93話_サキュバスと大泣きお姉さんと傲慢男・結末

今日は邪帝・ザ・ギャングROXのマッドマックスが抜けて初のライブにしてメンバー公開の日―――。


僕は邪帝のはからいでライブの招待状をもらっていた。


開場は地上の時間にして17時。

時間にはまだ余裕がある。ライブの前に、僕にはやらないといけないことがあった。


僕はソフィアとシェイドを連れて、サマァの屋敷を訪れた。

爺がサマァの元まで案内をしてくれる。


「あら、ソフィアさん!!この前はありがとうございましたぁ」


ソフィアの元に駆け寄り、厚く握手をするサマァ。


「転生様も、ミミちゃんを助けてくれてありがとうございましたぁ」


サマァの豊満な胸がブルンッと揺れる。


「おかげでぇ」


「おかげでミミくんと話せるようになりましたか?」


「ええ、そうなんですぅ。どうしてわかったんですかぁ?」


サマァは不思議そうに僕の顔を見る。


「今日は確かめに来たんです。今回の事件を起こしたのは誰なのか」


僕はサマァから少し距離をとり、振り返る。


「屋敷に荷物が届いた時、執事の方はこう言ったそうですね【ミミ様宛に荷物が届いた】と。でも、彼に聞いたら自分の名前と住所は他の人に教えたことはないそうなんです。だから、荷物が届くはずはないんです」


「でもぉ、ミミちゃんが誰かに教えたかもしれないしぃ」


「それがないんです。だって、ミミくんは外ではミミくんではないんですから」


「どういうことですかぁ?」


話の内容がわからず首をかしげるサマァ。


「ミミくんは外では違う名前を名乗ってるんです。からかわれると恥ずかしいからって」


「えぇっ、そんなぁ」


そのことにショックを受けるサマァ。


「サマァさんはミミくんの部屋に入ることもできないんですよね。入れるのは唯一掃除を担当する執事だけ。それもかなり限定な時間という条件付きで……だから、ミミくんがここにいて、かつ邪帝・ギャングROXに入ることを知っているのは」


後ろに後ずさろうとする爺を指差す。


「執事のあなたしかいないんだ」


「え、いや、私がそんな…」


「爺!?でもおかしいわぁ。だって一番危険な目に遭っていたのは爺なのよぉ?」


「えぇ、それも説明がつきます。これは口実が欲しかっただけなんです。サマァさんがミミさんと話す口実が」


「えぇ?」


「………」


「別に爆発物でミミくんに危害を加えるつもりはなかった。彼が危ない目に遭っているという事実が出来ればいい。だから、爆発物を送られてくるという自作自演をやったんです。違いますか?」


「爺…」


爺は観念したように、膝をついた。


「お嬢様方を危ない目に遭わせるつもりはなかったんです…。ミミ様がサマァ様を心配するきっかけになればと……」


「爺…」


「僕にミミくんと話をするようサマァさんに提案したのもあなたですね。邪帝と同じ顔の僕をミミと引き合わせれば、外に出るきっかけになると思った」


「それもお見通しとは……」


「それじゃあ、シオリさんを誘拐したのもぉ?」


「いえ!それは違います!!そのようなことは!!」


「わかってますよ」


僕は爺の肩を軽く叩く。


「最初、その話と一緒に考えていたせいでよくわからなくなっていた。爆破の話と誘拐の話は別物なんです」


「じゃあ、誘拐したのは誰なのぉ?」


「それは、あとでわかりますよ」



◆◆◆◆◆



場所は変わって、ライブ会場―――。


5万人程が入ることの出来る外の会場だ。開場の時間が近付き、たくさんの人が集まってくる。


「流石に人が多いな」


僕とソフィア、シェイドは遅れて皆と合流した。


「シオリ、やっと来たのね。こっちよ」


ネツキ、チャミュといたミュウが僕に気付いて手を振る。


「間に合わないかと思ったよ」


「無事終わったのかい?」


「1つはね、あと1つはこれからだ」


「本当に来るだろか」


「来るよ、必ず。だって許せないはずだからね、今日という日が。ソフィア、お願い事できるかい」


「はい」


ソフィアは目を閉じ、意識を集中させる。体が淡く発光し、それが波紋となり広がっていく。


「リアと一緒になることで得た新しい能力です。サキュバスは人を支配するために、感覚に敏感なんです。その中で一番憎悪を持ってこにいる人間が、犯人です」


「犯人は必ずこのライブを失敗させようと企てているはずだ。それを防ぐ」


「なるほど、そういうことか」


光が会場全体を覆った時、ソフィアが、何かに気付いたように声をあげた。


「いました!!ここから一番遠く、会場の外です!!」


「よし!行こう!!」


会場の外、開けたスペースにその相手はいた。


不自然にその人物しかいない。まわりには、5体の機械兵士が待機していた。ライブの護衛用ではない、明らかに敵意を持った者の仕業―――。


「やっと見つけたよ」


僕はその中心にいる人物について近付いていく。


「あんたが僕を誘拐してくれた犯人だな。マッドマックス」


バンダナを巻き、腰まで長い金髪をなびかせ、マッドマックスはこちらを向いた。


「まさか、あんだが犯人だなんてな。女性だなんて知らなかったぜ」


「本当にあいつそっくりなんだね。出来れば私の前に現れないで欲しいんだけど」


女性は強気な口調でこちらをにらみつける。


「どうしてヘルを誘拐しようとした?」


「どうもこうも、私抜きでライブなんかやろうとするから!!ぶっ壊してやろうと思ったのさ!!」


「だが、お互い納得して抜けたんだろう?」


「そんな訳ないじゃないか!!邪帝が相手にしてくれないから!!だから辞めたんだよ。そしたら新しいギターなんて入れやがって…」


マッドマックスはガンと横にある機械兵士の装甲を叩く。


「邪帝のことが好きだったのか?」


「そうだよ!!でもあいつは私を見てくれなかった!!寝ても覚めても音楽のことばっかで!!あいつのために上手くなったっていうのに……それに嫌気がさしたんだよ!!」


怒りをぶちまけるマッドマックス。


「事情はわかった。けど、こっちも引くわけにはいかない。ライブを成功させるために一生懸命やってる人がいるんだ。思うようにならなかったからといって、それを壊していい理由にはならない」


僕は一歩前に出る。


「だったらどうだっていうんだ!!こいつは特注の機械兵士だよ!!あんたらがどう足掻いたって勝てる代物じゃないんだ!!」


「それは、やってみないとわからないだろう」


次はシェイドが前に出る。


「だったら、やってみせろよ!!いけ、お前たち!!」


機械兵士をけしかけるマッドマックス。シェイドは機械兵士に取り付くと、首、脇と関節の隙間を狙って的確に相手を動けなくしていく。その動きに全くの無駄はなかった。


「動きが緩慢かんまんだ。これでは、とてもではないが相手にならないな」


「ぐっ、このぉっ!!」


拳銃を取り出すマッドマックス。それを弾くミュウ。


「みっともないわね。振り向いてくれないからってこんなことをやるようではたかが知れているわ」


「うるさい!!貴様に何が何でもわかる!!」


振り上げられたマッドマックスの手を防ぐミュウ。


バチン!


マッドマックスの左頬をはたくミュウ。


「甘ったれてんじゃないわよ!!」


マッドマックスの胸ぐらを掴む。


「好きな人が振り向いてくれないから壊すですって?馬鹿言ってんじゃないわよ!!そんなことしたら、あんたの本当の気持ちが伝わらないじゃないの!!」


ミュウは語気荒くマッドマックスの瞳を見つめる。


「愛はね、心で想っても伝わらないのよ!!行動で示さないと、振り向いてもらえないわよ!!」


「じゃあ、一体どうすればいいって言うのよ!!」


涙を流しながら、叫ぶマッドマックス。


「君には、これがあるんだろう?」


そこにシェイドが近付いてギターを渡す。


「うぅ……うわぁぁぁぁあん!!!」


子供のように泣きじゃくるマッドマックス。

そんな彼女を僕たちは黙って見つめていた。



◆◆◆◆◆



ライブ開始時間―――。。


僕たちは一番前の席に並んで彼らが出てくるのを待っていた。


「今回も色々ありましたね、シオリ」


「あぁそうだな。なんだかんだで落ち着いて良かったよ」


「でも、よく気が付きましたね。今回の事件が、2つ別々なものだったって」


「ほとんどはリアのおかげだけどね。不思議だったのがさ、どっちの事件にも殺意は感じなかったんだ。それで犯人の目的がわからなかったんだけど、話を聞いて合点がいったよ」


「私はシオリが無事で良かったです。ですが、あまり無茶はしないでくださいね」


「気をつけるようにするよ」


「にしても、邪帝はなかなかの人物だね。マッドマックスの話を聞いて、それでも許しちゃうんだから」


「マッドマックスさんも、1回新曲を聴いただけで内容を覚えてしまって。本当に邪帝さんのことが好きだったんですね」


「全く。アーティストは私たちにはわからないメンタルを持っているのかもな」


隣にいたシェイドがステージを見ながら呟いた。


ステージが暗くなり、ギターの音が響きわたる。


「お前らぁぁ!!!最初からぶっ飛ばしていくぜぇぇえ!!!」


「うぉぉぉおおお!!!」


邪帝の声に反応する観客達。


「始まったみたいだね、僕たちも楽しもう!!」


「はい!!」


僕とソフィアは手を繋ぎ、邪帝たちが現れたライブに精一杯の歓声を送った。


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