第18話 知らない天井だ
「知らない天井だ」
人生で言ってみたいセリフ第13位くらいのセリフをなんとなく口ずさみながら、俺は体を起こす。
「え、いや、ガチでどこよここ」
どうやら俺はベットに寝ていたらしい。なんでだ?
確か俺は、謎の男に導かれて門を開け、そのあとボス猿に復讐を果たしたはず。と、思ったが。そこからの記憶が無い。
「おいおい、まさか夢オチか?この流れで夢オチエンドはどう考えても打ち切り--------」
「あ、蒼さん!目を覚ましたんですね!」
「そんなわけないよね。うん、これからも続くよね。よかったよかった」
「...........なんの話ですか?」
「なんでもないよ。こっちの話」
すわ夢オチエンドか!とも思ったが、こちらに駆け寄ってくる広翔君を見つけ、その心配はなかったと安心する。
「ご無事そうで良かったです。蒼さん、3日も眠ってたんですよ?」
「うおっ、マジかよ。リアルにそんな経験するなんてな...........」
漫画なんかではよく見かけるが、まさか自分がそんな状況になるとは。人生わからない物だ。
冷静になって辺りを見回すと、そこには数台の空きベットがある。窓からの外を見ればここは二階のようで、それなりに敷地もありそう。
「てことは、ここは病院かなんかか?」
「そうです。ここは、アルクトゥスの街の診療所です。あの日、蒼さんが気絶してしまっていたので、ここまで運んできました」
「あー、それは申し訳ない。ありがとな」
「いえいえ、約束しましたから。街まで安全に送り届けます、って」
そう言って、広翔君はニコッと微笑む。
なんて良い子だ!眩しい、眩しすぎる!眩しすぎてちょっとウルっと来てしまった。嘘だ。とっても感動して号泣しそうだ。
「それで、何があったんだ?生憎と、俺は自分が気絶した理由も分かってないんだが」
「そう、なんですか。わかりました。それでは、僕がわかる範囲で説明しますね」
「頼んだ」
そうして広翔君は、俺が攫われてからの出来事を語り始めた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
蒼と出会った日の夜、マリグナントに襲撃され、その隙に蒼を誘拐されてしまった広翔は、焦りに焦っていた。
(どうしよう。早く、早く蒼さんを助けないと!)
目標は、一刻も早く蒼を助けにいくこと。だが、目の前の敵が、それを許してはくれない。
敵の強さは、おそらくBプラスかAに成り立て程度。負けることはないだろうが、逆に言えば余裕を持って対処できるほどではない。些細なミスでも、油断をすれば命取りだ。
「バンズが抑えて、ニックはその補助!僕とレナで撹乱する!メルはデカイの頼む!シロナはメルの護衛に!」
『了解!』
完全には吹っ切れないが、頭を切り替え部隊に指示を出す。そして、隊員たちはそれに応える。
マリグナントはその巨体と、巨体に見合わないスピードを持って、広翔達を翻弄する。器用で、魔獣にしては頭も良く、なかなか思い通りに事が運ばない。
少しずつ、少しずつ、時間をかけて相手を削っていく。魔獣の皮膚は硬く、生半可な攻撃では傷がつかない。ならばと、強力な攻撃を放とうとしても、そんな隙が無い。
両者の実力は、拮抗していた。いや、総力で言えば広翔達の方が優れているし、本気を出せば勝ちは揺るがない。マリグナントが、懸命に広翔達に食らい付いていると言った方がいいだろう。
結局、広翔達は、マリグナントを倒すのに20分ほど掛けてしまった。
広翔は乱れた息を整えながら、蒼を救出するべく、指示を出す。
「シロナ、蒼さんの追跡を頼む。少し、時間をかけすぎた。急いでくれ」
「ん、了解」
そう言って、シロナは蒼が消えていった方へと駆け出した。
本当はもっと早くシロナに追跡をさせようと思っていたのだ。だが、マリグナントは強敵だった。1人でもかけていたら、誰かを失っていたかもしれない。
(くそっ!間に合ってくれ!)
広翔は心からそう願う。幸い、と言って良いかはわからないが、マリグナントには獲物を殺す前にいたぶる習性がある。命だけは、助けられるかもしれない。
すぐに蒼が連れ去られた痕跡を発見したシロナが戻ってきたので、広翔達はシロナの先導で移動を開始した。
森の中を、駆ける。戦闘で疲れている体を、酷使する。
その、途中だった。
「っ!隊長!やばいっす!止まるっすよ!」
「どうした、メル--------!!なんだこれ!」
前方から、信じられないほど大規模な魔力の励起を感じる。その魔力の規模は、かつてみた勇者のそれよりも、ずっと大きい。
「うっそだろ、なんだよこれ。バケモンじゃねぇか.........」
「ヒロ、ヤバイんじゃない!?どうすんの!?」
ニックはその大きすぎる魔力に恐怖をこぼし、レナは隊長であるヒロカの指示を求める。
広翔も数瞬、意識が止まっていたが、素早く判断を下す。
「防御体制!バンズが先頭。みんなはその影に隠れて、ありったけの魔力で防壁を張ってくれ!」
隊員達の動きは素早く。防御体制は、魔力の爆発が起こる寸前に、ギリギリ間に合った。
「----------来るっ!」
瞬間、世界が輝く。遅れて、強烈な衝撃に襲われ、その後には、暴風に乗った飛来物が押し寄せる。
何秒かは、わからなかったが。しばらく続いたそれは、魔力の収束と共にその勢いを衰えさせ、止まった。
幸い、魔力の爆発に直接巻き込まれることは無かったようで、部隊の全員が無事だ。
だが、あの方向。広翔達が今、向かっている方角だ。だとすれば、心配になってくるのは、一つ。蒼の安否だ。
大した被害がないことを確認し、再び移動を再開する。目指すは前方、魔力爆発の起きた地。
それが目前に迫り。広翔達の視界に入ったのは----------
「.............凄まじいね、これは」
剥き出しになった地面と、吹き飛んだ木々や生物の残骸。それらも、それほど数は多くなく、殆どが消し飛んだのではないだろうか。
荒野の向こう側の境目はここからかろうじて目視できるかできないか、というほど遠い。
広翔も、隊員も、皆がしばらく口を閉じる。それほどまでに、異常だ。この光景が作られたのも、ましてやそれが一撃で、なんてことも。
足を、進める。ぽつぽつと残骸の残る荒野を、ただなんとなく歩く。それは、導かれるようでもあったが。
広翔達は、奇跡的に、蒼を発見した。
「あっ..........蒼さん!」
地面に横たわっている蒼を見つけた瞬間、広翔は最高速で駆け寄り、心臓の鼓動を確認する。
「........良かった、生きてる。良かったぁ......」
なぜこんなところにいた蒼が無事なのかはわからないが、そんなことには頭は回らず、広翔は蒼の心臓の鼓動に、しばらく耳を傾けていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「そしてその後、みんなで蒼さんを街まで運んだって感じですね」
「なるほどなぁ........」
ツッコミどころはまあ、沢山ある。それこそ、喋り出したら5000字くらいいきそうなくらいにはある。
だがまあ、ひとまず。状況も落ち着き、頭の整理もできた。
そんなわけで、とりあえず一言。
「いやー、スッキリしたぁー」
復讐は、成功したらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます