第9話 修理ドック

 三時間後。シドニー基地 会議室

 テーブルをはさんで「スパルタンナイト」のメンバーが顔をそろえ、草薙、トブルク、薬代、カリストとマートたち評議員が同席していた。テーブルの中央に虹色のクリスタルが置かれている。

 「・・・報告は聞きました。地球意識が接触してきたのですね」

 マート評議長は口を開いた。

 「録音を試みましたが録音装置は機能しませんでした」

 困った顔をするマグー。

 「あなた方がいた場所は存在しない空間と場所でガイアが作り出した泡の中にいたと思っていい」

 ジャーメインが泡の画像を出した。

 「時空侵略者だけでなくその宝を狙う者たちはその空間には入れない」

 はっきり指摘するサナンダ。

 「なるほど」

 京極とアンナが納得する。

 「何が言いたいかというとソヴァルはクリスタルに選ばれた事を意味する。それにより時空ポータルをたどったり逆に利用する事が可能になる。そして「雪風」と融合した事により大きなエネルギーに耐えられて、それを溜めて「解き放つ」という事は人工天体や相手の船を破壊できる」

 アルダーはテーブルの端末から映像を出して説明する。

 「ようするに宇宙戦艦ヤマトの波動砲と同じような威力があるんですね。僕もアニメや映画は見る」

 如月は結論を言う。

 「そう理解しただければ結構です」

 アルダーはうなづく。

 「でも敵のコアリアクターのエネルギーを吸い込んで溜めて「解き放つ」攻撃はアレンジは可能だね」

 マグーが腕を組む。

 「地球意識からクリスタルとコンパスを託されるという事は本格的な戦いが始まる事を意味するが銀河連邦の保護下にある太陽系にやってくるのはそうとうな腕がなければ領内に入ろうという者はいない」

 クマラが口をはさむ。

 「当面は今ある問題を解決した先には保護下を抜ける。その抜けた先が勝負なのね。といっても数百年後かもしれないけど」

 京極が不満そうな顔をする。

 「銀河連邦の銀河ガード・・・通称Gガードの入隊試験は合格である。クリスタルに選ばれてレギオンを何匹も倒していて侵入者を見つけられるという事は時空侵略者を見つける事ができる事を意味するからね」

 ヴァイワムスは席を立ち、ソヴァルとシエナ、グレース、ロドリコに資格証を渡す。

 「すごい・・・」

 言葉を失うセシル、ヨセフ。

 「Gガードって何ですか?」

 ミラーとタリクは頭をひねる。

 「通称ギャラクシーフォース。またはギャラクシーガードと呼ばれるパトロール隊。全員A級S級ハンターで占められる」

 エルモリアが答える。

 「Gガード隊員の多くは荒くれ戦闘種族からなる。元々狂暴で大昔は銀河連邦や他の勢力としょちゅう戦争をしていて改心したという狩猟種族といった連中が集まっている。マシンミュータントもいる。その仲間入りをする事になる」

 マーリンが説明する。

 「でも僕は魔術が使えないです。魔術も練習したけどぜんぜん使えません」

 困惑するソヴァル。

 「いいかね。ソヴァル。クリスタルに選ばれる事はとても名誉な事だ。その分、リスクや責任は重くなる。それとその羅針儀は「時空のコンパス」とも呼ばれる。クリスタルに選ばれた者でしか扱えない。そのコンパスは自分が行きたいと思った所や気になる場所があれば指し示してくれる」

 ヒラリオンは声を低める。

 「名誉なのかわからないけど面倒な事を押しつけられる事が多くなるんでしょ」

 たんか切るアンナ。

 「私もそれで苦労している」

 グレースがしれっと言う。

 「雪風の戦闘訓練もだがソヴァルの能力の制御訓練を始めないといけないね」

 クミツがうなづく。

 「私たちはこれで失礼する」

 マートたち評議員は席を立ち退室した。

 

 

 「それをペンダントにしないとね。残りはオブジェとして結晶をカットしなとね」

 黙っていたシドは口を開いた。

 「研磨の技術くらいは持っている」

 マグーが名乗り出る

 「じゃあお願いします」

 ソヴァルはマグーに結晶を渡した。

 「それと気になる事がある」

 草薙は話を切り出す。

 「気になる事?」

 ミラーが声を低める。

 「ミュータントやグール、ロードランナーやモンスター集団の襲撃してきた連中の総数は全部で十万を超える。そのうち倒したのが六万人。捕虜二万だ。その捕虜から聞いた話だが「タンガロア」や「バルボア」という場所から来た連中がいてそいつらの指示でやったという話だ。その話をしたのはレイダー、ミュータント、グール、ロードランナーのいくつかの集団のリーダーから聞けたんだ」

 トブルクはスクリーンに出した。

 「あの数千の集団の中の四集団ですか?」

 ミラーとタリクが声をそろえる。

 レイダーはロードランナーと同じ盗賊集団である。たいがい略奪して武器を造るか調達する連中だ。

 「マート議長たちにも二つの地名の事を聞いたが銀河連邦や他の組織の領内には存在しないらしい。たぶん時空ポータルの中にあると思われる」

 草薙は腕を組んだ。

 「その中にインテリジェンサーやディープビジョンの本拠地がある?」

 グレースとロドリコが声をそろえる。

 「総司令部ではなさそうだな。前哨基地と思われる」

 ミラーがうーんとうなる。

 「一五〇年前、世界崩壊前に地下に潜ったなら連中側につく異星人がいてもおかしくはないと思っている」

 草薙が推測する。

 「それは私たちも同じ見解よ」

 グレースがうなづく。

 「あのガイアスですか?」

 それを言ったのはソヴァルである。

 「それもだけどドラゴやレプテリアンだけでなくて敵対する連中は星の数ほどいる」

 ヨセフが口をはさむ。

 「でもどうやって時空ポータルを出すのですか?」

 ソヴァルが聞いた。

 「それは自由に開けられない決まりがあるわね」

 黙っていたルミナスは口を開いた。

 「それに地球の場合は「輝きの海」に「死者が彷徨う地域」まであり、通信状態が極めて悪い」

 デグラが映像を切り替えて地図を出す。

 「特にバミューダトライアングル、サルガッソーといった海域は死者は四八時間以内に火葬しなければいけないルールになっている。それを怠れば亡くなった者は「死者」となってあの世に行けず彷徨い出す。その死者たちが集団になればそこは住めなくなる。それがひどくなると「デスストランディング」が起こり対消滅するだろう」

 トブルクは指揮棒で指さして説明する。

 「だからその海域周辺には誰も住んでいない。みんな移住した」

 薬代がわりこむ。

 「それはそうだろうね」

 カイルが納得する。

 「死者は操れるの?」

 疑問をぶつけるソヴァル。

 「死者を操るのはネクロマンサーか邪神や悪魔に身を捧げた者しか出来ない。またはミスティックパワーといって死者を喰らい体力回復できる能力者にしかできない芸当だ」

 ロドリコが首を振る。

 「死者が出る場所は地球だけでなくて宇宙にあちこち点在する」

 ヨセフが難しい顔をする。

 「その領域を通過する場合は結界を張り、ストランド通信と呼ばれる専用回線に切り替えて通過する」

 デグラが画像を切り替え、花弁のような探知装置や黒色の結晶が映る。

 「じゃあストランド通信を地球でもしませんか?ストランド通信ができれば通信状況もよくなって時空ポータルを探知できるかもしれないし、死者を操っている連中も突き止められる。ガイアスやインテリジェンサーやディープビジョンにたどり着くのではないかと思っただけ」

 ソヴァルは映像を切り替え、世界地図を指でたどりながら説明する。

 「やりましょう。機材は揃えられる所は用意するけど足りない物はクマラ評議員たちに頼むしかないわね」

 何か決心したように言う草薙。

 「協力しよう」

 カリストがうなづく。

 「君は死者を見たことがあるか?」

 デグラが聞いた。

 首を振るソヴァル。

 「それは我々はないな」

 ミラーがわりこむ。

 「死者が出る海域に行ってどういうものか理解するには現地に行くしかないね」

 デグラが言う。

 「マジで?」

 カイル、マグーが驚きの声を上げる。

 「死者の問題は地球だけじゃない。宇宙全体で起こっている」

 ムッとするデグラ。

 「そうね。何か手がかりがあればいいわ」

 グレースは腕を組んだ。

 「機材がそろったら出発だ」

 ミラーが言った。



 官舎から出ると桟橋に出るソヴァル。

 桟橋から海に飛び込むと緑色の蛍光に包まれて「雪風」に変身した。艦橋の窓に二つの光が灯った。

 「どこに行くの?」

 グレースが聞いた。

 「気分転換に海底探索したいだけ」

 ソヴァルは答えると離岸して港外に出ると潜水を開始する。

 なんか海に潜りたい。それだけ。ただ海の中にもモンスターや魔物は出る。モンスターも魔物は結界から内部には入ってこない。結界はシエナやディープワンたちが持ってきた装置でたいがいの魔物やモンスターは入ってこない。設置されたのはトゥパウじいさんが生きていた頃からである。バイカル湖十二同盟から設置が始まって今では世界中にある。輝きの海や高濃度に汚染された場所は避けるように設置され、主要航路や主要拠点には必ずある。この装置は地球だけでなく銀河連邦でも使っているらしい。

 深度は五〇〇メートルを超えた。

 水の感触や水圧も感じる。それよりもどんどん感覚が鋭くなっている。自分には生身の部分はないしすべてセンサーや探知装置が人間の五感の役割をしている。

 「あれ?白イルカ?」

 船体の周りに六頭の白色のイルカが一緒に泳いでいる事に気づいた。

 でも害はなさそうだから大丈夫だろう。

 深度が千メートルを超えて海底に鎮座した。

 なんか落ち着く。自分が機械と金属で出来ている事を忘れさせてくれる。

 ソヴァルは深呼吸すると海流に精神を振り向けた。


 その頃。シドニー基地メガフロート修理ドックに入る軍用トラック。

 ドックに大型船が三隻ドック入りしている。三隻は普通に海上を航行する艦船である。そのそばに箱型の大型ドックが見えた。

 格納庫のような外見のドックに入るミラーたち。彼らは管理棟に入った。

 管理棟にはコンパクトにまとめられ正面のスクリーンに六分割されて表示され、船体の状態や図面といったパネルが並ぶ。

 「ここはなんですか?」

 セシルがたずねた。

 「これは宇宙ジプシー用の修理ドックだ。彼専用のドックだよ」

 ヒラリオン評議員が答える。

 「明らかに地球にあるドックとは違うわね」

 腰に手を当てる京極。

 「マシンミュータント用のドックは見た事があるけどジプシー用がとにかく頑丈に出来ていていろんなプログラムが仕込まれている」

 マグーが周囲を機器を見回す。

 「プログラム?」

 タリクとミラーが聞き返す。

 黙ったままのシエナ。

 「あれの量子コンピュータは地球製ではなくて銀河連邦が専用に造って、あのエネルギー供給装置は銀河連合のだ。管理コンピュータも見た目は地球に合わせてある」

 マグーはパソコンからアクセスして分析して説明する。

 「別の組織まで入ってくる?」

 如月が怪しむ。

 「それは雪風と彼が融合。クリスタルに選ばれたからよ」

 不意に鋭い声がして振り向いた。

 部屋に草薙とトブルク、薬代、シドが入ってくる。

 「このドックは組み立て式だから解体して次の目的地に運搬も可能。ただ専用の船は銀河連邦に頼んである」

 草薙は口を開く。

 「いろんな物を借りて委託ね」

 アンナがしれっと言う。

 「いろんな物が不足しているからね。彼らも本腰を入れたのかもね」

 トブルクが推察する。

 「機材が届いたのですか」

 グレースが聞いた。

 草薙がうなづく。

 「ソヴァルの位置はここですね」

 薬代はスクリーンを切り替える。

 オーストラリアの地図が出てシドニーから五〇〇キロ沖合の海底にいる」

 草薙は切り替えた。

 衛星画像なのか上空から見下ろした形になり座標が表示される。

 「衛星は世界崩壊前の前哨戦で全部、宇宙デブリとして落下したハズですが?」

 ミラーがたずねる。

 「コブラアイと米軍で人工衛星を何機か打ち上げた。六十年前にね」

 トブルクが答える。

 「初耳だ」

 不満顔のタリク。

 「機密が多いからね」

 薬代が難しい顔をする。

 「世界崩壊後でも米軍の主力部隊と空母打撃群は残っていたし、ブライトン大統領も存命していたからね。そこから三十年かけてアメリカ国内で都市同盟を作った。日本と同じようにね」

 トブルクが地図を切り替え説明する。

 「日本も同じ状況ね。海自の主力部隊は東シナ海と尖閣諸島沖に向かっていて陸自と空自も沖縄と佐世保に主力が回っていた。ある意味幸運とも言えるわね」

 草薙は資料を見ながら答える。

 「米国内をまとめた後、カナダの都市同盟とも同盟を締結した。そこまでになるのに五〇年かかったけど、国内は平穏にはなってないわね。ロードランナーやレイダーだけでなくミュータント・グール集団や解決しなければならない問題を抱えている」

 トブルクは声を低める。

 「オーストラリアストランド通信装置や時空トランスポンダーの取り付けは終了した。あとは世界中を回って通信を繋ぐだけ」

 草薙は専用端末がついたネックレスを出す。

 「あの子が帰ってくる時間だ」

 黙っていたシドは時計を指さす。

 時計の針は一七時になろうとしている。

 「このドックの調整が残っているからあの子をこのドックに呼んでくれないか?」

 ヒラリオン評議員が促す。

 「なんで私たちが誘うのよ。自分で説明されればいいのでは?」

 グレースが腕を組んだ。

 「君ねえ・・・」

 ため息をつくヒラリオン。

 腕を組むミラー。

 「私が呼ぼう。自分があの子のメンテナンスをしてきたからね」

 シドが口を開いて座標を送信した。

 しばらくするとスクリーンに浮上する雪風が映り、港湾部に入港して基地のドックに接近するのが見えた。

 ソヴァルは船体から六対の鎖を出し先端を鉤爪に変えて、艦首の二対の錨を出した。

 このドックは何だろう。探査スキャンが効かないし、エネルギーの流れが感じられない。

 怪しむソヴァル。艦首を少し離れた桟橋に向けた。

 「ソヴァル。君専用のドックだ。調整しなければならないカ所があるから入ってくれないか。調整は一時間で終わる。終わったら君の好きなチョコアイスやパフェをごちそうするから」

 シドは笑みを浮かべる。

 「やだ!」

 艦橋の二つの光が吊り上がる。

 「ソヴァル。出発は明日だ。あまり問題は起こすな」

 ミラーが割り込む。

 「・・・了解」

 しぶしぶ言うソヴァル。

 彼は二対の錨と六対の鉤爪で壁や天井、床をまさぐる。ミサイルや機関砲の照準がドックの壁に並ぶ量子コンピュータにロックする。

 エネルギーの流れがなくソナーやレーダー、探査ビームが使えない。普通の艦船ドックじゃない。でも問題は起こしたくない。

 いやいやドックに入るソヴァル。

 すると艦尾側の扉が閉まり、船体が船台に固定され海水が抜かれていく。すると厚さ一メートルの鋼板でできた六角形の装置が船底に三個、船体両舷に二つ装着された。せつな、津波のように何かのプログラムがそこから押し寄せて艦内内部の機器に入っていく。

 「ぐはっ!」

 ズン!と突き上げるような激痛に船体を激しく揺らす雪風。

 メキメキ!

 船内から激しい軋み音が聞こえ、くぐくもった声を上げ六対の鉤爪で船体を引っかき、船底や船体中央部にくっつく鋼板をつかみもがいた。

 「ぐふっ!」

 苦しげな呼吸音を上げのけぞる雪風。

 雪風ことソヴァルは雪風の武器システムに精神を振り向ける。しかしエンジンや武器システムに接続ができず、主要回路もつながらない。船内の大小のケーブルが激しく蠕動して歪み、エンジン周辺機器やコアや生命維持装置といったいたる所の機器類が悲鳴のような軋み音を立てて歪む。居住スペースもすべて機械類で埋まり、格納庫もぎっしり武器や兵器を補充する工場とエネルギーを溜める装置になりその中に戦闘艇も格納されている。そういった区画自体も何かが這い回るかのように盛り上がりへこむ。

 「ここから出して・・・力が入らない」

 排水管が詰まるような音を出して訴えるソヴァル。

 武器の照準や各種パラメーターの表示が消えて、電子脳に雪風と戦闘艇の図面と自分の姿の表示が出てすべて損傷の表示が出た。

 周囲の壁や地面から大小のケーブルが出てきて船体に接続され、艦尾後部エレベーターデッキや格納庫、船体デッキの扉からケーブルが何本も挿入されていくのが見えた。そのケーブルが船殻を抜け、装甲パーツを抜けて内部の機器に接続されていく嫌な音が聞こえる。気持ち悪いし鋭い痛みに身をよじった。

 「これを取って・・・」

 ソヴァルは六対の鉤爪で太いケーブルをつかんだ。でも力が入らない。たぶんあのプログラムのせいだろう。

 「ぐっ!」

 心臓の激しい鼓動音が聞こえた。自分には生身の部分はない。コアと循環器、生命維持装置から火花が散りショートしてコアから金属がこすれるような痛みが走る。心臓を万力で締めあげられるような痛みだ。

 「痛い・・・」

 ソヴァルは船底を引っかいた。

 普段なら戦闘艦に変身して鉤爪で引っかいても硬質ゴムのようにへこむがへこまないし盛り上がりもしない。むしろ普通の金属の合金に戻った感じだ。

 「ソヴァル。ドックと雪風の機器の調整にあと一時間かかる。正面にある配電盤に接続するとゲームができる。テトリスも入っているしいろいろ入っている」

 申し訳なさそうに言うシド。

 「こんなドック。いつか壊してやる」

 怒りをぶつけるソヴァル。彼は船体側面から接続ケーブルを出して正面の配電盤に接続した。すると電子脳に数百種類のゲーム画面が入ってくる。将棋やオセロ、テトリスや積み木ゲーム、数独パズルといったものだ。自分の好きな物だらけだ。

 ソヴァルは数独パズルを選択した。


 一時間後。

 雪風の船体に接続されていたケーブル群が切り離され、五個の制御鋼板も離れた。せつな、艦内機器とエンジンが起動した。

 メキメキ・・・ギシギシ・・

 耳障りな音が響き、電子脳に全部損傷という表示が消えた。また、いつもの感覚が戻ってくる。

 ホッとするソヴァル。彼は緑色の蛍光に包まれて縮小して元の姿に戻った。

 二階のバルコニーに続く階段へ登っていくソヴァル。

 管理室から出てくるシドとヒラリオン。

 「本当に申し訳ない」

 シドは頭を下げた。

 ソヴァルは無視してドックを出て行った。

 


 「・・・入っていい?」

 ルミナスとグレース、マグーは声をかけた。

 「いいよ」

 ソヴァルは顔を上げた。

 医務室の隣りになる彼専用のモジュール部屋に入った。部屋はいろんな部品が散らかっている。

 「何を作っているの?」

 ルミナスが部品を拾う。

 「配電盤とかパソコンや電源に貼りつけると放電する装置。それだけでなくいくつかのガジェットを造ってる」

 作業台でソヴァルは振り向くと直径一〇センチのせんべい上の円板を出した。

 「なるほど」

 マグーは手に取りうなづく。

 「わかるの?」

 声をそろえるグレースとルミナス。

 「ミンタカ人は技術屋や職人が多いしエンジニアも多いからね。これならたいがいの施設や船の電源をショートできる。ミンタカのエンジニアとしても貴重な存在だし今すぐスカウトしたい位だ」

 マグーが肩をすくめる。

 「え?」

 「あとでミンタカ人のエンジニアや技師を紹介する。これがネックレス」

 話題を切り替えるマグー。

 「クリスタルのペンダント」

 破顔するソヴァル。

 「あとの結晶はオブジェ」

 マグーはテーブルに結晶を置いた。

 「マグーありがとう。マグーの知り合いの技師も紹介してよ」

 笑みを浮かべるソヴァル。

 「もちろん」

 うなづくマグー。

 「ルミナス。あのドックは地球外の技術で満たされている。僕の電子脳におかしなプログラムが津波みたいに入ってきた。あのプログラムに侵入しようとしたら弾かれて入れないし、あの六個の制御鋼板も船台もソファみたいにやわらかくならなかった」

 ソヴァルはタブレット端末に修理ドックを出した。

 「私もどういうプログラムなのかはぜんぜんわからないのよ。それに銀河連邦や他の組織も相当な数の技師やエンジニアが関わっているわね」

 ルミナスは難しい顔をする。

 「理由はクリスタルに選ばれた事。それも宇宙ジプシーと人間のハーフで宇宙戦艦と融合した。なかなかジプシーとのハーフで選ばれるのは珍しくて前例がないからよ」

 グレースは腕を組む。

 「そういえばあんまりジプシーやマシンミュータントが選ばれるのは聞かない」

 マグーが納得する。

 「宇宙や惑星意識に選ばれるというのは、それはとても名誉な事よ。クリスタルに選ばれると精霊たちが寄ってくる。そして力になってくれるの」

 グレースが肩をたたく。

 「そういえば海底に潜った時に白色のイルカが自分のそばにくっついて泳いでいた」

 あっと思い出すソヴァル。

 「もう来たんだ」

 少し驚くルミナス。

 「ミンタカから俺の知り合い技師やエンジニアを連れてこないとダメだな」

 マグーはうなづいた。

 ソヴァルは胸のプロテクターやわき腹を鉤爪で引っかく。

 「ソヴァル。なんか痛いの?」

 ルミナスが聞いた。

 「なんか機能がくわわったみたい」

 戸惑うソヴァル。

 「医務室で調整しないとダメね。おいで」

 グレースは手招きする。

 しぶしぶついていくソヴァル。

 医務室に行くとシドやワジリー、マリア、デグラ、シエナがいた。

 「シド。シエナ。彼の機器の調整をしてくれる?」

 ルミナスが促した。

 「いいよ。ソヴァル。横になって」

 うなづくシド。

 ソヴァルは胸当て型の制御装置を外してストレッチャーに横になる。

 シエナとシドはわき腹や後頭部の接続口にケーブルを差し込む。

 ワジリーは端末を操作する。

 マリアは端末からケーブルを伸ばして彼の腕に差し込む。

 「修理ドックの調整はうまくいったみたい」

 シエナは分析する。

 「これを取り除くだけ」

 シドはパソコンを操作した。ウイルスを除去した。

 「あれでうまくいったの?」

 疑問をぶつけるソヴァル。

 ただただ痛かっただけ。

 「僕たちジプシーはマシンミュータントと違って修理ドックは一人一人違う仕様になっている。君のジプシーやマシンミュータントよりも特別仕様だよ。君は合金や金属をソファのようにやわらかくしてしまう能力があるからそれを打ち消す仕様になっている」

 シエナが指摘する。

 「なんで?」

 不満をぶつけるソヴァル。

 「銀河連邦や他の組織にとってもあなたに死なれては困るからよ」

 マリアが割り込む。

 「僕だって死ぬために来てない」

 ムッとするソヴァル。

 「わかっている。だから協力するの」

 マリアはピンク色に輝く両手でソヴァルの胸のプロテクターを押した。

 プロテクターは深くへこみ手跡がつくほどシワシワになる。

 「でもあのドックは嫌いだしいつか壊したい。それだけ」

 不満をぶつけるソヴァル。

 でもこのピンク色の光に包まれていると安心する。彼女の心音や暖かさを感じる。電子脳に母親に抱かれている映像が入ってきて急激に眠気が来た。

 寝息を立てるソヴァル。

 「雪風。大丈夫よ。あなたもソヴァルも銀河連邦や他の組織の保護下に置かれている。けど・・・寝ちゃったわね」

 マリアは両手を放した。

 ワジリーが専用のカプセルの扉を開けた。

 シエナはとルミナスは担架を切り離して彼をそのカプセルに入れた。

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