第2話 核戦争後の世界 つづき

 ウラジオストク港から二隻の駆逐艦と一隻の輸送艦が出発した。

 ソヴァルがいる部屋は貨物室にある専用モジュールである。格納庫にあるタイプのコンパクトサイズで六畳ある。自分は制御装置をつけない時は基本ここにいる。理由は金属や炭素繊維、動力はなんでも同化して融合してしまうからである。

 「入っていいですか?」

 ロドリコとシエナ、シド、京極、如月、アンナが部屋に入ってきた。

 ソファに座るソヴァルが顔を上げた。

 「君の能力は驚かされてばかりだね。合金の塊がソファのようにやわらかくできるみたいだね」

 驚きの声を上げるシド。

 「この能力は僕達にはない」

 シエナが低反発枕のようにへこむ合金の塊を触りながら難しい顔をする。

 「そのペンダントに触ったらいくつかの新しい機能がくっついたんだ。たぶん、僕は宇宙船とも融合ができるし、そこら辺の機械も操れる」

 ソヴァルは自信持って言う。

 なんでそう思ったのかわからないがたぶん宇宙船も操れる。

 「君の体は常に造り替えられているからね。パワークリスタルに触れた君はもともと持っている能力が強化され進化した」

 ロドリコは核心にせまる。

 「私も同じ事を考えていた」

 シドが口をはさむ。

 「僕も魔術師になる前は宇宙工学の科学技術者だ。宇宙ロケットや宇宙ステーションのプログラムやそれの設計に携わっていた。ある日、交通事故で研究者の道は辞めてチベットへ旅に出てそこで師匠であるダナベルと出会って魔術師になった」

 遠い目をするロドリコ。

 「元技術者なら手伝ってくれるのか?」

 シドが聞いた。

 「もちろん」

 うなづくロドリコ。

 顔を見合わせるアンナ達。

 ロドリコはペンダントをソヴァルの胸に近づけた。

 メキメキ!!

 ソヴァルはくぐくもった声を上げ胸のプロテクターを何度も引っかく。背骨がひどく歪み軋みプロテクターの内部は何かが這い回るかのように盛り上がりへこむ。心臓が早鐘を打ち、血管ケーブルや神経ケーブルが激しく蠕動するのを感じた。

 「君の心臓や動力源はこのエネルギーに反応してほしがっている。つまりパワークリスタルに反応してコントロールができる。でも機械や金属系だけ。生物は制御できない」

 ロドリコはペンダントをしまう。

 シドはソヴァルの背骨を触った。なんともいえない感触。まるでゴムのようにへこむ。

 金属の背骨はむき出しになっているがそれは一部だけ。直径は一〇センチで大部分はプロテクターやスーツ内に埋め込まれている。

 ロドリコはおもむろにソヴァルの胸のプロテクターを押した。手跡がつくほど深くへこみシワシワになった。まるで皮革のゴムのようだ。

 「君は可塑性が強いね。シエナ達よりも強い。そして金属の塊をソファに変えてしまう。君が離れるとそれは元の金属の塊に戻る。原因は君の心臓と動力源だね。君の青く輝く潤滑油はナノ粒子の塊で、あらゆる機器や金属でできている物は全部、強い可塑性を持って自在に変形させて機械や機器は操れる。たぶん宇宙人が造った機器類も操る事は可能だ。そして予備電源もあるから心臓が止まっても死なない。というより量子世界とつながっているから無限のエネルギーを供給する事ができる」

 ロドリコは部屋内を歩き回りながら説明する。

 「なるほど」

 シエナとシドは納得する。

 「まったくわからない」

 京極、如月、アンナは首を振った。

 「僕は常温核融合炉と同じって事?」

 ソヴァルが聞いた。

 「似たような物だね。量子世界とつながる事により時間軸や時空の揺らぎの影響は受けない。つまり君の心臓は動力炉として時空ゲートを開けられて量子世界を自在に行き来できる」

 シドはソヴァルの背骨を触りながら説明した。

 「君は生きた動力炉だね」

 ロドリコは結論を言う。

 「コントロールする事を勉強しないとダメだね。協力するよ。仲間のエイリアンにも科学者や技術者はいるからいろいろな装置は造れる」

 シエナは真顔になる。

 「君の場合は胴体だけでも他の機器につなげる事で操れて作り変えられる」

 シドはソヴァルの肩をたたく。

 「・・本艦はまもなく舞鶴港に入港する。上陸の準備に入る」

 唐突に艦内アナウンスが入った。

 


 舞鶴港にある桟橋に上陸するミラー達。

 ミラーとタリクは迎えにきた将校達と一緒に官舎に入っていく。

 「ソヴァル。君は僕達と一緒に研究所だよ」

 シエナが手招きする。

 ソヴァルはアンナ達と一緒に軍用トラックの荷台に乗った。

 黙ったままの京極と如月。

 ソヴァルは外をのぞく。

 十二同盟都市とはちがう文化や習慣がある。どの国にもある。自分の母親の故郷だ。

 一五〇年前、核による世界崩壊で日本の主要都市に核ミサイルが投下された。それはロシアやアメリカどの国の主要都市は壊滅した。中には奇跡的にまぬがれた所もあるがたいがいは放射能の影響を受けている。地方都市や街や村は壊滅はまぬがれ、首相は別の場所にいて助かったが世界崩壊と同時に世界の王室や皇室は消滅した。主要都市の復興はできなかったが首都を京都に移転して復興できる所から再建して、他国の壊滅していない都市と同盟を結んだ。その最初の都市はウラジオストクと台湾だった。ここでは最初に行動して同盟を結び再建した者勝ちだ。そして自衛隊を廃止して国防軍になり現在に至る。一五〇年前、世界でもトップレベルの技術力を持っていたが今では技術力や精密機械関連、AI関係はトップレベルの技術を持っている。

 彼らを乗せたトラックは研究所のゲートをくぐった

 


 建物に入ると白衣を着た男女が行き交う中をそのまま奥の部屋まで進み、エレベーターに入った。

 「ずいぶん深いわね」

 アンナが疑問をぶつける。

 「地上部分は表向きで地下二十四階に本当の部分があるんだ。政府も知っているし都市同盟の上層部の一部だけしか知らない」

 シドは答えた。

 しばらくするとエレベーターが止まった。

 地下のエントランスから部屋に入った。白衣の男女も行き交っていたが明らかに人間でもミュータントやグールでもない者達が混じっていた。

 「エイリアンですか?」

 京極や如月が驚きの声を上げる。

 シドはうなづいた。

 「ディープワンがいる」

 あっと声を上げるソヴァル。

 群青色の体色といい長身といいどう見ても祖父や父から聞いているディープワンである。それも一人だけでなく数十人くらいいる。そのディープワンだけでなく見慣れない風貌のエイリアンも何種類かいる。

「シエナと同じ仲間もけっこういるね」

 アンナが周囲を見回す。

 「初耳だ」

 ロドリコは驚きの声をあげる。

 「ここは地球と異星人の共同使用の基地だからね」

 不意に声が聞こえて軍人が近づいた。

 「渡良瀬国防長官」

 如月と京極は敬礼した。

 「楽にしていい」

 渡良瀬と呼ばれた男性は笑みを浮かべた。

 「世間の人々は知らせてないがエイリアンの存在は知っている状態だ。隣人が異星人だったという報告が相次いでいるが詳細は知らなくてもいいだろう」

 渡良瀬国防長官は難しい顔をする。

 「視察ですか?」

 京極がたずねた。

 「ついてきなさい」

 渡良瀬長官は手招きする。

 京極達は黙ったままついていく。

 しばらくするとオペレーター席が並び、正面スクリーンが正面にある。体育館ほどの部屋に出た。そこには人間もいるが人間と混じってエイリアンも何人か忙しく行き交っていた。

 「管制センターですか?」

 ロドリコがたずねた。

 「そのようなものだ。ここは「コブラ・アイ」の本部だ。支部は東南アジアやアメリカ、オーストラリアにもあるが「輝きの海」になっている中国本土と朝鮮半島にはない」

 渡良瀬長官は管理センターに入ると合図した。

 身を乗り出すソヴァル。

 輝きの海というのは放射能に汚染のひどい地域の事を言う。中国や朝鮮半島だけでなくロシアのモスクワやいくつかの都市は汚染がひどく廃棄されたままだ。それは他国にも言えてアメリカもいくつかの主要都市は廃棄されたままだし、南米や欧州もそういった状態だ。おまけに南極の氷が溶けて海面上昇して沿岸部が水没している。今、課題が山積している。

 「ソヴァル。君の事は聞いている。君の高祖父には感謝している」

 渡良瀬長官は頭を下げた。

 「それはひいひいじいさん・・トゥパウじいさんがやったことだからそれは先祖のおかげだと思います」

 困惑するソヴァル。

 自分は先祖や親の七光りでここにいるだけである。

 「日本だけでなく世界はどこも問題は山積だからね」

 スクリーンに映る世界地図を見ながら渡良瀬長官は真顔になる。

 「僕達はディープワンの目撃されたという報告でここに来ました」

 ソヴァルはたずねた。

 「ここからは草薙司令官から話があるそうだ。私は会議があるから失礼する」

 渡良瀬長官は近づいてきた女性将校をして、退室していく。

 「ここの存在を知っているのは都市同盟の上層部と政府や軍の上層部だけよ」

 草薙司令官は口を開いた。

 「じゃあ父さん・・・ウラジミール司令官は知っている?」

 ソヴァルがおそるおそる聞いた。

 うなづく草薙司令官。

 「知っているなら案内してくれればいいと思う」

 うつむくソヴァル。

 「機密も多いから実態はしゃべる事はできないの」

 声を低める草薙司令官。

 「草薙司令官。報告にあった少年はこちらですか?」

 声をかける女性の異星人。

 うなづく草薙司令官。

 「みんなこっちへ来て」

 女性の異星人は手招きした。

 ソヴァル達はその女性の後についていく。

 管理センターを出ていくつかの部屋を通り抜けて入ったのは医療機器や量子コンピュータが何棟も並ぶ部屋だった。

 「すげえな。なんだこれ?」

 如月は驚きの声を上げた。

 「量子コンピューター「富岳Ⅷ」だ。助手のワジリーと雑賀博士。シエナと同じ種族のサラとノース。メンテナンスをする技師も人間と異星人の半々で稼動している」

 シドは何人かのスタッフを紹介した。

 「それとプレアデス星団惑星アドニスから来たグレース隊長」

 シドはつけくわえた。

 ソヴァルの電子脳にひどいノイズが来て顔をしかめる。ひどいノイズはたくさんの声と音が津波となって入ってくる。

 「どうした?」

 ロドリコが聞いた。

 「アビスアイと同じノイズやエネルギーをあの人から感知している」

 グレースを指さすソヴァル。

 「感知能力は鋭いのはいい事ね。ここは機密は守られているから大丈夫よ」

 グレースは口を開き、琥珀色のペンダントを見せた。

 「ぐっ!!」

 ソヴァルは鋭い痛みに胸のプロテクターを引っかいた。心臓がすごい反応している。そしてエネルギーをほしがっている。

 ロドリコは呪文を唱えて紫色の小さな魔方陣を掌底から出した。

 ソヴァルの体を紫色の光が包む。

 体内の軋み音が聞こえなくなり息を整えるソヴァル。

 「動力源を見たいわね。そこからどう訓練するのか改良していくのか考えないといけないわね」

 グレースは冷静な顔で言う。

 「胴体だけになるのはやだ」

 ソヴァルは目を吊り上げた。

 「私も科学者の端くれよ。軍の情報将校であり科学技官でもあるの」

 グレースは重い口を開いた。

 「それがなんでそのパワークリスタルを持っている」

 ロドリコが聞いた。

 「赴任先の植民地惑星の基地で敵が襲撃してきた。私はその惑星の古代遺跡の調査で来ていた。そこに敵が襲撃してきて私は古代遺跡内部に避難するしかなかった。そこの未発掘の区画には未知の遺物があってそれに触れた瞬間に光を浴びて体内組成もだいぶ変わり、無機物や機械、生物に光を照射すると生物は蘇生や回復、機械にエネルギーを与える事ができて無属性の強力な攻撃もできるようになり、宇宙でも自在に飛行できて生存できるように進化したの」

 グレースは遠い目をする。

 「私は異世界の地球で宇宙工学を研究する科学者だったんだ。それが交通事故でリタイアして放浪の旅に出て時空魔術師になり、師匠からこれをもらった」

 ロドリコはアビスアイを見せた。

 「私達は似たもの同士ね」

 グレースはフッと笑みを浮かべる。

 「科学者なら話は早いですね」

 助手のワジリーがわりこむ。

 ソヴァルは胸に装着している制御装置をつかむ。しかし簡単に外れない。

 グレースは背後にさっと回り込むと六角形の装置を彼の後頭部につけた。せつな、目を剥いてソヴァルは倒れた。

 「何をする!」

 アンナ、如月、京極、シエナ、ロドリコは武器を出して身構えた。

 「今、地球だけでなく宇宙全体に危機が迫っている。この子はその鍵よ」

 身構えて遠巻きににじりよるグレース。

 「自分の星に連れ去るのか?」

 如月はドスの利いた声でにじりよる。

 「違うわ。私達もあなた方のチームに加わりたい」

 グレースはアンナやシエナの鋭い蹴りをかわす。

 「信用できない」

 京極の速射パンチを受け流すグレース。

 ロドリコは掌底から赤い魔方陣を出した。

 如月とグレースが同時に動いた。その動きはアンナ達には見えなかった。何度もぶつかり交錯して床に着地した。

 「基地内でトラブルはやめてほしいわね」

 鋭い声が聞こえて草薙司令官と何人かの異星人が一緒に近づいてきた。

 振り向くグレース達。

 「ディープワンだ」

 あっと声を上げるアンナ。

 ロドリコは魔方陣を消した。

 「司令官。その異星人は?」

 シエナはたずねた。

 「ディープワンの地球方面部隊のグラム司令官とサルナート・クマラ議員」

 草薙司令官は紹介した。

 「地球方面部隊?」

 京極と如月、アンナが声をそろえる。

 「中国の北京と石家荘に基地と都市がある。人口は五万人。月にも一万人の住居と基地がある。我々の住んでいた惑星ファルシが寿命を迎えていて移住先を探している最中でね。時空ゲートやテレポート台を建造して移住先を探すうちにプレアデスやアルクトゥスと出会って移住先を探すのを手伝うから仕事を手伝ってくれという内容でここにいる」

 グラム司令官は難しい顔をする。

 「え?」

 「我々、ディープワンは移住先の惑星を探しているだけ。一二〇年前に出会ったディープワンの子供を保護してくれたのは感謝している。チームにその子供が行く。成人の儀式を済ませて新兵訓練も済ませてある」

 グラム司令官が説明する。

 「ちょっと待って。まだ僕達は行くとも言ってないし、ミラー隊長や十二同盟政府に報告もしていない」

 アンナがわりこむ。

 「我々もインテリジェンサーを探している。時空侵略者の手先がその組織だ」

 グラム司令官は口を開いた。

 「確かにインテリジェンサーは天才集団でモンゴルの砂漠で数千のグループをまとめた。その行動は不明よ」

 京極が指摘する。

 「日本でも海賊がグループを組んで襲撃してくる。それも十五や三十のグループでミュータントやグール、人間のグループも混じっている。それは尖兵にすぎないと?」

 如月が語気を強める。

 「同じような事は地球だけじゃない。宇宙でも同じ事が起きている」

 グレースがわりこむ。

 「だから我々は彼らと一時的に同盟を組んだんだ」

 その時、聞いたことのある声が聞こえた。

 ミラーとタリクが入ってくる。

 「え?」

 「我々は・・・地球は問題が山積だ。「輝きの海」の内部がどうなっているのかもわからない。だから放射能汚染地区や宇宙空間でも行動できる者達の力が必要になる。ディープワンがいる北京は汚染がひどい。中国本土は濃い放射能汚染で人間は住めない。放射能を除去する技術が必要だ。何もしなければ汚染は広まる。それだけでなくて南極の氷が五〇年前から溶け始め海面が七〇メートル上昇した場所もある。問題は山積みだらけだ」

 ミラーは地図を出して説明する。

 「でもあの子の父親であるウラジミール司令官と母親の双葉基地司令にどう説明しますか?」

 アンナが心配する。

 「そこはまだ説明していないがウラジミールには説明した」

 難しい顔をするミラー。

 「では本題に入りましょう」

 草薙司令官がわりこむ。

 「ではあの子の本体を取り出そう」

 シドは言った。



 グラム司令官とグレース、シドとワジリー、シエナ達はソヴァルの本体である胴体が入っていたプロテクタースーツをのぞきこむ。

 ストレッチャーに胸から臀部まであじの開きのように固定されている。本体であるソヴァルの胴体はなく本人は隣の医療カプセル内で眠っている。

 「予想以上に進化が早いな」

 クマラが驚きの声を上げる。

 「シエナ達の種族とはちがう進化だ」

 グラムがうーんとうなる。

 「この断面はすごいな」

 クマラが指摘する。

 サイバネティックスーツ自体は十センチの厚さがある。胸部と背中の肩甲骨がある場所は十五センチもの厚さがあり、背中には金属の背骨がある。表側に出ている部分は一部だが大部分は内部にあり直径が十センチある。本体との接合部と接続部は太いケーブルがいくつも見え、歯車やポンプ、駆動部が見えた。人工筋肉のような物もあちらこちらにある。

 「小さい頃よりはだいぶ違うな」

 納得するミラー。

 「あの時は子供で成長途中だったから成長するにつれて進化した」

 シドが指摘する。先任者が記録したカルテをアルダー達に渡す。

 京極は胸部プロテクターや胴体を押した。しかしいくら押してもへこまない。完全な合金である。金属光沢がありおそろしく硬い。サイバネティックスーツの部分の腕や腹部、腰、つけ根を触っても押しても硬質でザラザラしたスーツで石のように硬い。

 「血管ケーブルや神経ケーブルも岩みたいに硬いですね」

 ワジリーはレーザーカッターを取り出すと一番太いケーブルを切断してトレーに切断したケーブルを載せた。切断部から青白く輝く潤滑油が出てくる。

 「あの子の血液だ。全部ナノ粒子で出来ている。常にあの子の体とこのスーツを二時間で全部作り替えてしまう」

 シドは指さしながら説明する。

 

 

 複数の聞きなれない声が聞こえる。誰かが胴体を触っている。手足と胴体プロテクターとスーツから自分は取り出されている。自分の本体は胴体と首と頭部だけだ。幼いときの地雷の事故で手足を失い胴体も損傷。やもなく金属生命体の手足を移植。ゆるやかに融合は進んで現在に至る。でもメンテナンスは定期的にあってその度に胴体だけ外れるようになっている。シエナの種族とは違う進化の道をたどっているのは確実だろう。後頭部の制御装置はついていない。電子脳のソナーやレーダーに複数の人物の位置と声が聞こえる。

 見慣れないエイリアンが複数いる。そのうちの一人は皮膚は青肌でスキンヘッド。長身で彫りの深い顔で黒色のサイバネティックスーツを着用。その青肌のスキンヘッドがのぞきこんでいる。もう一人は尖り耳でつり眼の銀髪の女で人間に近い容姿だ。

 自分の胴体には何も装着されていない。チャンスだ。

 「触るな!タコ入道!」

 左右の肩口から金属の連接式の触手を二対出して首に巻きつけた。

 「ぬあっ!?」

 驚きもがく二人。

 「落ち着け!!味方だ!」

 わりこむミラーとタリク。

 「まかせて」

 京極はわりこむと目を半眼にしてソヴァルの頭に触れた。

 ソヴァルの脳裏に自分は母親に抱かれている映像や暖かい光に包まれている映像が入ってくる。

 「母さん・・・」

 深い呼吸になり二人を放すソヴァル。

 京極はソヴァルを抱き寄せた。

 「あったかい・・・」

 ソヴァルはほっとした顔になる。

 自分の体からなくなったものがそこにある。体温や心臓の鼓動音。ものすごく安心できる。

 触手を格納されていく。

 京極はソヴァルをストレッチャーに戻した。

 「またメンテナンスなの?僕の本体に何か加えるの?あの琥珀の宝石もパワークリスタルでしょ」

 核心にせまるソヴァル。

 黙ってしまうグレース。

 「わかるのか?」

 シエナが聞いた。

 「パワークリスタルからエネルギーが漏れているから少しもらった。だから触手が出ちゃったんだけど」

 ソヴァルは当然のように言うとくだんの触手を二対出して胴体を起こした。

 隣の部屋に自分のプロテクタースーツが拘束具で固定されているのが見えた。

 「パワークリスタルをあのスーツに近づけても反応は起きないよ」

 当然のように言うソヴァル。鋭い痛みに身をよじった。

 「このコルセット型の制御装置を取ってよ。痛い!」

 ソヴァルは子供のようにせがみ触手の先端を鉤爪に変えてもがいた。同化もされないし、自分のケーブルが入らない。力が入らないし、ゴムのようにへこまない。

 「こんな装置・・・」

 キッと装置に精神を移すソヴァル。

 まったく違和感しか感じない。心臓が軋みながら早鐘を打つ。肉が割れ、骨が軋むような音が聞こえ青色の蛍光が心臓のある接続穴から漏れて呼吸の度に厚さ五センチのコルセット型装置がへこむ。身をよじるたびに深いシワが入り、耳障りな軋む音が響き、血管ケーブルや神経ケーブルがコルセット型制御装置の内部機器に入り込み、青色の蛍光に包まれ、液体に変わり、接続口に吸い込まれていくと元のマネキンのような胴体に戻った。

 ほっとするソヴァル。

 「すごいパワーだ。我々が持ってきた金属を吸収した」

 驚きの声を上げるグラム。

 ソヴァルは胸にある複数の接続口をのぞく。ふだんは閉まっているが心臓と周囲を囲むように生命維持装置、補助装置がある。胴体だけの時は痛みもセンサーも五感もない。でも自分はこの体でも不自由はしていない。ただ生物や植物には効果がなくて機械系や金属系しか効果が及ばないだけだ。

 ソヴァルは肩口から二対の触手を出して胴体を起こした。

 「君がその姿になっている時のいつもの装置を持ってきた。義手は外してある」

 シドが台車に載せてわりこむ。

 台車に銀色のコルセット型の装置が載っている。コルセットは臀部から胸、背中全体を覆うような形で厚さは一〇センチでコルセットの断面も幾層にも重なっているのが見え、真ん中の層はハニカム構造で網目のように広がるケーブルが見えた。

 「やったぁ!」

 目を輝かせるとソヴァルは触手を生物が歩くようなしぐさでストレッチャーを飛び出し、その装置の内部に胴体を滑り込ませた。せつな、耳障りな軋み音が響き、やがて呼吸とともにコルセット自体も上下する。彼は触手の鉤爪で胸を引っかいた。コルセットはゴムのようにへこむ。

 ソヴァルは胴体接続部の穴から太いケーブルを出して台車のモーターに接続した。

 無邪気にその台車で走り回るソヴァル。

 「あのプロテクタースーツは?」

 グレースとアンナ達が聞いた。

 「あれは基地や基地の外で活動する時のスーツで。普段はあの姿だ。ウラジミール司令官、双葉基地司令、ミラー大佐には資料を渡したし説明してある」

 シドは笑みを浮かべる。

 「すごい適応能力だ」

 驚きの声をもらすグラム司令官。

 「そこの青タコさんと金髪のお姉さんは誰ですか?」

 ソヴァルは指をさした。

 「指をささない」

 注意するシド。

 「青タコとは失礼な。私は銀河連邦一二評議員のサルナート・クマラだ」

 青肌のスキンヘッドの長身の異星人は自己紹介した。

 「私はプレアデス星団惑星アドニスから来たグレース・スフォルコア。コブラアイのメンバーとしてここにやってきている」

 青色の戦闘スーツに尖り耳、金髪碧眼の女性異星人は口を開いた。

 「グレースのその石はパワークリスタルですね。僕の心臓が反応している」

 ソヴァルは真顔になる。

 「君はそのパワークリスタルに反応した。そのクリスタルは宇宙の叡智やエネルギーが詰まっている。君は選ばれた事になる。君はクリスタルを持つ者を引き寄せるし、そうでない者も引き寄せる」

 クマラは語気を強める。

 「じゃあ、僕も宇宙に行けるの?」

 身を乗り出すソヴァル。

 「そういうことになるわね」

 ため息をつくグレース。

 「触っていい?」

 京極がわりこんだ。

 「いいよ」

 うなづくソヴァル。

 京極はコルセット型装置の胸の部分をさわった。それはなんともいえない肌触りで硬質ゴムを触っているかのようだ。一〇センチもある金属の装置は彼の呼吸に合わせてへこみ、膨らむ。

 おもむろに抱き寄せる京極。

 ドキッとするソヴァル。

 母親がよく抱いてくれた。でもなんかうれしい。

 装置のセンサーを通して体温や心音を感じるし、暖かい。自分の体からなくなったものが全部そこにある。

 京極は彼を台車に戻した。

 はにかむソヴァル。

 「なんか低反発枕を抱いているみたい」

 困惑する京極。

 「僕の本体はこの胴体だけ。胴体だけだとなんの感触も痛みも五感もセンサーも感じられない。それも機械と金属だけしか操れない」

 ソヴァルは鉤爪でコルセット型装置を引っかく。ゴムのようにへこみ傷がつかない。

 「君はその力を誇りに思いなさい。君だけの力だ」

 クマラはソヴァルの肩をたたいた。

 うなづくソヴァル。

 「あのお・・・ミラー大佐のチームはここですか?」

 周囲を見回しながら入ってくる一人のディープワン。

 振り向くミラー達。

 「誰?」

 如月が聞いた。

 「セシル二等兵だ」

 グラムが紹介する。

 「チームに入れるのはいいけど新兵訓練を終えてどのくらいが経つ?」

 タリクが聞いた。

 「えーと・・・二年です」

 セシルが答えた。

 「まだ新兵と変わらないわね」

 グレースがしれっと言う。

 部屋に入ってくる二人の異星人。

 「誰か来たよ」

 如月が怪しむ。

 「時空管理局から来たルミナス・ユンカー・コールです」

 黒色のサイバネテックスーツを着用した女性が名乗る。

 「僕は惑星ライランからやってきたデグラ・ストラウスです。研究しているのは死者とあの世の結び目と中継点です」

 鼻筋から額にかけて突起が並ぶ男性の異星人は名乗る。

 「この基地には何種類のエイリアンがいるんですか?」

 戸惑うアンナ。

 「この基地だけでなく世界各地の支部にもかなりの種類の異星人がいる」

 中年女性が部屋に入ってきた。

 「宇留鷲(うるわし)峰世総理」

 ミラーとタリクは敬礼した。

 「国家元首が何の用ですか?」

 アンナが聞いた。

 「視察よ。ここだけでなく世界各地の基地にプレアデス、こと座ベガ、シリウス、レクチル・ベータ、ミンタカ、リラ、リゲル、ライラン、アクトゥルス人、アンドロメダ人が来ている。彼らの多くは技術供与や支援が目的で共通の敵は時空侵略者とその手下のインテリジャンサーやドライデン、ディープビジョンといった者たち。戦っていくうちに地球に行きついた感じね」

 宇留鷲総理は説明した。

 「敵はインテリジェンサーだけじゃないようですね」

 如月が核心にせまる。

 「地球は多くの課題を抱えている。そして時空侵略者は地球のどこかにいるというの。どこかに総司令部や本拠地が隠されているのかもしれないわね。それが地球の科学力では無理だから彼らの力を借りた。悪い人たちではなさそうよ」

 宇留鷲総理はチラッとクマラたちを見る。

 「それはそうようね。彼らの科学力があれば私たちは今ここにはいないものね」

 納得する京極。

 「結び目とか中継点ってなんですか?」

 ソヴァルが聞いた。

 「地球人も私たちは死ぬとあの世へ魂は行く。そのまま魂はあの世に行くのではなく、同じレベル同士の魂が集まる集合地点がある。地球人の場合は三次元だが四次元、五次元に移行進化した異星人だと結び目も四次元、五次元の世界の結び目と中継点になる」

 デグラは腕に装着している装置から立体映像を出して説明する。

 「それはハンター協会や邪神ハンター協会、魔術師協会で習ったわ」

 当然のように言うアンナ。

 「敵は四次元とか五次元レベルの敵ではなくもっと上位の高次元生命体という事ね」

 京極がわりこむ。

 「そういう事になる。時空管理局は時間、時代、時空を歪める者たちや支配しようとする輩やそういった高次元生命体を取り締まるのが任務だ。時空侵略者をほっとけば歴史が改ざんされてしまうからね」

 ルミナスが説明する。

 「どうやって時空侵略者とインテリジェンサーの本拠地と総司令部を探す?乗って行く船はあるのか?」

 如月が聞いた。

 「すくなくとも海上を航行する艦船では不可能ね。ディープワンや異星人の宇宙船をレンタルする事になる」

 草薙が答える。

 「一五〇年前は月面基地を建設できた技術は今では無理ね。その技術のほとんどはディープビジョンやインテリジェンサー関係の企業や利権を持つ者たちによって独占。世界崩壊が起こりその技術は失われた。NASAもその崩壊と同時に消滅したからね」

 宇留鷲がため息をつく。

 「宇宙船を借りてインテリジェンサーを探しに行きませんか。どっちにしても阻止しないといけないと思う」

 黙っていたソヴァルが口を開く。

 「彼らが友好的かわからないけど本拠地や総司令部があれば接触または壊滅する事が任務ね。明日、待機している空母に案内する」

 宇留鷲は言った。

 

 

 

 

 

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る