第9話 報告会

「えーっと、それじゃあ改めて。報告会、始めようか」


 広翔君が部隊の面々にそれぞれ挨拶をし終わった後、俺たちは、全員で円になって焚き木を囲み、座っていた。


 俺の右隣には広翔君が座っており、左隣にはシロナさんが座っている。


 騎士だと言うから、報告会なんかもとてもきっちりやるもんだと思っていたのだが、そんな雰囲気もなく、割と緩そう。だって、メルさんとか今にも寝そうにしてるし。レナさんに殴られた頭を抑えてカモフラージュしているつもりだろうが、バレバレである。


 俺が気づいてるのにみんなが言わないってことは、そういうのも多少は許されるものなのだろう。


 そう思って周りを見れば、レナさんは何やらニマニマしながら妄想に耽っているようだし、バンズさんは.......ずっとニコニコしてるからわかんねぇな。てかあれ目見えてるのか?めっちゃタ◯シみたいな目してんだけど。シロナさんは.......こちらも無表情からピクリともしないのでわかりませんね。てかほんとにこの人たちキャラ濃いな.......。


 ただ、ニックさんだけはずっと俺のことを睨んでいる。ニックさん、真面目なのはいいんだけど、少しくらいサボってくれても良くってよ?


 「それじゃあ、ニック。まずは君たちの話から聞かせてくれ。僕が離れた後は、どうしてた?」


 「ああ。まずは、そうだな。あの時、隊長がいきなり飛び出したもんだから、部隊の動きが一時的に止まった。何か問題があったのかと思って追いかけてバックアップすることも検討したんだが、シロナが『大丈夫』って言ってたし、隊長も待機の命令を一応出してたからな。セスタを使って安全に待機できるポイントを見つけて、隊長の帰りを待ってたよ。その間は、特に報告するようなことはなかった」


 「そうか、ありがとう」


 報告する間もずっと睨んでる、ということは流石にできなかったのか、報告し始めると共にニックさんの鋭い視線は俺から逸らされ、広翔君の方へ向く。


 だが、警戒は微塵も怠っていないのか、視線を外されてもなお感じる身体中に走る嫌悪感。うーむ、ゾクゾクしちゃうね。ゾクゾクしすぎて吐いちゃうかもね!


 しかし、ニックさんが代表として報告していると言うことは、ニックさんはこの部隊では副隊長的なポジションなのだろうか。副隊長ってことは強いんだろうなぁ。俺なんか、1秒有れば10回殺せるとかリアルにあるんだろうなぁ。


 「んで、隊長。今回の件、聞きたいことが山ほどあるんだが?」


 「うん、わかってる。今から説明させてもらうよ」


 そう言って、ニックさんが広翔君のことを少し厳しい目で見ると、広翔君は申し訳なさそうに話し始めた。


 「まずは、ごめん。ロクな説明も無く、部隊を置き去りにしてしまうなんて、隊長失格だ。本当に、すまなかった」


 「別に、隊長のことだからそれなりの理由があるんだと思ってるさ。去っていく時、最低限の指示もしてる。そこは別に怒ってねぇよ。ただ、理由を説明して欲しいだけだ」


 「.........ありがとう」


 大人だ。大人だというか、仲間同士での信頼。こいつはそんな無駄なことしねぇって、心から信頼している、できているその関係。


 目の前でそれを見せつけられて、憧れと同時に、とても申し訳なく思う。


 俺なんかが、本当にこんなとこにいていいのかと。そもそもが、俺が原因で起きている問題だ。あー、ほんとに。罪悪感払いで城が買えそうだ。


 「それじゃあ、順を追って説明していくね。まずは、僕たちがこの任務に就いた目的から、かな」


 「目的?この任務の目的は、魔獣達が最近活発化してる原因を見つけることだろ?ってまさか、そいつが原因なのか!?」


 そう言ってニックさんがいきなり、立ち上がって剣を抜こうとする。それと同時に俺に襲いかかる殺気めいたもの。もう!心臓に悪いからやめろそれ!なんかちょっと慣れてきたけど!


 「違うよ、ニック。早まりすぎ。らしくないよ。落ち着いて、最後まで聞いてくれ」


 「っ!あ、あぁ......すまん。悪いな、続けてくれ」


 「いいよ、気持ちはわかる。ありがとね。」


 「.........おう」


 ふむ、俺は突然の殺気に慌てていたから何がなんやらよくわからないが、2人にもいろいろ事情があるらしい。それが原因で俺が過剰に警戒されているなら聞きたくはあるが、俺にはそこに入っていく勇気はない。


 「じゃあ、続けるよ。それで、僕たちが就いた任務の目的だけど、もちろん事前に説明のあった通り、魔獣が最近活発化している原因の究明だ。部隊全体の目標は、ね」


 「てことは、隊長個人にはまた別の任務が与えられてたってわけか?」


 「そういうこと。そして、僕に与えられた個人的な任務の目標が、蒼さんだ」


 「え、俺?」


 いやまあ、その可能性も考えてなくはなかったけど、どちらかというと俺を見つけたのは偶然なのかと思っていた。だって俺、自分のこと誰かに求められるほど重要な人間だとは思えなかったし。


 「そうです。まあ、蒼さんを確保しろ、という任務ではなかったのですが、おそらくは蒼さんを求めての任務でしょう」


 「なるほど?」


 なるほど、わからん。話がだんだん難しくなってきてはおらぬかね?


 広翔君が探していたのはもともと別の物で、それを探しているときに俺と出会ったけど、実は探し物の目的が俺だった?いや、整理してみてもわからんわ。


 「えっと、もう少し詳しく説明しますね」


 「う、うむ。ありがとう」


 俺が何もわかっていないことがわかったのか、広翔君が気を利かせてくれる。バレてるの恥ずかしー!恥ずかしすぎてうむとか言っちゃったよ。さらに恥ずいわ。


 「僕が命令されたのは、『ザナヴァの森で異界を見つけてくること』。僕が部隊を離れた時、森の中に強烈な異界の気配が突然現れたんだ。その時に、目的はこれだと思った。そして、異界にたどり着き、その中で見つけたのが、蒼さんだった。」


 あーなるほど。ザナヴァの森って言うのはこの森のことかな?森って言うくらいだし、多分そうだろ。異界ってのはよくわからんが、話の流れ的にきっと俺が最初に目が覚めたあそこが異界ってやつなのだろう。んで、広翔君は異界目当てで来たけど、そしたら中に俺がいたと。


 そしたら、最初のあの刺々しい雰囲気も理解できるな。要するに、偉い人が広翔君個人に内密に頼んで欲しがるようなところに、先にいる誰か。そりゃ、怪しさ満点。警戒しないわけないよな。


 「異界の気配だと?そんなもん、俺は感じられなかったが.......」


 「それは、あの異界が蒼さんを核に顕現していたからだろうね。あの時は気づかなかったけど、波動というか、異界の存在が僕が居た異世界の物に似ていた。だからこそ、僕個人に任務が出されたんだろうね。こちらの世界の人じゃ、ニックみたいに気付けないだろうから」


 「はー.......なるほど、そういうことか」


 俺もはーなるほど、と納得したいんだが、いまいち異世界の常識ありきな話になっている気がするので、あまりわからん。俺もこの世界で暮らしていけば自ずとわかるのかしら。


 まあ、とりあえず。ニックさんは一応納得の表情をしているし、他の面々は........よくわからんが、きっと話を聞いて納得してくれているだろう。寝てる人いたり、妄想世界にトリップしてる人もいるけど......。ニックさん、きっと苦労してるんだろうなぁ。


 何はともあれ、異世界側の、広翔君達の事情は大体聞けたわけだ。それなら、次は俺の番だろう。


 自己紹介なんて、名前と無難に音楽好きですくらいの趣味しか語ったことはないし、自己紹介がきっかけで友達ができたことなんてこれっぽっちもないが、これには俺の命がかかっている。


 今こそ!今までアニメや漫画やラノベなどの創作物を食い漁ってきた成果を見せる時!


 同情を引き!慈悲を乞い!なんとしても安全な場所まで保護してもらうような演説をしなければ!


 「えっと、それじゃあ次はみんなに蒼さんの紹介をするね」


 そんな俺のスペシャルなやる気を感じ取ったのか、広翔君が俺の紹介へ話を進める。


 「この人は、天水蒼あまみずあおいさん。僕と同じ日本からの転移者です」


 「はい!ただ今広翔君にご紹介に預かりました天水蒼と言います!」


 ふっふっふ、まずは印象のいい明るい挨拶から。自己紹介の基本ダネ。おっと、こんなものはまだジャブだぜ?俺にはあと右ストレートとアッパーカット、卍蹴りにがぶり寄り、果てはロケットパンチまであるのだ!


 さあ、このフルコースを喰らって、俺のことを保護したくなるがよい!


























 広翔君の優しさが、沁みました。


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