ギャングTHE ROX編

84話_大泣きお姉さんと傲慢《ごうまん》男

その日は、至って平和な日だった。


僕は学校帰りに本屋に寄ることにした。

ソフィアが新しい料理の本が欲しいと言っていたので、なにか買ってあげようと思ったのだ。


立て続けに色々なことがあったし、少しはこれで気が紛れるといいんだけど。そう思いながら平積みされている本を眺める。


「絶品エスニック料理…家で簡単手軽に中華…ううむ、どれも食べてみたいな」


並んでいる本に出ている料理はどれも美味しそうに見える。さんざん悩んだ挙げ句、【肉料理大特集】なる本を買って店から出てきた。ソフィアに見せるのもあるが、自分でもつくってみたくなってしまったのも半分。まぁソフィアならきっと興味を持ってくれるだろう。


お店の角を曲がったところで、なにやら女性が困ったように周りを見回していた。

ウェーブがかった紫の髪に、優しそうな人の良さそうな顔付き。おっとりした美人という印象だ。


困ってるのかな、周りには丁度誰もいないみたいだし。いつもならスルーしそうなところだが、その人が随分とオロオロしていたので、気付けば声をかけていた。


「あの、何かお困り事ですか?」


「あっ、実はぁ、この場所に生きたいんですけどぉ、迷子になっちゃってぇ」


おっとりした口調でその女性は開いた地図を見せてくる。赤く円が描かれたところに行きたいようだが―――。


あれ、これって僕の家の近くじゃないか。


「この場所なら知ってますよ。案内しましょうか?」


「えぇっ、本当ですかぁ!!嬉しいぃ。お願いしますぅ」


涙目だったお姉さんは喜んで僕の手を取る。


豊満なおっぱいがぶるんぶるんと揺れる。これはもしかしたらソフィアより大きいのでは、と思いながらもバレないように目をそらす。いや、もうバレてるだろうな。


「じゃ、じゃあ行きましょうか」


僕は先頭に立って歩き出した。



◆◆◆◆◆



「お兄さんってぇ、格好良いですねぇ」


後ろを付いてきていた女性がゆっくりと僕にくっついて歩くようになっている。


「あ、あの、あまり近いと……」


「うふっ、かわいぃ。あぁ、お兄さんみたいな人だったらぁいいかもぉ」


恋人繋ぎのように手を絡めてくる女性。随分と大胆な人だ。僕は慌ててそれを振りほどく。


「あわわ!ご、誤解されちゃいますから!!」


「あら、かわいぃ。こういうのは初めてぇ?」


「ではないですけど……」


「お兄さんみたいな人ならぁ大歓迎。まるで原石みたい。お姉さんゾクゾクしちゃうぅ」


更に、僕に擦りよってくるお姉さん。半端なく溢れるフェロモンに飲み込まれそうになる。そうこうしているうちに目的の場所までたどり着いた。


「つ、着きましたから!!」


少し距離を置いて目的の場所を指差す。そこで、ふと気付く。指差した先が僕の家であることに。


「あれ、お姉さん。僕の家に用あるんですか?」


「えぇ!?じゃあ、あなたもしかして転生シオリさん?」


「え、あ…はい。シオリですけど(…てんせい?)」


「やぁん、もう会ってたのねぇ。失礼しました。私、サマァと申します。今日は転生シオリ様にお願いがあって参りましたぁ」


サマァと名乗るお姉さんは、スカートを軽くつまむと優雅に挨拶をした。


◆◆◆◆◆



「お願い?」


「はいぃ、転生様に折り入ってお願いがございましてぇ」


僕は、お願いがあると言うサマァの話を家の中で聞くことにした。ソフィアとシェイドは外出中のようだ。アイシャにお茶を出してもらって、僕はサマァの話を聞く。


「私、少し前に天使を拾ったんですよぉ」


「は、はぁ(犬を拾ったみたいなテンションで言うんだな…)」


「とっても可愛くてぇ、一生懸命育ててたんですけどぉ、最近愛想を尽かされちゃってぇ」


情報を思い出してきたのか、サマァの目に、少しずつ涙が溜まっていく。


「沢山可愛がったのにぃ、出て行っちゃってぇ、しかも、他の天使にとられちゃったんですぅ」


サマァは僕の近くまで来て、僕の膝の上にそのたっぷりなおっぱいを乗せてくる。


「転生様、どうか私のミミちゃんを取り返してくださいぃ。お礼はなんでもしますからぁ、あなたの物になりますからぁ」


「ちょっ、ちょっと落ち着いて!!」


涙を流しながら懇願してくるサマァ。


「天寿様、これをソフィア様に見られたらヤバいのでは……」


「まったくもってその通りだ。アイシャ、引き離すのを手伝ってくれ」


アイシャに後ろからサマァを引っ張ってもらうが、一向に動く気配がない。


その時、家の扉が開く音がする。


マズい!!この光景を見られたら、浮気の現場と勘違いされてしまう。


「シオリ、帰ってたんですね。おやつ買ってきたので、用意……」


玄関の扉を開けたソフィアと目が合う。


サマァから離れようとする僕と、泣きながら僕にしがみつくサマァ、それを後ろから剥がそうとするアイシャ、黙ってエロ本(カバー有り)を読んでいるフーマル。


「シオリ、これは一体どういう……」


「ソフィア!!まず、話を聞いてくれ!!アイシャ、頼む!!」


「ソフィア様、これには訳が!!」


慌てて弁明する僕とアイシャだが、ソフィアの怒りのボルテージが徐々に上がっていくのがわかる。


「シオリ…覚悟はしてるんですよね?」


「ストップ!!ストップ、ソフィア!!」


「天罰!!」


「あばばばば!!!!」



◆◆◆◆◆



ソフィアの雷撃を受けた3人。少し時間が経ち、落ち着いて話ができるようになり、ようやく話を始める。


「───では、その天使をシオリに取り戻してほしいと」


「はい、そうなんですぅ」


ボロボロになりながら、正座をするサマァ。


「では、何故先ほどはあんな事になっていたんですか?」


「それは、サマァが感極まってというか……」


「転生様に会えたのが嬉しくてぇ、つい」


「つい?」


「つい、気が付いたらぁあんな感じになっちゃっててぇ」


ソフィアの上昇する怒りと、さっきの光景を思い出して顔を赤らめるサマァ。相性は最悪と言っていい。


「サマァさん、少し黙ってくれ。ソフィア、ちょっといいかな」


ソフィアを呼び出し、キッチンで2人小声で話をする。


「(どういうことですか、これは!!)」


「(ごめん、あの人が困ってたからさ)」


「(…可愛いから、じゃないんですか?)」


「(違う、違うって!!)」


ジト目で僕を見つめるソフィア。疑いの余地しかない顔だ。どうしたら信じてもらえるだろうか。


「(嘘じゃないんだね、ルキ?)」


「(え?)」


少しソフィアの声色が変わったと思うと、いきなり唇を押し当てられた。勢いに負けて、ソフィアと唇を重ね合わせる。


「んっ、んぅ……リア、いきなり体を動かすのはやめてください……」


「今のは、リアが?」


「……でも、これでシオリが嘘をついてないのはわかりました……今回はリアに免じて許してあげます」


「えっ、それってどういう…」


「こういうことだよ」


もう一度キスをされる。さっきより濃厚でねっとりとしたキス。ゆっくりと唇を離すソフィア。互いの唾液が少し糸を引く。


瞳の色が両目とも紫に輝いている。


「ソフィア、メチャクチャ怒ってるから怒りそびれちゃった。ダメだよ、浮気は」


「リア……」


「眠いから、また代わるね……」


その言葉と同時にソフィアの右目が緑色に戻る。


「……もぅ…」


ソフィアの顔が真っ赤になる。怒りと恥ずかしさで複雑な表情をしている。


「もういいですから、彼女の話を聞きましょう……」



◆◆◆◆◆



「お待たせしました」


「ごめんね、長引いちゃって」


「いいえぇ、アイシャちゃんから転生様の話を聞いてたからぁ、大丈夫ぅ」


「天寿様の話沢山しておきました!」


ビシッと敬礼するアイシャ。


「あぁ、ありがとう」


「それじゃあ本題に入ろうか」


「この子をぉ、取り戻してほしいんですぅ」


サマァはそう言って1枚の写真をテーブルに出した。


「これは……」


そこには、金髪のイカした男が写っていた。

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