スパルタンナイト クリスタルと15歳の決断

ペンネーム梨圭

第1章 背後の影

第1話 核戦争後の世界

 今から一五〇年前、核戦争により世界は崩壊した。自分の高祖父は崩壊直前にロシアのモスクワ核シェルターに逃げて助かった五万人もの人々のうちの一人だ。シェルター内で安定して平和とはいかず、避難して助かった人々は各都市ごと派閥に別れて暮らしていた。

 高祖父はある日、ディープワンと呼ばれる生命体がシェルターとシェルターをつなぐトンネルに侵入しているのに気づいた。

ディープワンはテレパシーで会話をして、人間の精神に入り込み操ったりする。サイキック能力も高く、テレポートや物を手に触れずに浮かせる事もできてジャンプ力もビルの三、四階くらいなら余裕で跳べるほどの身体能力があった。その容姿は人間ともかけ離れ、体色は紺色で身長は二五〇センチくらいでがっちり体系。顔は細面のドレットヘアーである。そんな生命体がトンネルに入り込んでいるのを知り、シェルター中心部にある防衛隊司令部にその生命体の事を知らせようと旅立つのである。その旅は楽なものではなく放射能の影響で突然変異したモンスターやミュータントがトンネル内や地上には闊歩していた。そんな場所を高祖父は周囲の人々の助けを借りて切り抜け防衛隊本部にたどりついたのである。たどりつけた理由は旅立って立ち寄った先で防衛隊の一人が渡してくれたテープと鍵にあり、死んだ兵士は防衛隊本部にいる司令官と知り合いであった。そして司令官はかつての司令部があった場所に核ミサイルがあるのを知っており、高祖父と司令官のチームはそこからディープワンの巣に核ミサイルを発射。見事に退治した。しかし、それでめでたしめでたしではなかった。

 二年後。高祖父はある日、ラジオで他の離れた都市からのラジオ放送を聞いた。そこからこっそり放射能で汚染された地上に出てその電波をさぐるうちに列車が走っているのを見つけて成り行きで出会った人たちとかつてのチームメンバーと一緒にその列車を追跡した。その列車は敵対している都市の防衛隊のものだったがそれを強奪してモスクワを飛び出した。その旅も楽なものではなく途中で宗教で支配された町や砂漠の都市、人喰いする基地や自然と暮らす人々と出会い苦労した末にバイカル湖にたどり着いた。そこは運よく放射能汚染、科学物質による汚染がなかった場所だった。高祖父のチームと成り行きで出会った仲間を入れて三〇名はそこで暮らすようになる。その半年後に助けたディープワンの子供が同じディープワンの仲間を連れて訪問してきた。彼らは都市の再建を手伝いに来たのだ。ミュータントと思われていたディープワンは宇宙からやってきた高度知的生命体なのを知るのである。

高祖父たちは同盟を結ぶ。その数ヵ月後には他の都市から移住してきた人々がバイカル湖に次々やってきて現在では十二のの都市となり隣のイルクーツクもあわせて人口も二十万人を超え、今に至るのである。

 僕の名前はソヴァル・飛葉・プルシュコフ。十五歳。母親は日本人で父親はロシア人でバイカル湖十二同盟司令部の司令官をしている。兄や姉はウラジオストクやイルクーツク基地に赴任している。自分は新兵としての半年間の訓練を終えて司令部基地にいる。

 ソヴァルは目を開けた。

 自分は医療用ストレッチャーの上でいつもの点検を受けている。というのも幼い頃、自分は街の外にあるモンスターよけの地雷を踏んで手足をなくし、胴体は損傷という瀕死の重傷を負った。それを助けたのがシエナという宇宙から来た金属生命体である。シエナを連れてきたのはディープワン達である。シエナは死んだ仲間の金属生命体の手足を提供してくれた。金属生命体の手足は成長するに

つれてなじんで融合の苦痛もゆるやかに進んで自分の体は青色のサイバネティックスーツに変わり、腕や外もも、肩や胸のプロテクターは白色に変わっている。俗にいうと僕は金属生命体と人間のハーフになったのである。

 「ソヴァル。異常なしだよ」

 ストレッチャーに寝ているソヴァルに声をかける白衣の男性。彼は手馴れた手つきでソヴァルの体に接続されている五本のケーブルを抜いていく。

 「シド。ありがとうございます」

 ソヴァルは笑みを浮かべる。

 シド博士はアメリカからやってきた科学者である。宇宙物理学や機械工学、発明家でもあり先祖や家族も機械工学や技術者の家柄である。先任の博士の業務を引き継ぐ形でここにいる

 部屋に入ってくる女性兵士。

 「ソヴァル。制御装置」

 「アンナ。ありがとう」

 ソヴァルは渡された直径二十センチの円盤型の装置を胸に装着した。制御装置は半分地球製で半分宇宙人の技術でできている。自分専用の装置である。体内で軋み音が聞こえて体内の機器と接続される。

 日常生活する上では自分の体内に格納されている武器や兵器は使用できないようになっている。

 研究所を出ると基地内の格納庫や滑走路、駐機場、訓練場と宿舎、官舎が見え、そららの設備を囲むように高さ五メートルの分厚い壁によって守られている。壁はモンスターよけとミュータントやグールといった者達から守るためにある。ミュータントやグールは元々は人間だったが高濃度の放射能の影響により放射能に耐性があり人間よりも身体能力が上回り、人間を好んで食べる。身長も普通の人間サイズから三メートルから五メートルと千差万別である。十二同盟の街やイルクーツク、どこかの村や都市にいっても五メートルの壁に囲まれ、壁には砲台や機関砲が据えつけられている。村や町によってはモンスターやグールだけではなく野盗や海賊といった連中から守るためでもある。

 駐機場に行くとジェットエンジン型のオスプレイが何機か駐機されていた。そのうちの一機から自分が配属されたチームメンバーがいる。

 隊長のミラー・ドエトフスキー大佐。自分の父親のウラジミールとは同期で家族ぐるみの付き合いがある。

 自分に制御装置を渡したアンナ・ニコルズ少尉。アメリカから赴任してきている。

 如月隆少尉と京極美佐少尉は日本から派遣されている。緑色の外套を羽織るのはロドリコ・フィルデラルドという異世界からやってきたポルトガル人の魔術師である。そしてシエナはディープワンが連れてきた宇宙からやってきた金属生命体である。

 シエナ達の種族は二百歳までブラックホールの中で育てられ、親達から読み書きそろばんに相当するような教育から軍事訓練を受けて成人の儀式を得て大人の仲間入りをした後、宇宙船と融合して任務に就き、宇宙船から強い宇宙船に乗り換えるヤドカリ生活を送るという。その度に癒合の苦痛が起きて苦しむという

 シエナはそんな金属生命体の集合体から送り込まれた調査員ということになるだろうか。年齢は四一〇歳である。シエナの種族の平均年齢は五千年。男女共に幼さを残す顔立ちにサイバネティックスーツに覆われている。スーツの色も千差万別で色々でシエナは白色に紫色のプロテクターになっている。

 「ソヴァル。乗れ」

 あごでしゃくるミラー。

「出発ですか?」

 驚くソヴァル。

 「コンテナをウランバートル基地に輸送する任務だ」

 ミラーは後ろの二機のオスプレイを指さした。

 「了解」

 うなづくソヴァル。

 三機のオスプレイは離陸して上昇。高度をたもちながら進んだ。

 自分達が乗るオスプレイは一五〇年前の米軍や自衛隊のオスプレイを改良して使っている。昔は石油系だったが現在では宇宙人の技術を入っているので小型の常温核融合炉を使っている。推進装置はジェットエンジンでプロペラ型のオスプレイは練習機で新人パイロットの訓練用となっている。

 京極と如月は両翼にある機関砲座に座り、アンナは屋根のドームに覆われた機関砲座に座る。

 シエナ、ソヴァルはオペレーター席に座りレーダーや小窓から様子を見る。

 積荷のリストを見るミラー。

 ロドリコは呪文を唱えた。手の平サイズの緑色の魔方陣が飛び出して消える。

 空の上でもモンスターは出るがめったに出没しないが警戒は怠ってはいけない。

 小窓から雲海が見えた。



 一時間後。ウランバートル基地の駐機場に着陸した。

 ミラー達が乗るオスプレイに入ってくる中年のモンゴル人将校。

 「タリク・コボドルジ大尉です。政府からの調査でタランサガ基地に向かってくれませんか?」

 地図を出すタリクと名乗る将校。

 「わかった。行こう」

 ミラーはうなづくとパイロットに合図した。

 ミラー達が乗ったオスプレイだけ離陸して基地を後にした。

 「どこに向かうのだろう?」

 ソヴァルはシエナに聞いた。

 「タランサガ基地だよ。ここから五〇〇キロ南下したゴビ砂漠にある。そこの調査に同行」

 シエナが答えた。

 深くうなづくソヴァル。

 敵がいないかの偵察だろう。偵察の他に放射能や有毒な物質に汚染された街や都市からモンスターや追いはぎやロードランナーと呼ばれる集団がうろついていないかの調査もやる。ロシアも一五〇年前の世界の崩壊でモスクワやボルゴグラードといった主要な都市は壊滅している。壊滅しなくても放射能や有毒な化学物質によって汚染されている地区もある。それはロシアだけでなく世界中である。奇跡的になんの壊滅もなく汚染もない都市は無事だった他の都市や町や村と都市同盟を築いている。

 モンゴルも奇跡的に核爆弾の直撃はまぬがれた場所の一つである。

 しばらく行くとオスプレイの高度が下がり眼下に砂漠が見えた。自分達を乗せたオスプレイは砂漠の中にある基地に着陸した。基地や町を囲む高い壁が見えた。

 機外に下りるタリク達。

 輸送トラックから兵士二人が降りてくる。

 「どうした?」

 タリクが聞いた。

 「砂漠の向こうからロードランナーやミュータント、グール、モンスターの群れが集結中との報告が入りました」

 若い兵士が報告する。

 「群れ?集結?」

 わりこむ京極とアンナ。

 「案内します」

 細身の若い兵士が促す。

 輸送トラックに乗り込むタリク達。

 輸送トラックは基地を出て町の先端部分にある壁に到着した。そこにある階段をのぼっていくと見張り台がありここから砂漠を見渡せた。

 ソヴァルの電子脳にいきなりイメージが入ってきた。ロードランナーや群れは何かの電波を受け取りそれに

従うように集まりここへ襲ってくるという映像だった。その映像とは別に爬虫類のトカゲ顔の兵士が光学迷彩装置を使って潜入しているのが見えた。なんでかわからない。唐突に入ってきた。

 「ソヴァル。どうした?」

 ロドリコが気づいた。

 「その大集団はここにやってきます。

 はっきり言うソヴァル。彼は振り向きざまに片腕を機関砲に変形。その片腕の機関砲で虚空や壁や天井を撃つ。

 ガラスが割れる音がして陽炎が揺らいでオレンジ色の戦闘スーツを着用したトカゲ兵士が落ちた。

一人だけではなく五人である。

 「これは?」

 「いったいなんだ?」

 驚きの声を上げるミラー達。

 「インテリジェンサーの偵察兵だ」

 ロドリコとシエナが声をそろえる。

 「インテリジェンサー?」

 聞き返すソヴァル達。

 「一五〇年前。世界の崩壊前に地下にもぐったという伝説の科学者集団がいた。そいつらは国家をそそのかし崩壊するように仕向け、自分達は地面の下にもぐった。都市伝説になっている。僕のいた世界でもインテリジェンサーのメンバーがいてそいつを追いかけてここに来たんだ。やってきた甲斐はあった。情報はつかめた」

 ロドリコはチラッとソヴァルを見る。

 「でもどこにいるのかはつかめていない」

 シエナがうーんとうなる。

 「探すしかないね」

 しれっと言うロドリコ。

 「敵襲!!」

 別の見張り台にいた兵士が叫んだ。

 「二時の方向、十時の方向、十二時方向からロードランナーの襲撃部隊とモングレイル、車両部隊が接近」

 だしぬけに叫ぶソヴァル。

 「ソヴァル。制御装置を預かる」

 ミラーは促した。

 ソヴァルはうなづくと制御装置をはずしてミラーに渡した。

 タリクは部下達に指示を出した。

 町に空襲警報が鳴り響き、兵士達が忙しく行き交う。

 ソヴァルは見張り台から飛び降り、蛍光とともに装甲バイクに変身した。装甲バイクは十二同盟基地にあった装甲バイクである。許可はもらって融合した。

 シエナは背中からジェットパックを出すと飛んだ。

 アンナは全身に炎をまとい京極は冷気をまといフワッと飛ぶ。

 如月は腕輪を外すと壁を飛び降り駆け出した。そのスピードは車やバイクの速度を超えていた。

 轟音を響かせ四輪バギーを改造して装甲を施した軍団がやってくる。

 お世辞にもそこにあるジャンク品をツギハギして溶接した感がでまくりの手作り装甲車とバイクばかりだ。

 武器も手作りしたのかおもちゃめいている。

 如月は走りながら二対の日本刀を抜いた。

 ミュータントやグールにはその動きや太刀筋は見えなかった。気がつくと数十人のミュータントやグール達が袈裟懸けに斬られ運転席や荷台から落ちていった。

 ロドリコは飛び回りながら呪文を唱えた。力ある言葉に応えて赤色の魔方陣が掌底から飛び出して虚空から青色の光線が降り注ぎ、モングレイルと呼ばれる体長五メートルの狼の群れをなぎ払った。

 アンナは炎で焼き払い、京極は凍らせながら飛び回る。

 シエナは片腕の機関砲を連射。バイクに乗っていた前列のミュータント達が地面に落ちた。

 基地から対地ミサイルが命中。装甲バギーの集団が吹き飛ぶ。

 しばらくすると装甲バギーやバイク部隊の襲撃集団がいなくなり巨大なゾウの群れが見えた。

 オリファント部隊である。オリファントは象が放射能の影響で突然変異して凶暴になり目に見える動くものはみんな襲って食べる習性になっていた。それをグール達はその背中に乗って操っている。

 体高は十メートルでマンモスのような牙がありその牙でなんでも破壊する。パワーもあるが砂漠では見ない種類だ。

 ソヴァルはひらめいた。

 バイクの車体からフックを出してオリファントの足に引っかけ周囲をグルグル走り回り、ワイヤーを巻きつけてそのオリファントから離れた。そのせつな、オリファントは引っかかり前のめりに倒れた。

 投げ出される五人のグール達。

 如月が動いた。グール達にその動きは見えなかった。気がついたら袈裟懸けに斬られ倒れていた。

 基地から機関砲や機銃のかわいた音や砲台の轟音が響く。

 ソヴァルはミサイルを発射。正確に二時の方向にいる装甲バギーに命中してひっくり返った。

 「敵の大群は無理だとわかったみたいね」

 アンナは周囲を見回した。

 ソヴァルはブレーキをかけると元の姿に戻った。

 足元や自分の周辺には装甲車や武器の残骸やグールやミュータント、モンスターの遺骸が転がっていた。

 生き残った者達はクモの子を散らすように逃げていくのが見えた。



 

 一時間後。タランサガ基地会議室

 「・・・あなた方を巻き込んで申し訳なかった」

 タリクは頭を下げた。

 「任務だから巻き込まれるのは慣れている」

 ミラーは首を振る。

 「ざっと見積もって敵の総数は五万人であると思います」

 シエナが口を開いた。

 「よく数えられたわね」

 関心するアンナ。

 「それにしてもあんな数をどうやって敵のボスは集めた?」

 如月は疑問をぶつけた。

 「ロードランナーや盗賊、海賊、ミュータント、グールのグループが少なくとも数千グループはあったと思う。それぞれがやりたいようにやってきている連中をまとめるのは相当な凄腕よ」

 京極が口を開く。

 「それは我々も感じている」

 タリクはうなづく。

 「それにソヴァル。どうやって偵察兵を見つけた?」

 ロドリコは数枚の写真を見せる。

 オレンジ色の戦闘スーツを着用している兵士の素顔は薄緑色の肌色で男女共にスキンヘッド。精悍な体格をしている。セイウチのようなあごひげがアゴから六本生えている。

 「こいつらはなんなんだ?」

 ミラー達は声をそろえた。

 「インテリジェンサーの偵察兵」

 ロドリコとシエナが声をそろえた。

 「え?」

 ロドリコとシエナが顔を見合わせ驚く。

 「僕は気配を感じて撃った。ノイズを感じて撃ったらあいつらが落ちてきた」

 困惑するソヴァル。

 「なんの気配も感じなかった」

 「ノイズ?」

 如月とシエナが声をそろえる。

 「不協和音のノイズやセンサーにフッに影が見えて撃った」

 ソヴァルは答えた。

 「インテリジェンサーは実在するのか?」

 ミラーは声を低めた。

 「一五〇年前、世界崩壊前に地下に潜ったといわれている連中だ。科学者集団で「ディープビジョン」と呼ばれていた」

 タリクは資料を出した。

 「ディープビジョン?」

 聞き返すロドリコ

 「影の政府とかディープステートとか呼ばれていたらしい。政治家や財界、経済、軍事関係に仲間がいて大ボスは闇の勢力の宇宙人ではないかと言われている。宇宙人でもいい奴と悪い奴がいてとりわけ時空侵略者は性質がもっと悪くて全時空、全時代、全時間のすべてに自分達が偉大であるのを知らしめるのが使命らしい」

 それを言ったのはシエナである。

 「ソヴァル。日本に来てくれない?」

 京極は話を切り替えた。

 「え?」

 「日本でも海賊達が集団で襲撃する事が多くなってきたからよ。二つ、三つならいいけど、数十のグループを考え方も違う連中をまとめて襲撃が発生しているからそれを操る大元のボスをあなたなら突き止められるのではないかってね」

 京極は真顔になる。

 「それに日本でもディープワンを目撃した者達が多い。彼らと意思疎通ができるのはソヴァルしかいないと思った」

 如月は重い口を開く。

 「確かに僕の高祖父トゥパウはディープワンの子供を地下鉄の対抗勢力から救出したし、大人のディープワンと意思疎通が出来た。十二同盟が発展できたのは彼らの技術のおかげだし、高祖父の力でもあります。意思疎通はやった事がないです」

 戸惑うソヴァル。

 「私も同行したいです」

 タリクがわりこむ。

 「シド博士を連れて日本に向かう事にする。なんで海賊やロードランナー、ミュータント、グールが集団で襲うのか原因がわかるかもしれない」

 ミラーは少し考えながら言った。



 

 二日後。ウラジオストク

 ウラジオストクは今も昔も海軍の街であり冬でも凍らない軍港でもある。奇跡的に核ミサイルが落下しなかった街の一つだ。日本海を隔てた日本と都市同盟を結んでいる。一五〇年前にあった国連は世界崩壊と同時になくなった。いち早く復興させて無事に残った都市や町、村と同盟を築いた者勝ちだ。モスクワやボルゴグラードといった主要都市や政府高官がたくさんいた都市は壊滅している国はどこにでもある。ロシアや日本もそうだし、アメリカもそうである。生き残ったリーダーは生き残った都市や復興した都市、奇跡的に核ミサイルの影響を受けなかった所と同盟を組んだ。世界崩壊で壊滅して連絡が途絶えたままというのも珍しくはない。それに放射能に汚染されてそのまま放置され、グールやミュータントが住み着く事も珍しい事でもない。そういう所はたくさんある。

 基地の格納庫の一角に六畳ほどの整備モジュールがあった、それ以外はオスプレイも戦闘機も駐機していない。

 自分専用のモジュールである。シエナの仲間やディープワンの技術者が造った。十二同盟都市にもあるがここにあるのは予備のモジュールである。金属生命体のハーフである自分はいつもモジュールで暮らしている。

 「入っていいか?」

 不意に声がして振り向くソヴァル。

 ロドリコ、京極、如月、アンナが入ってきた。

 「そういえば自分の部屋に案内するのって初めてだ」

 あっと思い出すソヴァル。

 「シエナやシドから聞いていたけど驚かない。特殊能力を持っている者達の中には特に強い者はこういった専用モジュールに住んでいる」

 如月は部屋を見回しながらうなづく。

 「ていうかこの世界じゃなんらかの特殊能力を持って生まれてくるのは当たり前だし、大部分の人が持っている」

 アンナが肩をすくめる。

 納得するソヴァル。

 一五〇年前までは特殊能力を持つ人達はその能力を隠して生きていたが今ではいつ何時、グールやロードランナー、モンスターの襲撃があるかわからないから特殊能力を持つ人が大半を占める。

 「ロドリコ。その首飾りをいつもつけていますね。すごいノイズと振動を放っている」

 ソヴァルは指をさした。

 チームに入れてもらった当初から疑問に思っていた。なんでノイズや振動、違う周波数を放つペンダントをしているのかと。

 「これは僕のいた世界で伝説の大魔術師アビスが造った物なんだ。宇宙のパワーを集めたパワークリスタルの一種で時空ゲートを開けたり、魔物を召還したりできる。最大のパワーは量子宇宙でも活動できて元の世界に戻れる力を持っている」

 青い宝石を外すロドリコ。

 ソヴァルは青い宝石を手に取った。せつな。脳内で水滴が落ちてその波紋が広がる映像が入ってきた。機械で出来た心臓が早鐘を打ちナイフでえぐられるような痛みとなって体内に広がる。彼は思わす胸のプロテクターを鉤爪で何度も引っかいた。自分のプロテクターは引っかいても傷がつかず硬質ゴムのようにへこむだけ。体内の機器が激しく軋み、肉が割れるような音、骨が軋み歪む耳障りな音が聞こえた。電子脳に大勢の声や音が入ってきて、心臓の鼓動音が響き、体内を何かが這い回り引っかくような痛みのけぞった。

 メリメリ・・・メキメキ!!

 胸のプロテクターが盛り上がり厚さが増していく。普段は五センチくらいだが硬質化しても硬質ゴムのように歪み、厚さが十五センチくらいに盛り上がり、背中のプロテクターもその位の厚さになり金属の背骨が激しく歪むのがわかる。わき腹にいくつもの穴が開いて小さいミサイルの発射口が形成されていく。

 「融合の苦痛だ!!ベットに縛れ!」

 シエナがだしぬけに叫ぶ。

 アンナ達はそこのベットに手足を縛った。

 「何が起きた?」

 部屋に飛び込むシド博士。

 「これに触ったら融合の苦痛が起きたようだ」

 ロドリコが青い宝石を見せた。

 「それはパワークリスタルじゃないか?」

 腕を押さえながら叫ぶシド博士。

 「僕のいた世界で大魔術師アビスが造った物で僕は師匠から継承した」

 ロドリコは縛りながら答える。

 「伝説のパワークリスタルがあったんだ」

 驚くシエナ。

 「なにがなんだかわからないけどそれがあるとどうなんだ!」

 如月が声を荒げる。

 「あらゆる時間軸でも影響を受けなくなり量子世界でも自在に動ける。インテリジェンサーも時空侵略者も狙っている」

 ロドリコが答えた。

 ソヴァルの胸から臀部まで深く断ち割れ、開き、内部の機器や金属骨格があらわになる。

金属と機械の心臓は激しく鼓動して青白く輝き、歯車という歯車は軋みながら回り、血管、神経ケーブルが激しく歪んでいるのが見えた。金属骨格の胸、腹部プレートは激しく歪み、何か新しい機器を造っているのが見えた。

 「僕達にもない激しい進化と同化が見られる」

 シエナが驚く。

 「同じ金属生命体でしょ?」

 アンナが聞いた。

 「いくら僕達でもこんな急激に進化しない。宇宙船と融合した時だけだ。彼は装甲バイクと融合したけどそれくらいだと融合の進化はゆるやかに進む。原因はその宝石だ」

 シエナが答える。

 「そうかもしれないな」

 ロドリコは足を押さえながらうなずく。

 ギシギシ!!

 金属骨格の胸部プレートから腹部プレートが深く断ち割れ、内部の機器が何かの機器を造りだしているのが見えた。

 ソヴァルは身をよじりのけぞり叫び声を上げた。


 

 ここはどこだろう?

 気がついたらトンネルを歩いていた。人間に戻っているみたいだしランニング姿でなんで自分がここにいるのかわからなかった。

 ソヴァルは暗いトンネルを進んだ。

 しばらく行くとゴミだらけの場所に出た。そこにはゴミが山のように積み上げられているが捨てられているのは金属ゴミやスクラップばかりである。足元にマネキンの首が転がってきた。

 「おまえは人間でもなく金属なんだよ」

 そのマネキンの首は目を開けると口を開いた。

 「知っている」

 ソヴァルはマネキンの首を蹴り上げた。

 すると別のマネキンの首が振り向いた。

 「まもなくおまえは宇宙船とも融合ができるようになる。あらゆる機械を操ることが可能になる」

 マネキンの首は声を張り上げた。

 「そんなの知っている」

 ソヴァルは石をつかんだ。せつな、ズン!と突き上げるような激痛に身をよじり、皮膚が青色のサイバネティツクスーツに変わり、胸から臀部まで深く断ち割れ、内部からケーブルが飛び出した。赤い心臓が金属と機械の心臓に変わり、青い光を放ちながら拍動して、骨は金属骨格と金属プレートに変わっていく。胸や背中が盛り上がり、白色のプロテクターを形成していく。赤色だった血液も青白く光る潤滑油にかわっていく。

 「おまえの体は胴体が外れるようになっている。その上、手足も外れるように出来ている。それで敵と戦うんだ」

 マネキンは笑い出した。

 体内から激しい金属の軋み音が響く。

 「こんな心臓を取ってやる」

 ソヴァルはナイフをつかむと心臓を突き刺した。鋭い痛みとともになにがなんだかわからなくなった。



 誰かが体を触っている。自分には生身の部分はなく機械と金属で出来ている。だから不自由はない。いつもシド博士やシエナの仲間がやってきてメンテナンスをしてくれている。

 胸部や背中、腹部、腰、わき腹の接続穴になにかケーブルが挿入されているような音が聞こえる。いつもだから慣れている。胸を誰かが押している。ちょうど呼吸を促すような動作だがその力がだんだん強くなり、金属が軋む音に変わり心臓が鼓動音が聞こえ、胴体が軋み歪み、それが鋭い痛みとなって目を開けた。

 「痛い!!」

 目を開けるソヴァル。

 「目を覚ましたんだね」

 ホッとした顔でのぞきこむシド。

 「メンテナンスなんですか?」

 ソヴァルは聞いた。

 なんで自分は胴体だけで医療カプセルに入れられているのかわからなかった。自分はメンテナンスのたびに手足とプロテクターや生命維持に必要な機器を外されて医療カプセルに入れられる。それは金属生命体からもらった手足のせいでもあるがもう慣れている。自分の本体が胴体だけなのは知っている。金属生命体のハーフはみんなそうらしい。自分が地球では珍しいハーフなのはわかるしあまり周囲にいない。

 「君はロドリコのこの宝石に触って融合の苦痛が起きたんだ」

 シエナは医療カプセルからストレッチャーにソヴァルを載せた。

 「そうなの?」

 ソヴァルは聞いた。

 自分は胴体だけ。本体は細身のマネキンのような胴体。青色のサイバネティツクスーツになっている。残った首から上はあの事故で無傷だったが融合の苦痛はゆるやかに進んで全部、人工皮膚で髪の毛は金属繊維で出来ている。胸、腹部、わき腹、背中に複数の接続穴があり、一番大きいのは臀部と肩口の接続部だろう。この胴体だけだと何もできない。かろうじて内部の動力と予備電源で最小限のエネルギーで呼吸と循環をまかなっている状態だ。隣のストレッチャーに手足が装填済みの「自分の体」が寝かされているが手足や胴体に拘束具で固定されている。

 自分の体だ。

 ソヴァルは目を輝かせる。

 「戻すけどいいのか?」

 シドが聞いた。

 「いいよ。だってこのままだと何もできない」

 ソヴァルが子供のようにせがんだ。

 シエナはうなづくとソヴァルの胴体を抱き寄せてプロテクタースーツに近づける。

 せつな、プロテクターの胸部から臀部まで深く断ち割れアジの開きのように開いた。スーツは胴体や臀部の厚さは10センチでプロテクターの部分を入れると十五センチになる。地層のように金属や機器が幾層に折り重なっているのが見えた。

 シエナはそのぽっかり開いた空間に戻した。

 プロテクタースーツは彼の胴体を包み、ひどく歪み、何かが引っかき回すかのように盛り上がりへこんだ。

 ソヴァルはくぐくもった声を上げて身をよじりのけぞる。胴体の接続口という接続穴にプロテクタースーツのケーブルが挿入され接続されていく。

 メリメリ!!メキメキ・・・!

 肉が割れ、骨が軋み、金属が軋むような耳障りな音が響き、激しい呼吸に硬い金属のプロテクターがゴムのように上下する。五センチあった厚さの胸部、背中のプロテクターが軋みながら盛り上がりソヴァルは目を剥いた。身をよじるたびにプロテクターやスーツに深いシワがいくつも入った。

自分の体が金属や炭素繊維、ゴム、タングステンのような金属が幾層にも重なってできているのは知っている。胸部プロテクターの断面が見えた。地層のように重なった面がそれぞれ歪み、接合されていくのが見える。血管ケーブルや神経ケーブルが激しく蠕動するのがわかる。しばらく激しく身をよじっていたがそのうちに激しい軋み音もなくなっていく。

 ぐったりするソヴァル。

 シドは彼の胸部プロテクターを押した。

 なんともいえない感触でまるゴムと皮革のような肌触りだった。さっきまでは押しても引いても硬い金属でへこまなかったのに手跡がつくほど深くへこみシワシワになる。

 ソヴァルが目を開けた。

 軋み音を立ててプロテクターは元の厚さに戻っていく。電子脳が周囲の状況や自分の体の各部の機能を分析している。

 ソヴァルは胸のプロテクターをおもむろに引っかく。硬質ゴムのようにへこむが傷はつかない。いつもの事であるがまたなんか機能がいくつも新しくくわわっている。

 シドやシエナはソヴァルの胸やわき腹、背中に接続されているケーブルを手馴れた手つきで抜いていく。胸やわき腹、背中にあった接続穴は軋みながらふさがっていく。

 ストレッチャーから起きるソヴァル。

 「僕はどのくらい寝ていたの?」

 「君は十二時間寝ていた。日本への出発は二時間後だだ」

 シドは答えた。


 

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