第三章 時空侵略者

第5話 融合の苦痛

 「融合の苦痛だ!」

 シエナが叫ぶ。

 あわててベットに手足を縛るルミナスたち。

 荒い呼吸で胸が激しく上下すると胸から臀部まで深く断ち割れ、本体の胴体が見え、それも深く断ち割れて金属骨格と輝く心臓と生命維持装置が見えた。

 「ぐああああ!!」

 ソヴァルは激しく身をよじった。激しい軋み音が響き、歯車やポンプ、コンプレッサーが激しく動き、火花が散りショートする。

 ズン!と突き上げるような激痛が何度も襲い、体内の機器が波打ち歪む。

 ギシギシ!メキメキ!

 輝きながら拍動する心臓が青色の蛍光に包まれ、球体に変形して拍動して歪む。周辺の循環機械もタービンやろ過機械といったものが生えてきて形成される。血管ケーブルや神経ケーブルが激しく蠕動し、背骨も歪み、部品が背骨から生えてくるのが見えた。体全体も何かが這い回るかのように歪んだ。

 「こんなに激しいのは初めてだ」

 戸惑うシエナ。

 「ジプシーよりも激しい変化だ」

 ルミナスとグレースがうなづく。

 「このエンジンといい動力炉といい「雪風」の物だ」

 デグラが気づく。

 「心臓もコアになった。たぶん僕たちジプシーみたいにヤドカリ生活になる」

 分析するシエナ。

 心臓だった物は輝く球体に変わり拍動している。球体の表面は金属光沢を放つ六角形の物がびっしり連なりそれらが伸び縮みしているのが見えた。

 「すごい進化ね」

 右足を押さえながら言う京極。

 「彼の本体である胴体にも何か機能がくわわっている」

 シエナが指摘する。

 「ぐはっ!」

 ソヴァルはのけぞった。

 掌底に穴が開いて鎖つきの錨や弾倉のような物が飛び出す。何度ものけぞる度に背中や胴体に深いシワが何度も入り胸から臀部にかけてのプロテクターがシワシワになる。

 バキバキ!

 片腕が何かが這い回るかのように激しく盛り上がりへこみ、二の腕と腕がばっくり断ち割れて何かの装置が次々と造られ、厚みがまして腕の部分が球体に変形。それが花弁のように開いてバズーカー砲のような物が現れた。

 「船底にあった粒子砲の発射機だ」

 あっと声を上げるシエナ。

 「宇宙船と融合したから船の機能がくわわったね」

 アンナが口をはさむ。

 「彼はすごい生命体だ」

 冷静なミラー。

 「両親にどう説明するか難しくなるね」

 困惑するタリク。

 「バイオ神経回路がある」

 シエナはおもむろに金属骨格内部にあった袋状の物をつかみナイフで切断した。

 メリメリ・・・

 耳障りな音が響いて傷口から金属の芽が飛び出しさきほどの袋を形成する。

 「それは?」

 ロドリコが聞いた。

 マシンミュータントや僕たちにも普通にある「バイオ神経回路」だよ。AIと同じように機能や機器の調整をする」

 シエナが説明しながら小さなタービンやモーター、ポンプをいくつか切断して作業台に乗せた。

 「ぐうぅぅ!」

 メキメキ!ミシミシ!

 背骨や血管ケーブル、神経ケーブルが激しく蠕動し、歯車という歯車は火花を散らしながら高速回転し、ハニカム構造の幾層もの金属と機械は何かが這い回るかのように盛り上がりへこむ。本体である胴体も波打つようにひどく歪んでいる。

 バキバキ!

 背中がパックリ断ち割れて背骨をはさんでエンジンとエンジンノズルが形成される。

 目を剥きのけぞるソヴァル。

 腹部やわき腹に魚雷やミサイルの発射装置や発射口が形成され弾倉も出来ていく。

 「すごい変化ね」

 冷静なグレース。

 「全部、雪風の武器システムとエンジンと動力部が造られている」

 絶句するミラーたち。

 しばらく耳障りな音が響いていたが掌底の穴から出ていた物が引き込まれていき、激しく歪んでいた体も治まっていく。腕や背中から出ていた粒子砲の発射機やエンジンとエンジンノズルが縮小して背中のプロテクターに納まっていく。

 「本体を取り出そう」

 シエナが促す。

 ワジリーと如月は専用のストレッチャーを持ってくる。

 シエナはソヴァルの胴体をつかんで、アジの開きのままの体から取り出し専用のストレッチャーに寝かせた。

 「彼の体の方はまだやわらかいままね」

 京極がアジの開きのままの「体」の胸のプロテクターを押した。手跡がつくほどへこみシワシワになる。何とも言えない感触で皮革とゴムを触っている感じだ。

 ソヴァルの胴体をベルトで固定するシドとワジリー。

 「ショーウインドウのマネキンみたい」

 グレースは複雑な顔で彼の胸に触れた。

 そこらのマネキンを触っているかのような感触である。

 「まだ融合の苦痛が続いている」

 戸惑うシエナ。

 「まだあるの?」

 驚く如月とタリク。

 メリメリ!メキメキ!

 「ぐはっ!」

 ソヴァルは身をよじった。胸から腹部まで白色のプロテクターが形成され軋みながら厚さが増していく。背中も盛り上がりエンジン部分が造られ、後頭部の接続部から青色の金属の芽が伸びて首から後頭部にかけてプロテクターを形成する。

 「これあの潜水艇のエンジンと船体だ。あの潜水艇は宇宙でも活動できる戦闘艇でもあるからたぶん本体だけになっても彼は死なない。彼の体もだけど本体も船体の一部が防衛機能として備わっている」

 シエナが分析する。

 「首のプロテクターは硬質ゴムを触っているみたい」

 首のプロテクターを触るアンナ。

 金属光沢があるのに手跡がつくほどへこみシワシワになる。

 「船体の一部が体に出る事はよくある事なの?」

 京極が聞いた。

 「ジプシーはたいてい宇宙船と融合するから船体の一部が各部に出ている」

 シエナが答える。

 「本当に君の種族はすごいね」

 感心するルミナス。

 「そうなると専用の制御装置が必要になる」

 シエナがのけぞるソヴァルを見ながら言う。

 ソヴァルのわき腹から先端が槍状の太いケーブルが飛び出す。

 「それをつかんで。エネルギーを補給するケーブルだ」

 シエナがあっと声を上げる。

 如月と京極が二対のケーブルをつかむ。

 ソヴァルは目を剥いて身をよじった。

 「エネルギーの補給も考えないといけないわね」

 グレースが難しい顔をする。

 「切断して」

 シエナが指示する。

 ルミナスとデグラはレーザーカッターでケーブルを切断した。

 排水管がつまるような呼吸音がして胸が激しく上下する。

 グレースの両手が黄金色に輝きその両手でソヴァルの胸のプロテクターを押した。プロテクターは一〇センチの厚みがあったが深くへこみシワシワになる。

 「ソヴァル。エネルギーなら後でたくさん上げるから我慢して」

 子供に言い聞かせるように言うグレース。

 しばらく身をよじっていたがやがてぐったりするソヴァル。軋みながら首のプロテクターが縮小して後頭部の接続部に吸い込まれ、胴体と背中の厚みが増していたプロテクターも縮小して元の厚さに戻っていく。

 「おさまったみたいだ」

 ほっとするミラーたち。

 シエナは医療カプセルにソヴァルの胴体を入れた。



 何時間経っただろうか?

 薄暗いトンネルを歩いていた。なんで自分が元の人間に戻ってパンツ一丁で彷徨っているのかわからない。

トンネルを抜けるとそこはスクラップ置場であらゆる機械部品が乱雑に捨てられている。

 そこに一人の女性が立っている。女性はコブラアイの群青色の制服を着用している。

 「誰ですか?」

 ソヴァルは聞いた。

 「我はあの戦闘艦に宿る船魂(ふなかい)。あの戦闘艦じゃなくても漁船だろうがどの船にも船魂は宿っている」

 女性は言い放つ。

 「もしかして「雪風」の船魂」

 あっと思い出すソヴァル。

 「おまえは邪魔物でしかない。よって排除する」

 雪風の船魂はビシッと指さした。

 「あれは成り行きだ」

 身構えるソヴァル。

 船魂が動いた。ソヴァルはとっさに鋭い蹴りをかわしパンチを受け流す。

 ソヴァルの飛び膝蹴り。

 船魂のあごにヒットしてひっくり返った。

 ソヴァルはそこにあった短剣をつかんで馬乗りになり船魂の胸を突き刺した。せつな、自分の心臓にも鋭い痛みが走り、身をよじり、胸を押さえた。

 船魂はソヴァルを蹴り飛ばし跳ね起きると短剣を抜いてもう一度腹部に突き刺してもう一度自分の胸を深く突き刺す。

 「ぐはっ!」

 胸と腹を押さえて身をよじるソヴァル。

 「我とおまえは切り離せない。重要な機器類やエンジンも共有しているからね」

 見下ろす船魂。彼女は冷静な顔で短剣をわき腹を突き刺しまたコアを突き刺す。

 「ぐふっ!」

 青色の潤滑油を噴き出すソヴァル。傷口から青色の潤滑油と機械油が噴き出し、肌色だった肌は青色のサイバネテックスーツに変わっていき、赤色の心臓は機械と金属の心臓から球体のコアに変わり、体の組織も内蔵も消化装置や循環装置といった機械部品に変わり、胸から腹部、背中は、腰椎から肩までプロテクターが形成され軋みながら盛り上がる。

 電子脳に「雪風」の船体図と自分の体の損傷が表示され、胴体だけの時の損傷と状態も表示される。

 「それがおまえだよ。我も受け入れたくはない。切り離したい」

 冷たく言い捨てる船魂。

 「僕だって船と融合なんてやだね」

 ソヴァルはそこのナイフをつかむ。

 船魂は自分の胸を短剣で刺して深くえぐる。

 「ぐあああ!!」

 ソヴァルはのけぞり胸を押さえる。

 コアから鼓動音が響き、耳障りな軋み音が聞こえた。

 船魂は着ている制服をつかみアジの開きのように開いた。するとソヴァルの胸から臀部までアジの開きのように開いて本体である胴体がむき出しになる。

 船魂は大股で近づき、彼の胴体を引っ張り出して、地面に投げ捨てると鉤爪でコアに突き立てる。軋みながら胸のプロテクターの厚みが増して硬質化する。

 「船殻の一部ね」

 船魂は冷静な顔で言うと背中から金属の触手を二対出して彼の胴体の接続部に突き刺すと鉤爪をコアから離した。

 傷口から金属の芽が出て傷口を塞いでいく。

船魂は胸のプロテクターを何度も鉤爪で引っかく。

 鋭い痛みに身をよじるソヴァル。

 何度もプロテクターを引っかかれ盛り上がりへこみ、シワシワになる。

 船魂は獲物を見るような目で鉤爪でソヴァルの胸を突き刺した。

 「ぐわあぁぁ!」

 身をよじりのけぞるソヴァル。

 傷口の断面は幾層のハニカム構造になっていて血管ケーブルや神経ケーブルが網の目のように広がり、いくつものバイオ神経回路が蠢き、ポンプや太い血管ケーブルの断面から動く弁や機器類が見えた。

 船魂は傷口から部品や歯車といった物をもぎ取り捨てる。

 「ぐはっ!」

 ナイフでえぐられるような激痛が襲う。

 電子脳に潜水艇と自分の胴体の状態が出て心臓部、機関室が損傷と表示される。

 自分の体には生身の部分はなく生きた金属と機械で構成されている。自分だってこんな体は嫌だが受け入れないと戦うのも生活もできない。おまけに戦闘艦と融合したから訓練してコントロールしないといけない。

 ソヴァルは肩口から連接式の金属の触手を出し先端を槍に変えて船魂の胸を突き刺し、コアをつかんだ。

 「雪風。おまえは僕に従うんだ」

 きっとにらむソヴァル。

 くぐくもった声を上げてのけぞる船魂。

 「僕とおまえの付き合いは長くなる」

 鬼のような形相で言い聞かせるソヴァル。

 「おのれ・・・」

 舌打ちする船魂。

 「おまえと僕は一緒だ」

 ソヴァルは彼女のコアを再び突き刺す。

 「そのようだ」

 船魂は観念したかのように言うと黄金色の光で彼を包んだ。せつな、頭にハンマーでたたかれたような衝撃が走り、何がなんだかわからなくなった。

 

 

 誰かが胴体を触っている。自分が胴体だけになっているのもわかる。誰が胸や背中を押すたびにへこみ、軋む。ケーブルを接続するのもわかる。電子脳に潜水艇と自分の胴体の状態が表示される。

 唐突にコアにナイフでえぐられるような痛みが走り、目を開けて鉤爪で胸を引っかいた。鉤爪は肩口から出ている連接式の金属の触手である。

 腹部から胸にかけて白色のプロテクターが目に入る。厚さは五センチで呼吸の度に上下している。そのプロテクターに胸当て型の制御装置が装着されている。

 ソヴァルは装置を鉤爪でつかんでもがいたが力が入らない。腹部から胸のプロテクターが歪み軋んだ。同様の装置は背中のプロテクターにも装着されている。背中のプロテクターは厚さが一〇センチある。中身はエンジンと周辺機器が収まっているから分厚い。わき腹にはミサイル発射口がある。首から後頭部にかけて厚さ五センチ位のネックプロテクターがある。首や後頭部にも船の中枢機器と重要なケーブルがあり守るためにある。首を動かす度にシワシワになる。

 電子脳に潜水艇と胴体の状態が表示される。

 自分の本体は胴体だけだがまた機能がくわわったようだ。白色のプロテクターは船体部分でコアや動力装置やエンジンといった重要な機器を守るために分厚い。サイバネテックスーツも一センチの厚さがある。

 ソヴァルは鉤爪で腹部や背中のプロテクターを強く引っかく。いくら引っかいてもシワシワになりへこむだけだ。

 「それは君専用に造った」

 ルミナスが顔を出した。

 「地球のだと無理だから彼らに頼んだ」

 シドは困った顔で言う。

 「隣にある体専用の制御装置も造った。君に合わせて造るのは大変でね」

 ルミナスは真顔になる。

 ソヴァルは鉤爪を使って身を起こして台車に自分の胴体を接続する。首のプロテクターはしぼんで後頭部の接続部に吸い込まれていく。精神を台車に振り向けるとスムーズに台車は進み、ひさしぶりの爽快感だ。

 「使い方がわかったみたいだね。「体」に戻る時はその制御装置は外しなさい」

 ルミナスが声を低める。

 ソヴァルは胸当てを外すと胴体をアジの開き状態の体の中に滑り込ませる。

 耳障りな軋み音が響き、ひどく歪み、鋭い痛みとともに本体である胴体は圧縮され体の各部が接続されていく。胸のプロテクターも普段の五センチくらいの厚さに戻っていく。

 身を起こすソヴァル。

 ワジリーが台車に載せて近づく。

 弓道で使うような胸甲がある。

 ソヴァルはおもむろにそれを装着した。鋭い痛みとともにプラグが体内に入っていき、コアや循環装置に接続される。

 なんか体のほてりも熱さもない。

 「ありがとう」

 ソヴァルは胸甲を引っかいた。でもへこむのは自分の胸のプロテクターだけだ。

 「船に変身するときはそれは外すんだ」

 ルミナスがタブレットを操作する。

 ソヴァルはうなづく。

 「これは?」

 ソヴァルが作業台にある部品を指さす。

 「それは全部、君の体から出た物だよ」

 シドが答える。

 「全部機械部品だ」

 絶句するソヴァル。

 生身の部分はないのは知っている。これなんかエンジンのピストン部分だ。それに弁もあるし小型ポンプまである。

 「このパックは何?」

 ソヴァルは袋にあった神経回路を指さす。

 「バイオ神経回路。マシンミュータントやジプシーには普通にある。それ一つ一つが超小型のAI部品で複雑な機能を簡単にするし、センサー類もある」

 シドはスクリーンに「雪風」とソヴァルの体の状態。そして胴体だけの状態と潜水艇の状態を分割で表示する。

 ワジリーは隣りのスクリーンにCTスキャンの映像を出した。

 「ミラー大佐たちにも君の状態は解説済だ。君は簡単に死ぬように出来ていない。予備電源や補助生命装置があるから主要回路やコアが損傷して機能が停止しても予備電源や補助生命維持装置で死ぬことはない。それでも寿命は来るからね」

 シドはCTスキャンの映像を指さす。

 雪風の船体中央部に光り輝くコアがありその周辺には循環機器や維持装置がある。エンジンと動力炉である周辺装置は自分のコアとつながっている。

 「君の心臓が動力炉そのものだからね。エンジンが無事なら航行には支障がない。どの乗り物にも言えるがエンジンは大事だ。第二の心臓だからね」

 言い聞かせるように言うルミナス。

 「寿命って長いの?」

 ソヴァルが聞いた。

 「シエナの種族・・・宇宙ジプシーの平均寿命は五千年だよ。はるかな昔は数万年と長かったみたいだけど放浪しているうちに短くなったらしい。マシンミュータントもそれと同じ位長い。シエナの種族・・・ジプシーは強い宇宙船を見つけたら交換する。ヤドカリ生活に君もなる事にはまちがいないね」

 ルミナスが説明した。

 黙ったままのソヴァル。

 ソヴァルの腕からケーブルを引き抜くシド。

 「ルミナス。アノマリー造船所で「雪風」を入れて六隻の宇宙船は建造されたんでしょ。月面基地をミラーたちと一緒に見学したい」

 ひらめくソヴァル。

 「構わないが・・・」

 一瞬戸惑う顔をするルミナス。

 「ミラーたちは今、どこ?」

 ソヴァルが身を乗り出す。

 「基地でミーティングだよ」

 シエナがわりこむ。

 「じゃあ、グレースのチームが持ってきた貨物機で行こうよ」

 目を輝かせるソヴァル。

 「わかった。呼んでこよう」

 デグラはうなづいた。

 


 三〇分後。ヘリポートに箱型の中型輸送船が駐機していた。

 「・・・月面基地にいきなり案内とはすごい展開だな」

 ミラーは肩をすくめる。

 「宇宙飛行士の夢がかなった」

 如月が目を輝かせる。

 「問題は何も解決してないけどね」

 アンナと京極が乗り込む。

 「ちょっとした旅行と思えばいいね」

 タリクがしゃらっと言う。

 シド、ワジリー、デグラ、ルミナス、シエナが乗り込む。

 船内に入るとカイル、マグーが操縦席にいてすぐ後ろのオペレーター席にグレースとヨセフが機器を操作していた。

 「異星人の船ですね」

 京極が周囲を見回す。

 「ルミナスさんがグレースに頼んで別の輸送船を持ってきたみたいです」

 ソヴァルが口をはさむ。

 自分が融合した「雪風」もそうだがコブラアイの乗り物や兵器はだいぶ異星人の技術が入っている。それもこれも地球が問題多すぎてそんなのにかまってられないのもあるが。

 輸送船は離陸すると上昇する。スピードを上げて大気圏を脱出して宇宙に飛び出す。

 「すごい・・・宇宙だ」

 絶句するソヴァル。

 「宇宙飛行士は夢だったんだ」

 破顔する如月。

 一五〇年前の先祖たちは宇宙船を建造して月や火星まで行ったというのは聞いた事がある。それは写真や古い映像でしか見たことがない。

 「月まで三七万キロだが普通に行ったのでは四日はかかり火星までは片道二年だ。そのためにワープドライブ装置が装備されている」

 デグラは機器を操作する。

 「映画やドラマに出てくるような奴だ」

 破顔するソヴァルと如月。

 あきれかえるアンナと京極。

 輸送機が青白い稲妻をともなった光に包まれワープした。次の瞬間、月の手前でワープアウトした。

 「過去に起こった事はしかたがないかもしれない。人類がまた自分たちの力で宇宙の行くのは時間の問題だろうね」

 ヨゼフが操縦しながら言う。

 「君が融合した「雪風」を含む六隻はアノマリー造船所で建造された。はじめから宇宙での惑星間航行も出来て敵と戦える戦闘艦としてね。造船所の労働者もスタッフも半分以上は地球人でもう半分は異星人スタッフと一緒に働いている」

 ルミナスが重い口を開く。

 「なんで地球からのスタッフを入れる?」

 タリクが聞いた。

 「我々だけでもできるが地球人が「意識の目覚め」を迎えて銀河連邦の仲間入りさせるのが目的だ。私の前任者は一五〇年前、ブライトン元大統領と一緒に計画を進めていた。その矢先に誰かが核のボタンを押して地上はメチャクチャになった。やったのはインテリジェンサーとディープビジョンだ。あの偵察兵やレギオンを送り込んだのも奴らだろう。そして「雪風」も他の船も破壊する予定だったがその計画は潰せた。君やミラー大佐のチームのおかげだ」

 ルミナスは肩をたたく。

 「僕たちは海賊退治をしただけです」

 戸惑うソヴァル。

 成り行きでそうなった。

 「ご搭乗のお客様。当機はまもなく月に到着します」

 シエナが報告する。

 月面にドーム状の建造物がいくつも並んでいた。輸送船は一二番目のドームに接近。ドーム内部にある発着ゲートに着陸した。

 「すごい基地だ」

 絶句するミラーたち。

 「街や村と変わらない設備はあるし、食堂も売店もある。地上の量子金融システムと同期してあるから無職になっても最低限の生活が保障されている」

 ホログラムの案内板を出すルミナス。

 「なるほどね」

 感心するミラー。

 船外に出てくるソヴァルたち。

 発着デッキからエントランスデッキに入るとスタッフやコブラアイの紺色の戦闘スーツを着用した兵士たちが行き交っている。

 ソヴァルの電子脳にフッと映像で紫色のターバンをかぶったアラブ人スタッフがオレンジ色の偵察兵に命令を出しているという映像が入った。しかもそのスタッフの正体は不定形な紫色の生命体であるという。

 ソヴァルは周囲を見回すと台車を押すアラブ人スタッフがいた。その男性スタッフは紫色のターバンをかぶっている。

 「どこに行くの?」

 カイルが気づいた。

 大股で近づきソヴァルはそのアラブ人スタッフの腕をつかむ。

 「何ですか?」

 アラビア語で聞くスタッフ。

 「君・・・スパイだろ。インテリジェンサーと関係があって偵察兵を入れた」

 日本語で核心にせまるソヴァル。

 「何を言っているのかわかりません」

 英語でしらばくれるスタッフ。

 ソヴァルは躊躇なくターバンを取った。

 「何をやっている?」

 ミラーたちが駆けつけた。

 「インテリジェンサーのパシリで偵察兵を入れた?」

 詰め寄るソヴァル。

 「え?」

 「よくわかったね。雪風」

 そのスタッフは短剣を抜いた。

 とっさにかわすソヴァル。彼はアラブ人スタッフの鋭い蹴りやパンチをかわす。

 ロドリコは黄色の小さな魔法陣を投げた。

 そのスタッフは持っていた短剣で魔法陣を切り落とすとその短剣で連続で突き出す。

 ソヴァルはその間隙を縫うようにかわすと掌底を弾き、膝蹴り。

 そのスタッフは床にひっくり返る。

 「おまえ異星人だろ!」

 ソヴァルはターバンを投げ捨てる。

 跳ね起きターバンをかぶるスタッフ。

 「よく見破ったね。戦闘艦「雪風」僕はガイアスだよ」

 男性の瞳が紫色に変わり、紫色のマントを羽織った。

 「何ィ!?」

 驚きの声を上げるミラーたち。

 「侵入者よ。異世界から逃げてきたのね。銀河連邦からおまえたちは逮捕状が出ている」

 ルミナスはビシッと指をさした。

 「異世界の本拠地でも追跡されて仲間が逮捕されてここにやってきたけど運が悪かったわね」

 グレースがわりこんだ。

 「本当に有名になったね。でもそこの少年は「雪風」や戦闘機を切り離したいと本音は思っている。僕やインテリジェンサーなら切り離すのは可能だよ」

 クスクス笑うガイアス。

 「切り離す?」

 聞き返すソヴァル。

 「元の人間に戻すのは可能だよ」

 誘うように言うと紫色の怪しい液体が入った小瓶を出した。

 「その中身は毒ですね。神経毒を持ってきたんだ」

 シエナが指摘する。

 あわてて隠すガイアス。

 「すごいノイズを出している。地下鉄構内の騒音と同じ位のノイズだね」

 身構えるソヴァル。

 「よく聞け「雪風」。おまえはその動力炉とその能力に苦しむだろう。宇宙戦艦なのに痛みと苦しみを感じる矛盾に苦しむ。ジプシーやマシンミュータント同様にね」

 笑い出すガイアス。

 言葉を失うソヴァル。

 その時であるガイアスは振り向きざまに短剣を抜いてクマラの長剣を受け止めた。

 「捕まりませんよ」

 ガイアスは笑みを浮かべながらどこかにテレポートしていった。

 

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