第19話 エピローグ
「さて、広翔君にも話してもらったことだし、今度は俺の番だな」
「あの魔力爆発に、何か心当たりが?」
「ああ、多分な」
正直、1番驚いているのはそこだ。
いや、なんだよ2キロ四方消し飛んだって!やばいだろ!普通に現代の科学兵器よりも強いんじゃないのそれ!?もはややった本人の俺でさえ引くもんね。ないわぁって。
まあしかし、現実は見なければならないだろう。いやでも、占い師にもあの男にも、魔力量多いって言われてたけど..........そんなにとは思わないじゃん?
「えーっとそしたら、俺も攫われた後から話そうかな」
そうして俺は、攫われた後、猿にボコられ、意識を飛ばし、夢の中で謎の男に助けられ、門を開けたことを、手短に話す。
広翔君からも途中で何度か質問があったが、答えられることだったので答えていった。
そうして、2人で情報の交換を行う。
「なるほど、だいたいわかりました。いえ、謎が深まったと言えば深まったんですが........知りたいことは知れたので」
「おう、そうか。それなら良かった」
「それと、今の話で思い出したんですが。蒼さんが気絶した理由、魔力の枯渇によるものでした」
「魔力の、枯渇?」
「ええ。特に、初めて魔法を使えるようになる時に多いんです」
おお、なるほど。初めて魔法が使える、ね。今俺が話したのも俺が初めてちゃんと魔法が使えるようになったということ。何か関係があるのだろう。
「一般的に、初めて魔法を使えるようになることを、『初覚醒』って言ったりするんです。その時に、自分の中にある内魔力が勢いよく溢れすぎて、体内から枯渇してしまうことがあるんです。今までパンパンに詰まっていたものが、バーンッてなっちゃう感じですね」
「ふむふむ」
「そして、魔力量が多い人になると、そういった場合、大規模な魔力爆発が起こることもあるんです。あの魔力爆発は、それと、蒼さんのマリグナントへの殺意が噛み合ってしまった結果なんじゃないかと」
「なるほどなぁ。たしかに、辻褄は合うな」
まあ、理由付けができたからと言って、やばいことには変わりないんだろうが。
いや、個人的には今の話を聞いて、なんだー似たようなことあんじゃーん、俺全然変じゃないじゃーん、と思いたかったのだが。
あの広翔君が、情報交換する時にちょっと引くわぁって顔をしてたのだ。あの広翔君がだぞ?それはちょっと、無視できないよね。
「でも、良かったです。そう言った魔力爆発では、実は初覚醒した本人が吹き飛んでしまうこともあって.............本当に、蒼さんが無事で良かった」
「吹き、飛ぶ?」
「ええ。だからこう、バーンッて。だから、教育のちゃんとしてるところだと、魔力の多い子の初覚醒時にはちゃんと指向性を持たせて放出させるんです。魔法は、イメージですからね」
いや、そんな穏やかに言われても。バーンッて、バーンッて、いやいや、怖いて。
それにしても指向性、か。もしかして、謎の男が言ってたことと関係あるのだろうか。
『死ぬことを、望まないでほしい』と、あの男はそう言った。
それは、死のうと思ってたら、生きようと思っていなかったら、俺が自分の魔力で自爆することがわかってたからじゃないか?
広翔君も今言っていた。魔法はイメージだ。少なからず自分が死ぬことをイメージしていたら、きっと俺は本当に死んでいた。
まったく、あいつはどこまでできるやつなんだ。名前を聞かなかったのが悔やまれるな。次は、ちゃんとお礼を言わなきゃな。
「それじゃあ、蒼さん。あまりお邪魔しても悪いですし、僕はもう行きますね」
「別に気にしなくても良いんだぜ?何にもやることなくて暇だしさ。てか、俺はどのくらいで退院できるんだ?」
「検査も含めて、3・4日程度と聞いてます。その後のことは、まだなんとも」
「そっか、何から何まで、ありがとな」
「ふふ、さっきも言ったでしょう?約束、しましたからね」
はぁぁー、イケメン!なんだろう、他のイケメンは見てて悔しくなるのに、広翔君にだけはそんな感情が湧いてこない。むしろ、良いぞもっとやれっ!て感じだ。これが超スーパーイケメンというやつなんだな。
それじゃあ、また。と言って、広翔君は病室から出て行った。少し寂しいが、今生の別になるわけでもない。
なぜなら、俺は文無し家無し知識無しの3点セットだからな。面倒みてもらわないと生きていけないんだ。いやぁ、情けない。我がことながら本当に情けない。
ま、そんなわけで近々また広翔君には会えるだろう。心配せずとも、な。
広翔君が去り、広く、そして静かになった病室で、ふと1人思考に耽る。
考えるのは、これまでのこと。2日前、いや3日寝ていたのだからもう5日前になるが。
バイト帰りに怪しい占い師に会い、半ば騙されて異世界に連れてこられた。
広大な森の奥地からという絶望的スタートを決め、寝落ちして。朝起きたら、広翔君に襲われた。
なんとか説得して保護してもらったけど、ニックさんには超殺気飛ばされたし、自己紹介は滑り倒した。あれはきつかったなぁ........。
メルと仲良くなって、魔法を教えてもらった。ついでに発現もできたけど、あれはちゃんとじゃないもんな。
そしてその夜には猿に襲われてボコられた。クソっ、ついさっきのことみたいに思い出せるぜ。やり返してやったとはいえ、今でも感情が荒ぶるな。
そして、死ぬかと思った、瞬間に。あの男が、助けてくれた。ちゃんとした魔法を、使えるようにしてくれた。俺がこの世界で、生きていけるようにしてくれた。
............振り返ると、やっぱりあの占い師やばいだろ。スタートの位置が死ぬの確定するような場所だし、異世界について全然説明しなかったし、生きていけるようなアフターフォローもないときた。
はぁ、本当にあいつには言いたいことが山ほどニュルンあるんだよなぁ........あれ、今ニュルンってなった?
不思議な感覚、だけどそれは、どこか慣れ親しんだものでもあるような---------あっ。
我、答えに至り。
ベッドから足を下ろし、窓際に立ち上がって、窓を開ける。
ああ、良い天気だ。雲もない、よく晴れている。風も爽やかで、気持ちがいい。こんな日なら、きっと。
声もよく、通るだろうな。
できれば遠くの、遥か遠くの、まさしく異なる世界まで。
大きく息を、吸い込んで。
それではみなさん、ご一緒に。
さん、はい。
「多汗症、治ってねぇじゃん!?」
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