第58話


 刺身を買って帰ってきた静人が玄関を開けるとクッキーの焼けたいい匂いがする。においがする方向に向かうともみじ達の姿が見えた。




「お魚の刺身買ってきたよー」


「あ、おかえりなさい! お兄さん、クッキー焼いたの! 食べて食べて!」


「思いのほか美味しく出来たのだ。わしは混ぜただけだから大丈夫なのだ」


「あはは、いい匂いだね。ありがとう。うん、おいしい」


「ホント!? わーい!」


「うむ、もみじが作ったのだから当然なのだ。……のう、静人よ少しだけ分けて欲しいのだ」




 クッキーの感想を話す静人に美味しくて当然だと頷く桔梗。そのあと食べたくなったのか静人に催促するが静人は笑みを浮かべながら首を横に振る。




「だめ、これは僕がもらったものだからね。桔梗ちゃんの分は無いの?」


「ふふ、さっき食べすぎたから没収したのよ。晩御飯が食べれなくなっちゃうもの」


「頑張ればいくらでも食べられるのだ」


「頑張って食べるってことは我慢して食べてるってことでしょ? そんな気持ちで美味しいご飯を食べてほしくないもの」


「むむ、そう言われると確かにそうなのだ? 分かったのだ。我慢するのだ」


「うん、偉い偉い。そんな偉い桔梗ちゃんには今日私と一緒に寝る権利をあげます」


「いや、一人で寝るから大丈夫なのだ」


「えー! 一緒に寝ようよ? ね? ね?」




 桔梗の頭を撫でた後に胸を張って宣言したかなでに桔梗は少し距離を取って首を振る。そんな態度を取られると思ってなかったのか驚いた様子で桔梗に迫る。




「この前は一人で寝てたのだ。どうして急に」


「一人で寝るの寂しいんだもの。もみじちゃんは一緒に寝てくれる?」


「いいよー! えへへ、一緒に寝るの楽しみ!」


「もみじちゃんはかわいいなぁ! 寝る前にたくさんお話ししましょうね」


「うん! いーっぱいお話ししようね。桔梗お姉ちゃんは一緒に寝ないの?」


「うむむ、もみじが一緒ならわしも一緒に寝るのだ」


「ホント!? わーい! それなら青藍ちゃんも呼ばないと!」


「青藍が来るとは思えないのだ。でも、とりあえず聞いてみるのだ」




 桔梗は普段の態度から一緒に寝る青藍を想像できないのか、もみじの提案に首を傾げながらも青藍の所に向かうもみじを見送る。




「青藍ちゃん! 今日の夜みんなで一緒に眠ろう?」


「え? うーん。私は一人で寝るのが好きだから遠慮しとく」


「そっかー。それじゃあしょうがないよね。あ、寝る前に皆でお話は出来ないかな?」


「お話……? うん。それはしたいかも」


「ホント!? それじゃあ今日寝る前に皆でお話ししようね!」




 青藍が頷いたのを確認したもみじは嬉しそうに飛び跳ねた後、青藍に手をぶんぶん降って桔梗たちの所に戻っていった。




「あそこまで喜ばれるなんて……。あ、お兄ちゃん。パソコンありがとう。いろいろ分かった」


「どういたしまして。何について調べてたんだい?」


「なんとなく探してたら出てきた面白そうな機能のやつ」


「面白そうな機能? どんなのがあったかな?」


「例えばこれとか?」


「えっと? これは……」




 そこに写っていたのは一枚の板にしか見えない机や、壁に収納できる椅子などだった。




「ここにこういう風に切り込みを入れて中に収納できるの。こういうのを作れば場所を取らないですむかなと思って」


「なるほどね。結構細かい作業が必要になりそうだけど大丈夫かい?」


「多分大丈夫。これは作れなさそうって思えなかったから。無理そうなのはなんとなくわかる」


「そっか。それなら今度はこれを作ってみようか。図案は描いて見たかい?」


「うん。これなんだけど、どう?」


「うん。僕でも分かるし良いんじゃないかな。というか僕よりも綺麗に描けてるような気がするね。これなら今度からは僕が書かなくてもよさそうだ」


「む、お兄ちゃんが楽するのはずるいからたまに書いてもらう」


「え? あはは、それじゃあたまには僕が書こうかな」


「うん。というかできれば私は作ることだけに集中したいからたまにじゃなくてもいい」


「せっかく覚えたのに。とはいえこれから先作るものもなさそうだけどね」


「確かに。さっきの面白そうなのは作るとしても、他のは無いかも」


「いっそのこと作れなさそうなものに挑戦してみるかい?」


「作れないもの?」


「例えば大きなロボットとか」


「ろぼっと?」


「あ、ロボットって言うのはね」




 ロボットは分からないかとパソコンでロボットアニメを検索して見せる。それを見た青藍はロボットを凝視した後首を傾げる。




「これがロボットなの?」


「うん。正直こういうのは作れないと思うけど、でも、挑戦してたら似たようなものは作れるかもしれないよ?」


「ちょっと面白そう。だけどこれ作ってたら資材がいくらあっても足りないから駄目かな」




 興味津々な様子だったがいろいろと考えて資材が用意できないということで諦めることにした。




「あー、それもそうか。それならもう少し簡単な物で今もみじちゃん達が使ってたオーブンとかを作ってみようか。電気がないと使えないからあっちには持っていってないんだけど、あれが使えたほうがもっと美味しい料理が増えると思うから」


「む、美味しい料理。分かった挑戦してみる。パソコンで調べたら出て来るかな?」


「どうだろう。気になるならそういうのが書かれてる本買ってこようか? 僕も気になるし」


「うん。お願いします。でんきもどんなのか知りたいかも」


「確かに僕も説明できないしそういう本も買っていいかも。専門書とか買えばいいのかな」


「とりあえず難しくてもいいから詳細に書かれてるものがいい。難しい言葉とかは調べればわかるから」


「分かった。みどりさんと相談しながら買うことにするよ。さてと、もうそろそろ晩御飯の時間だから準備始めるね」


「む、それならパソコンで電気のこととか調べとく」


「あはは、ほどほどにね。晩御飯出来たら呼ぶから調べるのはそれまでね?」


「分かった。頑張る」


「それじゃあ作ってくるね。もみじちゃん、もうそろそろ料理作ろうか」


「はーい! 今日は何作るの?」


「今日はねオムライスを作ろうと思っててね……?」


「オムライス!」


「それじゃあ手を洗おっか」


「はーい」




 オムライスを作るために手を洗って料理の準備を始める静人ともみじ。桔梗は手伝うと邪魔になると思って後ろに下がる。かなではそんな桔梗についていき頭を撫でたあと一緒に皿の準備を始める。今まで作業していたテーブルの上を片付けて布巾で軽くぬぐう。取り出すときにかちゃかちゃと鳴り響くお皿を並べる。あとは料理が完成するのを待つだけといったタイミングで青藍がパソコンをやめてリビングに顔を出す。


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