第69話


「あ、もうそろそろお昼だよ。お兄さん!」


「ホントだね。いろいろ作りすぎちゃったしちょうど良かったかな」


「それじゃあ青藍ちゃん呼びに行ってくる!」


「うん、いってらっしゃい」




 もみじがその場から消えてからしばらくして玄関のほうが騒がしくなってくる。




「しず君! ただいまー」


「おや、かなでおかえり。茜さんもおかえりなさい」


「あ、はい。ただいまです。あれ、子供たちは?」


「おや、かなでから聞いてないのかい?」


「? 聞いてないです」


「かなで、みどりさんには教えてるよね?」


「もちろんよ! というか、その場所に茜ちゃんもいた気がするんだけど」


「え? あ! ピザ窯?」




 その場にいたと聞いて思い至ったのか手をポンと叩いたあと首を傾げる。そんな茜に静人は頷きつつ笑う。




「そうそう、さすがにここに作るのはいろいろと問題があってね。だからあっちに作ることにしたんだ。僕らは夕方になるまで道が開かないからここで待機だけどね。青藍ちゃんと桔梗ちゃんはあちらでピザ窯づくりの準備中。もみじちゃんはお昼になったから呼びに言った感じかな。みどりさんは多分材料を届けに行ったんだと思うけど」


「え、あたしに言ってくれれば届けるの手伝ったのに」


「茜ちゃんお疲れだったじゃない。いや、まぁ、資料整理結構大変そうだったししょうがないとは思うけど」


「あたしの存在意義がぁー、力仕事ぐらいしか役立てそうなの、ないのに」




 よほどショックだったのかその場で膝をつき地面にひざまずく。冗談交じりなのが分かるからか笑いながら見ているともみじが帰ってきた。さすがに子供には見られたくないのか茜はすぐに立ち上がる。




「ただいま! あ、お姉さん達もいる!」


「おかえりなさい、もみじちゃん。青藍ちゃん達は?」


「みどりお姉さんが材料を持ってきたからそれを一か所にまとめてから来るって」


「それこそあたしの役目なのに……。あたしも手伝いに行ってきていいですか?」


「いいわよ。しず君。いい匂いがするってことはご飯の準備は終わったのよね?」


「もちろん。あとはまぁ、みんな揃うのを待つだけなんだけど。僕たちは何もできないからね」


「それもそうね。というか運ぶものって何?」


「耐火煉瓦とかかな?」


「それじゃあ、あたしも行ったほうがいいですよね。じゃ、行ってきます!」


「あ、行っちゃった。私も行ったほうがいいのかな?」


「もみじちゃんは私と一緒に配膳しようか。茜ちゃんが行ったからすぐに帰ってきそうだし」


「そっか、それじゃあ配膳頑張る!」




 配膳を終わらせてから少しの時間が経った頃にみどりたちが帰ってきた。




「ただいまー、お、ええ匂いやん」


「あ、おかえりなさい。みどりさん。青藍ちゃん達もお疲れ様」


「重かったけど茜さんが来てから早かった」


「茜はすごいのだ。わしらが少しずつ運んでたのを一気に全部持って運んだのだ。しかも全く疲れた様子がないのだ!」


「あはは、それだけが取り柄ですからねー」




 褒められるのが嬉しいのか謙遜しつつも顔はにやけている茜に、桔梗はさらに追い打ちをかける。




「む、そんなことないのだ。いろいろと優しいところもあるし、頑張り屋さんなのだ。それに……」


「あはー、そこまでにしとき桔梗。茜が恥ずかしさで死ぬ一歩手前まで来とるから」


「んえ? いや、そんなことないですよ?」


「顔真っ赤やけどな?」




 そこまで褒められると思っていなかったのか茜は恥ずかし気に顔を真っ赤にしつつ俯いていると、そのことに気付いたみどりがからかう。




「あはは、皆さんお疲れ様です。おいしい料理が冷めちゃいますから食べましょう」


「お、デザートもあるやん。これも作ったん?」


「クッキーだけじゃないんだよ! フォンダンショコラもあるの!」


「おー、またえらいおしゃれなのを作ったんやな。出来立てなん?」


「まだ粗熱をとってる最中なので、ご飯を食べ終えたころにはちょうど良くなってると思いますよ」


「お、それは楽しみやな。この料理も美味しいし最近は楽しいことばっかりや」


「それは良かったです」




 豚肉の生姜焼きを食べ終え、食後のお茶と共にデザートを食べながらまったりとした時間が流れる。青藍は満足そうにお腹を撫でながらも魚がなかったことに不満げにしていた。




「美味しかった。でもお魚無かった……」


「夜はピザを作る予定だし、今日は魚どうしようか」


「お魚、お魚」


「ま、まぁ、刺身ぐらいならつけれるやろ。ピザ以外にもなんか作るん?」


「今日はピザだけでも大丈夫そうだけど。スペアリブとか作る?」


「あー、なんか今日のは体に悪そうというかなんというか。美味しそうやけど。若干刺身が浮いとる気がするけどまぁええんやない? あ、今日の夕方はうちらだけで作るんやろ?」




 昨日の会話を思い出したのかみどりがかなでのほうを見ると、かなでは頬をかきながら悩むそぶりを見せる。




「そうね。その予定だけど」


「なんや歯切れ悪いな。なんか問題でもあるん?」


「このままだと茜ちゃんがピザで、刺身は買ってくるでしょ? スペアリブを焼くとしたら作れてもあと数品でしょ?」




 指を折って人数と品数を数えるかなでの様子に、なんで歯切れが悪いのかが分かったのか納得したように頷く。




「あー、せやな。でも、凪さんとかグラさんとか来るんやし、多少は品数多くてもええんやない?」


「そう、ね。うん、多くてもいいかな。よし、たくさん作っちゃいましょう」




 かなではどこか吹っ切れた様子で腕をまくる。




「いや、まぁ、今食べたばっかりやしもうちょい後で作ろな?」


「あ、そうね。そういえばピザはあっちで作るのよね?」


「せやな。ピザ窯あっちにあるし」


「他の料理はあっちで作るの難しいからこっちで作るとして……、どっちで食べる?」


「あー、うちは別にどっちでもええんやけどみんなはどっちで食べたい? あれ、青藍たちはどこ行ったん?」


「青藍ちゃん達なら、ピザ窯立派なのを作るって、張り切ってあっちに行ったよ」


「そ、そか。まぁ、あっちで聞いてくるわ。二人はここにおるやろ?」


「僕はここで待ったりするつもりだからね。かなでは?」


「私もここでゆっくりしときましょうか。食材の買い足しもしなくて良さそうだし」


「分かった。せやったらちゃちゃっと聞いてくるわ」


「いってらっしゃーい」




 子供たちに加えてみどりもいなくなり静人とかなでの二人きりになった。久しぶりに二人になった静人たちは少し照れくさそうに顔を見合わせる。


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