第27話 違和感


 「ごちそうさまでしたー!」


 「ありがとうございましたぁ!」


 美味しいご飯を食べお腹もくちくなったので、看板娘の子に声をかけながら俺は店を後にする。


 いやぁ、それにしても美味かったなぁ。全部美味かったけど、特にあのカツ丼。衣はサクサクで中の肉はジューシー。噛んだ時の外と中の食感のギャップに惚れつつ、溢れて来る肉汁が口内に染み渡る。そこに合わさって来る炊き立てのお米。今度自分でも作ってみようかな。


 先ほど食べた美味しいご飯に想いを馳せると同時、思い出すのは後ろにいた人たちが喋っていたこと。


 少しの違和感が残る。それが何なのかはわからないのだが、どこか心にもどかしさが淀んでいる。あー、気持ち悪い。せっかく美味しい食事といい雰囲気のお店に気持ちよくなっていたというのに。


 「せめて、この違和感の正体だけでも掴みたいな」


 これがなくならないことにはいつまで経っても気持ちは晴れない。基本的に俺は答えがわからないと落ち着かないタイプなのだ。好奇心は猫をも殺すとは分かっているのだが、こればかりはやめられない止まらない。俺の悪い癖ですね。


 と、いうことで。


 「ゼラ、出番だぞ」


 「.........その言い方、なんかうざい」


 「はっはっ、最近探査魔法の精度を鍛えてるんだ。油断したな?」


 先程から、具体的には俺が飯屋から出てきた瞬間から俺の後をつけていたゼラに、俺は声をかける。まあ、飯屋から出てきた瞬間から後をつけられたと言うことは、実際にはその前から居場所は捕捉されていたのだろうが、ゼラの接近に気づけただけでも褒めて欲しいもんだぜ。


 「はぁ、それで、出番って何よ?」


 「この村について、少し違和感がある。ゼラ、何か知ってるだろ?」


 「何よそれ、なんの話?よくわからないわ」


 「ばか言え、お前が知らなかったら他に誰が知ってるんだ。メグレズ王国諜報局の精鋭部隊、『虚義うつろぎ』所属のエリート諜報員であるゼラさんよ」


 メグレズ王国でまことしやかに囁かれている噂の一つ。表向き、諜報局というのは存在しないとされているが、実際には必ずあると。そしてそこのトップ、常人には達成不可能なミッションでさえもこなしてしまう伝説の部隊があるのではないかと。国で大物が死ぬたびに、国民の間ではこの話が出る。


 そして、この噂は事実だ。火のないところに煙はたたぬ。長い歴史のある国だ、国民にバレてもおかしくはないだろう。


 まあ、他国と関わりながら国を運営する以上諜報局というのは必ず必要になって来る。なければ滅ぼされて終わりだ。だから、国民としても妄想しやすい部類ではある。


 そして、目の前にいるゼラこそが、その噂されている諜報局トップ、正式名称は『虚義うつろぎ』と呼ばれている部隊に所属しているエリート諜報員なのだ。


 「.........その言い方やめてよね。無様にもあなたに看破られちゃったわけだし。割と本気で引きずってるんだから」


 あれ、そうなの?てかもしかして、普段俺に当たり強いのそのせい?


 「俺、嫌われてる?」


 「別に嫌いじゃないわよ。ただその.......ちょっと悔しいだけ」


 嫌われてるわけじゃなかった、良かったぁ。てかどんだけ引きずってんだ。プライド高いとこはエリートって感じだな、まったく。


 「で。知ってんだろ、ゼラ。思えばお前が気乗りしないのに来ることはないんだ。今回もなんかあんだろ?」


 魔動車で会った時には顔が死んでいたが、あれは演技だったんだな?ったく、なんでそんなめんどくさいことするかねぇ。


 「はぁ........ほんとあなた、抜けてるとこあるのになんでいつもそんな勘だけ良いのよ」


 「なんでだろうね」


 いやほんと、自分でもよくわからないよね。基本的にはアホなんだけど、馬鹿ってわけじゃないみたいな?行動がアホなのは自分でもわかる。ニナには絶対言われたくないけどね。


 「とりあえず、歩こうぜ。俺宿の場所知らないんだ」


 「はいはい」


 それも含めてちょうど良かったな。別にゼラとしては俺をわざわざ迎えにきたわけではないだろうが、結果的にはそんな感じになったな。


 そうして、2人並んで歩き始める。周りではぽつりぽつりと店の電気が消えていき、先ほどよりも少しずつ静かになっていく。人が少なくなり、この季節にしては冷たく静かな風が吹き抜けた時、ゼラが口を開いた。


 「それで、何が気になるわけ?」


 「そうだな.......まずは、この村の成長の速度。明らかに何かあったろ?それは、村長がやり手とかそんな話で片付けられる話じゃないと思った」


 歩いているときに考えをまとめていたものを口にする。口に出すと考えがより整理されて良いよね。この感覚が好きなのだ。


 「この村の一番凄いところは明かりだ。夜になってもこれだけの店が開いているし、街頭が村のほとんどの道に設置されている。これは魔力がよほど豊富じゃないとできないことだ」


 「そうね」


 「じゃあこの街全域の明かりを賄えるような魔力を、一体どこから得ている?ってのが気になった」


 街頭や店の明かりの動力は、魔力だ。この魔力を融通する方法としてはいくつかある。一つは、魔石を用意すること。魔道具には基本的に魔石がセットされ、そこに内包されている魔力によって魔道具の効果が発揮される。


 ただ、魔石は高いし、この村の明かりの魔道具に魔石がついている様子はなかった。ということは、この方法ではない。


 二つ目は、税で集めるやり方。大都市ではよくあるのだが、税で金と一緒に魔力も納めるという方法だ。まあ納めるというか、魔法陣によって勝手に吸い取っているだけなので自分たちで納めているという感覚はないだろうが。


 一応これは拒否が許されている。そのかわり魔力の分の金を納める必要があるが、プライドの高い冒険者なんかはみんな拒否している。いざというとき、魔力が足りないじゃ話にならないと。いやそんな多く吸われないよとも思うんだが、気持ちは分かる。


 この方法で集めている可能性もあるが、この村で設定されている値ではどう足掻いたって足りない。


 そして3つ目だが、魔力量の多い専属の人を雇うこと。基本的には引退した魔法使いにお金を払って、魔力を供給してもらうもの。


 これが一番可能性は高いのだが、問題がある。それは、供給する魔力が尋常じゃないこと。この村の規模を賄うとしたら、相当のレベルの魔法使いだ。そんなレベルの魔法使いなら、現役中にいくらか名が知られているはず。そんな奴がいたら俺らの耳にも入るだろうし、何より住民が話すはずだ。村長のおかげもあるし、その魔法使いの尽力もあったと。しかし彼らの口ぶりからして、そんな人物はいなさそうだった。


 では村長が大魔法使いなのかという話だが、それもそうだったら住民が言っているはずだと思う。これに関しては、完全に否定はできないのだが、俺の勘が違うと言っている。


 「色々考えたけどさ、誰か個人が、もしくは少人数の誰かたちがこの魔力を供給していると思った。そして、それは住民には知られてない」


 「まあ、そうでしょうね」


 「そんでこの個人ってのも話しててなんとなく見えてきたんだけど、その前にもう一つ。それは、ここが村だってことだ。住民が言うには、数年前から街に昇格する話も出てたらしいけど、結局してない。なんでだ?ここまで頑張って発展したのに、わざわざ昇格しない理由って一体なんだ?」


 そう、そこがわからない。この世界に来たばかりの俺はあまり異世界のことに詳しくないのだ。国に納める税金が高くなるとかしか思いつかないけど、話に聞く村長の感じだとそれを気にして街に昇格しないと言う手段を取る人物には思えない。


 「ゼラには、その理由が聞きたいと思って」


 「そこまで辿り着いてるなら、私が教えなくても自力で行けそうだけど」


 「教えてもらえなきゃ俺はきっと朝までこれ考えて寝れなくなるんだよ。そこだけ教えてくれればきっと全部見えるからさ、頼むよ」


 「はぁ、ま、いいけど。その理由だけどね、村から街に昇格する時って国から監査が入るのよ」


 「監査?」


 「そう。村の人口、技術力、文化水準、経済力、その他諸々。全部審査した上で昇格するわけ。ここの村長は、それが困るんでしょうね」


 「あー、なるほどね」


 そういうことか。つまりは、調べられると困ることがある、と。そしてそれはきっと、俺が先程ゼラに話した魔力の供給源に関することだ。だってゼラがいい線言ってるみたいなこと言ってたもんね。ほんと、知らない顔してちゃんとヒントくれるんだから。このツンデレちゃんめ。


 「わかったわ、ゼラ。あとは自分で考えてみる。ありがとな」


 「別に。寝不足になられても明日の依頼で私が苦労するんだから。あなたのためじゃない。勘違いしないでよね」


 うはーーっ!!生でそのセリフ聞けるなんて感動するぜ!しかもゼラみたいなツンデレ美少女が本気で言っているのはもはや尊死するレベル。


 生の勘違いしないでよねっ、に俺がクネクネ悶えていると、ゼラが「え、キモっ........」と言い捨てながら宿屋に入っていく。どうやら話している間に到着していたらしい。



 キモいって言われて喜ぶメンタルは、俺にはまだなかった。

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