第12話 ピラミッドの戦い つづき
ガイアスがクフ王のピラミッドの出入口から満足した顔で出てくる。
頂上が四つの花弁のように開き発射機が飛び出し赤色の極太の光線が放射された。
「わが下僕よ!」
ガイアスはピラミッドの前に集まるミュータントやモンスターに声をかけた。ミュータントに混じってレイダーやロードランナーの姿も見える。
「号令はたった一つ。戦え!」
ガイアスは声を張り上げた。
「おおっ!」
ミュータントたちは拳を突き上げ叫ぶ。
モンスターたちも吠え声を上げる。
ミュータントたちはいっせいにカイロの方へ武器を持って駆け出した。
その時である。白い光がなぎ払うように伸び、火柱が直線状に上がった。
続いてオレンジ色の光球が地面に落下。爆風とともに衝撃波が同心円状に広がり周囲にいたレイダーやロードランナーの集団を次々吹き飛ばす。
「なんだ?」
ガイアスが振り向く。
彼のそばにいた背の高いミュータントの胸を青色の光線が穿った。
三時の方向から砂ぼこりを上げながら接近する二十機の銀色の戦闘機が見えた。戦前のF35に機体がそっくりで尾翼にコブラアイの部隊マークがついている。
「コブラアイに戦闘機があったのか?」
驚くガイアス。
手前にいたドラゴンの頭部に青色の光線が貫通。倒れるドラゴン。
自分の周囲にいたドラゴンの頭部やミュータントたちの胸を正確に貫通させて轟音を立て通過していく。
カイロの方角からミサイルが発射され、レイダーやロードランナーたちに命中した。
低空飛行して爆弾を投下して通過するセンチュリー号。
そこにいたミュータントやレイダーたちが爆発や爆風で吹き飛ぶ。
後部ハッチから飛び出す如月、京極、アンナ。装甲車が飛び出し砂漠に着地して走り回りながら機銃や機関砲を連射。
そこにいたモングレイルやグールをはねながら進んだ。
船体側面ミサイルを発射するロゴスと雪風。
雪風は艦首両舷にある二基の強化ショックキャノン砲をクフ王のピラミッドに向けた。ソヴァルは精神をショックキャノン砲に向ける。二条の青白い光線が発射され、クフ王のピラミッドの中腹部分に命中。上空に伸びていた赤色の光柱がやんだ。
「おのれ!雪風」
ガイアスは叫んだ。すると紫色の蛍光に包まれ姿が崩れ拡大して巨大なキングコブラに変身した。全長は二〇〇メートルを超える紫色のコブラでまだら模様もある。
クモの子を散らすようにミュータントやレイダーたちが逃げていく。
「役に立たない奴ら」
舌打ちするガイアス。
「逃げられないぞ!」
声を荒げる雪風。
二対の触手を出すと指をパチッと鳴らすガイアス。
陽炎が揺らぎ青色の渦巻きが出現。そこからピラミッドのそばに二つの巨大な立方体の物体が現れ砂漠に着陸。中からたくさんの異星人兵士が現れた。背丈は三メートルを超え、恐竜を思わせる彫りの深い顔に精悍な体。その体に軽装備の鎧を着用している。
「あれはなんだ?」
ミラーが叫ぶ。
「ドラゴの上陸部隊だ!その数は約一万」
ヨセフが通信装置にわりこむ。
十二時の方向から紺色のエイ型の戦闘艇が三〇機やってくるのが見えた。
「あれは?」
ミラーが聞いた。
「ディープワンの戦闘機部隊です」
セシルが答えた。
「こちらグラムである。ロゴス、雪風。ピラミッドの装置を破壊せよ」
グラム司令官が指示を出す。
「了解」
雪風とロゴスは答えた。
雪風は艦首をガイアスだった巨大コブラに向けた。
ガイアスはピラミッドの中をのぞくとアンテナを直してスイッチを入れた。再び赤色の光柱が伸びた。
ロゴスはミサイルを発射。
ガイアスの手前で爆発した。彼は遠巻きににじり寄る。
船体から六対の鎖を出す雪風。
ロゴスはミサイルを発射。地上にいたドラゴ兵士たちに命中。爆風と爆発で吹き飛ぶ。
飛びかかるガイアス。
すんでのところでかわす雪風。
ガイアスが大きく振りかぶって尻尾を思いっきり振った。
轟音とともに尻尾ではたかれ雪風はクフ王のピラミッドの隣りにあるカフラー王のピラミッドに激突した。
突進するガイアス。
雪風はワープしてすぐそばの場所に姿を現した。
ガイアスが飛びかかり雪風の船体に巻きついて力を入れた。
「ぐうぅぅ!」
雪風はもがいて船体を激しく揺らす。
肉が割れ骨が軋むような音が響き、船体にヒビが入った。体を万力で締められるような激痛が襲う。
「痛みを感じるのだね雪風」
ガイアスは艦橋構造物に噛みついて鉤爪で船体を何度も引っかいた。
「ぐあっ!」
ソヴァルは六対の鉤爪でガイアスの体をつかみ引っ張るがそんなものでは外れない。
ロゴスは錨でガイアスの体を突き刺した。
思わずのけぞり離すガイアス。
せき込む雪風。
二隻とガイアスは向き合いにじり寄った。
センチュリー号がミサイルを発射。クフ王のピラミッドに正確に命中。装置の上部が吹き飛び赤色の光がやんだ。
「まだ奥の手ならあるさ!」
笑い出すガイアス。
「こちら草薙。カフラー王のピラミッドに高エネルギー反応」
草薙の声が通信装置から聞こえた。
ガイアスは指をパチッと鳴らす。するとカフラー王のピラミッドから黒色の光が上空に伸びて渦を巻き始めた。
「これは・・ブラックホールだ!」
ヨセフとマグーの声がはもる。
黒色の渦巻きは天高く伸びていく。
「これはやばいぞ。移動性ブラックホールだ。このままいくと月と火星を飲み込むぞ」
グラムが通信にわりこむ。
ガイアスが飛びかかる。
雪風はその触手を受け流してカフラー王のピラミッドに接近した。
ガイアスが振り向く。
ロゴスの体当たり。
メンカウラー王のピラミッドに激突するガイアス。
グレースが放った黄金色の光球がいくつもガイアスに命中した。
ロドリコは赤色の魔法陣を出した。赤色の光線がガイアスに命中した。
よろけて地面に倒れるガイアス。
雪風は艦首の両舷にある強化ショックキャノンを発射。カフラー王のピラミッドの中腹を穿った。せつな黒色の渦巻きがやんだ。
「コアリアクターだ」
ソヴァルこと雪風は二対の錨で発射機をなぎ倒して六対の鎖を伸ばして巻きつけ、エンジン全開で引っ張った。
ガイアスが艦橋構造物に噛みついた。
「ぐあっ!」
思わず鉤爪を放す雪風。せつな、ミサイルがガイアスに命中して地面に激突した。
雪風は艦首をカフラー王のピラミッドに向けた。自分が攻撃して開けた穴に直径五〇メートルのコアリアクターが収まっている。エネルギーはここに集約されている。供給源は隣りのメンカウラー王ピラミッドだがカフラー王のコアリアクターを壊せば役に立たなくなる。でもここではダメだ。解き放つには大気圏を出なければいけない。
ガイアスはグレースたちがやっているし、兵士たちは戦闘機部隊とミラーたちにまかせた方がいい。
雪風は六対の鎖をコアリアクターをつかみ精神を振り向けた。彼は艦橋構造物から三対、格納庫から三対の碍子(がいし)を出した。船底から格納されていた粒子砲の砲身を出し、船体から二対のエネルギー補給ケーブルをリアクターに突き刺す。
とたんにたくさんのエネルギーが津波のように流れ込むのを感じた。
自分ならなんとかできる。自分しかやれるのがいない。でも猛烈に気持ち悪いし、ひどいめまいがする。
雪風はくぐくもった声を上げた。
エネルギー量は自分の許容量をとっくに超えているがなんとかなる。
コアリアクターから火花が散り爆発して破片が飛び散る。
「ぐっ!」
心臓を焼きゴテで押しつけられるような痛みに船底を二対の鎖で押さえるしぐさをして雪風はよろけた。自分には生身の部分はない。心臓が早鐘を打ちひどくコアが軋み歪むのを感じた。
雪風はエンジンに精神を振り向けた。エンジン全開で急上昇。大気圏を脱出した。宇宙空間に一〇隻の潜水艦を思わせる戦闘艦がワープアウトしてくるのが見えた。全長は約五〇〇メートルで重武装である。
銀河連邦の船じゃない。混乱のどさくさにまぎれてやってきた敵の船だ。
「じゃあ行くよ」
雪風は精神をエネルギーに振り向け、両手を広げるしぐさをした。せつな、閃光とともに黄金色の衝撃波と爆風が同心円状に広がり、敵の船は一瞬にして爆散した。その衝撃波は何度も広がった。
「あの子がやったぞ」
装甲車から出てくるミラーとタリク、セシルの三人。
京極、アンナ、如月も立ち止まる。
兵士たちも黄金色に輝く衝撃波が何度も広がっていくのを見て立ち止まった。
その時である。装甲車のそばにドラゴ兵士が倒れた。
ミラーが振り向く。
「むやみに車から出ては危険ですよ」
アルダーが銃を持って立っている。
「ありがとう」
ミラーがフッと笑う。
アルダーはフワッと浮かぶと飛び去る。
兵士たちがクモの子を散らすように逃げ出す。そして自分たちが乗ってきた立方体の物体に次々飛び乗っていく。物体は上昇するとどこかにワープした。
グレースとロドリコはミラーのそばに着地すると京極、如月、アンナが駆け寄る。
センチュリー号が着陸した。
ロゴスは蛍光に包まれ元の姿に戻るシエナ。
機内からルミナス、デグラが出てくる。
巨大コブラに変身してガイアスは縮小して元の姿に戻ると逃げ出す。しばらく走ってガイアスは転んだ。
「どこに行く?」
ミラーは足を引っ込めた。
「いや急に用事を思い出して・・・」
ガイアスは最後まで言えなかった。アルダーに腕輪をはめられたからである。
「ガイアス。他の侵入者はどうした?」
マーリンやクミツ、クマラ、ヴァイワムスが現れた。
「おまえは永久牢獄行きだ。それに仲間やインテリジェンサー、ディープビジョンがどこにいるのかしゃべってもらう」
アルダーは語気を強める。
「僕を刑務所に放り込んでも次がやってくる。残念だ」
ニヤニヤ笑うガイアス。
アルダーとクミツと一緒にガイアスはどこかにテレポートしていく。
「アノマリー基地からなんだけど、雪風はそこのドックに収容されたらしいわ。すごく損傷がひどいそうよ。誰かエネルギーを分けられるマシンミュータントかジプシーを探しているみたい」
ハッチから出てくるカイル。
「損傷がひどい?」
ミラーとタリクが聞き返す。
振り向くマーリン、クマラ、ヴァイワムスが振り向く。
「どんな様子が見ないとダメね。何か頼むかもしれないからそこの議員も乗って」
グレースはあごでしゃくる。
あわてて乗り込むクマラたち。
飛び乗るミラーたち。
センチュリー号が離陸して上昇するとワープした。次の瞬間、アノマリー基地のそばにワープアウトした。
格納庫の管理室に飛び込むミラーたち。
部屋にマリア、ワジリー、シドがいた。
窓からもスクリーンからもボロボロの宇宙船が船台に載せられている。
船底に格納されていた粒子砲の発射機はなくなり、艦橋構造物もいくつかの部品がなくなり、船体の中央部だけでなく側面や船底にも大きな穴が開いていくつかの機器も丸ごとなくなっているのが見えた。船体の穴から見えるコアの輝きがなくなり、かすかに青色に淡く光っている感じだ。
「雪風?」
シエナが思わず聞いた。
「ピラミッドのコアリアクターのエネルギーと供給源のエネルギーを全部吸い取った彼の能力や雪風と戦闘艇の許容量をはるかに超えたエネルギーを最大パワーで「解き放った」んだ。許容量と限界をはるかに超えて・・その結果、オーバーヒートして全損した。雪風も戦闘艇もあの子のコアと動力を共有している。今の状態は死にかけていると言ってもいい。あの子は雪風と戦闘艇の予備電源でかろうじて生きている状態だ」
シドは図面と今の状態を見比べる。
「僕はグラム司令官とかけあって部品をかき集めてきます」
セシルが名乗り出る。
「僕もエネルギーを供給できるジプシーかマシンミュータントがいないか探さないと」
シエナが深くうなづく。
ヨセフ、マグーとグレース、カイルが顔を見合わせうなづく。
「私たちも協力する」
ルミナスとデグラがわりこむ。
「他の都市同盟へ行って部品をかき集めてこないとダメね」
京極が腕を組む。
如月とアンナ、ロドリコもうなづく。
「あの子の両親と兄弟に事情を説明しないといけない。今晩が峠なら両親をここに呼ぶがいいか?」
ミラーは語気を強める。
「構わない」
マリアが深くうなづく。
「クマラ議員、銀河連邦はあの子を保護していると聞く。ならエネルギーを供給できる装置から船を持ってきていただきたい」
タリクは真顔になる。
「我々もあの子を死なせるつもりはない。そういった意味での「鍵」となる」
腹を決めるクマラ。
クマラ、マーリン、ヴァイワムスはどこかにテレポートした。
「ヨセフ。地球にタクシーをお願いしたい」
ミラーは言った。
ここはどこだろう?
気がついたらトンネルを歩いていた。それもパンツ一丁で。
なんでここにいるのかわからないし、何時間も歩いている気がする。
しばらく行くとトンネルを抜けると草原に出た。一面の花畑である。
「花がいっぱい・・・」
絶句するソヴァル。
どこの都市同盟に行ってもそうだが放射能の影響を避けて作物はシェルターで水耕栽培となっている。それに水も浄化設備のあるシェルターできれいな水として使っているのが常である。浄化設備を持ってきたのはシエナとディープワンたちで高祖父の頃からある。
「でも気持ちいい」
小躍りするソヴァル。
普段から都市同盟の内部で育ち、外ではレイダーやミュータント、モンスターと戦う日常だったから敵の気配がしないのはひさしぶりだしほっとする。
しばらくすると岩場だらけの荒野となりトンネルがあった。
ソヴァルはトンネルに足を踏み入れる。しばらく行くと鉄くずやスクラップが山積みの場所に出た。
そこにマネキンが転がっている。
金髪のマネキンの首が振り向いた。
「おい。おまえだよ雪風」
金髪のマネキンは口を開いた。
「僕はソヴァルだ」
声を荒げるソヴァル。
「おまえは戦闘艦なんだよ。そして戦闘艇でもある。金属と機械の塊でありその力であらゆる金属をソファのようにできる」
マネキンはニヤニヤ笑う。
「黙れ!」
鉄パイプをつかみ思いっきり振る。
マネキンは空高く飛んで行く。
「おまえは金属と機械でできている」
別の茶髪のマネキンがわめいた。
「黙れ・・・」
頭に鋭い痛みが走り、くぐくもった声を上げるソヴァル。
脳裏にフラッシュバックで船台に固定される雪風や艦内格納庫にある戦闘艇の姿が繰り返し入ってくる。
「体に戻れ」
スクラップを押しのけ出てくる女性将校と異星人の女性将校。
「やだ!」
ソヴァルは逃げ出しトンネルの中に入った。
「おまえのエネルギーがないと我は戦えないし飛べない」
追いかける女性将校。
「我も同じだ」
異星人の女性将校が叫ぶ。
トンネルを飛び出すソヴァル。
トンネルを抜けるとそこはスクラップ置場だった。
ソヴァルはナイフを拾うと物陰に隠れる。
女性将校がトンネルから出てくる。
ソヴァルは女性の胸をナイフで刺した。
「ぐはっ!」
女性の胸を突き刺したのに自分の胸に鋭い痛みが走り身をよじるソヴァル。
「おまえと我は動力もコアも共有している」
女性は見下ろす。
「雪風。おまえなんか切り離してやる」
ソヴァルはナイフを拾うと自分の胸を突き刺した。
「バカね。我とおまえは同じ体を共有している」
雪風の船魂は冷静な顔でナイフを突き刺し胸から腹部まで切り裂いた。
「ぐっ!」
ソヴァルは身をよじりのけぞり胸を押さえた。胸から腹部まで断ち割れた傷口から飛び出したのは青色の潤滑油である。赤色だった心臓が球体型のコアに変わり、血管もパイプや配管、ケーブルに変わる。体も青色のサイバネテックスーツに変わり、内臓も機械と生命維持装置、循環装置に変わっていく。
「ぐふっ!」
背中に焼きゴテを押しつけられるような痛みが走りのけぞる。
「わあああ!」
背中が肩から腰痛まで断ち割れ、背骨もメタリックに輝く背骨に変わり金属がこすれるような耳障りな音を立てて太くなっていく。
肉が割れ、骨が軋むような音が響き渡り、骨が金属骨格になり、背中や胸から腹部にかけて白色のプロテクターが軋み歪みながら盛り上がる。
バキバキ!
背中側の肩や腰から六個の碍子(がいし)が飛び出し、エンジンが背骨をはさんで飛び出す。コルセット型のプロテクターがさざ波のように波打ち厚みを増していく。
左腕が鉤爪に変わり、腕の両側から二基の細長い砲身が現れ、もう片腕が花弁のように断ち割れ、バズーカーのような砲身が現れる。
「それがおまえだ!おまえは我と体も動力も武器も共有している。我は防衛艦隊の戦闘艦として守るのが任務だ」
ソヴァルに馬乗りになる雪風の船魂。
「戻れ!」
雪風の船魂はナイフでソヴァルの胸を突き刺した。
誰かが自分の胴体を触っている。自分の本体は胴体だけである。心臓マッサージをしているのか胸を何回も誰かが押す。自分の本体は船に変身している時は格納庫にある。艦内には居住スペースはなくいろんな機器類が詰まっている。
船体中央部にあるコアに大木のように太いケーブルが何本も接続したのかナイフでえぐられるような痛みにのけぞった。
後頭部にもケーブルを接続され鋭い痛みが走り真っ白になった。
「戻れ!」
雪風の船魂は鉤爪を突き入れた。
「ぐはっ!」
ソヴァルは身をよじりのけぞる。プロテクターはさざ波のように波打ち歪み、体全体も軋み歪んだ。
「どけ。雪風」
異星人の女性将校がわりこむ。
ソヴァルから離れる雪風の船魂
「おまえは?」
ソヴァルはにらんだ。
「我はセンチネル号。おまえが融合した潜水できる戦闘艇の船魂だ。シリウス軍の戦闘攻撃機でもある。潜水できて探査もできる」
異星人の女性将校は名乗った。
「おまえも切り離してやる!」
ソヴァルは左腕の両側に出ている細長い砲身を向けた。これは雪風の艦首の両舷に龍のヒゲのように装備されている強化ショックキャノン砲だ。
雪風の船魂は無表情で着ている制服を観音開きに開けた。
せつな、ソヴァルの胴体がアジの開きのように開いて本体の胴体が丸見えになる。
センチネル号の船魂はソヴァルの本体の胴体をつかみ上げそこにあったストレッチャーに載せた。
ミシミシ・・・メキメキ・・・
マネキンの体のような胴体が何かが這い回るかのように盛り上がり、白色のプロテクターが胸から腹部にかけて背中は腰椎から肩まで形成されていく。
「こんな体・・・切り離す!」
キッとにらむとソヴァルは肩口から連接式の金属の触手を出し、先端部を鉤爪に変えてナイフを拾って自分の胸に突き刺す。しかし深くへこむだけで刺さらなかった。
「おまえの本体は我と融合した。簡単に壊れないし頑丈に建造した」
センチネル号の船魂が見下ろす。
ギシギシ!
プロテクターの厚みが増して体内で歯車や何かの機器が造られていくのを感じた。
センチネル号の船魂が馬乗りになる。
「それがおまえだよ。おまえは我と雪風の力を借りて探査や戦闘をするんだ。おまえの体は金属と機械で出来ている。もっと金属と機械になり船として行動する」
雪風は彼の胸に鉤爪を突き立てる。
「エネルギーの流れが見えるのだろう。我らもエネルギーを供給しないと動けない」
センチネルはささやく。
ソヴァルのわき腹から二対の補給ケーブルが飛び出した。先端は槍状で吸い取ったり、補給の時は先端が花弁のように開く。
「わあああ!」
ソヴァルはもがいた。でも二人に押さえつけられ動けない。
「元の体に戻れ!」
雪風はナイフを振り下ろした。
あれから何時間たっただろうか?
自分はパンツ一丁で貨物港ターミナルにいた。貨物ターミナルの向かい側には発着デッキと港の施設が見えた。
青空にさんさんと輝く太陽。
「釣りでもしたい気分」
背伸びをするソヴァル。
でも釣り竿がないし、向こう岸の港に行くボートも何もない。
「泳ぐか」
岸壁に立つソヴァル。
「まだあなたには向こう岸へは行けない」
不意に鋭い声が響いて振り向くソヴァル。
近づいてくる白色の外套の金髪女性。
「誰?」
「私たちはガイア。惑星の意識といった方がいいかもしれない。エアーズロックであったわね。雪風」
外套の女性はガイアと名乗った。
「僕は雪風じゃない」
否定するソヴァル。
「あなたはあの戦闘艦と融合した」
ガイアは語気を強める。
その時である脳裏に船台に固定される「雪風」と戦闘艇がよぎり、多数の歯車や機械部品がよぎった。
頭を押さえるソヴァル。
「ぐっ!」
胸に鋭い痛みが走り胸を押さえるソヴァル。せつな、肉が割れ、骨が軋み、金属が軋む音が体内から響き、胸から腹部まで断ち割れ、金属の芽や機械部品、多数の歯車、ケーブルが飛び出し、青色のサイバネテックスーツに変わり、コルセット型のプロテクターが歪みながら厚みを増していく。外もも、二の腕にもプロテクターが形成され。手甲と小手が腕に形成された。
「戻りたくない・・・」
排水管が詰まるような呼吸をしながらもがくソヴァル。
「ぐぅぅ!」
腹部にナイフでえぐられるような痛みに身をよじり、腹部をみるとおへその辺りから赤色のケーブルが出ていた。そのケーブルは少し離れた修理ドックまで続いている。
「あなたは心を持った機械と金属の塊。そして心を持った船でもある。あなたには五感や痛感神経はなくすべてセンサーや感度の高い装置で痛みや苦しみを感じる。でも精霊と話ができる。それもセンサーや感応装置のおかげ」
言い聞かせるように言うガイア。
「ちくしょう・・・」
怒りをぶつけるソヴァル。
こんな体なんか嫌だし船とも切り離したい。
「戻りなさい雪風。あなたを待っている人たちの元へ戻りなさい」
ガイアは突き放すように言う。
その時である。ソヴァルの腹部から伸びた赤色のケーブルがピン!と張った瞬間、すごいスピードで背後にある修理ドックへ引っ張られる。
「やめろ!やだ」
もがきながら叫ぶソヴァル。そのまま修理ドックの内部へ吸い込まれていった。
誰かが自分の胴体を触っている。自分の本体は胴体だけ。どうやら胴体だけでカプセルから取り出されストレッチャーに寝かされ、ケーブルが接続され、部品の交換をしているのか歯車やポンプ、バッテリーが胴体にいれられている。自分の胴体に入れば融合され同化していく。
背中や胸、腹部のプロテクターを強く押された。押されているのもわかるし、誰がいるのもわかる。
唐突に胴体が軋んだ。金属がこすれ合うような音が響き、心臓の鼓動音が聞こえ、突き上げるような痛みに身をよじり、目を開けるソヴァル。
厚さ一〇センチのプロテクターが目に入った。それは呼吸とともに上下する。普段は五センチだが寝ると厚みが増して一〇センチ位になる。わき腹や背中、腹部のプロテクターも寝ている時は厚みが増すのだ。
身をよじるソヴァル。
自分はどうやら本体の胴体だけで医務室にいるようだ。自分の体の方は隣りの部屋にあるようだ。
肩口から連接式の金属の触手を出して先端部を鉤爪に変えて身を起こした。
部屋のドアが乱暴に開けられ部屋に飛び込んでくる日本人女性とシド。
「お母さん?」
驚くソヴァル。
まぎれもなくそれはロシアの十二同盟基地にいるはずの母親の双葉奈津本人だった。
「ソヴァル!」
母親の双葉は破顔するとソヴァルに抱きついた。
「なんで?ここはどこ?」
戸惑うソヴァル。
「ここはアノマリー基地だよ。君は一カ月も寝ていたんだ」
シドがカレンダーを見せた。
「えええ!」
ひどく驚くソヴァル。
「君はエジプトでの戦いの後、ガイアスが起動したブラックホール装置を破壊。それを宇宙空間で「解き放った」んだ。最大パワーにして混乱のどさくさに紛れてやってきたドラゴ強襲艦隊一〇隻ごと吹き飛ばし、衝撃波と爆風は太陽系を超えて天の川銀河領域に広がったんだ。最大パワーを使った雪風の船体は全損して戦闘艇も全損、君の体も全損した。回収した時、君は予備電源だけでかろうじて生きている状態だった。君は三回もコアが止まったんだ。それに船体の大部分が損傷して穴があいたからミラー大佐たちやウラジミール司令官、草薙司令官、トブルク司令官、薬代支部長がいろいろ部品をかき集めてくれた。それだけではなくグラム司令官たちは補給艦を何隻も呼んでエネルギーを供給して、マート評議長たちも銀河連邦本部議会や他の組織の議会とかけあってくれてエネルギー補給装置を集めてくれたんだ」
シドは図面を出して説明した。
図面や映像に映る「雪風」の状態を見て絶句するソヴァル。
とても自分があの状態でも生きていたとは信じられないしあれではとても飛べないしボロボロすぎる。
「隊長たちは?」
あっと思い出すソヴァル。
「十二同盟基地に戻っているし、ウラジミール司令官もそこにいる。グレースたちはエジプトのコブラアイ基地だ」
シドが地図を出した。
「行く。母さんも一緒に行こう」
破顔するソヴァル。
双葉は深くうなづいた。
その頃。十二同盟基地
五メートルもある壁の屋上で壁の外をのぞく如月、アンナ、京極。
「あっという間に一カ月が経ったな」
如月は口を開く。
今の所異常なしである。
「ミュータントもモンスターもおとなしくなっている。原因はガイアスだけだったんだろうか?」
アンナは疑問をぶつける。
「そうとは言い切れないけど原因の一つを取り除いただけかもね」
京極は視線を移す。
「つかの間の休息だね」
ロドリコがしれっと言う。
「交代要員が来た」
如月がわりこむ。
交代の兵士二人が屋上にやってくる。
四人は階段を降りていく。しばらく行くと官舎が見えた。
官舎の前にミラー、タリクとソヴァルの父親であるウラジミールがいた。
駐機場にコブラアイの輸送機が着陸する。
輸送機のハッチが開いてシドと双葉とソヴァルが出てきた。
「ソヴァル?」
驚きの声を上げる如月たち。
「父さん!」
「ソヴァル!」
ソヴァルとウラジミールは目を輝かせて駆け寄る。ウラジミールはそっと抱き寄せる。
「帰って来た!」
官舎から飛び出す男女の兵士。
「お兄さん、お姉さん?」
振り向くソヴァル。
そこにウラジオストク基地にいるハズの兄のヘンリーと姉のナタリーがいた。自分とは二歳違いである。
「グレースやセシルたちは?」
ふと思い出すソヴァル。
「お探しですか?」
聞き覚えのある声が聞こえた。
センチュリー号から降りてくるグレース、シエナ、ヨセフ、マグー、カイル、セシル。
「みんな・・・」
目を輝かせるソヴァル。
ふと吉田博士やイブラヒム博士。ガレット博士の顔が浮かび、破壊したピラミッドが三人と結びついた。
「そういえば僕、ピラミッドを壊しちゃった。あやまりに行かないと」
そわそわするソヴァル。
「それならおとがめナシだ」
ウラジミールが肩をたたく。
「え?」
「三大ピラミッドの正体は時空侵略者が異星人たちに造らせた移動性ブラックホール装置と時空ポータル装置だった。そしてナスカピラミッドとサッカラのピラミッドはそれを警告する装置で、「キューブ」を隠す遺跡でもあった」
ミラーは説明した。
「そのどさくさにまぎれてドラゴの強襲艦隊がやってきた。それをあなたは「解き放つ」能力で吹き飛ばした。あなたは最大パワーを使って地球の危機を救ったの」
グレースは笑みを浮かべる。
「銀河連邦も通信が混乱していて見落としていた。その原因はドラゴやレプテリアンの破壊工作のせいでもあったけど危機は去った」
ヨセフが肩をたたいた。
「じゃあガイアスは?」
ソヴァルが聞いた。
「あいつなら永久牢獄行きになった。時空のはざまにあって脱獄したら時間のループにはまって出られない刑務所よ」
カイルが答えた。
「でもインテリジェンサーやディープワンのアジトは見つけてないし、タンガロアやバルボアもまだだ」
ソヴァルがふと思い出す。
「あせらないの。それの他にもやらないといけない事が星の数ほどある。一つ一つ片づけないとたどりつけないわね」
京極が指摘する。
うなづくソヴァル。
「ソヴァル。君はまだ傷は治っていない。雪風と君と戦闘艇はコアも動力も体も共有している。一週間は変身できない。充分に休んだらリハビリをかねての訓練が始まる」
シドは言い聞かせるように言う。
うなづくソヴァル。
確かに電子脳の表示盤には雪風の損傷カ所と戦闘艇の損傷がまだあって自分のコアや循環機器にも損傷があると示している。この胸当ては制御装置ではなく補助生命装置でコアや循環装置に損傷があるから装着している。
「今は休め」
ミラーは肩をたたく。
「ソヴァル。帰ってきてよかった」
双葉はソヴァルを抱き寄せる。
ドキッとするソヴァル。
でも安心するし体温や心音を感じる。自分の体から全部なくなった物がそこにある。
「帰りたくなったらいつでも帰って来なさい。あなたが好きな好物くらい作ってあげる」
双葉は抱きしめながら言う。
「ありがとう」
ソヴァルはうなづいた。
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