第4話 闇の中の死闘(誇張)

 ガサガサッと、音が次第に近づいてくる。


 少しずつ、少しずつ、発する音も小さいが、しかしそれは確かな存在を持って、こちらに近づいてきていることが、十分に伝わってくる。


 (やばいやばいやばい!俺の方にまっすぐ進んできてねぇか?てことは、もう俺の存在に気づいてるってことだよな?くそっ、どうする!?)


 寝起きからのいきなりの展開に、俺は混乱する。が、生きるために、頭をフル回転させ、目の前の問題に対処せねばならない。


 草食の動物が自分よりも大きなやつにわざわざ近づいていくことはないだろう。と言うことは、この音の主は少なくとも俺よりも大きいか、自分より大きなものに怯える必要がないものである。


 と言うことは、これすなわち。


 (肉食ってことだよな、どう考えても!)


 肉食の動物ならば、ほぼ詰みかもしれない。


 手元にある、唯一武器と呼べそうなものはさっき折っておいた木の枝くらいである。


 こんな木の枝でも、中型くらいのやつには効果があるかもしれないが、熊などの大型の動物だったとしたら、おそらくなんの役にも立たないだろう。


 そもそも、木の枝を持ったところで、野生の動物とまともに戦えるはずがないのだ。こちとら剥き出しの自然なんてものにはとんと触れたことのないお坊ちゃんだぜ。


 なんとかして、怯えさせることはできないだろうか。熊よけの鈴とか、スタングレネードみたいに相手を怯ませることができるものとか---


(---ある、かもしれない。十分に役目を果たせるかわからないけど、似たようなことはできる)


 そうだ、音や光を出すだけならアレで、スマホでできるじゃないか。


 異世界について早々、充電の消費を抑えたくて電源を切ったっきり、思考からその存在を外してしまっていた。


 こんな状況だ。充電の消費など気にしていられない。幸い今は夜だ。相手の目はこの真っ暗な闇に慣れているだろう。そこにスマホのライトを直撃させれば、十分な効果が見込めるかもしれない。


 その考えにたどり着いた瞬間、俺はすぐさまポケットに手を突っ込み、スマホの電源ボタンを長押しする。


 まだ、ポケットから出すわけにはいかない。


 俺のスマホだと、電源をつける際に画面が少し光ってしまう。相手を怯ませるにはそんな半端な光じゃ足りない。逆に、それを見せてしまえば光というものを警戒される。


 だから、襲われる瞬間。敵が最大限近くまで来たタイミングで瞬時にやらなきゃならない。


 幸い、この間機種変更した俺のスマホはホーム画面の左下にライトをつけるボタンがある。


 慣れないうちは勝手にライトがついてビビったもんだぜ。


 だが、その経験がここで活きる!そして俺は生きる!やるぞ、俺の機種変アタックをお見舞いしてやる!


 そう意気込んで、俺は目の前に集中する。目が慣れてきたとはいえ、暗い森の中の全てが見通せるわけではない。


 見るべきは、いや、聞くべきは音。今も耳に届いてくるその音は、もう10メートル先に届いていそうだ。


 夜の森は恐ろしいほどに静かで、あたりに響くのは何かが草をかき分ける音と、俺の荒い息遣いのみ。


 のはずだが、俺の耳には、うるさいほどにわめき散らす自分の心臓の音や、酸欠からかキーンとなる耳鳴り、ごくりと唾を飲み込む音まで聞こえる。こんなに静かな空間で、こんなにも、うるさい。


 ええい、こんなにうるさくちゃ敵の音が聞こえない!くそっ、鎮まれ俺の体よ!じゃない!それだとなんかえっちぃわ!静まれ、俺の体!


 やばいな、緊張で頭がおかしくなってる。よくわからんことを考えてしまう。


 あの占い師さんよく見たら可愛くなかった?とかそういえば鮭といくらでも親子丼になるなぁとか、さっきえっちぃって思ったけどなんでHがえっちなんて恥ずかしい象徴にされてるんだろう、ただのアルファベットだよね?とか。


 くそっ、これが走馬灯ってやつか!見る機会が来るなんて思っても見なかったわ!(✳︎違います)


 なんて、そんな益体もないことを考えながら、音が近づいてくるのを待つが、妙に長く感じる。時間が経つのが、遅い。


 10メートルほどの移動だ。それほど時間はかからないはず。きっと実際の時間は6・7秒くらいなのだろうが、俺にはそれが30秒にも1分にも感じられる。


 体中の冷や汗が止まらない。ガタガタと震えてうまく噛み合わない奥歯が、カチカチと不快な音を立てる。膝は笑い、鳩尾あたりには吐き気に似た何かが押し寄せる。というか本当に吐きそう。


 音はもう目の前に迫っている。というのにその姿が一向に見えない。でも音がするのだ、きっとそこには何かいる筈だ。


 もうすぐ、後、少し.........今っ!!


 「くらえ機種変ア--」


 「動かないで。下手な動きを見せれば、即座に腕を切り落とします」


 「.........え、あ....は?」


 どういう、ことだ?


 後ろから声?声、というか言葉、だよな?


 というかなんで後ろ?前の音はなんだったんだ?もう1人いるのか?というか----












      え、第一村人、発見?




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る