92話_サキュバスと大泣きお姉さんと傲慢男9

ヘルプリンス脅迫騒動から一夜、僕は家に戻っていた。


ベッドに横になり、天井を見つめる。犯人の計画的なようで行き当たりばったりな行動。彼らは一体何が目的だったんだろう。元の邪帝・ギャングROXに戻したいのならもっと他のやり方があっただろうに―――。


リーダー格の男が言っていた、女に頼まれたという言葉も気になる。今回の首謀者となる人物が他にいるということだ。その女が誰か調べる必要はあるかもしれない。


「シオリ、いるかしら?」


ノックの音。ミュウだ。


「いるよ」


「入るわね」


扉を開けて入ってくるミュウ。モコモコしたワンピース型のパジャマと帽子をかぶっている。ミュウにしては珍しい格好だ。いつもとは雰囲気が違うな。


「なんかいつもと雰囲気違うね」


「あら」


ミュウは僕の言葉を聞くとボスンと僕の横に飛び込んでまじまじと顔を見つめてくる。


「あなたにもちゃんと目がついていたのね」


「なんだよそれ」


「いえ、私を見ていてくれていたんだなって。嬉しくなったの」


仰向けの僕に抱きついてくる。ミュウの甘い匂いが顔の近くに溜まる。


「どう、可愛いかしら?」


「か、可愛いと思うよ」


ミュウの頬が少し赤く染まる。


「そう、それなら変えた甲斐があったわ」


ミュウは僕の腰にまたがった形になり、上体を起こすとワンピースをゆっくりめくり始める。奥には純白透け透けのレースのパンティとガーターベルトが姿を現す。


「ミュウ!?」


「こっちはどう?」


「ど、どうって言われても…」


ぷーっと膨れるミュウ。僕のズボンを下ろそうとするのを必死に止める。


「ストップ!!ストップ、ミュウ!!可愛いよ!その格好も可愛い!!」


「そんな投げやりに言ったってダメ。全然嬉しくないわ」


そっぽを向いて遺憾いかんの意を示す。こうなったミュウに適当な対応では事態を悪化させるだけだ。僕は体を起こし、ミュウの顔をこちらに向ける。


「いつもと違う色だけど、これも可愛いと思うよ」


少し表情がゆるむ。


「可愛いだけじゃダメ。他にも言って」


「せ、セクシーだよ」


「それだけ?」


「お嬢様みたい」


「ふふっ、なにそれ」


思わず笑みがこぼれる。


「私はシオリにとって魅力的かしら?」


「…それは、そうだよ」


「…今少し含みがあったわね」


「魅力的だと思うよ!でも、なんで僕なんだろうって思うのも正直あって……」


ミュウは僕の顔を掴むとぐいっと唇を押し当てる。


「これが私の答え」


「答になってないと思うんだが……」


「まだ口応えするのね」


「ムグッ!?」


もう一度、ミュウと唇を合わせる。先程とは違いゆっくりと、1秒1秒を味わうような舌の動き。ミュウの体がビクンと軽く跳ねたかと思うと、一瞬動かなくなった後にゆっくりと唇を離す。心なしか顔が惚けているように見える。


「ハァ…」


「ミュウ、大丈夫か?」


「……えぇ、大丈夫」


ミュウのうるんだ瞳が僕を見つめる。うれいを帯びた表情がとても可愛らしい。


フラフラするミュウを優しく抱き止める。


「…思った以上にエネルギーを受け取り過ぎたみたい。オーバーフローの状態ね」


ブルッと震えるミュウ。


「以前、サキュバスの能力の話をしたことは覚えているかしら?」


「うん、覚えてるよ」


「私たち姉妹は、好きな人に好意を向けてもらったときに一番エネルギーを貰うことが出来るのは前に話したわね。私も姉様も、その対象はシオリ、あなた」


「うん」


「そのエネルギーが最近強くなっていて、私では受けきれないみたい。それだけシオリが私のことを愛してくれているということなのだから、私はそれを受け止めないといけないのに……」


ほうけた顔を下に向けるミュウ。


「無理はしない方がいい」


「…ええ、そのうちにちゃんと受け止められるようにするから。今日はこの辺で」


ミュウはベッドから離れる間際にもう一度僕にキスをして出て行った。


「(一瞬、シオリのエネルギーが入ってきて意識を失ってしまったわ……あんなにシオリが強くなっているなんて。私もこのままではいけないわね)」


ドアの向こう、ミュウは心でそう思いながら階段を降りていった。


ミュウがいなくなった自室―――。


再び1人になり考え事をしていると、ノックの音が。


「はーい」


「シオリ、起きてますか?」


ソフィアの声だ。


「開いてるよ」


「お邪魔しますね」


「どうかしたのかい?」


「いえ、何か用があるわけではないんですが…」


ソフィアの瞳の色が紫に変わる。


「私がルキに用があるの」


リアはにこっと笑うと僕の隣に座った。僕に両手を広げるリア。


「これは?」


「ハグ。ぎゅ~ってしてほしいの」


「あ、あぁ」


両手を広げたリアの体を抱きしめてやる。リアは嬉しそうに僕の首に顔をすり寄せてくる。

心なしかソフィアの匂いと違う気がする。もしかしたら気のせいなのかもしれないが。


「うぅん、いいなぁこの感触。ルキに抱きしめて貰える日が来るなんて思いもしなかったよ~」


リアは本当に嬉しそうに僕に体をすり寄せる。体はソフィアなので弾力ある体が密着されてドキドキする。


ただ、リアはどちらかというと可愛い子供のような無邪気さを持っていた。ソフィアと同じ顔という違和感はぬぐえないが、これも肉体を共有した結果なのであれば受け入れていくのがいいのだろう。


「ねぇルキ。たまにこうやってくっついていい?」


「え、あぁ、それでリアが落ち着くのなら」


「やった~。えへへ~」


すりすり。大きな子供を相手にしているようだ。リアの頭を優しく撫でてやる。子供、いや子犬のような感覚もしてきたな。


「ルキさぁ、私気になってることがあるの」


「なんだ?」


「ルキがいなくなった後にミミ宛に爆弾が届いたじゃない」


「あぁ、皆無事だったみたいだけど」


「その後、ルキがさらわれたんでしょ。最初はミミを狙ってたって聞いたから。なんか変な話だなぁって」


「たしかに、それは俺も思ってた」


何故俺がさらわれることになったのか、不可解な点が残る。ヘルプリンスを狙うなら、あそこで僕を人質にしてヘルプリンスを脅した方が良かったはずだからだ。


「ねぇ、ソフィア、荷物ってどうやって届いたんだっけ」


瞳の色が緑に変化する。


「執事の方がミミさん宛てに荷物が届いてるって言ったんです。それをサマァさんが見に行って。差出人は地獄の使い《エビルクラウン》だったそうです」


「ふむ……」


僕はあごに手を当てて考え込む。


実に変な話だ。捕らえようとしている相手をその前に爆破しようとするだろうか。差出人の名前は同じエビルクラウン。


同一犯と見るのが打倒だが。


考え込む僕の背中にリアが乗っかってくる。


「ミミって普段から部屋の外に出てこないでしょ?屋敷の人達って、ミミの趣味とか知ってるのかなぁ」


リアは喋り続ける。


「そもそもミミって名前も、他の人に知られてるのかな?」


「リア、どういうことだ?」


「ミミとヘルプリンスが同一だって知ってる人はどれだけいるんだろうねって」


「!?」


リアの言葉で、今までモヤモヤしていたものが一気に晴れるようだった。


「リア、ありがとう。もしかしたらこれで解決できるかもしれない」


僕はリアに向かってニヤッと笑った。

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