64話_急転直下、サキュバスは過去と向き合う
ソフィアの心の中で出会ったもうひとりのソフィア。
訳も分からぬまま弾かれてしまい、僕とソフィアは現実世界へと戻ってきた。
「な、なんだったんだ…一体…」
「あの子が…もうひとりの私……」
事態が飲み込めず、呆然とする。
ソフィアだけではなく、僕にも疑問が残った。もうひとりのソフィアが呼んだルキという名前。あれは一体誰なんだろうか。
「シオリ、一度休憩しましょうか……」
「うん、そうしようか」
僕とソフィアが階段を降りると玄関にチャミュが来ていた。
「2人とも、どうだった?」
「もうひとりのソフィアに会えはしたんだけど…」
「……その様子だとなにかあったみたいだね。詳しく話を聞かせてくれないか」
チャミュとともにリビングへ行く。
僕はチャミュにソフィアの心の中で起きたことを話した。ソフィアそっくりの白髪の少女がいたこと、僕のことをルキと呼んだことなどを───。
「……そうか。彼女は元気だったんだな」
チャミュは少し悲しそうな顔をする。
「チャミュ?」
「少し、昔話をしていいか?」
「え、あ、うん…」
「これは2人の過去に関わる話だ。無理強いはしないが」
「話してください、チャミュ」
「…わかった」
チャミュはそう言うと、昔の話を語り始めた。
「私は天界の第二層の生まれでね、暮らしも中の下くらいで、ごくごく平凡な生活を過ごしていた。成人間近になり、天界の天使隊へと入隊した私は、そこで立派な兵になるべく訓練に明け暮れた。ある日、飛行訓練の途中に誤って他の隊員と接触してしまってね、立ち入り禁止とされていた区域に落ちてしまったんだ。そこで出会ったのがソフィアだった」
「ソフィアが?」
「私にですか?」
僕はソフィアの方を見る。わからない、という表情をするソフィア。
「質問には後で全て答えるよ。話を続けよう、ソフィアにはそこで初めて会ったんだ。家族以外は立ち入り禁止の区域に間違って私が入り込んでしまった。立ち去ろうにも、落ちた衝撃で怪我していて動けなくてね。ソフィアはそんな私を助けてくれたんだ。治癒の力を使って。ソフィアが黙っていてくれたおかげで、私は誰にも知られずに隊に戻ることができた。その後、助けてもらったお礼をしに行った時にソフィアが隔離されていることを知ったんだ」
チャミュはテーブルに置かれたお茶を軽く飲む。
「ソフィアは普段はそこで1人で過ごしていたんだ。私はたまにソフィアに会いに顔を出すようになった。そこで出会ったんだ、もうひとりのソフィアに」
「もうひとりのソフィアがいたのか?」
「当時のソフィアの能力は凄まじくてね、ソフィアがサキュバスの能力を抑えきれなくなると彼女が出てくるんだ。私はリアと呼んでいた」
「そのリアなんだが、なかなか強力なサキュバスでね。隔離しないと全てを魅了してしまうくらい、強力な力を持っていたんだよ」
「チャミュはその力にかからなかったのか?」
「しっかり掛かっていたよ、あの時の私は既に、失敗を犯していたんだ。私はリアの
もうひとりのソフィア、リアが言った名前だ。
「ルキって、リアが言ってた……」
「そう、ルキは天界の天使で、私の幼なじみだ。リアはそこで男性の精気を奪うはずだった。だがそこで予定外の事が起こったんだ」
「何があったんだ?」
「ルキはリアの魅力に掛からなかったんだ。それどころか私に掛かっていた魅力も解いてしまった」
「そんな天使がいるのか?」
「あぁ、実際にいたんだ。リアは自分の能力が効かないルキにひどく
「なんで、実らなかったんだ?」
「ルキには好きな人がいたんだ。だからリアの好意を受け取ることはなかった」
「そんなことがあったのか……」
チャミュは話を続ける。
「そんな関係が急変したのが、忘れもしない大雨の日…。あの日、私は天使隊の仕事があるから通常通り仕事をしていたんだ。ルキは休みの日でソフィアに会いに行っていた。そんなルキから連絡があって、仕事終わりに寄ってみたんだ。そしたら、ルキが死んでいたんだ」
「そんな!?」
「近くには、悪魔の屍が数体転がっていたんだ。多分、リアの能力を狙って現れたんだろうね。今思えば私たちが何度もソフィアの家に出入りしているのを悪魔たちに見られていたのかもしれない…。それは私たちの不注意だった。ルキはソフィアを
「私…が……」
「そう、これはソフィアにも初めて話すことだ。ソフィアの人格が出来る前に、ソフィアの人格は2つあったんだ。同じ名前のソフィアという子がいたんだよ」
「そんな…私が……」
「その後、私はソフィアが普通の生活を送れるように隔離された世界から連れ出したんだ。けど、リアが眠りについて弱まったとはいえ、サキュバスとしての能力は日常に支障をきたすもので、そう長くは続かなかった。そこで、見つけたんだ」
チャミュは僕の方を見る。
「君を。天寿シオリ。ルキの生まれ変わりを」
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