第5話 第一村人発見!
「余計な動きはしないで。特にその右ポケットに入れてある手。何を持っているかは知りませんが、動かした瞬間斬り飛ばしますよ」
いや、おい。ちょっと待ってくれ。
さっきまで、というかつい今まで、俺はたしかに前方から来る音と対峙していたはずだ。
なのになぜ、なぜ後ろから左手を取られ後ろに回し動かせないように固定され、俺の首には何か硬く冷たく、そして鋭いものが当てられているのだ。
というかもしかして、いやもしかしなくてもこれ、刀剣の類を押し付けられているんじゃなかろうか。プレッシャーが、やばすぎる。
しかし、そんなことよりも俺が1番混乱しているのは------
「人、だったのかよ.......」
そう、この暗い森の中を、あかりも持たずに移動していたのが"人間"だったということ。
てっきり俺は熊か何かだと思っていたので、人と会話をする準備なんてこれっぽっちもしていない。
そうして、俺が想定もしていなかった邂逅に一言呟くと、俺の動きを拘束している、おそらく声からして若い男だろう者が力を強める。
「ああ、すみません。言葉が足りませんでしたね。動くな、だけではなく喋るな、も追加しておきます。こちらが尋ねたことに、必要最低限答えることだけ許します」
「痛い痛い!」
「.......はぁ。もう一度言いますけど、こちらが尋ねたことに答えるときだけ喋ってください。馬鹿にしてるんですか?」
それはこっちのセリフだ阿呆が!!腕捻りあげられて声が出ねぇわけねぇだろ素人舐めんな!
というかなんだこいつ。言葉遣いの節々に丁寧さを感じるが、俺に対しての容赦のなさ。声だけ聞いたらいいやつそうなのに!
「ではまず、ここで何をしていたのかを聞かせていただきましょうか。こんな場所で、こんな時間に。しかも、ろくな装備も持ってないみたいですし......どうやってここまで来たんですか?」
こんな場所と言われて、しかも装備をきちんと揃えないと来れないような所。
なるほど、つまりはここは森の結構深い所なんだな?良かった、闇雲に動かなかった俺の判断は間違ってなかったようだ。
っと、今はそんなことを考えている場合じゃない。慎重に、言葉を選んで質問に答えなければ。下手な答えをしたら、本当に斬られるかもしれん。
「あー.....別にここで何をしていたわけでもないんだ。ただ転移というか、ゲート?みたいなものを潜ったと思ったらいつのまにかここにいてな」
「ゲート......?そういえば、その髪色に格好.....でもそうだとしたら尚更どうしてこんなところに.....」
なんだ?よく聞こえないが、何やらブツブツ呟いている。もしや何かまずいことでも言ってしまったのだろうか.....。
「.....とにかく、確認してみるしかないよな。えと、あの、すみません。一つお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「え?あ、あぁ。良いですよ?」
おいおいなんだよ。態度がいきなり変わりすぎじゃないか?さっきっから状況が動きすぎて訳がわからなくなってきたぞ。
「もしかしてあなた-----異世界から来たんじゃないですか?」
「なっ!」
どういうことだ!なんでそんなことがわかるんだ!?鑑定とか、そういうスキル的なのがあるのかな!?くそっ、本当に頭がパンクしそうだ......。
あーもう、とりあえず冷静に、落ち着いて考えなければ。
さて、どうする。どう答えるのが正解だ?
はいかいいえの2択だが、まあ嘘をつくことはできないな。
なぜなら俺はこちらの世界に来たばかりだ。いくらなんでも、嘘をつくための情報が少なすぎる。そんな状況で嘘をついたって、きっと整合性が取れなくて後で絶対バレる。で、殺される。
であるならば、最初から自分は異世界人だと打ち明ける!それでもし協力を得られそうなら御の字じゃないか!殺されそうになったら.....その時はあの占い師さんを呪いながら死んでやろう。
まあ相手が異世界という単語を出したんだ。もしかすると、こちらの世界では異世界人というのがありふれているものなのかもしれない。その存在がいいのか悪いのかは、わからないが。
「あぁ。あんたの言った通り、俺は異世界からここに飛ばされてきたんだよ。こっちに来たのは昨日の昼くらいで、ここから動いてもない。だから、こっちの世界についてはなんも知らないんだ。悪いことをしてしまったなら謝る。だから、多めに見てはくれねぇか」
こうして事情を話せば、許してくれるかもしれない。まあ、未だになぜ俺がこんなにも警戒されているのかはわからないが、これが伝わってくれれば警戒も多少は緩くなる、はず。
「なぁ、頼むよ」
「.......わかりました。様子を見た感じ、あなたはこういったことに関しては素人のようですし、先程は暗くてよくわかりませんでしたが、よく見れば顔や髪、服なんかも異世界のものですしね」
「わかってくれたか!」
そう言って、俺を拘束していた男は俺から手を離す。拘束から解放された俺は、痛む手首を押さえつつ、左腕を肩からグルグル回す。あー、痛かった!
「本当に、申し訳ありませんでした。こんな時間にこんな場所で、しかも明かりもつけないとなると警戒せざるを得ず.......すみませんが、もう少しお話を伺ってもよろしいですか?」
「あぁ、まぁ気にしないでください。俺もそんな奴いたら怪しすぎると思うんで。話なら、いくらでも。ただ、あんまり喋れることはないですけど。」
相手の警戒が極端に薄れ、場の空気も穏やかになる。相手の口調もより丁寧なものに変わり、それにつられて、さっきまではパニックで荒くなっていた俺の言葉遣いも丁寧なものになっていく。
「えーっと、じゃあまずは、異世界から来たと言いましたが、どこの出身なんですか?」
.......?出身?こんな時間にこんな場所にいる詳しい状況を説明するんじゃなくて?
「あー、一応日本ってところの出身です」
「日本なんですか!よかったぁ」
んんん?俺としては伝わらないだろうなぁと思って言ったんだが......日本を知ってるのか?
というか、よかったってどゆことよ。
「よかったっていうのはその......どういうことなんでしょう?」
「ああ、すみません。申し遅れました」
男がそう言うと、頭上からいきなり光が舞い込む。暖色の淡い光のため目にダメージはないが、もう朝なのだろうか。
なんて考えが浮かんだ、その一瞬。
「僕も同じく日本から来た----」
俺の後ろに立っていた男が、俺の前に回り込んでくる。俺の目の前に立ったその男は、身長は俺と同じくらいで、黒髪黒目。顔は童顔で、しかしどこか精悍さも合わせ持っていて、造形は悔しいほどに整っている。文句なしのイケメンだ、10点満点中100点だ。
「----
そんな目の前のイケメン男、神楽坂 広翔かぐらざか ひろかは、その整った優しげのある顔に控えめな微笑みをに浮かべながら、しかしそんな穏やかな表情とは裏腹に、俺の脳に情報という名の強烈な爆弾を、フルパワーで叩きつけてきたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます