32話_天帝最終決戦・開幕

第三層行最終列車、最後尾の列車内。

様々な食べ物が箱にぎっしりと詰まって積まれている。


その空いたスペースに縮こまっている僕たち4人。鮮度を保つためなのか列車内部が微妙に冷たい。スカーレットとミュウは暖をとるために僕にピッタリとくっついていた。


「ミュウ、僕の服に直接手を入れるのはダメだ」


「あら、私の中にも入れていいのだけれど」


僕の手を胸元にあてがうミュウ。


「シオリ、こっちの方が暖かいよ」


スカーレットも負けじと僕の手を掴んで自分の服に引き込む。


「シオリくんも大変だね」


チャミュだけは自分の羽を出して風を遮断している、一番暖かそうだ。


「見てないで助けてくれよ」


「それは私には無理な相談だよ」


チャミュは片羽を動かして無理、と表現する。


「しばらくの間なんだから、辛抱しなさい」


「そうそう。あぁ、シオリの匂い好き」


その時、


ガコォオオオン!!!


激しい音とともに列車のスピードが落ちる。慣性のまま、食べ物が入った箱に突っ込んでいく僕たち。


「いたた……な、何が起きたの?」


「列車が止まったらしいな、何か起きたことは間違いないようだ」


「んー!!!んー!!!」


「シオリ、何よ。うるさいわね」


「何言ってるのかわかんないよ、シオリ痛い痛い」


スカーレットの太股を叩き、身の危険を知らせる。スカーレットのお尻が顔面に乗っかり窒息寸前だった。


「ごめんねシオリ」


「死ぬかと思ったよ……で、何が起きたんだ?」


「列車の衝撃を考えると、前の方で何か起きてるみたいだね」


「ちょっと見てみようか」


恐る恐る、天井のハッチを開けて見てみると先の方でなにかがうごめいているのが確認できた。


「あれって…」


「天界蜘蛛みたいね」


「ここにも出てくるのか、しつこいなぁ」


小蜘蛛がぞろぞろと動くのを確認してハッチを閉じる。


「どうする、蜘蛛がこちらまで来ると面倒になるが、応戦すると私達がここにいるのがバレてしまう」


「出来ればこのままやり過ごしたいところだね、列車には悪いんだけど」


無用な動きでソフィアを救えなくなっては元も子もない。


「ぐぁぁぁ!!」


前の列車から、誰かの叫び声が聞こえる。どうやら徐々に近付いてきているようだ。


「あと少しで3層へと着く。そこまでもってくれればいいが…」


その祈りも通じず、蜘蛛がぞろぞろとこちらへ向かってやってくる。


「列車の警備ってザルなのかしら?」


「蜘蛛に負けるくらいのレベルってことだけはわかるけど…」


「どちらにしろ、このままではいられないね。応戦しようか」


「あーっ、もー面倒だなぁ」


「仕方ない、やろう!!」

列車の最後部から飛び出し、蜘蛛を蹴散らしていくチャミュ達。


ザシュッ!!ザシュッ!!


体液を吹き出し、動かなくなる蜘蛛。


「これって運転席は大丈夫なの?」


「大丈夫ではない可能性が高いな」


「僕見てくるよ。皆は蜘蛛の駆除を頼む」


「了解した、気を付けて」


拳銃を華麗に回し、蜘蛛を撃ち落としていくチャミュ。

連結の扉を開けて、前の運転席へと急ぐ。


列車内部は既に蜘蛛によって荒らされており、警備員も気絶しているようだった。


「全員、蜘蛛にやられているようね」


「ミュウ、着いてきたのか」


「あなただけでは心配だもの。これは運転席も危ない可能性があるわ、急ぎましょう」


「あぁ」


倒れる警備員を飛び越して、運転席へと急ぐ。



◆◆◆◆◆



天界第三層では、ラムが宮殿にて指揮を執っていた。


メイド2人に為すすべもなくコテンパンにやられて、カゲトラに無理矢理引きづられて戻ってきたのであった。


「主人、まだ機嫌悪いんですか?」


「2人がかりじゃなければあのメイド…なんとかなったのよ」


「息ぴったりで強かったですからね、あの2人」


「犬がちゃんと敵の気を引いてればこんなことにならなかったのよ!!まったく」


「はいはい、すいませんでした。それはそうと、リーガロウ様の話だと、シオリ達はここに来ると」


「なんだかんだでしぶとい奴らだからね。きっと来るんでしょう。そしたら、そこを一網打尽よ。そしたら天帝様も見直してくださるわ」


「これがラストチャンスってことですかね」


「ええ、だから失敗は許されないわ」


ラムは顔に貼っていた絆創膏をベリベリと剥がす。


「やってやるわ、見てなさい……!!」



◆◆◆◆◆



場所は戻って第三層行最終列車。


群がる蜘蛛をなぎ倒し、運転席へと辿り着く。


「やっぱり、運転席もやられてるようね……」


時既に遅く、運転手も蜘蛛にやられていた。

完全に気絶していて起きる気配は感じられない。


第三層が徐々に近づいてきているのが見える。このままだと、列車はスピードを落とさず駅に突っ込んでしまう。


「ミュウ、どうやって止めればいいかわかるか?」


「私がわかるわけないでしょ」


「そうだよな…」


駅が徐々に近づいてくる。


「そうは言ったって、ブレーキを踏めばなんとかなるだろ!!」


一か八か、運転席に座りブレーキを思いっきり踏む。


キキキキキキィィィィィィィ!!!


急激なブレーキ音を立てて列車が減速していく。


「間に合えぇぇぇぇ!!!!!」


ミュウは僕に後ろからくっつき、防御姿勢をとる。


キィィィィィィ!!!!!


列車は駅を通り越し、ギリギリのところで踏みとどまった。

急激なブレーキの反動で車体が大きく揺れる。


「な、なんとか間に合ったか……」


「間一髪ってところね……」


衝撃で吹き飛んだ身を起こし、僕とミュウは立ち上がる。


「シオリ、なんとかなったみたいだね!!」


「2人とも、大丈夫か!?」


「なんとかね、さぁ警備が来る前に第三層の大宮殿へ急ごう」


列車を飛び降り、集まり始める警備をすり抜けて駅を駆けていく。


「駅はもうめちゃくちゃだな」


「可哀想だがソフィアのためだ。仕方ない」


「ここを真っ直ぐ抜ければ大宮殿よ。後戻りはできない、覚悟はいい?」


「あぁ、ソフィアを助けて家に帰ろう!!」


決意を新たに、大宮殿へ向けて脚を進める。


第三層には、既に大勢の天使兵達が僕を捕まえようと待ち構えていた。

かなりの人数が投入されているようだが、ここで立ち止まっているわけにはいかない。


「シオリ、ここは私に任せろ」


「あぁシェイド、頼んだ」


シェイドに主導権が渡り、軽やかな体術で天使達を踏み台にし、天使の波を飛び越えていく。


「なんだと!!?」


「ターゲットがそっちにいったぞ、捕まえろ!!」


「そんなよそ見してていいのかしら?」


僕を追おうとした天使達に黒と白の薔薇の花びらが襲い掛かる。竜巻のように舞い上がった花びらは天使達もろとも天へと突きあげる。


「うわぁぁぁぁ!!!!!」


「このくらいじゃ済まないよ~」


次はスカーレットが鎌を振り回し、天使達を吹き飛ばしていく。

「ぎゃああああ!!!」


鎌の風圧によって吹き飛ばされた天使達が積み上がる。

彼女達の強さは相変わらずで、仲間で本当に良かったと思う。この調子で天帝のところまで一気に突っ切りたい。


僕は大宮殿の扉を開け、中へと入る。


「待ってたわよ!!」


扉を開けた僕の足元に雷撃が走る。


間一髪、シェイドの反応で横っ飛びに避ける。

目の前にはラムとカゲトラが。2人とも、宮殿の広場で待ち構えていたようだ。


「よくもまぁここまで来たものだわ。でも、ここで私に捕まって終わりよ」


「捕まえないと主人が大変な目になってしまうんでね。シオリには悪いが本気でいかせてもらうよ」


ラムとカゲトラは、僕を捕まえる気のようだ。


「こっちはソフィアを助けないといけないんだ。そういう訳にはいかないよ」


僕も応戦するべく構える。そこに、僕を制止する人の手が。前を見ると、スカーレットが立っていた。


「ここは私に任せて。シオリは先に行って」


スカーレットは鎌をクルクルと回し、肩に乗せる。


「スカーレット…」


「早くソフィアを助けてさ、私とデートしてよね☆」


スカーレットはそう言ってイタズラっぽく笑う。


「シオリ、この先にも敵はいるだろう。ここはスカーレットに任せて先を急ごう」


「…わかった。スカーレット、また後で、必ず会おう!!!」


「もちろんよ、シオリこそ約束忘れないでよね」


「あぁ…2人とも行こう!!」


この場をスカーレットに任せて僕とチャミュ、ミュウは螺旋階段を駆け上がっていく。


「そう簡単に行かせるわけないでしょ!!」


バチィ!!!


ラムの放った雷撃を、スカーレットの鎌が切り裂く。


「ここは私が任されたからね、シオリは追わせないよ!!」


「あんたはまた……散々私たちを邪魔したのに、まだ懲りないわけ!?」


「懲りるとか、そういうんじゃないんだよね。愛する人のために、ここから先は

一歩も進ませないよ」


スカーレットは鎌を大きく振りかぶると、ラムに向かって突き立てる。


「随分と舐めたことを言ってくれるじゃないの…愛する人のことなら、私だって天帝様のために引くわけにはいかないわ」


両手に行雷を溜め、スカーレットに向けていつでも放てる態勢をとる。


「あんた1人で残ったこと、後悔させてあげる!!!」


「それはこっちのセリフだよ!!!」


お互い地面を蹴り、共に強烈な一撃を見舞う。激しい雷撃と風が、宮殿の広場全体を覆いつくした。

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