第10話 秘められた力
朝食を食べ終わるとさっそく荒野へと向かった。転移魔法【天国への門】であっという間に到着する。もちろんパメラは目を輝かせた。
「すごいですわ! これが転移魔法、初めて体感しましたわ。なんか、うにょっとしてちょっと気持ちが悪いですけど……」
「最初はみんなそうなる。だが、すぐに慣れるさ」
この辺りは植物がほとんど生えていない。岩だけがゴロゴロと転がっている無人の荒野になっている。そのため魔物の数は少なく、近くに住んでいる人はいない。付近に利用価値が高い資源も無いため、人が足を踏み入れることは滅多にない。
魔法の練習をするのには持ってこいの場所であった。
「それじゃ、パメラ、肩慣らしに水魔法と氷魔法を使って見せてもらおうか」
「分かりましたわ!」
そう言ってパメラは大人の頭よりも一回り大きな水の塊と氷の塊を作って見せた。なるほど、初級魔法でこれだけの大きさのものを作り出せるのなら、魔法の素養はそれなりにあるみたいだな。
「いいぞ、パメラ。この分だと、冒険者としても十分にやっていけるな」
「え、エル様のパートナーとして、ふさわしいですか?」
「え? あ、ああ、うん、いいんじゃないかな?」
わぁいとパメラが手放しで喜んだ。それを横目にシロがコッソリと話しかけてきた。
「そんなこと言って良いの? 余計に話がこじれるんじゃないの?」
「そうは言うがな、シロ。ここで断ったらきっとパメラは落ち込むぞ? そうなったら、どうやって機嫌を直すつもりなんだ?」
「なるほど、すでに尻に敷かれているわけですね」
何を言うんだ、シロ。これは立派な世渡り術だぞ。わざわざ彼女を悲しませる必要はない。あの落ち込んで小さくなった背中を見ると、なぜか抱きしめたくなるんだよ。
「よし、じゃあ、他の上位属性の魔法を試してみるとしよう。そうだな、まずは光属性からにしよう。この属性は周囲を明るくしたり、穢れを浄化したりするのが得意な属性だ。まずは一番簡単な周囲を明るくすることができる【小さな世界】を試してみようか」
そうして俺は【小さな世界】をパメラに教えた。俺は全属性を使いこなすことができるため、当然のことながらその魔法を使える。
何度かコツを教えると、パメラの手元が少し明るくなった。
「で、できました! やりましたよ、エル様!」
「おめでとう。これでパメラは上位属性二つ持ちだな。それじゃ、次は雷にしよう。この属性は光属性と性質が近いから、パメラが使える可能性は十分にある。最初は【静かな雷】だ。この魔法はちょっとパリッとして、相手をビックリさせる魔法だ」
そう言って試しにパメラに対して使った。パチッと小さな音がした。毛糸でできた上着を脱ぐときに生じるものと同じようなものである。
「ひうっ! あれ、ビックリしましたけどそれほど痛くはないですね。不思議です」
「威力を弱めて使った。威力を高めれば相手をしばらく動けなくさせることもできる便利な魔法だぞ。それじゃ、練習だ」
使うときのコツや、イメージを教えながらパメラを導いてゆく。ときには手をとり、魔力を流し、パメラの体の中で動かしたりした。こうしてパメラとしばらく練習を続ける。
「【静かな雷】! できました! やりましたよ!」
「上出来だ。上位属性三つ持ちは珍しいぞ。胸を張ってもいい」
エヘン、とパメラがその胸を張った。その腕の中ではパメラの魔法によってモッサリに毛が膨らんだシロが迷惑そうにこちらを見ていた。膨らんだシロも可愛いぞ。あとでちゅるとろをあげるから許してくれ。
その後はお昼の休憩を挟んで闇、空間属性の魔法を練習したが使えるようにはならなかった。すでに光、雷属性を新たに使えるようになっていたためか、パメラに落ち込んだ様子はなかった。
「あとは召喚属性だが、これは魔法を使うことができれば全員が使えるはずだ。ただし、この魔法はちょっと特殊で、たくさん勉強する必要がある」
「そうなのですね。それではその勉強をエル様が教えて下さると?」
うん、まあ、そうなるよね。使い方によっては危ない魔法なのであまり詳しく教えない方が良いだろう。それならば、パメラの役に立ちそうな便利な召喚獣だけに絞って教えることにしよう。
「そうなるな。パメラは勉強は嫌いか?」
「いいえ、好きですわ。手取り足取り教えて下さいませ」
このパメラの目は……本気だ! キラキラと星を映したかのように輝いている。本気で手取り足取り教えてもらうつもりだ。別に召喚魔法の勉強では肌と肌が触れ合うようなことはしないんだけどな~。
その日はパメラが覚えた新しい魔法を体になじませることに集中させた。初級魔法を繰り返し使うことで、無意識の中に魔法を使うことを覚えさせるのだ。そうすることで魔法を発動させるまでの時間も短くなるし、少ない魔力で魔法を使うことができるようになる。
それなのに、この国の人々はそんな地道な努力をすることが嫌いなのか、それとも学校では習わないのか、数回しか使えない強力な魔法をやたらと使いたがる傾向にある。これでは、いつまでたっても本当の意味で魔法を習得することができないだろう。
日が暮れる前には家に帰った。食料は買ってあるし買い物に行く必要はないだろう。パメラはもっとやりたそうな感じだったが、しっかり休むことも大事だ。明日まで疲れを残してはいけない。
居間のテーブルに二人分のお茶の用意をしてゆっくりと飲んだ。甘い香りがするそのお茶は、魔力の回復を助ける効果がある特別なお茶である。もうすぐ夕飯のためお菓子は食べない。安物のティーカップなのだが、パメラは文句一つ言わなかった。
「どうだ、少しは自信がついたか?」
「もちろんです。なんてお礼を申し上げたら良いか。これなら学園に通っていた頃に、白い目を向けられることもありませんでしたわ」
パメラが視線を落とした。パメラの言う学園とは貴族が通う学園のことだろう。その目的は学問ではなく、人脈を広げたり、婚約者を見つけたりするために通うと聞いている。その当時、使える属性が一つだと思われていたパメラなら、無能、とまでは言われなくとも、格下に見られていたのかも知れない。
この美貌でこのスタイルなら、同性からの嫉妬はすごかったことだろう。いじめのような扱いを受けていたのかも知れない。間違いなく男性陣からは注目されていたことだろうからね。
夕食の時間になったので二人で食事を作る。すでにお互いに気を遣うことなく、息もピッタリに料理を作っている様は長年寄り添った夫婦感があるな。
本日の夕食は鶏の照り焼きである。それにスープとパンを添える。
食事を食べ始めるとすぐに、明日のことについて話した。
「明日は冒険者ギルドに常時張られている討伐依頼をこなそうと思う。もちろん、パメラの実戦経験を積むためだ。パメラ、魔物を倒したことはあるか?」
「な、ないです」
緊張した声で答えた。食事のときにする話じゃなかったかな。でも、明日の行動の確認は必要だ。
「それならなおさら実戦経験が必要だな。家で留守番しておくならまだしも、俺についてくると言うのなら、魔物との戦闘は避けられないからね。パメラは冒険者になるつもりはないんだろう?」
「そうですね、さすがに冒険者になるのはちょっと……」
さすがに伯爵令嬢が冒険者になるのははばかられた模様である。冒険者に登録するときには冒険者ギルドに情報を提供する必要があるからね。それを嫌がったのだろう。名前が知られれば余計な問題に巻き込まれるかも知れない。
それにしても、パメラはどんな気持ちで俺の所にきたのかな。俺を伯爵家の騎士団長にでもするつもりなのかな? そうなると、俺の仕事は領地に出没した魔物を倒しに行くのが仕事になるのかな? 退屈しそう。
一度聞いてみたいが、これ以上、食事がまずくなる話はやめよう。その後はとりとめのない話をして食事が終わった。
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