005 修行

 俺が魔法を使えないと、ウィンが分かった後。

 今まで向かっていた方向とは、逆の方向へと歩き出したのだった。


……1時間後。


 しばらく歩くと、膨大ぼうだいな土地が見えてきた。

 そこは、一面が平らで綺麗きれいな土地が広がっていた。

 まるで、整備せいびした野球のグランドみたいだ。

 更に、その野球のグランドを囲うように、標高ひょうこう3,776 mぐらいの高さの山々がある。

 そして、山の上には雪がもっていて、空にはワイバーンが飛んでいた。

 例えるなら、自然に作られた、天井のない野球ドームとでも言おう。

 そんな場所で、ウィンとの魔法訓練が始まったのだった。


「じゃあ早速始めようと思うんだけどぉー!

 その前に、今回の修行内容を話しとくねぇー!」


 そう言って、ウィンは説明をしてくれた。

 その話をまとめると、どうやら魔法を使いこなすまでのステップが、3段階あるのだとか。

 まず1つ目は、自分に魔力が流れていることを感じる、魔力の確認。

 2つ目は、自分の属性ぞくせいを知る。

 最後は、魔法をひたすら使って練習する。

 基本的にみんなそうやって、魔法を使えるようになるという。 

 その話を聞いた後、早速ウィンとの実践特訓じっせんとっくんが始まった。


「じゃあまず、魔力の確認なんだけどぉー。

 レオッチは、魔力を感じたことはあるぅー??」

「いや、1度もない……」

「そっかぁー! じゃあ手を貸してぇー!」


 そう言って、笑顔のウィンは俺の手を取った。

 そして、「じゃあいくよぉー」と言いながら、俺に何かをしてきた。


「あれ? なんかポカポカする?

 ……もしかして、これが魔力!?」

 

 どうやらウィンは、俺の体に魔力を流していたみたいだ。

 聞いてみると、これが魔力を感じるのには1番手っ取り早いらしい。


「ウィン! すごいよ! どんどん俺に魔力が流れている!

 どんどんまっているのが分かる!!

 この体の中にある、エネルギーみたいなのが魔力なんだね!

 すごい! これが魔力か!!!」


 俺は、人生初めての魔力とのふれあいに興奮こうふんした。

 さらに、魔力の影響えいきょうなのかどんどん力がみなぎってきていた。


 だが、反対にウィンは信じられないくらいヘトヘトになっていた。

 魔力を人に流すのは、相当つかれるみたいだ。 

 俺は、そんなウィンを心配して声をかけた。


「ウィン大丈夫??」

「レ、レオッチぃ……さ、さすがだねぇ……。

 僕の魔力をどんどん吸い取っちゃうんだもん……」


(俺が? ウィンの魔力を? 吸い取る???)


 どういうことだか、ウィンに聞いたみた。

 すると、Sランク冒険者のウィンですら、こんなことは経験したことがないという。

 基本、魔力を流し合うと火の魔力は熱く、水は冷たく、風はすずしかったりするらしい。

 そんな中、俺の魔力はウィンの魔力を吸収したという。

 明らかに、特殊とくしゅだそうだ。

 さらに、体力までもうばっていったのだとか。

 俺は、ウィンに申し訳なくなってあやまった。


「ごめんねウィン……。

 俺、自分の魔法がどんななのか、分かんなくって……」

「だ、大丈夫だよぉー。 気にしないでぇ。

 それよりレオッチぃ……本当に魔法使えないのぉ?」

「俺、魔法本当に使えないよ……」


 ヘトヘトのウィンは、俺が魔法を使えないことが信じられないようだ。

 それくらい強力な力だったのだろうか?

 ウィンは、本当に不思議そうな顔で俺を見てきていた。 

 だが、俺がうそをついていないと分かったのか、「と、とりあえず次に進もっかぁ……」と言い次の段階に入っていったのだった。


 次は、自分の属性ぞくせいを知るために、ためしに魔法をはなってみるとのこと。

 特に、だれかと戦うという事でもないみたいだ。

 ある程度説明が終わると、少し休み回復したウィンがお手本を見せてくれた。


「まず、さっき感じた魔力を手に集めて、それをはなってみてねぇー!

 こんな感じでぇ!!」


 そう言って、ウィンは魔法を放った。

 昔、アニメで見たファイアーボールの光バージョンみたいな魔法だ。

 だが、その光はただの光ではなく神々こうごうしい光。

 さすが、Sランク冒険者と言われるだけある。

 その魔法は、いつまででも見ていられるくらい綺麗きれいだった。


 ウィンが、終わると次は俺の番だ。

 俺は、ウィンの手本通りに真似まねして魔法をはなってみた。

 すると、俺の手からファイアーボールの黒バージョンみたいな魔法がはなたれた。


「わぁ! 真っ黒だぁ! レオッチすごいよぉ!!

 僕、初めてそんな色の魔法見たよぉ!!!!」


 俺の魔法を見たウィンは、おどろいた。

 ウィンの白い魔法が光なら、俺の黒い魔法はやみのようだ。

 しかも、見るだけでゾクゾクするほど不気味だった。

 

「こ、これが、俺の魔法なの……? ちょっと怖いんだけど……」

「ウンウン! そうだよぉ! レオッチ本当にすごいよぉ!!

 その魔法、どんなものでも吸いんじゃいそうだねぇ!」


 なぜかワクワクしていて、うれしそうなウィン。

 反対に、俺はよくわからない魔法に少し戸惑とまどったのだった。


 そして、いよいよ最後の段階に入る。

 魔法を実際に使ってみる、実践練習じっせんれんしゅうだ。

 実践じっせんと言っても、魔法をはなってみるだけ。

 特に、誰かと戦うというわけでもないみたいだ。

 これも、先ほど同様どうようにウィンがお手本を見せてくれた。


「まず、自分の魔法の色と種類をなんとなく理解してみてねぇー!

 それが出来たら、次はその魔法で出来そうな事を考えてみるのねぇー!

 そしたら後ははなつだけぇ!

 詠唱えいしょうは、いらないから気にしないで打っちゃってぇ!

 こんな感じでぇ!!」


 そう言って、ウィンは『聖天撃リュミエル』という魔法をはなった。

 空から、無数の光の雨が降り注ぐ回避不可能な大技だった。

 落ちてくる光の雨は全て光の速度。

 威力いりょくも申し分ないだろう。

 一体誰が、こんな人に勝てるというのか……

 さすがSランク冒険者だ。


 そんなことを考えていると、魔法を使い終わったウィンが笑顔でこっちを見てきた。

 目をキラキラさせて、めてほしそうな顔をしている。

 

(な、なんか、ご褒美ほうびを待っている犬みたいだな‥‥‥)


 俺は、そんなウィンのギャップにしたしみやすさを感じた。

 なので俺は、とりあえず大袈裟おおげさめてあげることにした。


「さすが、聖のウィザードのウィン! すごいよ!

 超かっこいい魔法だったよ!」


 俺がそう言うと、ウィンはパアっと表情を明るくさせた。


「ほんとぉ! ありがとぉ!

 そんなにめられると、照れるなぁ!! エヘヘ」


 上機嫌のウィンは、俺の手をブンブンりながら喜んだ。


(い、犬か‥‥‥)


 まぁ、それはともかく。

 ようやく、俺が魔法を使う時が来た。

 俺は、自分がどれだけの魔法を打てるかはまだ分からず、結構考えた。


(どんな魔法を打てばいいんだろう……

 使いたい魔法をイメージって言ってたよな。)


 その時、さっきのウィンの言葉を思い出した。


(ウィンは俺の魔法を見て、吸いまれちゃいそうって言ってたような‥‥‥)


 そして、また考える。


(吸いむ……か。

 なんでも吸いめるのは‥‥‥ブラックホール?

 うん。いいかもしれない!

 もし、ブラックホールを使えたら、結構強いんじゃないか!?)


 俺は少しの希望と、好奇心こうきしんで『混沌黒球ブラックホール』という魔法を使う事にした。

 そして次の瞬間しゅんかん、俺は『混沌黒球ブラックホール』をこの世にはなってしまったのだった――



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