていた。


「これは?」


「ソフィアにちゃんとプレゼントしたことなかったなって思ってさ。そんな高い物じゃないんだけど」


ソフィアの手のひらに箱を置く。


「付けてみて、いいですか?」


「もちろん」


箱からネックレスを取り出し、首に付ける。ソフィアの右目からぽろりと涙が零れ落ちる。


「嬉しいです、シオリ」


「似合ってるよ、ソフィア」


ソフィアの手を優しく握る。


「これからも、僕と一緒にいて欲しい。色々あるかもしれないけど、一緒にいてもっとたくさんのことを経験したい」


「はい。私も、もっとシオリと一緒にいたいです。リアのことも、ミュウのことも、そして私も同じくらいに愛してください」


「ソフィア……!!」


ギュッと力強く、苦しいほどにソフィアを抱きしめる。彼女の苦しみも悲しみも、そして同時に喜びも全て受け止めてあげたい。彼女とならどこへだっていける。そんな気がした。


僕とソフィアは目を閉じ、ゆっくりと唇を重ね合わせる。ソフィアの右目から落ちた涙は頬を伝い、地面へと滴り落ちる。


互いに見つめ合う2人。左目はチカチカと2回優しくまたたいた。


その後も、僕とソフィアは幾重に唇を重ね合い、互いの愛を確かめ合った。

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