33話_天帝最終決戦・続幕

天界第三層大宮殿―――。


僕たちは階段を上り上を目指していた。


「ソフィアはどこにいるんだ?」


「おそらく、天帝の部屋か囚われている場所があるはずだ」


ようやくここまで来た、あと少しでソフィアに会える。それだけで、はやる気持ちを抑えきれなかった。


階段を上りきったところで、突如空中に映像が映し出される。そこには十字架に磔にされたソフィアと天帝の姿が映っていた。


「ソフィア!!?」


「シオリ、落ち着いて。これは仮想映像ホログラムよ」


「ゴミどもよ、よくぞここまで来た」


天帝の挑発するような声。


「ゴミのためにふさわしい死に場所を用意している。早くここまで上がってくるといい」


ソフィアの近くに立ち、ソフィアの首筋に顔を近付ける。それを避けるように身体を動かそうとするソフィアだが、鎖のせいで上手く動くことができない。


「待ってろ天帝!!絶対ぶっ飛ばしてやる」


ソフィアを弄ぶ天帝の行動。


僕の天帝に対する怒りが最高潮に達していた。映像をかき消し、更に上へと進む。


「あの様子だとソフィアはだいぶ弱っているようだな。早く救出しないと命が危ない」


「あぁ、早く救わないと」


「急ぎましょう!!」


階段を上がっていく途中、上から霧が発生し僕たちを取り囲んでいく。


「これは……!?」


「新手のようだな」


ガキィン!!


いつの間にかネツキに近くまで接近されていたのを、チャミュが拳銃で防いでくれていた。


「あら、上手く隠れたつもりやったんやけども」


「霧を使っても気配がバレバレだよ」


ネツキの刃で出来た爪を弾き、銃に弾を込めるチャミュ。


「ここは私に任せてくれ。2人はソフィアの元へ」


「チャミュ!!」


「終わったら駆けつける、先に行っていてくれ」


「シオリ、行くわよ!!」


「…わかった、チャミュ待ってるぞ!!」


「うん、またあとで」


駆け抜けて行く僕達を見送りチャミュは大きく息を吸い込む。僕には見えていなかったが、左肩の衣装がネツキの爪によってパックリと割れていた。


「あんた1人でウチとやり合うの?」


「そうだ、十分だろう?」


「下に見られてるみたいで気に入らんなぁ」


ネツキは身体をくるりと一回転させて姿を消したかと思うと、チャミュの背後に移動し斬りかかる。


ガキィン!


続けざまの二連撃。つば迫り合う銃と爪、激しい火花が散る。お互いに弾き合うと距離を取り態勢を整え直す。


「何故、そこまでの力があって天帝に組みする?」


「それは、ウチを拾ってくれたんが天帝だけやから。ウチらみたいな中途半端な天使はこの世界では暮らしにくい。天帝、勝手なお人やけど待遇はきっちりしてくれはるからなぁ」


「なるほどね、わからないでもないな」


ネツキ目掛けて放たれた銃弾は全て避けられる。


「あんたは特に変わり映えのしない天使みたいやけど、ようここまで来たわ」


「平凡には平凡なりの悩みがあってね。ここにいる理由だって、ちゃんとあるんだよ」


「へぇ、ほんならその理由見せてもらおうか!!」



◆◆◆◆◆



第三層大宮殿、広場―――。


壁一面に雷撃の焦げ後と斬撃の後がつき、広場はボロボロだ。


「ハァ、ハァ…」


鎌を杖代わりにしてかろうじて立っているスカーレット。


ラムも雷撃を出し尽くしたらしく、地面にへたり込んでいる。


カゲトラはそんな疲弊したラムを気遣って、汚れた顔をタオルで拭いてあげている。


「あんた、結構やるじゃないの…」


「そっちもね……ねぇ、なんでそこまで天帝のために戦うの?」


「それは、さっきも言ったでしょ。愛する人だからよ」


「でも、天帝よ。とてもあんたが愛されているようには見えないけど…」


「愛されていなければ、愛してはいけないの?」


ラムは、疲れた身体を無理矢理起こす。


「天帝様は私にとって、唯一自分の居場所をくれた人なの。こんないつ爆発するかわからない放電少女、誰だって近くに置きたくないでしょ。でも天帝様は違った。好きにしていいって。思うままに生きていいんだって、それで私は救われたの」


「そっか…」


ラムの話を聞き、合点がいったスカーレット。


彼女にとって、天帝とは唯一の拠り所なのだ。善悪ではなく、自分の存在価値を認めてくれるという貴重な存在なのだ───。


「あんた、出会い方が違ってたら友達になれたかもね」


「奇遇ね、私もそれは思ったわ。あんたもなんか私に似てる。自分の存在を認知してくれる人のために頑張ってる気がする」


「ふふっ」


ラムの言うとおり、スカーレットにとってその存在がシオリだった。


天使としてもサキュバスとしてもそれなりにこなせた天界での暮らしは特に不自由なかったが、それ以上の喜びもなかった。全てなんとかなってしまったから。それ故に、自分でないと出来ないことがわからず、それを渇望するようになった。


地上に降りたのは勝手に天界からいなくなったソフィアに対するやっかみだったのだが、シオリに出会ったことにより世界が一変してしまった。


サキュバスでもなく天使でもなく、スカーレットという存在を認めて接してくれたシオリは今まで存在しなかった人物だった。いつの間にか、彼に見てほしい。存在を認めてほしい、その想いが溢れるようになった。


「ホント、似てるわ私達…でも、」


スカーレットは立ち上がり、大きくスタンスをとり、鎌を構え直す。


「シオリの元に行かないといけないから」


「そうね、私もこのままじゃ天帝様に会わせる顔がないわ」


ラムもバチバチと弱々しい雷撃を纏い、ポーズをとる。


「はぁぁぁああッ!!」


「やぁぁぁああ!!」


ふり下ろした鎌と打ち上げられたら雷撃、2つは激しくぶつかり合い、2人を吹き飛ばした。

仰向けになり伸びている2人。互いに、天を仰ぎ笑い合っていた。


「主人にも、ようやく分かり合えそうな人がでてきたんですね…」


カゲトラはその光景を眺めながら、少し感慨深く思いにふけっていた。



◆◆◆◆◆



「スカーレットとチャミュ、大丈夫だろうか」


「あの2人ならなんとかするでしょう。それよりあなたは自分のことを心配なさい。これから天帝と戦うんだから」


「そうだな、皆を信じよう」


「次に敵が出てくるようであれば私が相手をするわ」


「ミュウ、ありがとう」


「な、なによ。今更改まって」


「いや、こっちに来てからずっと世話になりっぱなしだなって」


ミュウの真っ赤な顔がより赤くなる。


「それは、旦那を支えるのが妻の役目でしょう?」


「ブッ!!まだそれ言ってるの!?」


「あら、私はずっとそのつもりだけれど。姉さまが帰ってきたら3人で暮らすんだから。勿論姉さまが一番ね、それなら文句ないでしょ?」


「いや、そういうわけには……」


「決定事項よ。サキュバスと天使の愛、たっぷり教えて上げるんだから」


ミュウはイタズラっぽく笑うと僕の手をギュッと掴んだ。


「だから、絶対帰ってくるのよ…」


「……わかった、約束するよ」


ミュウの言葉に優しく応える。


「シオリ、ソフィアの反応が近くなっている。おそらくこの上だ」


「ホントかシェイド!!」


「あぁ、反応が近くなっている」


「急ごう!!」


階段を駆け上がり最上階に到達する。


扉を蹴破り、部屋へと入ると玉座の前で仁王立ちしている天帝が目に入った。


横には囚われているソフィアがいる。


「ソフィア!!!」


近付こうとするが、リーガロウの部隊が行く手を阻む。


「よくぞここまで来たな。ゴミの分際で我が大宮殿に足を踏み入れるとは最も愚かなことだ。我自らの手でソフィアの前で葬り去ってくれる」


天帝はマントを翻し、階段を一段ずつ降りてくる。


「天帝…!!」


「リーガロウよ、適当に痛めつけてやれ」


「ハッ!!」


リーガロウ、エメの部隊が僕を狙って迫ってくる。


「シオリは下がって」


両手に白と黒の薔薇を構えたミュウが一回転すると、花びらが舞い上がり兵士達を巻き込んでいく。


「う、うおおおっ!!!」


次々と吹き飛ばされていく兵士達。かろうじてエメとリーガロウは盾を構えることで防いでいた。


「リーガロウ様!!」


「私のことは気にするな、奴を捕らえろ!!」


「ハッ!」


エメのかけ声と同時に僕は懐に潜り込み、エメの腹に掌底を喰らわせる。


「ぐふっ……!!」


衝撃が鎧を突き抜け、エメの肉体まで通る。


「隙だらけだな」


シェイドが操る僕は、そのまま回転蹴りをエメの頭へと見舞う。

エメの巨躯がぐらりと揺れ、前へと倒れる。


「そのまま寝ていた方が楽だ」


「この!!エメをよくも!!!」


ガキィン!!!


振り下ろされた剣を弾く2本の剣。


「お、お前は…!!」

「シオリはやらせないわよ。引っ込んでいて頂戴」


「ぐっ…このっ!!」


ミュウに押され、剣を弾かれるリーガロウ。ミュウを認知したことで顔が若干赤みを帯びてきた。


「シオリ!!急いで天帝の元へ!!」


「助かる!!行こうシェイド!!」


「あぁ、気を引き締めていくぞ」


天帝に近付くために階段を駆け上がる。その行く手を遮るように現れるネリアーチェ。


「ネリアーチェ!!よい、下がっておれ!!」


「天帝様!!しかし…!!」


「お前はソフィアをここに連れて来い。ゴミに力の差をはっきりと思い知らせてやる」


「……ハッ」


ネリアーチェは下がり、ソフィアの元へと走っていく。


「シオリ、後のことは気にするな。思いっきりやれ」


「あぁ、ありがとうシェイド!!」


大きく飛び跳ねた僕は天帝に上から殴りかかる。


「天帝ー!!!!」


「フッ」


天帝は僕の拳を身のこなしで軽くいなし、自らの攻撃に繋げてくる。天帝の手刀をガードし、僕も再び攻撃を繰り出す。


「あの攻撃は使わないのか?」


「ゴミ程度に使ってやるまでもない。我が相手をしているだけでも光栄に思うことだな!!」


天帝の蹴りをかわし、後ろへと下がる。


「(あの時ほどの強さは感じないな)」

「(奴が油断している今がチャンスだ。一気にケリをつけるぞ)」


シェイドと小声で話した僕は、天帝にトドメをさすために全神経を集中させた。


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