第29話 デート
朝食を食べ終わり、『開門の儀』が始まるまで少しの暇ができてしまったので、俺はシオンに声をかける。
「シオン、ちょっといいか?」
「どうしたんですか?」
「ちょっとさ、俺と一緒にお出かけしようぜ」
「お出かけですか?」
「そうそう。デートと言い換えてもいい」
「デっ!?お、おでかけですね!?行きましょう!」
俺がデートという単語を出すと、シオンは顔を真っ赤にしながら誤魔化してきた。おっと、この年齢の子には刺激が強かったかな?すまんすまん。この反応を求めてワザと言ったワケジャナイヨ?
「じゃあちょっとあいつらに伝えてくるからちょっと待っててくれ」
「は、はいぃぃ」
デート......デートかぁ.....と小さく呟いているシオンを残し、俺はニナ達に別行動することを伝えに行く。2階に上がり、女性陣の部屋をノックすると、中からどうぞーと返ってきたので中へ入る。
「ニナ、ゼラ。俺ちょっとシオンと出かけてくるわ」
「シオンと.......出かける?」
「そ、そう。えっと、だめかな.......?」
シオンと出かけると言った瞬間に放つオーラの圧力が増したニナさん。だ、だめですか?遊び呆けてちゃいけんとですか?
「........はぁ、良いよ、わかった。いってらっしゃい」
「お、おお。ありがとう」
だがそれも一瞬のこと。自分の中で整理ができたのか、落ち着いた様子でシオンとのお出かけを許してくれた。いや、これは落ち着いてるってか呆れて物も言えないんでしょうね、うん。またニナからの評価が下がるのは辛いが、元々あってないようなものだ。変わらないよね。
「えっとじゃあ、ゼラも。よろしく頼んだぞ」
「はいはい任されました。じゃ、さっさといってらっしゃい」
一番状況を把握しているであろうゼラに諸々のことを頼むと、だるそうな声と共に手をしっしっとやって俺のことを追い払う。ごめんて、今度なんかお詫びに奢るから。
女性陣2人に呆れられつつも部屋を出ると、ちょうどリューグが廊下を歩いていたので、リューグにも同じことを伝える。
リューグは俺の話を聞いた後「..........ほどほどにしとくんじゃぞ」と言って部屋に戻ってしまった。
なによなによ、別に俺そんなに女遊びしてないじゃんか!そりゃリューグの前で何人か声かけたこともあるけども、あれは社交辞令と言うか、コミュニケーションみたいなとこあるじゃん?
リューグにそんなことを思われていたのかとかなりのショックを受けつつ下に降りると、デートの衝撃から立ち直ったのか、少し頬を赤く染めながらもシオンがこちらを見ながら待っていた。
「お待たせ、シオン。じゃあ行こうか」
「は、はいっ!よろしくお願いします!」
..........刺激、強すぎたかもしれない。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
それからしばらく、シオンと2人で村を散歩した。シオンの着ている服はとても簡素だったので、新しく可愛いワンピースをプレゼントしたり、とても物欲しそうに見ていたぬいぐるみを買ってあげたり、お腹が可愛く鳴ったため屋台でご飯を奢ってあげたりした。え?パ◯活?なんのことかわからんな。
今はもうすぐ始まる『開門の儀』のために、2人で先ほど買ったご飯を食べて腹ごしらえをしている所である。
場所は今日の朝ニナと鍛錬していた、村の外にある草原。門からは少し離れたところにあるため、人の通りは皆無だ。遠くには『開門の儀』のために来たと思える少年少女たちが、門のところで列をなしている。昨日から警備が強化されたからか、村に入るのにも時間がかかっているようだ。
「これ美味いな、シオン」
「そうですね!私、屋台とかの食べもの食べたことなかったんですけど、とっても美味しいです」
草原に2人並んで座りながら食べているのは、ケバブのような物。パンにローストしたチキンと野菜、そしてソースがからめられている日本でも人気の食べ物。
ローストしたチキンの香ばしさと、甘辛いソースが絡み合い、鼻から抜ける香りはとても豊かで。少しくどいくらいのソースを中和するシャキシャキの野菜は、味の調和を保つとともに食感でもこちらを楽しませてくれる。やばいこれ、無限に食べれそう。
それにしても、この子はほんとうに美味しそうにご飯を食べてくれるな。これだけ喜んでもらえると、こちらも奢った甲斐があると言う物だ。
「口にあったようで何よりだ。どんどん食えよ、まだまだいっぱいあるからな」
「あ、ありがとうございます」
一応俺も個人用の
そう伝えたら、シオンは少し真面目な表情になってこちらを向く。なんだなんだ、もしかして女の子に向かってたくさん食えはデリカシーにかけてたか?
「あの、アオイさん」
「な、なんでしょう」
「今日はほんとうに、ありがとうございました。私お金持ってないのに、たくさんのものを買ってくれて.......申し訳ないです」
「ああ、そんなことか。気にするな、好きでしたことだ」
なんだ、怒ってたわけではなかったか。しかしほんとに良い子だなシオンは。アルクトゥスの街には同じネタで嬉々として奢らせまくる受付嬢がいると言うのに。
「でも私、楽しかったです。申し訳ない気持ち以上に、とっても楽しかった!って気持ちがたくさん溢れてくるんです。だから、ありがとうございましたって、言い、たく、てっ」
突然、シオンの目から溢れてくる透き通った雫。それは俺が全く予想もしていなかったことで、俺は慌てふためく。
「おおおいおいおいおい、ど、どうしたんだ?痛いのか?どこか痛いのか?そしたらまた俺が治してやるから、心配するな、な?」
やばい、どうする!?どうすれば良い?というかなんで泣いてるんだ?さっきまですごく楽しそうだったのにっ!
「ご、ごめんなさい。違うんです。私、楽しすぎて」
「楽しすぎて.......?」
「はい。今まで生きてきて、こんなに楽しかった日はなかったんですっ!だから、だから........今日はありがとうございました!」
「っ!」
..........ああ、そうか。そういうことか。シオンが泣くことは全くの想定外だったが、泣いた理由は想定していたことだった。
この子は、シオンはどんなことにも珍しそうに反応していた。服屋でも、屋台でも、雑貨屋でも、昨日の魔動車にも、俺の治癒魔法にも、『開門の儀』の話にも、魔法の話にも。俺たちが語る事に、俺たちと一緒に見るものに、彼女はまるで初めて見たかのように、聞いたかのようにリアクションをする。
ならば彼女は相当な田舎から来たのではないか、田舎だったからそれらのどれをも見たことがなかったのではないかと。そう考えることもできるが、可能性は低い。
ここら辺はアルクトゥスの街近辺ということで、シャンドの村ほどではないがどこもそれなりに発展している。今日ここの『開門の儀』に参加する人ならば、魔動車だって見たことある人がいるかもしれない。
シオンは俺たちと出会った時、簡素なワンピースというこの世界で一般人が1人で長距離移動するにはあまりにも適さない格好をしていた。森の中ならば尚更である。田舎の村ならば魔獣の脅威は十分わかっているはずだ。女の子をそんな格好で送り出すような村はきっと無い。
だから別の可能性を考えた。
「シオン、少し話があるんだが、いいか?」
「グスッ、な、なんでしょうか」
未だ目尻に少し水滴が残ってはいるが、涙はほぼ止まったようで、落ち着いている。感動して泣いた状況で、こんな話をしてしまうことに罪悪感を感じる。
「無理に答えなくても良いし、おかしなこと言ってたら笑い飛ばしてくれよ?」
「ふふっ、なんですか?全然予想がつきません」
今日これを聞くかどうかは、正直悩んだ。だが、考えられる中の最悪のパターンだった場合、俺はそれを聞かなかったことを一生後悔する。
だから、聞かなければならない。
「シオンは、さ」
「はい」
「監禁、されてたのか?」
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