79話_記憶の果て
今まで見たことのないソフィアリアの記憶。
僕とソフィアは更にその先へと進んでいく。
チャミュとルキがソフィアリア達に初めて会ってから翌日のこと────。
ソフィアリアは、いつものように庭園で本を読んでいた。ただいつもと違うのは、時折何かを思い出したかのように、
「ソフィア?ねぇ、聞いてるの、ソフィア?」
「…え、何?」
「もう、昨日からそんな感じじゃん。来ないよあの2人は」
「そうよね…」
ソフィアは切なげに本の表紙を見つめる。
「どうやったら外の世界に行けるのかしら」
「え、どうしたの急に!?そんなに気になるの?」
「えぇ、何故だか…とても…」
その時、ガサッと音がして茂みの中からチャミュとルキが出て来た。
「ほらっ、やっぱこっちで合ってたんだよ」
「ルキが無理矢理通らなければもう少し綺麗に登場できたのに」
「ルキ!?」
「やぁソフィア、元気にしてるかい。って言っても昨日あったばかりだけどね」
ルキはソフィアの近くまで来ると、大きな翼の生えた犬のぬいぐるみを渡した。
「はい、チャミュを助けてくれたお礼。他にも持ってきたんだ」
「昨日は助けてくれてありがとう。本当に助かった」
チャミュはお菓子や本の入った籠を下ろすとソフィアに見せる。色とりどりのお菓子や今まで見たことのない
「わぁ!!こんなに沢山、貰っていいの?」
「あぁ、勿論だ」
満面の笑みを浮かべるソフィア。リアは心の奥底で、ソフィアの今までにない表情の変化を感じ取っていた。
「せっかくだから皆で食べようぜ」
ルキがお菓子を取り出し、持ってきた箱をテーブル代わりにして上に置く。
「まったく適当なんだから……」
「今、紅茶を持ってくるね」
ソフィアは奥にいるオートメイドに紅茶を3つ頼むとルキ達の元へと戻ってくる。
「紅茶、頼んできたわ」
「ソフィアの他にも誰かいるのか?」
「身の回りの世話をしてくれる機械のメイドがいるだけ、あとは私とリアの2人だけ」
「リアって子はどこにいるんだ?」
「ここよ」
ソフィアは自分の胸を指差す。
「リア、挨拶して」
「……」
反応はない。
「ハハ、恥ずかしがり屋みたいだねリアは。よろしく、僕はルキ」
「私はチャミュだ、よろしく」
「2人とも、驚かないのね」
「デュアルも別に不思議なことではないからね、珍しいことではあるけど」
「デュアル?」
「ひとつの肉体に2つの精神を持つことを“デュアル”って言うんだ。俺の知り合いにも1人いるよ」
「私達天使にも色んな天使がいるんだ」
「聞きたい!2人の話、聞いてみたいわ」
外の世界の話に目を輝かせるソフィア。
ルキとチャミュは天界のことをソフィアに話してあげた。ソフィアにとって、自分が体験してきた天界とは全く違うものだった。どれも興味深くて、2人と会話する時間がとても楽しかった。
◆◆◆◆◆
「とても楽しかったわ!時間のこと、すっかり忘れちゃった」
「もうこんな時間か。僕たちも行かなきゃな」
「そうだな」
「また、会える?」
「うん、訓練の合間を見て会いに来るよ」
「やった!それじゃ、2人に会えるの楽しみにしてるねっ」
ソフィアは2人が見えなくなるまで手を振って別れを惜しんだ。
「あの裂け目、そのままにしとくの?」
2人がいなくなり、リアが話し掛ける。
「うん……だって、あれが閉じてしまったら2人が来れなくなっちゃうから…2人の秘密ね」
「……」
リアは複雑な思いを抱えながらソフィアの言葉を聞いていた。
その夜、星明かりが照らす庭園。そこに1
「…ソフィア?」
「リア、起きてたの?」
「ずっと気持ちがざわついてるのがわかるから、起きちゃうよ」
「そっか…ごめんね…」
「…あの天使のこと考えてるの?」
「うん…考えれば考えるほど、頭から離れなくなっちゃって…。ねぇ、どうしたらもっとルキに見てもらえるかな?」
「もう1人の天使みたいに大人だったら、対等になるんじゃない?」
リアは適当に思ったことを口にした。
「…そっか」
その言葉を聞いてゆっくりと返答するソフィア。
ドクン。
ドクン、ドクン。
ソフィアの心臓の鼓動が早くなる。
「…ソフィア?何をしてるの?」
リアの言葉を無視し、ソフィアの身体に異変が起きる。
身長が徐々に伸びていき、胸もお尻もそれに合わせて発達していく。成長を早送りで見るように、ソフィアはあっという間に
「嘘……私達は成長できないって言われてたのに…」
言葉を失うリア。
ソフィアリアは鏡に映る自分の姿をくるりと回転しながら見る。
「これなら、ルキも……喜んでくれるかな」
◆◆◆◆◆
数日後、その日はルキが早めにソフィアの元を訪れた。
すっかり大人の女性になったソフィアを見て驚くルキ。
「え、ソフィアなの?」
「えぇ、ソフィア本人よ」
「驚いた、まさか数日会わないだけでこんなに成長するなんて!妹みたいな感じだったけど、これじゃあ同じくらいに生まれたみたいだ」
「どう、変かな?」
「素敵だよ!本当に綺麗だ」
ルキの笑顔に、ソフィアは心が躍った。ソフィアとルキは自然と距離が近くなる。
2人ベンチに腰掛けながら、会えなかった時間を取り戻すかのように沢山お喋りをした。
ルキは自分が所属する天使隊が、同年代のメンバーで構成されていて次期天使の上級編成に加わるために必死に訓練をしていること、チャミュとは昔からの馴染みでずっと一緒にいることを話した。
ソフィアは自分が不完全な存在として、この庭園に1人隔離されていること、リアだけが唯一の話し相手であることを話した。
2人の話が終わり、ルキがソフィアの手を取る。
「ソフィア、ここから出ようよ。ここにいても、寂しいだけだ」
「……でも、それだとルキに迷惑が…」
「大丈夫だよ、ソフィア1人なんとかなる。それに、半分とはいえ天使なんだから見た目でバレることもない」
ルキの言葉はソフィアにとって、救いの言葉に思えた。
「ルキ…」
「ソフィア…」
目を閉じ、唇を重ね合う2人。
「2人とも、遅くなっ……」
ドサッ。
遅れてきたチャミュが、手に持っていたフルーツの山を落とした。
目の前で、自分の好きな天使と知らない女がキスをしている。
目の前の光景が何が起きているのか、一瞬理解できなかった。
誰だ?あれは?
見覚えのある衣装だが、でも、まさか……
チャミュは張り裂けそうな心臓を無理矢理押し込め、落ちたフルーツを拾うと何事もなかったかのように、ルキの元に歩いていく。
「ルキ、遅れた」
「おぉ、やっと来たか。待ちくたびれたよ。すっかりソフィアと話し込んじゃった」
ソフィア?
ズキン。心臓に痛みが走る。
「チャミュいらっしゃい。私もルキもチャミュのこと待ってたのよ」
この女性が?ソフィア?さっきルキと唇を合わせていた女が?
頭を思いきりハンマーで殴られたような衝撃が襲う。事実を受け入れられず意識が朦朧としてくる。
「大丈夫、チャミュ?」
「あ、あぁ大丈夫だ。訓練が忙しくてね」
「ほら、座って。私、凄く変わったでしょ?」
「最初、誰かわからなかったよ」
「ふふっ、2人ともっと近くでお話したいなって思ったらこの体になったの。これでお揃いねっ」
無邪気に話すソフィアに、チャミュは焦燥感を覚えた。このままではルキをとられると。数日前までは可愛い妹くらいに思っていた。それが今や一気に距離を縮められ、抜かれようとしている。
それを表情に出すわけにはいかない。チャミュは努めて冷静に振る舞った。
ルキとソフィアが楽しそうに話せば話すほど、チャミュの心が締め付けられていった。
「2人ともありがとう、今日も楽しかったわ」
「僕も楽しかった!次は今日話したとびっきりのスイーツ持ってくるから」
「嬉しい!楽しみにしてるねっ」
「チャミュ?具合、大丈夫?」
「うん、大丈夫だ。心配させてすまない。また来るよ」
「うん、2人ともまたねっ」
2人を見送るソフィア。その顔は、今までにないくらい満足げだった。
「初めてキスしちゃった…本で読んだよりも、よっぽどドキドキした…」
「ソフィアばっかりずるい…」
「ごめんね、リア。今度交代するから」
「絶対だからね」
2人話している光景を眺めている僕とソフィア。
目を疑うような光景に2人とも言葉が出てこない。握った手を互いに強く握り返す。
「ソフィア、大丈夫か?」
「……はい、覚悟は出来てます。行きましょう」
僕とソフィアは、最後の光に手を触れた。
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