第65話


 お昼ご飯を食べ終えた後満足気味にお腹をさすり、おもちゃ入れの中からトランプを取り出す。取り出した一つのトランプを持ちながらグラが不安そうにそれを見せる。




「トランプって一つで足りるか?」


「多分大丈夫ですよ。持ってる枚数が少なくはなりますけど、すぐに終わるからそれはそれで楽しいと思います。どうせなら他の遊びもしてみますか?」


「もみじ達って他のやつってわかるのか?」




 グラは他の遊びと聞いてもみじ達の方を見るが、そんなグラに対して満面の笑みでもみじが返す。




「この前トランプ遊びの本もらったから多分大丈夫!」


「なんだよ、準備良いな。あとは大富豪とかぶたのしっぽとかでいいか?」


「ブタのしっぽは懐かしいですね。本に入ってたかな?」


「うん! 大丈夫どっちも分かるよ!」


「それじゃあ、いろいろとやってみるか!」




 自信満々な顔で頷くもみじの顔を見て納得したのかトランプをシャッフルしてババ抜きを開始した。始めてからしばらくして残りはもみじと桔梗と青藍、そして静人の四人だけになった。




「はい、次はもみじちゃんの番だよ」


「うー、こっちかな? あ……」


「なんだよ、ババでも引いたのか?」


「な、なんdふぇもないよ」


「そこでかむなよ……。まぁいいや。次は桔梗の番だな」


「うむ。それじゃあ引くのだ。これなのだ! うむ、なのだ」


「なんでそんなにわかりやすいんだよ。お前ら」


「な、なんのことなのだ? 分からないのだ」


「次は私の番。これでいいや。あ、あがり」


「青藍ちゃんもあがりだね」


「うん、楽しい」


「それならよかった。あ、僕もあがりだね。残りはもみじちゃんと桔梗ちゃんの二人だね」


「ま、負けぬのだ」


「ま、負けないよ!」




 最後の二人だけになったもみじと桔梗は、二人とも負けないと意気込み、最終的には二人とも顔を動かさないようにしつつも勝手に動いてしまうのか、顔を手でムニムニしながらやってたので変顔対決のようになっていた。




「意外に白熱したね。桔梗ちゃんが最後だね」


「つ、次は負けぬのだ!」


「桔梗はなんでか運が悪い」


「そ、そんなことは無いと思うのだ」


「次はジジ抜きにしようか。ルールは大体ババ抜きと一緒だけど、ジョーカーが入っていないから、最後までどれが外れなのか分からなくて楽しいと思うよ」


「どうやってはずれを決めるのだ?」


「一枚だけ裏向きにして横に置いておいて最後にそれを裏返す感じかな。それじゃあやってみようか」


「おじいちゃんは抜いちゃうの?」


「おじ……? あ、ジョーカーは抜くよ。分からなくなっちゃうからね」


「そうなんだ。じゃあね、おじいちゃん」




 ジョーカーのことをおじいちゃんと呼ぶもみじに一瞬首を傾げた静人だったが、すぐに分かったのかもみじの問いに頷くともみじはジョーカーのカードを見つめて寂しそうに手放す。それからジジ抜きを始めたが最後まで残ったのはまたもや桔梗だった。




「また負けたのだ……」


「だから運が悪いって言ったのに」


「もう一回、もう一回なのだ!」


「あはは、それじゃあもう一回やってみようか」


「次は負けぬのだ」




 ジジ抜きでの五回目。何回やってもなぜか勝てない桔梗はちょっと涙目になりつつ床に突っ伏す。そんな桔梗を見たグラは頬をかきながら次の遊びを提案する。




「桔梗弱すぎ?」


「ぐぬぬ、負けたのだ」


「次はぶたのしっぽに挑戦してみるか?」


「あれならさすがに大丈夫なはずなのだ」


「あれも、運が必要な勝負な気がする」


「だ、大丈夫なのだ。……多分」


「それじゃあやってみようか」




 ブタのしっぽを始めてしばらくしてから途中でそれまでにたまっていたトランプ十数枚を桔梗が手に入れて絶望した顔をしていたが、最後の一枚までを器用に避けられる桔梗と違い、その時の引きによる凪が最後の最後で捨てられたカードと同じ色をひき見事ドべとなった。




「勝てたのだ! どうだ青藍、勝てたのだ!」


「おー、おめでとう。勝てるとは思ってなかった。というか凪姉が負けるのは予想してなかった」


「あははー、最後の最後で同じ色ひいて回収しちゃったからね、あれがなければ勝ちだったんだけど」


「やーい、凪の負けー」


「あ、店長そんなこと言っていいんですか。大富豪でぼこぼこにしますよ?」


「はっはー。やれるものならやってみろ!」


「グラさん達も楽しそうでよかった」


「まぁ、中身は子供に近いし楽しそうなのは予想の範囲内ね」


「そうかい? おっと、もうこんな時間か。ちょっと今日は手間のかかる料理を作る予定だから僕はここで抜けるね」


「え、お兄さん抜けちゃうの?」


「もみじちゃん達は遊んでていいよ。たまには一人で手間のかかるものを作りたいからね」


「私たち邪魔になってる?」


「そんなことないよ。普段は普段で楽しく料理出来てるからね。今日はちょっと一人で料理を作りたい、そんな気分ってだけさ。だから料理は僕に任せてもみじちゃんはみんなと一緒に遊んでてほしいな。明日はまた一緒に料理しようね」


「むー、分かった! 明日は一緒に料理するからね!」




 一緒に料理をしたかったのか頬を膨らませるもみじだったが、明日は一緒に料理をするという約束をしたからか、膨らませた頬を戻して笑顔になると静人の元から去っていった。




「おーし、それじゃあ大富豪しようぜ!」


「絶対に店長を最後にしてやりますからね!」


「おう、やってみろ。あ、八切りとかそういうのってどこまでありなんだ?」


「私たちがもらった本にはね……」




 地域独特のルールのすり合わせをするためにもみじ達と話し合い始める。そんなもみじ達から離れて静人はキッチンの前に立つ。


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