第70話


 久しぶりの二人きりの状態に照れくさそうに顔を見合わせる二人。普段いる子供たちがいないからかとても静かな空間でゆったりとした時間を過ごす。




「あはは、なんか急に二人だけになると静かに感じるね」


「そうね、最近はいつもみんながいたものね。前はこれが普通だったんだけどねー?」


「あはは、そうだね。それでもみんながいて活気づいてる方が僕は好きかな」


「そうね。私もその方が好きよ。こうやって二人きりの時間ももちろん好きだけどね? 」


「あはは、それは良かった。もちろん僕もこういう時間も好きだよ。……今日は僕が手伝っちゃいけないんだよね?」


「そうよ。今日は私たち女子の腕を見せることも目的なんだから。あれ、今日って凪ちゃんたち来るのよね?」


「そのはずだよ。お酒を持ってくるみたいな話してたし、多分来るのは夜になるんじゃないかな?」


「あー、そういえば私がたくさん飲むからってしず君言ったんだっけ?」


「あはは、そうは言ってないよ。ただ、僕に気を使ってる気がするみたいな話はしたような気はするけど」




 かなでの言葉に微笑みつつ記憶を呼び起こすように頭をあげる。




「あ、しず君も一緒に飲むの?」


「かなでは知ってるでしょ? 僕がそこまでお酒飲めないの」


「まぁ、そうよね。缶ビール一本で酔うというか気持ち悪くなってたものね」


「梅酒ぐらいなら何杯か飲めるけどね、チューハイも駄目だからなぁ」


「まぁ、そこまで気にしなくていいわよ。私がしず君の分まで飲むから!」


「体壊さない程度にね? まぁ、そのまま眠る分には構わないけど」


「そう簡単には寝ないわよ。そういえばみどりちゃんとかもみじちゃん達とかも飲んだりするのかしら」


「見た目は子供だけど中身は違うからね。みどりさんは飲みそうだけどもみじちゃん達はどうだろう?」




 大人の姿を見慣れているからかみどりが飲む姿は想像がつくが、もみじ達が飲んでいる姿は想像できないみたいで首を傾げる。




「桔梗ちゃんは飲みそう。だけど、飲んだことあるのかしら?」


「あー、そういえば料理もあまり食べたことなかったからね。お酒もそこまで飲んだことないんじゃないかな?」


「たしかに。もみじちゃん達は飲めなさそうよね。青藍ちゃんとかはちょっとでも飲んだら酔っぱらいそう」


「確かに弱そうだね。まぁ、飲む機会もそうそうないと思うけど」


「そうよねー、あの見た目だし誘われることは無いかしらね。興味持ったらなめる程度に渡してみようかしら」


「まぁ、年齢的には大丈夫なのかな? ちょっと抵抗がある気もする……」




 お酒を子供が飲むような光景になるのを想像したからか苦い顔をする静人に、かなでも気持ちはわかるのか苦笑しつつも無理やり納得する。




「見た目は子供だからねー。まぁ、大丈夫よ。無理やり飲ませるわけじゃないし」


「なめるくらいならいいかな? まぁ、この話はいいか。その時になったら考えよう」


「それもそうね。それじゃあ話を変えて、と……。今年の抱負みたいなものでも考える?」


「今年の抱負かぁ。とりあえず楽しく安全に一年過ごせますようにかな。かなでは?」


「私も同じかな。あとは何かあったかしら」


「抱負で思い出したけど今年は神社行くのかい?」


「初詣はどうしようかしら。行きたい気もするけど……。あれ、そういえばもみじちゃんの家は神社よね?」


「あ、そういえばそうだね。なんか忘れてたけど。というかそう考えるとこの時期に神社から離れるのって不味いのでは?」


「でも、何も言ってこなかったってことは大丈夫なんじゃない? それに今まで誰とも会ってなかったみたいだし」


「そういえばそうか」




 静人が頷いたところでみどりが手をあげて帰ってきた。




「ただいまやでー。どうせやったらピザをすぐ食べたいからあっちで食べるって話になったで。静人さんらはどない?」


「もちろん! もみじちゃん達があっちで食べるなら私たちも行くわ」


「まぁ、かなでさんらはそやろな。あとの二人も来るんやろ?」


「あの二人も行ったことあるから大丈夫!」


「まぁ、そないに気にするような人らやないし大丈夫か」


「あ、二人ともお酒持ってくるって言ってたけどみどりちゃんも飲めるの?」


「うちはたしなみ程度やなぁ。桔梗らは多分飲んだこともないと思うけど、まぁなめる程度に試してもろたらええんやない?」


「やっぱりそうよね。みどりちゃんも飲めると思ってたけどそうでもないのかぁ。ま、試してみたらわかるかな」


「まぁ、桔梗らは子供舌やし、飲まんとは思うけどな? まぁ、何事もチャレンジやろ」


「無理やり飲ませるわけじゃないしいいのかなー。あれ、みどりちゃんだけ帰ってきたけどもみじちゃん達は?」


「ピザ窯をまだ作ってるんやない? 作り終えたら帰ってくる言うてたし」


「先に料理作るのはなんか違う気もするし、どうしようかな。あ、ピザに使う食材とか買ってたっけ?」


「あー、一応うちが買っといたから大丈夫やと思うで。茜に渡したし」


「あ、そうなの? ありがとう、みどりちゃん!」




 忘れていたのか悩むかなでにみどりが笑いながら話しかける。悩みが解決したからか嬉しそうにお礼を言うかなでにみどりも笑顔で返す。




「ええよ。ついでに他にもいろいろ買ってきたんやけど結局何作る予定なん?」


「今のところ決まってるのはピザとスペアリブ、そして魚の刺身。だから、あと足りないのは野菜?」


「いや、まぁせやけど。サラダでも作る気なん?」


「サラダ用のドレッシングでも作ろうかしら。あ、ピザってしか聞いてないけど何のピザを作る予定か聞いてる?」


「とりあえずシンプルにトマトソースを使ったやつって言ってたなぁ。名前は確かマルゲリータやったか?」


「あー、他には作らないの?」


「バンビーノやったりビスマルクやったり作ろうと思ってたみたいやけど、初めてのピザやったらシンプルな奴がいいんじゃないかって話になってな?」


「なるほどね。そうなるとやっぱり野菜が足りない気がするわね。それに汁物。肉もスペアリブぐらいだしベーコンと白菜使って簡単な汁物でも作ろうかしら」


「味付けはコンソメやな。でも、そうなると簡単すぎるし凪さんの手伝うことなくなってしまうんやない?」




 頭の中で作るものを考えたみどりは手順を思い出して疑問に思いかなでに問いかける。




「あ、そうね。凪ちゃんは何作る予定なんだろう。それによって決まるわよね」


「まぁ、大人数やしそこまで気にせんでもええ気はするけどな?」


「そうかしら。あ、そういえばお酒飲むんだしおつまみも作ろうかしら」


「つまみって何作るん? なんかあーいうのって乾き物のイメージやけど」


「お酒に合えばいいんだし、なめろうでも作ろうかしら? ちょうどお魚買うわけだし」


「あー、魚やったら買っとるけどどんな料理なん?」


「お魚ってアジ?」


「せやな。アジやとまずいん?」


「ううん。むしろアジじゃないと美味しくならないわ。白身魚だとちょっとね」


「そうなんや。どんな見た目なん?」


「見た目はお世辞にもいいとは言えない……かなぁ。人にもよるとは思うけど。魚を切り刻んでそこに大葉とかしょうがとかねぎとかみそとかを混ぜて作る感じ?」


「あー、なんとなく想像できたわ。薬味が付いた刺身みたいなもんやな」


「お味噌も混ざってるからそのまんまとは言えないけどまぁ、そんな感じ」




 材料を聞いてなんとなく予想が付いたみどりにかなでも曖昧に笑う。




「楽しみにしとこうかな。あ、それやったらうちがベーコンと白菜の汁物作るさかい、かなでさんはなめろうよろしく」


「分かったわ! あとは凪ちゃん次第だけどまぁ、こうはるともはや何でもいいわね」


「せやなぁ。ここまで来たらなんでもええんやない? 肉じゃがとかカレーとかでもええ気はする」


「肉じゃがはともかくカレーは……、あ、ナンみたいにピザと一緒に食べたら美味しそうね。そうなるとむしろ肉じゃがのほうがあれかしら」


「どやろな。まぁ、美味しかったら食べるんやない?」


「それもそっか。よし、それじゃあとりあえずお魚捌いとこうかな」


「ピザ焼くんやし、スペアリブもそっちで焼くとして……、汁物となめろう、刺身か。結構すぐに終わってしまいそうやんな」


「かといってこれ以上増やすのもね? 凪ちゃんの分もあるんだし。もみじちゃんも何か作ると思うし」


「あ、もみじも作るんやっけ。うーん、まぁ、その時考えればええか。ピザ作りの体験学習でもええしな」


「それいいわね! もみじちゃんに提案してみようかしら。最初は茜ちゃんに聞かないとね」


「軽く作る分にはそこまで難しいこともないやろうしな」


「そうね。あー、何かいろいろ考えてたらお腹空いてきちゃった」


「はやない? さっき食べたばっかやろ?」


「そうは言うけど、なんだかんだで時間も経ってるし」


「おん? おわ、ほんまや。なんだかんだでいい時間やな。それじゃあまだ帰って来とらんけど作り始める?」


「ええ、作っていきましょう! 凪ちゃんももみじちゃんもしばらくしたら来るだろうし、ね!」


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