85話_サキュバスと大泣きお姉さんと傲慢男2
「これが……ミミちゃん?」
僕は、今しがたサマァの言った【可愛い天使】という言葉を思い返しながら
目の前にある写真を見る。
どこかのライブ会場だろうか。
ギターを弾きながらクールに決めている金髪の男性の姿がそこには映っていた。
周りにはなにやら飛んでいるバンドのメンバーが。トゲの付いたベストに、腰にはギラギラのチェーン、全部の指に指輪をはめている。僕の周りではあまり見ない格好だ。
「あれ、これって……」
その時、隣にいたソフィアが何かに気付いたように呟いた。
「ソフィア、なにかあった?」
「これ、邪帝・ザ・ギャングROX《ロックス》のライブだなって」
邪帝・ザ・ギャングROX《ロックス》……なんだろう、どこかで聞いたことがあるような、ないような……。
………。
あっ、ミュウと初めて会った時に僕に似てるボーカルがいるっていうバンドのことだ!(※4話参照)
…えっ、ここでその話と繋がってくるの?
「邪帝って、僕に似たボーカルがいるっていう?」
「そうです、その邪帝です」
ソフィアが答える。
「ミミちゃんは邪帝のギタリストなの?」
「前は違ったんですけどぉ、最近誘われたらしくてぇ。あんな子に育てはつもりはないんですけどぉ…」
そう言ってサマァはもう1枚写真を取り出す。
「これが5歳の頃のミミちゃんでぇ」
おかっぱ頭にスーツに短パン、ピシッと立っている子供、その後ろにサマァと思しき人物。
こっちの世界でいう七五三?のようなものだろうか。
「これが10歳のミミちゃんなんですぅ」
快活そうに笑うスポーツ少年のミミちゃん。
純粋無垢な笑顔が眩しい。
「随分、爽やかですね」
「そうなのぉ!あんなに純粋で可愛かったのにぃ。今は私をババア呼ばわりでぇ、全然かまってくれないのぉ」
ひっくひっくと泣いていたかと思うと、目に涙をいっぱい溜めて泣き出すサマァ。
「…それって反抗期だったり」
「ミミちゃんは優しい子なのぉ!それをぉ、あの天使がぁ」
わーんと泣き出すサマァ。どうしていいかわからず僕はソフィアの方を見る。ソフィアも困った顔をしている。
「ひとまず、そのミミちゃんと話してみましょうか?」
「ホントォ!?転生様から話をしてくれれば、きっとミミちゃんも考え直してくれますぅ。そしたら、明日迎えに来ますから準備しててくださいねぇ」
コロッと表情を変えたサマァに手を握られブンブンと振られる。その後は、おとなしく帰って行った。
「…騙されたんじゃないですか?」
「…ではないと、思いたいけど」
また少し不機嫌になっているソフィア。最初に会った頃に比べると喜怒哀楽が徐々に出てくるようになったと思う。それは良いことだが、雷撃は勘弁願いたいところだ。
「とりあえず、邪帝を調べることから始めようか」
◆◆◆◆◆
「──というわけで」
「邪帝といえば私、ということね」
「そういうこと」
僕はテーブルに座って反対側に座っているミュウを見つめる。ミュウに初めて会った時、フーマルにイタズラされた僕の顔を見てミュウは邪帝と勘違いしたのだ。それなりの邪帝好きと考えていいだろう。いいのか?まぁ、邪帝のことは僕より詳しいだろうし。
「邪帝ってどんなバンドなんだ?」
「天界の中で型破りなロックがウケているバンドよ。ボーカルの邪帝、ギターのマッドマックス、ベースの大僧正、ドラムのバンダースナッチの4人組だったんだけれど」
「(わやな名前ばっかりだな……)」
「ギターのマッドマックスが最近辞めたみたいね」
「よくある音楽の方向性の違いってやつか?」
「いいえ、実家の家業を継ぐ為よ」
「堅実!?メチャクチャ世界に抗ってる感じだったのに」
僕は思わず声をあげてしまった。
「色々あるのよ、バンドにも。それで、抜けたマッドマックスに変わって新しく入ったのが若干15歳、新進気鋭の地獄の
「(また中二病的な名前を……)」
「彼らって、見た目は派手なんだけど音楽はとても繊細で細やかだったりするのよ。そのギャップがまた人気のひとつだったりするんだけれど」
「ヘルズプリンスは若いながらもしっかりとしたテクニックを見せたおかげで、着々と人気を得ているわ。マッドマックスがいなくなったことで邪帝の人気も落ち気味だったけど、新たなファンも獲得したみたい」
「へぇ、流石詳しいな」
「まぁ、一時期程ではないけれど情報は追っているからね」
ミュウはテーブルから立ち上がると僕の後ろに回り込む。
「まぁ私はこっちの邪帝様の方が気になるんだけれど……」
僕の頬に顔を寄せるミュウ。甘いビターのチョコのような匂いが段々と強くなる。
「ミュウ、ソフィアが見てる……」
「あら、姉様がいるからって気にしなくていいのよ」
ミュウはそう言いながら僕の膝の上に乗って馬乗りのような形になる。
僕の顔の辺りにミュウの胸が来る。
「最近すっかりご無沙汰だったし、たまにはシオリとゆっくりしたいなぁ、なんて。ねぇ、いいでしょう?」
僕の頭をゆっくりと撫で回す。
「……ミュウ、今はリアもいるのであまり刺激しないでください。」
「あら姉様、そこは頑張っていただきたいのだけれど…。私はまだあの女と仲良くなれる気がしないから」
バチィン!!
ソフィアの瞳が緑から紫に変化し、電撃がバチバチと身体の周りを跳ね回る。
「あまりシオリを弄ばない方がいいよ、私、結構怒りやすいから」
「あら、起きちゃったの?私は姉様と話をしていたのだけれど。お戻りいただけないかしら?」
バチバチと広がるミュウとリアの視線。
「2人とも、落ち着いて…話し合おう」
「ルキ、この子嫌い」
「シオリ、どちらの味方なの?」
ジト目の2人に詰め寄られる僕。アイシャとフーマルの方を見るがどちらも目を合わせてくれない。
徐々に高まる怒りのオーラ。
そこに
「ただいま」
シェイドが帰ってきた。
スーツ姿にタイトなミニスカートと、OLのお姉さんバリバリな格好だ。
「あ、お帰りーシェイドー(助かった、話題をそらせる)」
「どうした、そんなにピリピリした空気で」
「そこの女がルキを取ろうとするから」
「取っていないわ、スキンシップをとっていただけ。早く姉様に戻ってくれないかしら?」
「なるほど…そういうことか」
シェイドはわかったというように
突然のことにあっけに取られるミュウ。
僕はシェイドにハグされて豊満なおっぱいに顔を埋める形になる。
「じゃあ、今日は私と一緒にお風呂に入ろうか」
「えぇーっ!?なによそれ!!」
「おかしいでしょ!話聞いてたの!?」
2人いっぺんにシェイドに詰め寄る。
「聞いていたが?板挟みにあっているのでは我が主も大変だろう。守護天使としては、たまには主を守ってやらねばな」
シェイドはさも当然のように2人に言い返す。
「なによ、それじゃあ私がシオリをいじめているみたいじゃない。こっちは知らないけれど」
「そう、別にいじめているわけじゃない。こいつは知らない」
「だからそれがシオリが困ると言うのだ。喧嘩せず仲良くシオリとやればよい。
シオリは1人しかいないのだから、取り合っても
「ぐ…」
「うぅ…」
徐々に正論をぶつけられ、言葉尻が弱くなるミュウとリア。
「時間は有限だ。であれば、等しくシオリの時間を分け合う、それが賢い選択というものだ」
「確かに…」
「悪くない……」
「わかってくれたようだな」
「(シェイドの話だと皆聞き入れるんだな。2人ともすっかりおとなしくなってしまった)」
「それじゃあ私はシオリとお風呂に入ってくるから、その後の時間をどうするかは2人で決めてくれ」
「ちょーっと待ったー!!それとこれとは話が違うわ」
「そう、2人でお風呂に入るなんて!!あ、また…眠く………」
リアはすとんと急に床に座り込む。どうやら眠ってしまったようだ。
「リアは寝てしまったようだし、私の後にミュウが入ればいい」
「えっ!?僕の意志は?」
僕の言葉を華麗にスルーするシェイド。
「そう?わかったわ。それで手を打ちましょう。決まったら早く入ってきなさい。そしてすぐ交代しなさい」
◆◆◆◆◆
なんだかんだでシェイドと一緒にお風呂に入ることになってしまった。
シェイドは他の子達と違って、好意のベクトルが違うところにあるような気がして、正直そこまで抵抗がない。どちらかというと家族と入っているような気分だ。これで
シェイドに背中を流してもらう。無駄に肌を密着させてきたりしない分安心感がある。
「まぁ、主も大変だな」
「事態を大変にしている本人に言われるのもなかなか複雑だけど…」
「私は複雑にしていない。皆が本音を隠して、形だけを取り繕うとするからややこしくなるのだ」
「でも、そうしかできないだろ?」
「本当にそうかな?周りを伺い、空いた隙間に自分の願いを通そうとすることは、果たして本当の願いなのだろうか。私は違うと思う。望みは全てをぶつけなければ」
「でも、それじゃあさっきの2人にした話と矛盾しないか?全てをぶつけ合ったら喧嘩になるだろうし」
「そこが重要なところだ。別にこの話は矛盾していない。何故なら彼女たちは全てをぶつけていないからだ。シオリとの接触点だけの話をしている、それだけではいつまで経ってもお互いの理想像が見えてこないだろう。2人が初めて、互いの全てを話し合った時、もっと建設的な話我できると思っているよ。さぁ、お風呂に入ろうか」
シェイドに促され、風呂に入る。僕の後ろにシェイドが入り、足で囲まれる形になる。
「シオリは2人とどうしたいと思う?」
「ど、どうしたいって……」
直球な質問に戸惑う。
「皆仲良く暮らせたらなって思うよ…。皆よい子たちばっかりだし。1人の頃よりずっと楽しいし」
「女性として意識はしないのか?」
「しない、ことはない、、けど、その……」
ブクブク。顔を湯船に浸けてごまかす。
「それが普通だ。ごまかすことなく正直に向き合ってあげるといい。私は何人と付き合うことになろうシオリを応援する」
「シェイドって…なんだかお母さんみたいだな」
ふと、そう思った。
「そうか?」
「うん、まぁ母さんの記憶なんてこれっぽっちもないんだけど。こんな感じなんじゃないかなって」
自分がルキの転生と知った今、家族の記憶も怪しいものだ。親父は帰ってこないから詳しい話を聞けないし。
もしかしたら、チャミュ達と会う前の生活は全てつくられたものだったのかもしれない…。
「シオリ?」
「いや、なんでもないよ」
シェイドは僕を優しく抱きしめる。
「言っただろう、ごまかすことはない。シオリが悲しい気持ちならそれを伝えてやればいい。私はシオリの味方だ」
どうやら僕の気持ちを感じ取ったみたいだ。
「…ありがと」
僕は、シェイドに涙がばれないよう顔を湯船につけた。
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