第2章 航宙艦 「雪風」

第3話 15歳の決断

 翌日、オスプレイが日本近海の海上に待機している空母の艦尾側甲板に着陸した。甲板のエレベーターが下降して格納庫に入った。

 機内から格納庫に降りるミラーたち。

 「少なくとも日本の空母じゃないな」

 如月が首をかしげる。

 艦内の表示される文字が日本語と英語になっている。

 「空飛ぶ空母「雪風」にようこそ。隣は山口盤(めぐる)艦長」

 奥から艦長と一緒に近づく草薙司令官。

 「え?」

 「外側は地球製だけど内部の半分以上は異星人のテクノロジーが使われている。動力はヴェブラニウムによるフリーエネルギー推進よ。地球だけじゃ無理だし、日本やどこの都市同盟も問題を抱えているからね」

 草薙は難しい顔をする。

 「初耳ですね」

 京極が口をはさむ。

 「機密が多いからよ」

 草薙はしゃらっと言うと手招きする。

 彼女の後についていくミラーたち。いくつかの部屋を超えて廊下を進むとCICに出た。

 「航海用艦橋は従来の艦船と同じですが戦闘指揮や司令室は艦内ですね」

 タリクがあっと声を出す。

 「この表示板を見ると完全に宇宙戦艦で空母じゃないです」

 ソヴァルは艦内図を指さした。

 艦内表示板に視線を移すミラーたち。

 「流線形で船体中央部に航海用艦橋があり、格納式の主砲が艦首側に三連装の主砲が二基。艦首両舷に二連装の強化ショックキャノン砲二基あって、量子魚雷二十四基と長距離ミサイル八基。短魚雷と側面ミサイル十八基。船底に強力な粒子砲の発射機が格納されている。全長は約三百十三メートル。航海用艦橋を含む船体中央部は高さは四五メートルで排水量は約十万トン。フリーエネルギーの正体は宇宙戦艦ヤマトの波動エネルギーのようなものですか?」

 ソヴァルは目を輝かせる。

 「理解は難しかったけど彼らの言うエネルギーはそんなものよ。一番艦「赤城」二番艦「加賀」三番艦「雪風」四番艦「アドミラル・スチフノフ」五番艦「イラストリアス」六番艦「エンタープライズ」があるの。四番艦と五番艦、六番艦は試運転中よ」

 草薙は映像を切り替えて説明する。

 「六隻もあるんだ」

 驚きの声を上げるミラーたち。

 「造船所はどこですか?」

 ミラーがたずねた。

 「アノマリー月面基地。地球だと海面上昇や海賊、モンスターの襲撃があるからね」

 草薙が答えた。

 「いつの間にそんな基地があるんだ」

 首をかしげるミラー。

 「七〇年前、前任者は異星人と接触した。いろいろ話し合って六〇年前に異星人の力を借りて復活させた」

 どこか遠い目をする草薙。

 「でもこれを見るとワープドライブ装置もあって武装もすごい重武装ですね。第二次世界大戦の戦艦よりも重武装だ」

 ミラーが指摘する。

 「敵はモンスターや宇宙船だけじゃないからね。プレアデスやアンドロメダの宇宙船もけっこう重武装だというのを聞いている」

 しゃらっと答える草薙。

 「プレアデスやアクトゥルスは惑星をも破壊できる兵器を持っていてそういった破壊兵器の総称を「ミョルニル」と言うそうです」

 セシルが説明する。

 「北欧神話に出てくる雷神トールの持っていたハンマーがその名前ね。映画「アベンジャーズ」は見たわ」

 アンナがしれっと言う。

 「宇宙船なのに船底が赤色ですね」

 如月が指摘する。

 「海への着水や設備がない港に着岸する事も想定しているから普通の艦船と同じ錆止めや塩害対策も入っている」

 山口が答える。

 「そうなんだ。でもパワークリスタルと同じエネルギーをこの宇宙船からも感じる。艦首の形もカモノハシに似ているし、艦首両舷にあるショックキャノン砲も龍のひげにひている」

 顔をほころばせるソヴァル。

 「見学してもいいけど吸い取らないでね」

 釘をさす草薙。

 「了解」

 しぶしぶ答えるソヴァル。

 「僕たちはどこへ行くのですか?」

 如月がわりこむ。

 「南シナ海。いくつもの海賊や盗賊が集団で出没している。モンゴルでの事例があるから調査もあるし威力偵察の意味合いがある」

 山口艦長が口を開いた。

 「現地に到着したら調査開始よ。それまでは艦内で待機になる」

 草薙は言った。


 「雪風」は離陸して上昇。南シナ海の方角へ艦首を向けた。

 「すごいわね。本当に飛んでいる」

 京極は小窓からのぞいた。

 「・・・特殊能力者用モジュールはやっぱり貨物室じゃん」

 不満をぶつけるソヴァル。

 黙ったままのシドとワジリー。

 ため息をつくアンナたち。

 「その女性は誰ですか?人間じゃないですね?」

 ソヴァルは聞いた。

 「私はクマラ議員と同じ一二評議員の一人のマリア・テレーザよ」

 女性の異星人は答えた。

 「エミリダス人ですね。とても遠い星から来ている」

 シエナがしゃらっと言う。

 「アクトゥルスといい一一次元の高次元生命体の異星人まで地球に来ているんですね」

 セシルが指摘する。

 「別に来てもいいけど放射能汚染がひどいし流れ者が多いから見どころないわよ」

 釘をさすアンナ。

 「私たちは観光に来ているわけじゃない。同じ敵を追っている」

 マリアはチラッとにらむ。

 「それならいいけど」

 しれっと言う京極。

 ソヴァルはモジュールの中に入って自分が自由時間の時に使う台車の修理を始める。

 部品やネジは自分の体から取れるし造り出せる。

 「シド。海の中を探索するなら水中スクーターとかってないの?」

 ソヴァルがひらめく。

 「特殊部隊用の水中スクーターと二人乗りの潜水艇ならある」

 ワジリーが答える。

 「見たい」

 即答するソヴァル。

 「おいで」

 シドとワジリーは手招きする。

 三人はモジュールを出ていく。

 「あの子が座った鋼鉄の塊がソファみたいに変形してあの子が離れると元の鋼鉄に戻るのはすごい能力ね」

 マリアが腕を組んだ。

 「そうね。あの子の体もそうだけどあの子が触れると金属はゴムのように変形する。可塑性が強いの」

 京極がうなづく。

 「僕が持っているパワークリスタルに触れてその能力が進化したと見ている」

 難しい顔をするロドリゴ。

 「僕たちにはない能力だ」

 シエナが口をはさむ。

 シド、ワジリー、ソヴァルは隣りの格納庫に入った。艦尾右舷エレベーターのそばに小型潜水艇やいくつかの水中スクーターと木箱が置いてある。

 ソヴァルは木箱のフタを開ける。中に銀色の胸甲が入っていて背中の部分はない。胸甲は厚さが十センチもありコンパクトにまとめられている。彼は手首からケーブルを出して胸甲の接続口に差し込む。

 「この装置すごいね。地球には存在しない金属で造られていて僕の心臓やエネルギーを制御するために造られている」

 ソヴァルはそっけなく言うと木箱のフタを閉めた。彼は潜水艇の側面のハッチを開けた。

 潜水艇は銀色のエイ型である。全長は二〇メートルある。内部に入ると操縦席はせまく、操縦者は専用のヘルメットと制御装置を着用して各部をケーブルにつなぎ接続して操縦する形になるようだ。

 「なんかおもしろそう」

 笑みを浮かべソヴァルは操縦席に仰向けに寝る。すると後頭部や両胸、わき腹、背骨に数十本のケーブルが接続された。潜水艇のプログラムが電子脳に入ってきて自分の体と潜水艇の状態が表示される。正面のスクリーンに「雪風」の格納庫の様子が映し出され、いくつかの画面に分割されCICや他の部署の様子も表示された。

 「武器が外されているんだけどこれ潜水艇じゃないね。宇宙も航行できる戦闘機だね」

 ソヴァルは武器システムに接続した。そこから船の各システムに侵入する。エンジンといい機能といい潜航もできる宇宙戦闘機だ。

 「すごい見破った」

 驚くシエナ。

 「この「雪風」もワープドライブ装置があるし、動力炉といい惑星間航行もできる。この感じだと駆逐艦も宇宙船だと思う」

 ソヴァルは言った。

 タブレット端末をのぞくマリア。

 「彼のスキャン能力はすごいわね」

 マリアは難しい顔をする。

 「彼はあの順応する能力でいくつもの装置や金属を同化する。そして機械も接続するだけで操れる。宇宙船も操るのも時間の問題だろうね」

 シドは腕を組んだ。

 「高次元生命体の異星人も興味を持っているのね」

 京極が怪しむ。

 「地球だけでなく多くの問題を抱えている。原因は時空侵略者が一五〇年前に起こした地球での核戦争よ。そこから魂があの世に行けなくて死者となって彷徨い、宇宙海賊やならず者やウロつき、モンスターも出現している。解決するにはパワークリスタルの持ち主の力が必要なの。あの子は鍵よ」

 マリアが説明する。

 「五次元から上の次元に進化移行すれば肉体を捨て次元の門を超える。そうなっても問題は山積みですか?」

 鋭い質問をするロドリコ

 「問題は解決はしてないわね。本当なら地球人を高い次元に導く事になっていたのにどっかのバカが核のボタンを押した。ディープビジョンやインテリジェンサーも予想外の展開にびっくりしていたと思うわね」

 マリアはムッとした顔になる。

 「本当にストレートに言ってくれるわね」

 怪訝な顔のアンナ。

 「ここでケンカはよそう」

 あきれる如月。

 ため息をつくグレース、デグラ。

 潜水艇から出てくるソヴァル。

 「シド。この潜水艇は異星人の戦闘機ですね。武装も重武装で二門のバルカン砲や爆弾や魚雷も積めるし各種センサー類も充実している。この分だと探査もできるけど武装は外してあるね」

 ソヴァルは指摘する。

 「装填まではまだだ」

 シドが答えた。

 「シエナ。そのコアマトリックスは予備はあるの?たぶん融合とかいけると思う」

 しゃらっと言うソヴァル。

 「予備はある。あとで使い方は教える」

 シエナがうなづく。

 「本艦はまもなくマニラ基地に到着する」

 艦内アナウンスは入った。

 とたんに減速して下降しているのかエレベーターで感じるようなフワッとした感覚を感じた。

 「雪風」は海上に滑り込むように着水して進む。

 貨物室でチラッと地図を見るソヴァル。

 南極の氷が溶けて最大で七〇メートル海水が上昇した場所もある。この海水上昇でほとんどの国や都市の沿岸部が水没。その失った分の対策としてメガフロートや石油プラットフォーム、人工島、イカダが建設されて人々はその上で生活している。メガフロートや人工島が手に入らなかった所はイカダや中古の大型貨客船、タンカー、空母といった物を利用していた。

 格納庫の艦尾右舷エレベーターが開く。

 「マニラ基地はコブラアイの基地よ」

 草薙が近づく。

 人工島の桟橋に着岸するフォレスタル。

 ミラーたちは桟橋に上陸した。


 基地内の中央指揮室

 「フィリピンのコブラアイ基地にようこそ。司令官のフランクです」

 中年のフィリピン人が名乗った。

 「ここでもいくつもの海賊やモンスターが集まって襲撃してくるというのを聞いたのですが多く出没する海域はどこですか?」

 ミラーはたずねた。

 「海賊が現れるのは中国大陸の方角です。中国の沿岸部や香港や上海は海面上昇で水没。それにより、アジトも海南島があった場所からやってくる」

 フランク司令官はスクリーンに地図を出して説明する。

 「一五〇年前は中国海軍の潜水艦隊基地が海南島にあった。それと南海艦隊と南沙艦隊があり、輝きの海になってからはミュータントやモンスターが出没。それらは海賊となって暴れまわっています。それと漁師たちが目撃したのですが無人の艦船がそこから現れて攻撃。船を沈めて去っていくという話です」

 フランクは画面を切り替える。そこに葉巻型や潜水艦型の船影が映っている。

 「マシンミュータントだ」

 シエナがあっと声を上げる。

 「マシンミュータント?」

 聞き返すミラーたち。

 「僕たちみたいに宇宙船と融合する機械生命体です。僕たちと違うのはその船と融合するとヤドカリ生活ができません。もともとは異星人です」

 シエナが説明する。

 「地球にはいなかったわね」

 草薙が首を振る。

 「地球にはいないですね。一五〇年の崩壊で多くの資料と生命が失われています」

 ミラーが答える。

 「乗り物と融合する機械生命体が銀河連邦や多くの組織に普通にいるわね」

 黙っていたグレースが口を開く。

 「別の漁師の話だと銀河連合とか宇宙連盟とかから派遣されたという異星人がいるというのを聞いています」

 フランクが難しい顔をする。

 「全部で六団体の組織がある。宇宙には銀河系が無数にあるからだいたい三〇〇〇から四〇〇〇セクトの宙域に分けて管理している」

 ルミナスが説明する。

 「私たちのいる太陽系は銀河連邦の管轄なのね」

 ため息をつく草薙。

 「太陽系のある天の川銀河系は三七〇〇セクトの宙域に入る。他の組織から派遣されている異星人がいたら会ってみたいですね」

 デグラが笑みを浮かべる。

 「それもすごいけど。パトロールに行きませんか?海賊が出没するならなおさだよ」

 ソヴァルが提案する。

 「警備艇を借りるけどいいですか?」

 ミラーはたずねる。

 「構わない」

 フランクはうなずく。

 ミラーたちが退室する。

 「タリクさんも警備艇に乗るのですか?」

 ソヴァルが聞いた。

 「戦略会議は草薙司令官たちでなんとかやってもらう。我々がやるのは警備だ」

 タリクが答える。

 「そうね。できることをやりましょう」

 グレースがうなずく。

 「ソヴァルとシエナはグレースとルミナス、デグラとチームを組め。セシルは私たちと一緒の警備艇だ」

 ミラーが声を低める。

 「え?」

 「ソヴァル。おまえはおまえのやり方で戦え。同じ能力者がいるならその能力者から教わる事が多いからな」

 ミラーは彼の肩をたたく。

 「はい」

 ソヴァルはうなづいた。

 

 

 二〇分後。「雪風」艦尾右舷扉が開いてエイ型の潜水艇が一隻飛び出す。

 シエナは海に飛び込み緑色の蛍光とともに姿が崩れエイ型の戦闘艇に変形。そして潜航を始める。

 飛行甲板から飛び立つオスプレイに似た航空機。

 ミラーのチームを乗せた警備艇が離岸した。

 「・・・ミラー隊長のチームと別行動は初めてだ」

 ソヴァルは艇内通信に切り替える。

 「僕も同じだよ」

 シエナが言う。

 ソヴァルはチラッと腕に装着されている青色の宝石がはまる装置を見る。これはシエナの種族が胸にはめている装置と同じ物だ。シエナが変身するのを見るのは初めてだ。

 南シナ海を北上する二隻。

 しばらく進むとレーダーやソナーに大型海洋生物らしい影が映った。

 「クジラ?サメ?」

 戸惑うソヴァルとシエナ。

 大きさは五〇メートルを超えている。放射能の影響で巨大化したのかもしれない。

 ソヴァルの頭をハンマーでたたかれるような痛みにのけぞる。電子脳に骨板が鋼鉄の鎧に進化したサメとクジラの映像が入ってくる。

 「サメとクジラのモンスターだ!群れが海賊と一緒にやってくる」

 ソヴァルはサメとクジラの概要を送信する。

 「こちらルミナス。三十頭ほどの群れを確認。海賊の船と思われる船舶を多数確認」

 ルミナスが報告する。

 「攻撃開始」

 ミラーは指示した。

 ソヴァルは武器システムに精神を振り向ける。弾倉は空っぽだったがでも自分のを使えばなんとかなる。背骨やわき腹から太いケーブルがいくつも飛び出し潜水艇の機器類に入った。急速にエネルギーが充填され造り変えられ格納されていた機関砲が両舷から飛び出して青色の光線を発射した。

 手前に近づいてきたサメの体をいくつもの青色の光線が貫き撃墜。

 ルミナスのチームが乗った航空機から対艦ミサイルが発射。ミサイルは正確にクジラのモンスターを何頭か撃沈する。

 グレースはフワッと浮かぶと機体後部ハッチから飛び出す。掌底から光球を発射。海面からジャンプしたサメとクジラを撃墜した。

 警備艇の機関砲を撃つセシル、如月、ミラー、タリク。

 アンナは掌底から炎を放射した。

 近づいてきた小型船を焼いた。

 炎上する小型船から海に飛び込むミュータント、人間たち。

 京極の両目が紫色に輝く。

 周囲に吹雪が吹き荒れ、ジェットスキーやボートで近づいてきたミュータントたちが芯まで凍った。

 ロドリコは赤い魔法陣を出すとそれをブーメランのように投げた。

 ミュータント、人間たちが乗った改造船や小型船のエンジンを貫いた。黒煙を上げ停止する。櫂やオールを出してあわてて漕ぎ出すミュータント、人間たち。

 ロドリコはとっさに緑色の魔法陣を出す。

 大型漁船の機関銃が火を噴くが警備艇の手前で魔法陣によって弾かれた。

 船橋から飛び出す人影。ミュータントではなく人間である。男はロケット弾を発射。それも手前で爆発した。

 京極が精神を振り向けた。すると大型漁船は吹雪が吹き荒れたちまち凍った。

 クジラが吠えた。大きく振りかぶって尻尾ではたいた。

 岩礁に激突するソヴァルが乗った潜水艇。

 クジラが噛みついた。

 「ぐうぅぅ・・・」

 潜水艇のダメージが自分の電子脳に送信され痛みや苦しみとして送信される。心臓を万力で締められるような激痛にのけぞる。

 もっとエネルギーの波に乗らないと。

 どうしてそう思ったのかわからないがソヴァルは溜めたエネルギーを解き放った。黄金色の稲妻とともに衝撃波が広がり、クジラは岩に激突。周囲にいたサメの群れは弾き飛ばされ感電した。

 あの方角にリアクターコア施設がある。破壊しよう。

 ソヴァルは機首を向けた。クジラとサメの群れは感電して目を剥いている。その間隙を縫うように進む。

 あわててついていくシエナ。

 海南島にはかつて中国軍の潜水艦基地があったが核爆弾の直撃で跡形もなくなり瓦礫だけである。その内部に原子炉のような施設が見え、その中に直径二十メートルのコアリアクターが見えた。

 「どうするの?」

 シエナが聞いた。

 「こうするの」

 ソヴァルはひらめき、背中の金属の触手に振り向けると潜水艇の側面から四対の連接式の義手が飛び出しむき出しのコアをつかむ。

 青い光とともに潜水艇が包まれる。

 コアリアクターから火花が上がりショートして電気が消えた。

 「心臓が痛い」

 ソヴァルは身をよじった。

 急激に電圧と圧力が上がり、心臓は早鐘をうち何かが飛び出しそうなくらい気持ち悪い。

 ソヴァルは両手を広げる。潜水艇も四対の連接式の義手を広げた。せつな、閃光とともに衝撃波と稲妻が広がった。

 「わあっ!!」

 弾き飛ばされ壁に激突するシエナ。

 「ああ・・すっきりした」

 ほっとするソヴァル。

 「こちらミラー。爆発を二度観測したが無事か?」

 ミラーの通信が入ってきた。

 「こちらシエナとソヴァル。無事です。敵の発電施設を破壊しました」

 シエナが報告した。


 

 緑色の蛍光に包まれて元の姿に戻るソヴァルとシエナ。二人は基地の桟橋に上陸する。

 桟橋には警備艇から降りたミラーのチームとルミナスのチームがいた。

 フィリピン人兵士が近づく。

 「フランク司令官から会議室で重要な話があるようです。案内します」

 その兵士は言った。


 二階の会議室に入るミラーたち。

 部屋にフランク司令官、草薙司令官と一緒に別の男女が座っていた。

 「そちらの方々は?」

 ルミナスがたずねた。

 「米軍のラエ・トブルグ極東軍司令官。隣はダンバース・エクスプレス東南アジア支部の薬代(みない)頼政支部長」

 フランクが紹介した。

 「米軍と運送屋さんが何の用ですか?」

 ミラーが聞いた。

 「私たちが来たのは海賊やミュータント、モンスターが集団で襲撃してきた件について成果を上げているのを聞いて来たの」

 トブルグは司令官は口を開いた。

 「我々は運送だけでなくラジオステーションの整備もしている。荷物の配送と一緒に修理やアンテナの調整をやってほしいですね。海賊が出現するのでそれを追い払うのも任務に入っています」

 薬代(みない)支部長は声を低める。

 「すごい情報収集力ですね。私たちはさっき海賊と怪しい発電所を破壊したばかりです」

 京極が腕を組んだ。

 「問題は海賊や盗賊、ミュータント、モンスターだけではない。人身売買組織が一緒になって動いている。奴らは襲撃の混乱に紛れて子供を拉致していく」

 トブルク司令官はテーブルの端末を操作してホログラムを出した。

 「子供?」

 聞き返すミラー。

 「日本やロシアでは報告がいってませんか」

 薬代支部長が聞いた。

 「銀河連邦や他の組織では子供の拉致の報告が上がっている。かならず一時的な収容場所が地球なの」

 グレースがはっきり言う。

 「子供を拉致してどうする?」

 タリクがたずねる。

 「アドレノクロムの材料にされる。主に注文するのは大金持ちや利権を持つ連中や人喰いの奴ら。一五〇年前は一カ月に八十万人以上の子供が行方不明になっていた。世界崩壊と同時に人身売買組織も資料も消えた」

 トブルクは資料を出して配った。

 「元々は美容関係で若さを保つといった物質だったけど自然の物より人工の子供から抽出されるものが高純度なの。抽出のやり方は拷問を繰り返して恐怖を感じた瞬間に目から抽出する。人喰い連中の間では「生命のエキス」という名前で出回る」

 ルミナスが画像を切り替える。

 写真にアザだらけで両目の周囲がはれ上がって誰だかわからないような幼子の写真が並び、世界地図に切り替わる。

 「一五〇年前、前任者の先祖たちは前大統領の指令で地下施設という地下基地から子供たちを救出していた。それがあの日は警告が出てシェルターに逃げてきた人々と一緒に避難した。核の冬が終わり地上に出てきて前任者たちは子供たちを拉致する者たちが現れたら奪還すると誓った」

 トブルクは語気を強め説明する。

 「前大統領?」

 聞き返すフランク。

 「第四八代ナンツ・ブライトン合衆国大統領。初の民間出身で根っからの商売人上がりだったけど政治手腕は凄腕で任期中は一度も戦争を起こさなかった。しかしジョン・ホランド次期大統領はインテリジェンサーと組んで選挙を盗んで自分が大統領になった。彼が認知症なのをインテリジェンサーは知っていて操っていた。彼が任期中に世界が崩壊した」

 トブルクが画像を切り替えた。

 「ブライトンは女性の大統領だったんだ」

 アンナが少し驚く。

 「初の女性大統領で裏の顔は凄腕のハンターで賞金稼ぎ。インテリジェンサーやディープビジョンを狩るハンター。異星人とも接触があった」

 トブルグが説明する。

 「私も前任者から引き継いで派遣された」

難しい顔をするルミナス。

 「なんかみんな異星人とつながっていますね。運送屋のバイトも楽しそう」

 ソヴァルがしゃらっと言う。

 「私たちは遊びに来たわけじゃないわ」

 アンナがわりこむ。

 「荷物の配送のついでに修理して海賊やミュータントを追っていけば変な発電施設や何らかの施設に行き当たるんじゃないかと思っただけ」

 ソヴァルが答える。

 「さっきは着いてすぐに海賊の集団が襲撃してきた。運送屋と修理屋をやっていれば海賊とモンスターだけでなく連中の下っ端はやってくるか」

 ミラーがうーんとうなる。

 「貨物機とかどうする?」

 セシルが聞いた。

 「それは彼らから借りるしかないわね」

 草薙は言った。

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