第66話


 もみじ達から離れてキッチンに立つ静人は目の前の食材を見ながらひとり呟く。




「さてと、たまには和食じゃなくてフランス料理とか作ろうかな。昨日そんな話してたし。あ、魚介類はアレルギーとかあるから、ちゃんと聞いといたほうがいいかな」




 呟いていた静人は顔を上げて質問をしにキッチンからグラ達のいる場所に足を運ぶ。そんな静人に気付いたグラが手をあげて静人を呼ぶ。




「お、どうした? もう料理終わったのか?」


「さすがに早すぎますよ。いや、魚介類を使った料理を作ろうと考えてたんですけどアレルギーとか持ってないですよね?」


「なるほど、それを聞きに来たのか。俺も凪も嫌いな物もなければアレルギーも持ってないぜ!」




 親指を立ててにかっとした笑顔で伝えるグラの横からひょこっと現れた凪がさらっと話に加わる。




「店長はバナナが苦手ですね。あとは大丈夫です」


「あ、ばか。わざわざ言うなよ」


「言わないと出るかもしれないじゃないですか」


「さすがにバナナが料理に使われることは無いだろ?」


「あはは、人に渡す料理でバナナを使うことは無いですかね。バナナ単体で出すこともなかなかないですし」


「だろ?」


「ちなみにバナナの味がダメなんですか? それとも本体がダメなんですか?」


「俺の場合は本体がダメだな。味は何とも思わないんだけど、なんかバナナ自体の食感というか舌触りというか……、よく分からねえけどダメなんだよな」


「あー、シイタケとかは大丈夫ですか?」


「おう、大丈夫だぜ。天ぷらとか好みだ」


「私もです」


「他にないなら大丈夫そうですね。分かりました。それじゃあ作ってきます」


「なんでシイタケを聞いたんだ?」


「なんとなくです」




 軽く会話をした静人は聞きたいことを聞き終えて安心した様子で料理に取りかかる。




「さてと、まずはエシャロットのみじん切りかな。白身魚をポワレにするとして、この人数分作るとなるとバターがすごい量必要な気がするな。まぁ、たまにはいいよね」


「しず君、私も何か手伝おうか?」


「あ、かなで。大丈夫だよ。今回は男料理的な感じで、採算度外視で作るから、どちらかというと洗い物の時のほうが助かるかな?」


「そう? それじゃあまた洗い物の時に手伝うわね」


「うん、ありがとう。もみじちゃん達は楽しんでるかい?」


「ええ、すごく楽しそうよ。」


「それならよかった。それじゃあまた後でね」


「ええ、ばいばーい」




 静人は出ていくかなでの背中を見送るとスマホで料理動画を流しながらキッチンに立つ。




「さてと、ブールブランソースの作り方は動画でも参考にした方がいいかな。あまり作らないし」




 流した料理動画を流し見しつつ独り言で自問自答しながら少しずつ作っていく。




「ソースを作り始める前に魚に塩を振って脱水締めしとく。こんなもんかな。魚だけでも多いな。さてと、あとは白ワインと白ワインビネガーとエシャロットを煮詰めていく」




 動画を見て確認しながらソースを煮詰めていく。水分がほとんどなくなったところでバターを数回に分けて加え乳化させていく。かき混ぜてみて少し濃ゆく、重たく思ったのかそこに白ワインを加えて伸ばし最後にエシャロットを濾して完全な液体にする。




「次はポワレかな。あ、これ皮がないやつだ。……まぁいいかな。食べやすいだろうし。うん、いい匂いだ。やっぱりこの人数分だと時間かかるね。もうこんな時間だ」




 料理に夢中になっているうちに明るかった外が暗くなってきているのを確認した静人は苦笑いをこぼしながら真っ白な皿に盛りつけていく。しばらくして匂いにつられたのか青藍がふらふらと現れる。




「おにいさん、お魚料理?」


「うん。そうだよ。和食じゃなくて外国の料理だけど僕としては美味しいと思うよ」


「たのしみ。早く持って行く。みんなも待ってる」


「おや、もうトランプは終わったのかい?」


「トランプもしてる。いまみどりと茜も帰ってきたからみんなで談笑してる」


「ありゃ、二人も帰ってきたのか、もう少し遅くなると思ってまだ二人分のは魚焼いてなかったんだけど。青藍ちゃんは僕が魚を焼いてる間に配膳してもらってもいいかな?」


「分かった。どのくらいかかる?」


「焼くだけといえ少しかかるかな。そのことも伝えてもらっていいかな?」


「分かった。それじゃあ持って行く」


「うん、よろしくね」




 青藍に配膳を頼むと新しく料理を作り始める。そうしていると今度はもみじがやってくる。




「お兄さん、他に持って行くものってあるかな?」


「おや、もみじちゃん。そうだね、飲み物を持って行ってもらっていいかな? 魚も焼き終わりそうだし、そういえばみんなはもう食べ始めてるのかな?」


「ううん。お兄さんが来るのを待つってみんな言ってたよ」


「そうなのかい? 冷めちゃうから食べててもらってよかったのに。それじゃあ急いで向かうとしようかな」


「それじゃあ飲み物持って行くね!」


「うん、よろしくね」




 もみじからの情報でやる気を出した静人は皿に集中して料理に取り掛かる。少しして料理が完成する。




「よし、出来た」


「む、出来た?」


「おや、青藍ちゃんいつからそこに?」


「ちょっと前。出来たのなら早く持って行こう? お腹空いたから早く食べたい」


「そうだね。それじゃあ持って行こうか」


「うん。早く食べたい」




 お腹をさすり少し眠たげに目をこする青藍と共に料理を運んでいく。リビングに着くとみどりがくつろいだ様子で静人のほうを見る。隣には静かに座る茜の姿も見える。




「お、来たやん」


「あ、しず君。もう全部出来上がったの?」


「うん。これで全部だよ。お待たせしました。それじゃあ食べようか」


「そこまで待っとらんから気にせんでええよ。というかまたお店で出るような料理やな」


「あはは、そこまでではないですよ。それじゃあ温かいうちに食べましょうか」


「せやな。おー、いい匂いやん」


「この白いの魚に合うよ!」


「お、ホントや。これってどこの料理なん?」


「これはフランス料理だね。白いのはブールブランソース、魚は普通に焼いたものですけどね」


「フランス料理なん? 今度食べに行ってみよかな」




 フランス料理と聞いて今度お店に向かうことを考えていたみどりが呟くと、それを耳ざとく聞いていた青藍がみどりの洋服を引っ張る。




「その時は私も一緒に行きたい」


「青藍はどんだけ魚好きなん?」


「お魚は美味しいからしょうがない」


「せ、せやろか? まぁ暇な時に連れていくのはええけどな。もみじと桔梗も来るん?」


「私はいいかな? でも、食べてみたいような気がする」


「私も別にいいのだ。ここで食べるだけで十分なのだ」


「桔梗は分かるけど、もみじちゃんも来ないの?」


「まだ外に出るのは怖いから」


「むー、それならしょうがない」




 怖いと言われた青藍は頬を膨らませつつも納得できたのか諦めた様子だった。




「というか、なぜわしは来ないのが分かるのだ」


「だって、桔梗は人が多いところ苦手でしょ?」


「そんなことは無いのだ? いや、そんなこともあるのだ?」


「どっちなの?」


「うむ、苦手なのかもしれないのだ」


「やっぱり苦手なんじゃない」


「せやったら、連れていくのは青藍だけやな。まぁ、その時になったら教えるわ」


「うん、その時はよろしく」




 青藍はみどりの返答に少しだけ嬉しそうに頷きつつ魚を頬張る。しばらくしてご飯を食べ終えた静人達は片付けを始める。




「もうみんな食べ終えたみたいだね。片付けでもしようか」


「とても美味しかった! これってどうやって作るの?」


「ちょっと手間はかかるけど作り方自体は簡単だよ」


「そうなの? 今度私も作ってみたい!」


「いいよ、今度一緒に作ってみようか」


「うん!」




 もみじは静人と共に料理を作る約束が出来たことが嬉しいのか笑顔で頷く。


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