第67話
「あれ、茜さんは?」
「茜ならご飯を黙々と食べた後にお風呂に行ったで?」
「そういえば一言も発さなかったけど、よほど疲れてるのかな?」
「まぁ、茜は肉体的には強いんやけど、頭脳労働は苦手でな? 今日はたまってた事務仕事してもろたからそれでやない?」
「適材適所じゃないんだね。全部やれることはやるんだ」
「そらまぁ、それ専門の者もおるけど自分のことくらいは自分でやれるようにならんとな?」
「あー、それはそうだね。というかそんなに難しいことをするのかい?」
「いや、単純にどこに行って何を買ったのか、とかを書くだけなんやけどな? あとの細かい計算とかは専門がおるし」
「あー、それぐらいならしないとね。ただの書類整理みたいだし」
「まぁ、書類整理もそんなに多くあらへんし。数日も経ったら元に戻るやろ」
「早く元気になってほしいですね。ご飯を食べる気力があるならまだ大丈夫かな」
「せやな。これからも美味しい料理を食べさせてくれたら嬉しいわ」
「あはは、分かりました。そういえば前にかなでと料理を作るみたいな話をしてましたけど明日一緒に作りますか?」
「あー、そういえばそんな話あったねぇ。まぁ、暇やし明日やったらええか」
「あら、ホント?」
静人の言葉で思い出したのかみどりが軽く了承すると俺を聞きつけてかなでが近づいてきた。そんなかなでにも軽い調子で了承する。
「別にええよー。何作るん?」
「そうね。みどりちゃんは得意料理とかある?」
「うちの得意料理? うーん。とりあえず和食やろか? 今回食べたものみたいにフランス料理とかは無理やよ?」
「大丈夫! 私にも無理だから!」
「そんな胸張って言うことかいな。まぁ、シンプルに揚げ物とかやろか? あー、青藍もおるし魚の煮つけとかでもええかもしれへんな」
「魚の話?」
「明日のあー、晩御飯の話やな」
魚という単語を聞きつけて現れた青藍に、みどりが説明をすると納得したのか頷いてまた離れていった。
「どうせだしいろいろ作ってみる? 炊き込みご飯とか味噌汁とか正月っぽいものとしてだし巻き卵とか!」
「あー、ええなぁ。そういえば凪さんとグラさんは明日も来るん?」
「おー? 来てもいいなら来るぜ? 別に暇だしよ」
「私も大丈夫です。というか店長一人だけを送り出すのはちょっと」
凪の言葉を聞いてグラが落ち込んだ様子で凪を見る。
「なんか俺の信頼度めっちゃ低くない?」
「気のせいです。来てもいいんですか?」
「僕らはもちろん大丈夫だよ。ね、かなで?」
「ええ! もちろん! どうせなら凪ちゃんも一緒に作る?」
「え、良いんですか? だったら私も一緒にお手伝いしたいです」
「俺は料理無理だし、まぁなんか別の手土産でも持ってくるかな。あ、そういえば酒持ってくるって話してたな。かなでも飲めるんだろ?」
「え? まぁ、人並み以上には飲めるんじゃないかな? 誰に聞いたの?」
「そりゃ、静人しかいねえだろ。なんか好みの酒とかあるか? 甘口とか辛口とか」
「もう、しず君。あまりこういうのは教えちゃだめよ? いろいろと言われるんだから。あ、私は辛口が好きね」
腰に手を当てていかにも怒ってますというようなしぐさで静人のほうを見るかなでに、静人は笑顔で軽く頭を下げる。
「あはは、ごめん。でも、別に気にすることはないだろう? ここにいる人はそういうのを気にする人じゃないし」
「まぁ、そうでしょうけど」
そこまで怒ってなかったのかかなでは腰に当てていた手をおろし、頬に手を当ててため息をつく。そんな様子を見ていたグラはニヤニヤしながら話に加わる。
「お、夫婦喧嘩は終わったか? 辛口のやつか、なんかいいのがあった気がするし明日持ってきてやるよ」
「ありがとう。隠す必要もないし明日は物凄く飲むからね。覚悟しててね」
「はっはー、覚悟する必要もないくらいたくさん持ってきてやるよ。家に置いたまま飲まないのは勿体ないし」
「確かにそれは勿体ないわね。私が全部飲んであげるわ」
「全部はやめて欲しいが、いや、別に飲まねえしいいのか? まぁいいや。その代り美味しいつまみ作ってくれよ?」
かなでの発言にグラは顔を少し引きつらせたが、よくよく考えるともったいないという考えに至ったのか、最後には笑顔でつまみの催促をしていた。
「任せて! あ、今回は女の子だけで作るからね! しず君は休むこと! 分かった?」
「あはは、それじゃあお言葉に甘えて明日は料理作るの休もうかな。待ってる間は読書でもしとこうか」
「よろしい。腕によりをかけて作るから楽しみにしててね?」
「私も頑張るよ!」
「もみじちゃんも張り切ってるね。明日は頑張ってね」
「うん!」
「うちも張り切ったほうがええんやろか。というかどうせなら茜も呼んだほうがええんちゃう?」
自分以外の張り切りように首を傾げたみどりだったが、料理に参加していない茜のことを思い出したのか話題に出す。
「ハッ、そういえばそうね! 茜ちゃんも呼びましょう!」
「茜はピザ作るん上手いでー。今でもたまに作ってるから腕も落ちとらんやろうし期待してもええで」
「ピザ! 初めて食べる! 料理本で見たよ! チーズを使うんだよね?」
「せやでー。こう熱々のうちに食べるとな? チーズが伸びるんやで?」
「面白そう!」
「せやなー。それに美味しいで」
「食べたい!」
みどりの身振り手振り付きのピザの説明に目を輝かせるもみじ。そんなもみじは話が終わると同時に青藍のほうに向かっていった。
「まぁ、その辺は茜ちゃんに聞いてからよね!」
「さすがに断らへんと思うけどなぁ? なんだかんだで子供好きやし」
「あー、子供好きなら断れないかもね。こんなに楽しみにしてる子がいるんだもの」
「せやな。なんだかんだでもみじだけやなくて青藍とかも楽しみにしとるみたいやし」
「ふふふ、もみじちゃんが身振り手振りで教えてるわね。あ、桔梗ちゃんも加わったみたい。これはピザが明日でないと泣いてしまいそうね」
「せやな。悲しむやろな。ピザの材料買っといて明日渡しとこかな」
「さっきお風呂に行ったってことはもう眠るのかしら?」
「あー、確かに今日は疲れた顔しとったからなぁ。明日は早めに仕事終わらせて帰らせんとなー」
「ふふ、大変ね」
「大変なんやでー。あ、お風呂から今あがったみたいやな。ちょっと教えに行ってくるわ」
「頑張ってねー」
みどりが歩いてくるのに気が付いた茜は髪の毛をタオルで拭いながらみどりのほうを向く。みどりからの話に相槌を打ちながらも驚いた顔で首を横に振っていたが、それを見たみどりがもみじ達のほうに目線を移し、それにつられるようにもみじ達を見た茜は顔を引きつらせながらも諦めたようにうなだれた後に頷く。
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