第57話
いつものお店で買い物かごを片手に刺身を探す静人。しばらく案内板を見て場所が分かったのか静人は移動を始める。
「えっと、お刺身お刺身……、あ、こっちかな」
「おん? お、誰かと思ったら静人さんやん。あけおめー、今日も来たんやね」
「あ、みどりさん、あけましておめでとうございます。魚の刺身を買いたくて。今日は刺身とオムライスですけど来れそうですか?」
独り言の習慣が抜けない静人が呟きながら生鮮コーナーのほうに向かう途中でみどりと出会った。
「オムライスかー、興味あるけど今日の所は予定いれて明日来れるようにしとこうと思っとるんよ。いきなり予定が入ると面倒やさかい。せやから今日はやめとこかな」
「そうですか。あ、明日はグラさんたちも来るらしいですからそのつもりでいてくださいね」
「あ、あの人たちも明日来るんやっけ。でもまぁ、もみじちゃん達のことも知っとるんやしまぁええやろ。おっと、もうそろそろ仕事に戻るわ。それじゃあ、ほなまた明日な」
「ええ、また明日」
仕事に戻ると言ってその場から立ち去るみどりに手を振って見送る静人は再度移動を始める。しばらく歩いていると静人にまた声がかけられる。
「あれ、静人さん。こんにちは」
「静人? お、ホントだ。久しぶり」
「グラさんに凪さん。お久しぶりです」
「あー、そういえばもう年明けたんだっけ。あけおめー、ことよろー」
「あはは、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。お二人は明日来るんですよね?」
「おう! 本当は今日も行きたかったんだけどな」
「あははー、ダメですよ。親戚同士のつながりもあるんですから。店長もお兄さんに会えるの楽しみにしてたじゃないですか」
「会うのが楽しみって言うか兄貴も洋服作るからその話をするだけだよ。あと、お兄さんじゃなくてお姉さんって言わないと怒られるぞ」
「店長も兄貴って言ってたじゃないですか……。というわけで親戚同士の集まりがあるんですよ」
そう言ってこちらを見る凪に納得したような声で静人が頷く。
「なるほど。今日親戚同士の集まりがあるのにここにいるってことは、実家はこっちにあるのかな?」
「はい、私も店長も実家はこっちですよ。静人さんたちは県外なんですか?」
「そうだね。さすがに毎年帰るのは無理だからたまに帰る感じかな。今年は行くか迷ってたんだけど、もみじちゃん達がいるから帰らないことにしたんだ」
「確かに遠いと帰るのも大変になりますもんね。お金もかかるし。あ、そういえば静人さんはここに何を買いに来たんですか?」
「あー、魚の刺身をね。青藍ちゃんが魚大好きだから。凪さんたちは何を?」
「あー、私たちも似たようなものですよ」
「え? 俺たちは酒だろ……?」
お酒を買いに来たことを隠したかったのか、グラの言葉にかぶせるように大きな声を出す凪。
「わー! 何でもないです。私たちもお魚買いに来たんですよ」
「別に恥ずかしいことでもねえんだし。そんな大声出さなくてもいいだろ?」
「いや、だって」
「そうですよ。別に恥ずかしいことではないんですし堂々としてもいいと思うよ? あれ、でもお酒飲むのはいいんですけど。今日って親戚の集まりがあるんじゃ……?」
「親戚の集まりはあるけどよ。めんどくさいやつが集まるんだよ。さっき話に出た兄貴……、姉貴的な兄貴のグリってのがいるんだけどマシなのがそいつぐらいしかいないんだ。だから集まりが終わったら俺と凪とグリの三人で家に集まって二次会的なの開くんだよ」
「あー、なるほど。飲むのはいいけどほどほどに。明日もみじちゃん達と会えなくなっちゃいますよ?」
グラは静人の言葉に頭をかきつつ苦笑いで答える。
「あー、今日は少し抑えるよ。いつもよりはな。そういう静人は酒飲むのか?」
「んー、あんまり飲まないですね。煙草も気分が悪くなるから吸わないですし」
「おー、めっちゃ健康そうだな。煙草は俺も吸わねえけどな。洋服ににおいつくのやだし」
「吸わないならその方がいいですよ」
「酒はめっちゃ飲むけどな。ちなみに凪もめっちゃ飲むぞ」
いきなり自分のことをうわばみ発言されたことに驚いた凪が慌てたようすでグラのほうを見てそのあとに静人の様子を伺いみる。そんな様子に気付いていない静人は単純に感心していた。
「おー、すごいですね。昔、アルコール度数が低いのを飲んだことあるんですけど口に合わなかったんですよね。あ、かなでも結構飲む方ですよ。僕に遠慮してるのかもみじちゃん達に遠慮してるのか最近は飲まないですけど。明日はお酒も用意しましょうか?」
「え、かなでさんも飲む方なんだ……」
静人の発言に凪が思わずといった様子でつぶやく。
「別に俺はいいけどよ。酒飲んでもそんなに変わる方じゃないし。どうせなら俺が持って行こうか? 酒のこととかあんまりわかんねえだろ?」
「そうですね。それじゃあお願いしていいですか?」
「おう、任せとけ。さてとそれじゃあここでいったん分かれるか。どうせなら明日までどんな酒を持ってくるのか分からねえほうが面白いだろうし」
「見てもわからないでしょうけどね。それじゃあまた明日」
「おう、また明日な」
「あ、また明日!」
珍しくいろんな人に会うものだと思いながら手を振ってグラ達を見送った静人は刺身を買って家に帰るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます