第8話 新キャラ続々

「ニック、とりあえず中に入れてくれ。このまま外で話してたら危険だ」


 「あんたなら、どうとでもなりそうな気はするが.......まあそうだな。入ってくれ」


 ニックさんがそう言うと、今まで木や葉っぱしか見えなかった空間が、人一人分の大きさくらいの範囲で揺らぎ始める。


 それが揺らぎ始めてから3秒ほど経つと、そこには人一人分の四角い穴が開き、その穴の奥には、今までそこには見えていなかった、男の人の姿があった。


 身長は俺や広翔君よりも高く、おそらく180センチ中程。体格も、今にも服がはち切れそうなくらいとは言えないがそれなりに良く、俺が喧嘩を売ったら瞬殺されそうなくらいには強そう。腰の左側には剣が携えられており、それを右手で掴んでいる。


 髪は緑色の短髪で、瞳の色は黄色い。そしてその黄色い瞳は、そのまま強くまっすぐ俺に注がれている。


 この世界に来て、初めての異世界人っぽい、地球にいた頃にはリアルじゃ見たこともない色味だが、それが全然変じゃない。その事実に、多大な感動を抱いたのだが、その余韻に浸っている心の余裕は、ない。


 「ありがとう、ニック」


 「まあ、隊長は割と頑固だからな。俺がここで何か言ったって無理なこたぁわかってんだ。危険なのももっともだしな」


 広翔君がお礼を言っているが、ニックさんは俺から視線を外すことなくそれに答える。


 視線は強く、また剣を握っているところを見ると、相当警戒されているようだ。


 「ただ、あんた。名前は、アオイ、とか言ったか?少しでも変な真似してみろ、隊長がなんと言おうと、俺があんたの首を跳ねるぞ」


 瞬間、俺の体がゾッとする。冷や汗が滲み出し、鳥肌が立ち、体の力が抜けて腰から倒れてしまいそうになる。


 殺されると、本気で思った。ニックさんとはまだ距離が離れているにもかかわらず、まるで目の前で俺の首に剣を当てているような、そんな感覚。


 頭が、回らなくなっていく。この感覚の正体を考えるなんて、到底できそうにない。


 後もう少しで、本気で漏らしそうになった時、ニックさんと俺の間に、広翔君が割り込んだ。


 「ニック、やめてくれ。蒼さんは、こっちの世界に来たばかりだ。そういうのには慣れてない」


 「っつ、あぁ。悪い」


 「蒼さん、大丈夫ですか?」


 「え?あ、ああ、うん。だいじょぶだいじょぶ。心配すんなって。は、はは」


 広翔君が心配の声をかけてくれたので、なんとか気丈に返す。が、きっと無理してるのはバレているだろう。


 いやぁ、やばかった。広翔君が遮ってくれなかったら、気を失ってたかも知れない。だんだんと恐怖は消え、冷静さも戻ってきているが、まだ体の小さな震えは収まらない。


 「ニック、とりあえず中に入るよ。良いね?」


 「あぁ、そう、だな。入ってくれ。」


 そう言って、広翔君はニックさんの方に歩いていく。おそらく、あの四角い穴の中が結界なのだろう。俺も、広翔君に置いて行かれないようにその後をついていく。


 四角い穴を通り抜けると、そこには想像していたよりも広いスペースが確保されていた。おそらく、20メートル四方くらいの大きさはあるんじゃないだろうか。


 なんでわかるのかといえば、先ほどまで膝丈くらいの長さがあった草たちが無く、茶色い地面が顔を出しているからだ。邪魔だから切ったりでもしたのだろうか。


 ただ相変わらず、でかい木はちらほらと生えている。この森、多いところではそれこそ、人1人がぎりぎり通れるくらいのスペースを残して木が密集して生えている、なんてこともあった。そこに比べれば、ここら辺は一本が太いしでかいが、数はあまり多くない。このスペースの中も木は4本ほどと、非常に少なくなっている。まあ、そういうところを選んだのだろう。


 そして、そのスペースの真ん中には大きめのテントが2つ。そのテント周りには、朝食を作っている途中だったのか、焚き木や動物の肉が乗っているフライパンなどが放置してある。


 そして、何よりも1番気にしなければならないのは、目の前にいる人達。広翔君に向かって敬礼をしたり、腕を組んで広翔君を睨んでいたり、堪えきれなかったのかとても眠そうに大きなあくびをしていたり、無表情にこちらをじっと見つめていたりと、非常に個性豊かな4人の人達。


 彼らは、いや、比率は女の人3で男の人1だから彼女らと言った方がいいのかも知れないが、それはともかく。彼女らはそれぞれ、広翔君やニックさんと同じような格好をしている。武器はそれぞれが違うものを使うのか、剣は付けてたりつけてなかったりだが。


 広翔君が4人の前に到着すると、整列している4人の中で唯一、広翔君に向かって敬礼をしていた男の人が、手を下げ広翔君に向かって喋りかける。


 「ヒロカ隊長。おかえりなさいませ。ご無事で何よりです。まあ、元よりあまり心配はしておりませんでしたが」


 「ありがとう、バンズ。ニックから聞いていたけど、君たちも平気そうで良かったよ。それより、心配してくれなかったのは、少し寂しいかな」


 「ふふ、ヒロカ隊長の強さは理解してますからね。私ごときが心配するというのも、おかしな話ですよ」


 「まったく、君は相変わらずだなぁ」


 男の人、バンズさんはそうして、にこやかに広翔君に話しかける。広翔君も無事に仲間に会えてホッとしているのか、とても嬉しそうだ。


 広翔君はバンズさんとの会話をそこで一旦切り、次はバンズさんの隣の女の人に喋りかける。


 「えっと、レナ?視線がちょっと厳しいんじゃないかと思うんだけど........」


 「へぇ、そう?気のせいじゃない?まあ?『はっ、この気配はっ......ごめんみんな、先に行く。君たちはセスタを使って待機していてくれ。』とか言って勝手にどっか行っちゃった人は、それなりに文句言われても仕方ないと思うけど?」


 「えっと.......ごめんね?その、あの時は少し焦ってたんだ。悪かったよ」


 「ふんっ........まあ、今度の休日に買い物付き合ってくれたら、許してあげるわ」


 広翔君は怒りが和らいだ様子のレナさんにありがとうと告げると、次はレナさんの隣の、目を擦ってとても眠たそうにしている女の人に声をかける。


 「メルは、相変わらず眠そうだね」


 「そうっすねぇ。自分、ただでさえ朝弱いのに、隊長が帰ってきたからってこんな時間に叩き起こされて........あと5時間は待って欲しかったっすよ」


 「5時間待ったらもう昼じゃない。てかあんた、昼に起きても同じセリフ言うでしょ」


 「レナ、当然っす。昼は昼でお昼寝しないといけないんすよ?文句言うに決まってるっす」


 「あんたねぇ.......」


 「あはは、ごめんね。今日はちょっと急いだからさ。次からは気をつけるよ」


 「ヒロ、あんたちょっと甘すぎるんじゃない?」


 「逆にレナはいっつも厳しすぎっす。オニババっすよ」


 「はぁぁ!?ちょっ、もういっぺん言ってみなさい!って、逃げるな!」


 メルさんがレナさんに文句を言って逃げると、怒ったレナさんがそれを追っていく。メルさんは言った瞬間に逃げていたので、あれは確信犯だろう。


 そんな何やら楽しそうなやりとりをした後に、広翔君は1番左にいた、無表情な女の子に声をかける。


 「シロナ、ただいま。ごめんね、急にどこかにいっちゃって」


 「ん、わかってる。で、その人?」


 「ああ、後で改めてみんなの前で紹介するけど、天水蒼あまみずあおいさん。僕と同じ日本から来た人だ」


 「ふーん、そ」


 シロナさんは(さんと言うよりはちゃん、と呼んだ方が良さそうな風貌だが)それだけ言うと、テントの方に歩いていってしまう。先程のニックさんには相当に警戒されたのだが、あの子はあまり気にならないのだろうか。


 しかし実は、俺がこの結界の中に入った時から、シロナさんは俺のことをじっと見つめてきていた。それこそ、ずっとだ。無表情だったため何を思っての行動かはわからないが、警戒されているわけではないと思いたい。


 しかし、一人一人広翔君と話したところを見たが、これはなかなかみんな個性的だな。騎士だというからてっきり軍隊みたいな、超厳しくて坊主のゴリマッチョがいっぱいいるのを想像していたんだが、そんなこともないようだ。


 さて、俺はこれからこの人たちに事情を説明し、理解を得て保護してもらわなければならない。さっきニックさんに殺されそうになって割とびびっているが、やるしかない。


 広翔君も、後で改めてみんなに紹介すると言っていた。まずはそこが勝負だ。気合を入れねばな!

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