86話_サキュバスと大泣きお姉さんと傲慢男3

後日、邪帝・ザ・ギャングROXの曲をミュウから借りて聴いてみたがこれが意外と悪くない。


ルックスの良さと奇抜さがウリなのかと思っていたがそれだけというだけでなく、曲もかっこよくて何より歌に対する熱さみたいなものがあった。


「1stアルバムのlimited nightがなんだかんだで1番好きなのよね。次のcries moreも良いのだけれど」


僕が自分の部屋に戻った後、ミュウがやってきた。


そこからミュウはアルバムのジャケットを眺めながら僕に邪帝の説明をしてくれている。何故かあぐらをかいた僕の前を陣取っていたりするのだが。


「ミュウはどうして邪帝にハマったんだ?」


「なんでかしら。たしか、最初に知ったときはまだ売れてなかったのよね。邪帝の名前とは裏腹にしっかりつくられた曲のギャップが良くて気に入ったんだと思うわ。見かけで判断するなって」


「なるほど」


ミュウもサキュバスと天使という外見と中身のギャップで苦労したところがあったのだろう。その境遇がバンドと重なったのかな。


「それにしても、シオリが興味を持ってくれて嬉しいわ。せっかくだから一緒に聴きましょう」


そう言って、ミュウは音楽プレーヤーを取り出す。今の時代は技術が進歩したこともあり、超薄型の布みたいにペラペラした携帯が出始めていた。形状も自由に変化できる【クロス】と呼ばれる物が流行りだしている中で旧式のプレーヤーというものはわりと珍しかった。


「珍しいもの使ってるんだな」


「これ、お気に入りなの。音楽を聴くには音楽を聴くだけの機能があればいいのよ」


ソフィアも機械はあまり得意ではなかったが、どうやらミュウもそうらしい。


「はい」


ミュウにイヤホンの片方を渡され、着けてみるとギターの力強いメロディが響きわたる。


イヤホンも今は無線が主流だが、真っ赤な有線の物だ。


「有線だとわずらわしくないか?」


「無線だとなくしてしまいそうなのよね。それに、」


ミュウは振り返って僕の方を見る。


「シオリとこの線を通して繋がっている気がして、私は嬉しいわ」


ミュウは笑顔を見せ、自然と手を絡めてくる。僕と真正面に向き直ると顔を近付ける。


「耳も、手も、そしてほら、んっ…」


ミュウの柔らかな唇が触れる。

片耳から邪帝の力強い歌声が聞こえてくる中、ミュウと熱いキスをかわす。


「ふぅ、唇も。シオリを独り占めしてるみたいでゾクゾクしてくるわ。悪くないわね、これ」


ミュウは恍惚こうこつとした表情を浮かべる。ミュウと出会ってそこそこ経つようになるが、日を追うごとにミュウの表情に色気が漂いはじめている気がして、最近はドキドキする。


「そろそろ私のことを受け入れるのも素直になってきたのかしら」


「素直って、わけじゃあないけど…」


「煮え切らないわね」


ミュウは膝立ちになり、ゆっくりとスカートをたくしあげる。ストッキング越しにピンク色の紐パンが姿を現す。


「ミュウ、そうやって簡単にパンツ見せちゃダメだって」


「簡単ではないわ。あなただから見せているんだもの。シオリに見せるために履いてきているの。いつもこういうわけではないのよ」


「そうなの?」


「そうよ。普段こんな機能性の悪いものは着けないわ」


「へぇ~、いつも着けているものだと思ってた」


ギュムッ。両頬をミュウに引っ張られる。


「そんなわけ な い で しょ。あなた専用なのよ、専 用。わかった?」


「ふぁい……」


引っ張られて赤くなった頬をさする僕。


「というわけで、どうかしら?その中ではわりとお気に入りの1枚なのだけれど」


ミュウは口でスカートをくわえると、

太ももと太ももの間の緩やかな丘を指でなぞる。


「色も悩んだのよ?紫に、黒、スケルトンなんてのもあったわね。ここに穴が空いてる物なんかもあったけれど。そっちの方が好み?」


紫、黒、スケルトン…穴空き…ミュウの体でそれを想像しそうになって慌てて考え直す。


僕は目をつむったまま、ミュウのスカートをつかみグッと下に下ろす。


「これ以上は…我慢できなくなるから…」


僕の言葉にパァーッと表情が明るくなるミュウ。


「え、どうしてどうして?」


そこから意地悪な表情になって僕の顔を覗いてくる。僕は恥ずかしくなって顔を赤くしたまま右、左と視線を逸らす。


「ふっふ~ん、ようやく私の魅力に気が付いたのね」


自慢気に胸を張るミュウ。それからもう一度唇が近付き、


チュッ。


優しく、それでいて情熱的にキスを受ける。


「うん、シオリがこんなに私のこと意識してくれるなんて。普段からもっとこうだったらいいのに」


ミュウは満足した顔の後に、少し恨めしそうにする。


「まぁ、いいわ。邪帝のアルバムは貸しておくから覚えておきなさい。次はライブに行くわよ」


「え?ライブ行けるの?」


「えぇ、もうチケットは取っているから。3枚」


「ミュウ、ありがとう」


僕の言葉を聞いて顔を真っ赤にするミュウ。


「べ、別に私が一緒に行きたかったからいいのよ(その顔は反則よ…)」


顔を真っ赤にしたまま、ミュウは部屋を出て行った。



◆◆◆◆◆



「ミュウに色々教えてもらったんですね」


「うん、今度ライブに僕たちを連れて行ってくれるんだって」


色々、という言葉に先ほどのことを思い返しそうになって必死に記憶をかき消す。


「あら、それじゃあ何かお返しを考えないといけないですね」


「そうだな」


ミュウが帰った後、僕はソフィアとリビングのソファーに座って話をしていた。


シェイドはテーブルに座って新聞を大きく広げこちらを見ないようにしている。フーマルはアイシャにドエロコレクションを見せてはその反応を楽しんでいた。アイシャもまんざらではないよう隠した指のすきまからコレクションを見ては顔を赤面させていた。


「あとシオリ、これはお話しておきたいのですが」


「なに?」


「リアのことです。肉体を共有しあっていることで、主導権が時折不安定になることがあって……。シオリはいくつか経験されたと思うのでわかると思いますが」


急にキスされたり、ソフィアの瞳の色が変わったり、思い当たる節がある。


「これからも、そういったことが起きるかもしれません。なので、予め迷惑をかけることがあるかも、と…」


「大丈夫だよ」


僕はソフィアに向かってニッコリ答える。


「ありがとうシオリ。リアもだいぶ落ち着いてきたので変なことをすることはないと思いますが」


「リアもだいぶおとなしくなったよね」


ソフィアを乗っ取った時からは考えられないほどにリアの性格は丸くなっていた。


「それはエネルギーの関係もあるかもしれませんが、それ以上に私の中に昔の私、ソフィアリアの影を見たからかもしれません」


「きっと、彼女の魂は私のどこかにあるんです」


「そうか…そうだね」


依然、青白い光としてソフィア以外の誰かが出てきたこともあるし、ソフィアの言いたいことはそういうことなのだろう。


「シオリ」


そこに、新聞を読んでいたシェイドがこちらに話しかけてきた。


「どうした?」


「いや、実はな…」


そう言って気まずそうに細長い紙を3枚取り出す。


「チケット、私も買ってしまったんだ」


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