第68話


 楽しく宴会をした次の日朝食を食べ終えたころにみどりがやってくる。もはや自分の家の感覚なのか玄関ではなく家の中に直接転移してくる。




「今日は朝からおはようやでー」


「あ、みどりちゃん。今日はお仕事大丈夫なの?」


「大丈夫。というか正直むしろ暇なんよ。今うちの会社で忙しそうにしてんの茜くらいやで?」


「あ、茜ちゃん今日は早く上がれそう?」


「大丈夫やろ。というか今頃死に物狂いで頑張ってるんやない? 子供に悲しい顔させるの苦手やし」


「それが得意な人はあまりいないと思いますけどね。さてと、ピザ生地仕込むくらいはしとこうかな?」




 みどりの言葉に苦笑しつつ静人は立ち上がりキッチンへと向かう。みどりもその提案には頷く。




「せやなー。それくらいはしとかんとさすがに厳しそうやな」


「でも、それしちゃうと邪魔になったりしない?」


「邪魔になったら僕らで作ればいいんだよ。本格的な物は作れないけど家庭で作るものなら作れるから。あ、ピザ窯とか必要なのかな?」


「あったほうがいいかもやけどさすがに簡単には作れんやろ?」


「設計図があるなら私が作ろうか?」




 ピザ窯のことを忘れていた静人が思い出したようにみどりに聞いていると、青藍が会話に割り込んできた。そんな青藍にみどりはゆっくりと首を横に振る。




「いやいや、青藍でもさすがにそんな簡単には作れん……やろ?」


「分かんない。でも今から作るなら夕方までに軽く家ぐらいなら作れるよ?」


「あー、せやったらいけそうやな。というかなんでそんなにやる気満々なん?」


「美味しいものを食べるため」


「せやったらしゃあないなー」


「それで納得するのね。とはいえピザ窯の設計図ってあるのかしら?」


「パソコンで調べてみようか。それであったらピザ窯作るチームとピザ生地作るチームで別れようか」


「じゃあ、うちはどないしよか。調べてる間に茜の様子でも見てこようかな」


「それじゃあお昼までにはパソコンで調べるのやめるんでその時には帰ってきて下さい。お昼ご飯食べます?」


「了解。あ、昼食は一緒に食べたいんやけどいいん?」


「もちろんよ!」




 遠慮がちに聞いてくるみどりに力強く頷くかなで。いきなりのかなでの登場に驚いたのかみどりは体をビクッとさせてかなでのほうを見る。




「うわ、びっくりするやろ。かなでさんはなにするん?」


「そうね、一緒に調べるのもいいけどそこまで人数必要ないし。いっそのことみどりちゃんについていって茜ちゃんの様子を見てみたいかも」


「さすがに連れていくのは……、まぁええけど。車で一緒に行くん?」


「みどりちゃんに私の運転を見せて……」


「みどりさん、かなでの運転はやめておいた方がいいと思いますよ。と、一応忠告だけしときますね」




 真剣な表情で言う静人に何かを感じ取ったのか、みどりは顔をひきつらせる。




「そ、そか。うちも免許持っとるからうちが運転するわ」


「むむ、大丈夫よ? しず君はちょっと大げさに言ってるだけよ?」


「いや、ええわ。うちが運転する。たまには運転しないと忘れてしまうし」


「もう、大丈夫なのに」


「まぁまぁ、それじゃあ行こうと思うんやけど、なんか欲しいもんとかあるん?」


「今のところは無いですね。あ、ピザ窯の素材とかってどうしましょう」


「あー、作るってなったら教えてや。かなでと一緒におるつもりやし。かなでに連絡入れてくれればええから」


「分かりました。その時はお願いします」


「別にええよ。ほな行ってくるわ」


「茜ちゃんの所に遊びに行ってくるね!」


「いや、一応仕事中やから静かにしとってな?」




 かなでを連れて自分の職場に向かうみどりを見送る。




「おにいさんこれとかダメかな?」


「えっと……、お、これは良さそうだね。一応他のも調べてみてこれ以上のがなさそうならこれにしようか」


「このアーチを作るのに時間かかりそうだけど、他のは積み上げるだけだしそこまで難しくなさそう」


「このアーチを作るのは時間がかかりそうだね。アーチを作らないで作ってみるかい?」


「どっちのほうが美味しいかな?」


「どうだろう、作ったことないからなぁ。結局は料理人の腕になりそうかな。あ、でもアーチを作ったものの方が調べてると多い気がするし、もしかしたらそっちの方がいいのかもしれないね」


「家庭用とは違う本格的な物は今日だけじゃ無理かも」


「まぁ、今日のは家庭で作るものでいいんじゃないかな。そんなに毎回作るものではないし。本格的なのはまた今度にしようか」


「分かった。それじゃあ今回はこれにするの?」




 青藍が調べてきたものを軽く見た静人は頷きそれを作ることに決めた。




「そうだね。今回はそれにしようか。幸いにも作るときの動画もあるみたいだし。材料も載ってるしね。ちょっとかなでのほうに材料のリスト送っておこうかな」


「お昼ご飯食べたら早速作るの?」


「そうだね。あ、でもここに作るのはちょっとまずいかな。もみじちゃん達の家に作ったほうがいいかな」


「私もその方が作りやすくていい」


「そうかい? おっと、かなでから準備しとくって連絡来たしあっちで作ろうか。あれ、でも確か夕方以外には入れないんじゃなかったかな」


「お兄さんたちは無理だけど私たちは入れる。だから作るのは私だけになると思う。桔梗は材料運び手伝って。もみじちゃんは料理の時間になったら教えて準備してくる」


「む? 分かったのだ」


「私は手伝わなくていいの?」


「もみじちゃんは料理の時が忙しくなるだろうし、役割分担。それに誰か一人はこっちにいないと時間が分からなくなるから」


「むー、分かった。手伝いがほしくなったら言ってね?」


「分かった。それじゃあまたお昼ね」




 そういうとその場から消え青藍はあちらの世界に戻った。桔梗もそれを追うかのように静かに姿を消した。もみじと静人は家に残り何をしようかと頭を悩ませる。




「青藍ちゃんも桔梗ちゃんも行っちゃったし、とりあえずお昼ごはんの準備だけしとこうか」


「分かった! 今日は何作るの?」


「そうだね。今日は簡単に豚の生姜焼きとか作ろうかな。それとお菓子を作ろう」


「お菓子も作るの?」


「作るよ。今日はみんな疲れて帰ってきそうだからね。疲れたときは甘いものって決まってるから」


「そうなんだ! お菓子は何作るの?」


「軽くつまめるクッキーとケーキはフォンダンショコラでも作ろうか。お昼まで時間はあるし」


「ふぉんだんしょこら。分かった! この前もらった本に書いてたやつだ!」


「そうなのかい? それじゃあなんとなくは分かるかな?」


「うん! 作り方も覚えたから多分大丈夫!」


「それは頼もしいね。それじゃあ作ってみようか」


「うん!」




 今までたくさんいた人数が急にいなくなり寂しくなった二人だったが、料理を作ることで気がまぎれるのか料理中は楽しそうな表情に変えた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る