第4章 アースクリスタル

第7話 行方不明の子供たち

 翌日。マニラ基地

 桟橋から離岸する雪風とロゴス。

 ヘリポートから貨物機が上昇する。

 雪風ことソヴァルはソナーや長距離スキャン、レーダーに精神を振り向けた。レーダーにここから一〇〇キロ離れた海上を航行するタンカーからたくさんのノイズが出ていると表示される。レギオンが現れた時の耳障りで嫌なノイズにそっくりだし、映像に切り替えても砂嵐状態で、赤外線や熱感知に切り替えても不自然な等身大のカプセルが並んでいるだけで不自然な物だった。

 「このタンカーと貨物船に臨検とかできないですか?」

 ソヴァルは南シナ海の地図にいる赤い点をいくつも出して送信する。それは一〇隻を超えていた。

 「臨検?」

 ミラーが聞き返す。

 「たくさんのノイズが出ていて変なカプセルをたくさん積んでいる。僕はここからブルネイ沖にいるタンカーを臨検したいです」

 不鮮明な映像に多数のカプセルが映っている映像と地図を送信するソヴァル。

 「マニラからブルネイは一三〇〇キロ以上離れているしどれも五〇〇キロ以上はなれている。ホーチミンやマレーシア沖だ」

 驚きの声を上げるカイル。

 「草薙司令官に頼まないといけないな」

 ミラーがうなづく。

 「僕も手伝います」

 名乗り出るセシル。

 後部ハッチから飛び出すロドリコとグレースの二人。

 雪風とロゴスの艦橋の窓に二つの光が灯っているのが見えた。

 「ワープ装置を使おうとしている?」

 グレースが気づいた。

 「SF映画はよく見るしマーベルヒーロー映画も見るからこんな感じ?」

 ソヴァルはワープ装置に精神を振り向ける。せつな、青色の光とともに姿が消えて、数秒後に一〇〇メートル離れた海域にワープアウトした。

 「あの子・・・すごいわ」

 カイルの驚きの声をもらす。

 「ブルネイ沖のタンカーのそばに行くよ」

 ソヴァルは地図を送信。彼はワープした。次の瞬間、別の海域にワープアウトした。

 続いてロゴスがワープアウトしてロドリコとグレースがテレポートしてきた。

 「そこのタンカー。コブラアイである。止まれ」

 グレースとロドリコは大型タンカーの船橋ウイングに舞い降り、船橋に入った。

 船橋ウイングとは船舶や艦船の艦橋や船橋の張り出し部の事をいう。

 緑色の蛍光に包まれ元の姿に戻りタンカーの甲板に着地するシエナとソヴァル。

 「なんですか?」

 船長が聞いた。

 船員たちがどよめいた。

 「臨検だ。リストを見せてもらう」

 ロドリコがわりこむ。

 「リストはこれですが」

 船員が積み荷リストを見せた。

 ソヴァルは船橋ドアから船内に入る。

 「いきなり入るんだ」

 驚くシエナ。

 「隠されるよりはマシ」

 ソヴァルは廊下を駆け出す。いくつかの部屋や廊下を通り過ぎて階段を駆け下りておもむろに片腕をレーザーカッターに変形させて壁を切断する。

 「船員と機関士はほとんど機関室や船橋だ」

 両目を半眼にするシエナ。

 ソヴァルは壁の穴に手を入れて力まかせに開いた。

 「なんだこれ?」

 シエナが声を上げた。

 ライトに照らされた先に等身大のカプセルがビッシリ並んでいた。液体に満たされたカプセルの中に下着姿の人たちが入っている。人間もいれば異星人もいて子供も多数混じっているようだった。

 「グレース、ロドリコ。拉致された人たちが入ったカプセルを見つけた」

 シエナは通信マイクごしに報告した。

テレポートしてくるグレースとロドリコ。

 「隣のタンクもそうなっているみたい」

 ソヴァルは半眼にする。

 「積み荷リストはボーキサイトに鉄くずやオイルになっていた」

 ロドリコが積み荷リストを見せる。

 「嘘つきだ」

 ソヴァルは目を吊り上げる。

 「このタンカー一隻にざっと三千人以上が入っている」

 冷静なシエナ。

 「こちらコブラアイの「赤城」である。このタンカーは我々が引き継ぐ」

 通信マイクに聞き覚えのある声が聞こえた。

 「え?」

 「雪風から赤城に異動になった山口である」

 通信マイクごしに聞こえる聞き覚えのある声が聞こえた。

 「山口艦長。お願いします」

 ソヴァルは声を弾ませた。

 「こちらミラー。マニラから五〇〇キロ離れた海域にいた貨物船を拿捕。冬眠カプセルを多数発見した」

 通信マイクに入ってくるミラーの声。

 「こちらグラムである。コブラアイと一緒に別のタンカーに突入して冬眠カプセルを発見した」

 よく通る声が通信マイクから聞こえた。

 「こちらベトナム同盟軍である。報告になったコンテナ船を拿捕。コンテナから多数の冬眠カプセルと骨を発見した」

 「やったあ」

 ソヴァルはグレースに思わず抱きついた。

 ドキッとするグレース。

 駆けつけてくるコブラアイの武装兵。

 咳払いして離れるグレースとソヴァル。

 武装兵たちは壁の穴から部屋に入って驚きの声を上げた。



 タンカーの右舷甲板から海に飛び込むソヴァルとシエナ。緑色の蛍光に包まれて戦闘艦に変身した。

 タンカーの左舷側に「赤城」が停船している。同じ船型だが艦首両舷に龍のヒゲのような装着がある「二基の強化ショックキャノン砲はない。雪風だけである。

 「雪風。ロゴス。タンカーや貨物船がどこから出航したか履歴をたどったらクアラルンプールとバンコクから出ている。他にも港はあるだろうがとりあえずそこへ行ってくれ」

 艦橋のスクリーンに山口艦長と港の詳細が送信される。

 「了解」

 雪風とロゴスは答えた。

 「私とロドリコはクアラルンプールへ行く」

 グレースが通信に割り込む。

 「僕とロゴスはバンコクに行く」

 雪風は艦首を九時の方向に向けた。



 一〇分後。バンコク港

 シエナとロゴスは海面から顔を出すと桟橋から資材置場に上陸した。海面上昇により沿岸部は軒並み水没してメガフロートや石油プラットフォースをいくつもつないで活用している。山積みの鉄骨ごしに隠れる二人。

 「光学迷彩起動」

 シエナは腕輪をソヴァルに渡すと自分の腕輪端末のスイッチを入れる。

 ソヴァルも腕輪端末をつけるとスイッチを入れて後についていく。

 港湾施設や大型タンク群のそばを駆け抜けて路地に入る。

 ソヴァルは両目を半眼にして精神をエネルギーに振り向ける。

 ここに来る前からたくさんのノイズ入りのエネルギーが漏れている。それはマニラ基地ではかすかだったが雪風に変身してそれをはっきり感知できた。

 しばらく行くと山の麓に発電所があった。

 「おかしいな。本物の発電所は西側にある。コブラアイでもハンター協会でもない」

 首をかしげるシエナ。

 「あそこにダクトがある。あそこから入ろう」

 ソヴァルは指をさした。

 シエナとソヴァルは互いに顔を見合わせると背中から二対の鎖を出してジャンプして壁に張りつき駆け上ってダクトを開けて侵入した。すると光学迷彩が解けた。

 二人はダクトをそのまま進む。

 しばらく進むとダクトから広大な部屋が見えた。

 ソヴァルはダクトを外してのぞく。

 部屋は体育館が二つ入る程の大きさだ。二人は天井を支える太い鉄骨の梁に降りる。梁つだいに進み見下ろす。

 部屋はいくつかのブースに分かれ、何かの実験室や資料室、パソコンがいくつも置いてある部屋になっている。部屋には警備兵が数十人いた。

 「配電盤を見つけた」

 梁から梁へ飛び移るソヴァル。彼は外もものプロテクターから直径一〇センチの円盤を出すと投げた。正確に配電盤にくっついた。

 シエナは鈴を投げた。

 警備員が何人か音のした方へ近づく。

 左腕の両脇から棒状の物が出る。これは「雪風」の艦首の両舷に龍のヒゲのように出ている二基の強化ショックキャノン砲である。

 「配電盤が爆発しませんように・・・」

 ソヴァルはつぶやくと発射した。青色の光球は正確に配電盤に命中。閃光と衝撃波とともに稲妻が放電。周囲にいた八人位の警備員は目を剥いて感電して倒れた。

 シエナは飛び降りて背後から警備員の首に腕を回して力を入れた。

 ソヴァルは書棚の隣りに降りた。物陰から飛び出し警備員の首に腕を回して力を入れる。

 警備兵は目を剥いて倒れた。

 ソヴァルは机のそばにいた警備兵の背後から首に腕を回して力を入れた。

 シエナとソヴァルはらせん階段を降りると地下には原子炉のような装置とコアリアクターがあった。

 「これは原子炉?」

 ソヴァルが聞いた。

 「原子炉じゃないよ。放射能がない。エネルギー変換装置かもしれない」

 シエナは首をかしげる。

 直径一〇メートルの金色のコアリアクターをのぞくソヴァル。

 シエナは管理室に入って機器を操作する。彼は腕の端末からケーブルを差し込み端末にダウンロードしていく。

 「このコアリアクター。海南島のより性能もいいみたい」

 ソヴァルはその周囲を歩いてまだのぞく。

 「ソヴァル。それ壊していいよ」

 シエナが管理室から出てくる。

 「わかった」

 ソヴァルは両方の掌底でコアリアクターに触れて精神をコアリアクターに振り向ける。リアクター自体を青白い光に包んで自分の動力炉であるコアに吸い込まれる。

 「・・・コアが痛い。気持ち悪い・・」

 よろけ胸を押さえるソヴァル。

胃痛と胸やけがいっぺんにやってきてひどい耳鳴りとめまいがする。

「ぬわああ!」

ソヴァルは両手を広げ、一気に解放した。稲妻をともない火花がスパークして衝撃波が広がった。地鳴りと轟音が響いて蛍光灯が全部割れた。

「スッキリした」

破顔するソヴァル。

「次の施設に行くよ」

机の下から出てくるシエナ。

 「次はどこ?」

 「プノンペン」

 


 三〇分後。プノンペン港

 メガフロートをいくつもつないだ港湾施設を抜け貨物ターミナルに入るソヴァルとシエナ。二人は大型コンテナをよじ登り三段目のコンテナの屋上に上がる。

 「グレース。ロドリコ」

 あっと声を上げるソヴァルとシエナ。

 グレースはあごでしゃくる。

 四人は赤色のコンテナの中に入った。

 「あなた方が壊したバンコクの施設はあのコアリアクターがあったけど私たちが行った施設は分駐基地と研究所だったのよ」

 タブレット端末を出すグレース。

 「その基地と研究所は同盟軍基地でもコブラアイ基地でもなかった。表向きはマレーシア企業になっているけど中味は別物で地球での通信基地だった」

 ロドリコが説明する。

 「手術室が何部屋もあって収容カプセルがあってホルマリン漬けの脳みそが並ぶ実験施設って何?」

 ソヴァルの顔が引いた。

 「銀河連邦や他の団体が禁止している事を堂々とやっているね。レプテリアンかドラゴか・・・インテリジェンサーやディープビジョンだろう」

 シエナが声を低める。

 「この図面と資料だと被験者の脳のデータや人格をAIに移す施術のようだ」

 ロドリコは首をかしげる。

 「AIロボトミー手術。バイオ神経回路を使って被験者の脳の一部を使いAIの中に入れてしまうのよ。やり方はドラゴやレプテリアンね。奴らは人格コントラストというICチップにしてAIとして他の連中に売り飛ばすの」

 グレースはタブレット端末からホログラムを出して図面入りで説明する。

 「銀河連邦や他の団体と敵対する勢力がそういうのを使っている。そういう連中は銀河連邦の保護化にある太陽系には入ってこない」

 シエナが腕の端末からホログラムの太陽系を出した。

 「じゃあどこかに本拠地か総司令部みたいなのはあるのは本当なんだ」

 納得するソヴァル。

 たぶん順番にたどっていけばそれに行きあたるだろう。

 「研究所で手に入れた図面には「ミュール」という統括AIがある。量子コンピュータの

「富岳Ⅷ」のような物だけど奴らのAIね。中枢部データコアは地下にあって地上部分は車両工場」

 グレースは眉を寄せる。

 「ダクトが屋上に二カ所ある」

 ソヴァルが映像を指さした。

 「よし屋上にテレポートだ」

 ロドリコはうなづいた。


 天井のダクトを外してのぞくソヴァルとシエナ。張り巡らされた大小の鉄骨は碁盤の目のように広がり天井を支える。ベルトコンベヤー式に部品や車体が流れ、自動で組み立てられていく。駐車場のある出入口に数十人の警備兵とスタッフがいるだけだ。

 「少なくとも同盟軍のジープや軍用トラックを造ってないな」

 ソヴァルは組み立てられるトラックを見ながら推測する。なんでそう思ったかわからないが部隊マークが違和感がある。幾何学的模様の部隊マークはないし同盟軍国旗にもない。

 天井の梁に降りるソヴァルとシエナ。

 ソヴァルは両目を半眼にする。

 工場を飛んでいたドローンが吸い寄せられるように三機接近した。

 ソヴァルは背中から二対のケーブルと左腕の手首からケーブルを出して三機のドローンに接続してプログラムに侵入した。

 彼はケーブルを三機のドローンから外した

 ドローンはあさっての方向に飛んでいき開いている窓から飛び去った。

 ソヴァルは掌底から鎖を出した。鎖の先端は錨である。それを別の鉄骨に引っかけるとターザンのようにスイングして別の鉄骨に飛び移った。彼は細い鉄骨にくだんの錨を引っかけ腕の内部にある巻き上げ装置を使って飛び移る。

 シエナは鉄骨から鉄骨へジャンプして飛び映っていく。

 ソヴァルは配電盤のそばにいた警備兵に飛びかかり、手首から槍型の接続器を警備兵の後頭部に差し込む。

 警備兵は目を見開きソヴァルの髪をつかむがその動作で止まった。警備兵はソヴァルの髪を放すと落ちた制帽をかぶる。

 ソヴァルは彼から離れた。

 「異常なし」

 その警備兵はどこかへ歩き去っていく。くだんの警備兵が去ると六人の警備兵も何もなかったように立ち去っていく。

 「何を注入したの?」

 シエナが少し驚く。

 「コンピュータウイルス。簡単な侵入バグウイルスだからあと二時間したら戻ってくる」

 しゃらっと言うソヴァル。

 天井から降りてくるロドリコとグレース。

 「あの子すごいわね」

 グレースが感心する。

 「警備兵がロボットだとは思わなかった」

 後ろ頭をかくロドリコ。

 エレベーターに乗り込む四人。

 「けっこう深いわね」

 グレースが周囲を見回す。

 「地下三〇階だって」

 エレベーターの接続ポットに手首のケーブルを接続して報告するソヴァル。

 しばらくするとエレベータが止まりロビーに出る四人。

 「管理センターはそこだ」

 ソヴァルは躊躇する事なくつきあがりの部屋に入った。

 掌底を向けるグレース。せつな振り向いたスタッフと警備兵は黄金色の衝撃波と爆風に吹き飛ばされ壁にたたきつけられた。

 シエナはオペレーター席に座ってキーボードを操作する。

 「NASAの管理センターに似ているが異星人の技術が入っている」

 ロドリコは別のオペレーター席で操作しながらUSBメモリーを差し込む。

 「工場出荷停止」

 グレースはキーボードを操作した。

 ソヴァルは大きな窓をのぞく。

 管理センターの窓から量子コンピュータ「ミュール」の円柱型リアクターと周辺のデータ集積装置が見え、中央部には大きな穴があり炉心のような物が見えた。

 ソヴァルは壁にあるダクトに入った。二股に別れていたが右のダクトに入ってそのまま進むと「ミュール」の円柱型リアクターがそびえ立つ部屋に入った。

 ロドリコは黄色の魔法陣を出した。

 天井付近にいた三機のドローンに魔法陣がブーメランのように突き刺さり落ちた。

 ソヴァルの二の腕が膨れ上がりケーブルやら部品が飛び出し、緑色の蛍光に包まれ腕は球体の発射機に変形。それが花弁のように開いてバズーカー砲のような物が飛び出し、穴に身を乗り出しバズーカー砲を向けた。

 「粒子砲を使う気だ」

 グレースがあっと声を上げる。

 「シールドを張ろう」

 シエナは掌底を前に突き出した。自分とグレース、ロドリコを半透明なシールドで包む。

 エネルギーが充填され発射機にエネルギーが溜められる。

 ソヴァルの姿が青銀色のオーラに包まれ、こめかみから金属の芽が飛び出し照準ゴーグルが形成された。

 「ライトニングキャノン!」

 ソヴァルはバズーカー砲から稲妻を伴った極太の青色の光線を穴に向かって発射。

 閃光とともに爆発。衝撃波と爆風が広がった。

 

 海面に顔を出すソヴァル、シエナ、ロドリコ、グレース。

 爆発音が聞こえ、振り向くと工場があるフロートから黒煙と火柱が上がっているのが見えた。あの施設の周囲は資材置場で誰も住んでいない。商業区のメガフロートと居住区である石油プラットフォームとイカダは反対側にある。

 「舞鶴基地に帰還命令が来ている。なんで舞鶴なんだろう?」

 ソヴァルが首をかしげる。

 「地球でのコブラアイの本部は日本にあるからね」

 ロドリコは言った。

 


 二時間後。舞鶴基地。

 地下二五階にある会議室に草薙、渡良瀬長官、ミラーたちが顔をそろえ、クマラ、マリア、グラムの他に見慣れない異星人が顔をそろえていた。

 「クマラ議員、マリア議員。その異星人たちは?」

 ミラーは口を開いた。

 「銀河連邦本部から来た。十二評議員の議長のマートである。隣は評議員のヴァイワムス、アルダー、サナンダ、ジャーメイン、ロード・クミツ、ヒラリオン、エルモリア、マーリン。マリアとクマラも同じメンバーだ」

 八の字ヒゲの初老の男性は口を開く。

 「何の用でしょうか。他の見慣れない異星人も連れてきていましたね。地球がどういう状態かわかっておられますか?」

 宇留鷲総理は怪訝そうな顔でたずねる。

 「いろいろあって我々は手が回らない状態でね」

 腕を組む渡良瀬長官。

 「これ以上問題を持ち込むのはやめてほしいですね」

 草薙司令官は声を低める。

 黙ったままのラエ・トブルク極東軍司令官と薬代支部長。

 「それは我々も承知でいます」

 グラム司令官が口を開く。

 心配そうな顔のセシル。

 「この部屋の雰囲気は最悪ね」

 グレースはため息をつく。

 難しい顔をするルミナス、デグラ、ヨセフ、マグー、カイル。

 「まずあなた方が発見したタンカー、貨物船、発電所、研究所は敵対する種族の物だった。そしてインテリジェンサーやディープビジョンの下っ端幹部が数人混じっていた。タンカーや貨物船、コンテナ船に積まれていた冬眠カプセルにはざっと五万人の誘拐された異星人の子供たちや拉致された異星人たちが入っていた。その中の数千人が地球人で大多数が異星人です」

 ジャーメイン評議員がテーブルの端末を操作する。テーブルから映像が飛び出す。名前や所属する惑星や銀河系の名前と一緒に顔写真が出る。

 「研究所にはインテリジェンサーの実験が入っていて拉致された人々の一部は人格コントラクトと呼ばれるICチップやAIにされて敵対する勢力の宇宙船に搭載。または敵対勢力の権力者やセレブに嗜好品として売り飛ばされていた。あなた方が破壊した量子コンピュータ「ミュール」はその戦略基地であり工場でした。それに関わっていた者たちは我々が逮捕しました」

 クミツが映像を切り替えながら説明する。

 「雪風・・・ソヴァル。君のおかげだ」

 アルダーは笑みを浮かべる。

 「じゃあ僕たちはインテリジェンサーの尻尾をつかんだって事ですか?」

 ソヴァルは身を乗り出す。

 「かなり端っこをつかんだと見ている」

 サナンダがうなづく。

 「そこで銀河連邦は身分証明書、ハンター資格証明書とコブラアイ隊員として認める」

 ヴァイワムスはテーブルにいくつかの証明書や資格証を出した。

 「身分証明?」

 ミラーと草薙が聞き返す。

 「銀河連邦領内と及び他の組織の領内でも通用するパスポートだよ。敵対勢力の領域では使えないがね」

 ヒラリオンがフッと笑う。

 「すごい・・・」

 手に取り目を丸くするソヴァル。

 「シエナ、セシル、ロドリコ殿にもパスポートよ」

 エルモリアは同様の物をシエナとセシルに渡した。

 絶句するシエナとセシル、ロドリコ。

 「宇宙飛行士は夢だったけど半分以上かなった」

 破顔するロドリコ。

 「あなた方にも同じ物はあるのよ」

 マリアは真顔になるといくつかの証明書やパスポート類をミラーたちに差し出す。

 どよめくミラーたち

 「地球も銀河連邦の仲間入りをする事になるが当面は保護下に置かれる。「雪風」はコブラアイの軍艦として登録される」

 マート評議長は笑みを浮かべる。

 顔を見合わせるミラーと草薙。

 「マシンミュータントやジプシーは宇宙船と融合するとそこの勢力の軍籍に入るんだ」

 シエナが説明する。

 黙ってしまうソヴァル。

 「そうはいっても当面は地球での任務が最優先だ。インテリジェンサーの本拠地があるなら殲滅する事が目的になる」

 ミラーはマリアにパスポート類を突き返す。

 「じゃあ僕も」

 セシルとソヴァルが声をそろえる。

 「持っていなさい」

 ミラーが制止する。

 「え?」

 「ソヴァル。君は「雪風」と融合して実際に変身して宇宙も行った。君とシエナ、ロドリコ、グレースとのチームと我々のチームで動いた方がいい。セシルのパスポートがあれば通用するだろう」

 ミラーは肩をたたく。

 グラムはうなづく。

 セシルとソヴァルは顔を見合わせる。

 「でもチーム名はどうする?」

 シエナがふと思い出す。

 「スパルタンは?トゥパウおじいさんが所属していた防衛隊の部隊だよ」

 提案するソヴァル。

 「それで行こう」

 ポンと手をたたくミラー。

 「私たちのチームのセンチュリーナイトの

「ナイト」を取って「スパルタンナイト」はどう?」

 グレースが指を鳴らした。

 「いいねえ」

 「イケてる」

 破顔するアンナやヨセフたち。

 京極と如月がうなづく。

 「おもしろくなりそう」

 カイルとマグーが笑みを浮かべる。

 「それとロシア同盟軍極東司令部のプリマコフ司令官から階級章が届いている渡良瀬長官が思い出したように席を立つ。

 「階級章?」

 聞き返すソヴァル。

 「二階級特進で特技兵だ」

 渡良瀬長官は階級章を渡した。

 目を丸くするソヴァル。

 「私も忘れる所だった。セシル。上等兵の階級章だ」

 グラムは咳払いして階級章を渡した。

 「やったあ」

 ソヴァルはセシルと手を取り合って喜び飛び跳ねる。

 「シエナ特技兵。伍長に昇格だ」

 アルダーは階級章を渡した。

 シエナは破顔した。

 「でも隊長。僕は魔術が使えないです」

 もじもじしながら言うソヴァル。

 「僕は魔術は見習いです」

 困った顔のセシル。

 「僕も使えないです」

 申し訳なさそうに言うシエナ。

 「宇宙船と融合して変身できれば充分よ。それにセシルの種族は強力な精神アタックができる。あとは私たちがなんとかするわ」

 しれっと言う京極。

 「魔術が使えなくても機械や金属が操れて紫アメーバを見つけられればそれは充分に役に立っている」

 タリクは肩をたたく。

 「今日はどこに泊まる?」

 如月が聞いた。

 「宿舎位は用意できるわ」

 草薙が言った。

 

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