第6話 神楽坂広翔

 


 情報量が多すぎる。状況の混乱が止まらない。あの占い師さんに出会ってからというも の、これで何度目だ?


 「あー、えっと.......ひろか君、だっけ?」


 「はい、そうです。それで、あの、あなたの名前も教えてもらっても良いですか?」


 「あ、あぁ。俺の名前は、天水 蒼、です。その、よろしく」


 「はい!よろしくお願いしますね」


 しかもこいつもこいつでなんでこんなに態度変わってんだ?いや、同郷だったからってのはわかるんだけど、それにしたって素直すぎると言うか、すげーいい笑顔向けてくるし。


 俺の混乱にも、拍車がかかる原因になってる。


 「それで、蒼さんは、というか蒼さんって呼んじゃっても大丈夫ですか?その、僕より年上.....ですよね?」


 「ああ、俺はもうすぐ20歳だけど、ひろか君はいくつなの?」


 「やっぱり!僕まだ17なんですよ!だから、蒼さんって呼ばせてもらっても、いいですか?」


 「あ、うん。全然良いよ?別に呼び捨てでも良いしさ」


 「いやいやそんな!先輩ですし、大人ですしね。ん?そうなると......蒼先輩でも良いなぁ」


 なにこの子!めっちゃグイグイくるやん!ちょ、なんで!?なんでこんなに懐かれてるの俺!?


 広翔君の押しが強すぎて、俺の口調も変わってしまっている。最初は敬語で喋っていたんだが.....なんというか後輩力が強い子だな。


 てゆうかさっきまで手首掴んで拘束して、首元に剣押し当ててたっていうのに、今はこんなに懐いてくるという、そのギャップがすごすぎて、ちょっと怖い。


 「あー、それで。話逸れちゃってるけど?」


 「あっ、ごめんなさい。それで、蒼さんはどうしてこんなところにいたんですか?」


 「どうして、かぁ」


 ほんと俺、どうしてこんなとこにいるんだろうね。いや、自分で望んだよ?望んだんだけどさ、まさか本当に異世界があるなんて、しかもいきなり森スタートなんて信じられないじゃん?もうね、もうねぇ........


「えーっと、どうしたんですか?なんだか遠い目をしてますけど......」


 「あ、あぁ。ごめんごめん。それでえっと、どうして俺がここにいたかだったね」


 そうして俺は、異世界に来ることになった経緯を広翔君に説明する。占い師さんに会ったこと、そうしたら占い師さんに魔力やら異世界やらの話をされたこと、冗談半分に聞いていたら白いゲートみたいな物が出てきていつのまにかここにいたこと。


 「とまぁ、こんな感じ。んで、一晩寝て起きたら、広翔君に会ったわけ」


 「......なるほど。そうだったんですね」


 そう一言つぶやいて、広翔君は俯き、1人思考に耽ってしまう。なんだろうか、何かおかしいことでもあったのだろうか。


 「広翔君の場合は、俺とは違ったのか?」


 「.....あっ、ごめんなさい。えっと、そうですね。僕の場合は、ええ。蒼さんの場合とは、結構違うかもしれません」


 「そうなのか?じゃあ、広翔君はどうしてってか、どうやって異世界に?」


 「僕の場合は.....蒼さんとは違って、最初は街の神殿に飛ばされました。周りには神官さんみたいな人がたくさんいて、すっごい怖かったですね」


 そう言って、広翔君は苦笑いする。どうやら、俺とは違って街スタートだったらしい。ちくしょう、羨ましいぜ!


 これはあれか?担当の所為なのか?確かにあの人なんかズボラそうというか、最初はしっかりしてるなって思ったけど口調変わってからポンコツっぷりが溢れ出した気がしたんだよなぁ......。


 「そうなのかぁ。というか、それってあれか?」


 神殿にいきなり現れる異世界人。


 そんなの、最近ゲームやラノベで描かれるアレそのものだろう。


 「広翔君ってその.....勇者だったりすんの?」


 確かに、目鼻立ちはとても整っていて、髪もサラサラだし、若干気弱そうな感じもするが、それも優しげって言ったほうがいいような感じ。


 さらに、全身から立ち上るキラキラした雰囲気。これで勇者でなければ、なんだというのか。


 しかし、広翔君は目を丸くして少し驚いた様子を見せた後、微笑みながら否定する。


 「いえいえ、言われてみれば確かにちょっと勇者っぽい状況でしたけど、そんなことないですよ。いまは、一応騎士をやっています」


 「あれ、そうなのか。いやー、てっきり女神様なんかにこの世界の命運を託された勇者なのかと思ったぜ」


 「ふふっ、確かにこの世界には『魔王』も『勇者』もいますけどね。僕はまだそれほど強くはないですよ」


 「えっいんの!?『魔王』も『勇者』も!?」


 「ええ、ちゃんと居ますよ、2人とも。『勇者』様には、僕も会ったことありますし」


 うぇえええ!やっぱりいるんだ『勇者』と『魔王』!やっば、さすが異世界!テンション上がるなぁ!


 「広翔君、『勇者』に会ったことあるんだ、すげぇな」


 「一度だけですけどね。魔物の討伐でご一緒したことがあって......恐ろしいほど強かったですよ、『勇者』様は」


 「すげぇなぁ。ってか、そうか。広翔君騎士やってるって言ってたな。えっと、まだ17だし、日本出身なんだろ?その......戦えるのか?」


 そうだ、『勇者』や『魔王』のインパクトに呑まれてしまったが、元日本人の広翔君が騎士をやるなんて。大丈夫なのか?


 「大丈夫ですよ。これでも僕、結構強いんですから!」


 「そ、そうなのか」


 確かに、俺を拘束した時は、訳が分からなかったもんな。前から音がすると思ったらいつの間にか後ろにいて、手首取られただけで身動き取れなかったしなぁ。


 「んじゃあさ、元日本出身なのに、なんでそんな強くなったんだ?さっき言ってたけど、魔物?とかとも戦ってんだろ?」


 そう、先程言っていたけど、『魔物』。


 魔物っていやぁ、ゲームとかでも出てくるモンスターってやつだろ?


 3メートル位ある鬼だったり、人を丸呑みする犬だったり、それこそ伝説のドラゴンだったり。


 どいつもこいつも、一般人には到底どうにもできない存在だ。それこそ、屈強な兵士とか、魔術師とか、『勇者』とかにしか打ち倒せないような、まさしく怪物であるはずだ。


 そんな存在を、目の前のこの子が倒すという。17歳で、体格も良い方ではあると思うが、ムキムキってわけではないし、何より平和な日本で生まれて日本で育ってるんだ。


 いったいどうやったらそんな存在を倒せるような人間になれるのか。


 俺は、心底疑問に思う。


 「そう、ですね。まあ、死ぬほど訓練をしましたし、戦いの才能も、僕の師匠曰く飛び抜けているとも言われました。でも、多分蒼さんが言ってることの答えとしては、不適切ですね」


 「それじゃあ、明確にこれって理由があるのか?」


 「ええ、あります。これがなかったら、この世界の人類は魔物に蹂躙されてしまうでしょうし、僕だって普通の人のままだったはずです。」


 なるほど。つまりは、地球にはなかったけどこの世界にはあって、さらには万人がそれを享受できるようなもの、と。となると-----


 「魔力、か?」


 「そうです!すごいですね、蒼さん。まだ、この世界に来て間もないっていうのに」


 「いやまあ、元の世界とこっちの世界で明確に違うものなんて、今んところ魔力くらいしか知らんからな」


 そう、この世界に来て1番に思ったこと。それが、空気の違い。体に纏わりつくような感じ。体を大きく動かせば、それはより顕著にわかる。今だって、意識をすれば感じ取れる。


 「つまるところ、この世界で生き抜くためには魔力をうまく使えるようにならないといけない。そういうことだな?」


 「そういうことです。僕だって、魔力がなかったら今頃どうなっていたことか」


 そう言いながら広翔君は苦笑いを浮かべる。きっと今まで大変な目に遭ってきたのだろう。そりゃそうだ、いつからこっちにいるのかは知らないが、まだ17歳で、異世界で騎士をやっているという。さっき自分でも言っていたが、死ぬほど訓練もしてきたみたいだ。


 ん?となると、これは俺も同じことをしないといけないのか?


 異世界出身の人たちは、生まれた時から魔力に触れているだろうから、その扱いには長けているはず。


 そんな中で、今まで微塵も魔力に触れてこなかった人間が生きていこうというのだ。これは、実は相当頑張らなければならないんじゃないだろうか。


 はぁ。先行きが一気に不安になってきた。



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