004 決闘前日

 トテーボに、決闘けっとういどまれた後。

 俺と、シュトラール様はギルドの外に出た。

 時間は昼時。

 街はにぎわっていて、人通りも増えていた。


 そんな中俺は、シュトラール様と街道を歩いている。

 シュトラール様は、人通りの多い道だからかフードで顔をかくしていた。

 きっと、バレると面倒めんどうになるからだろう。

 俺は、そんなシュトラール様に気を使って小さな声で話しかけた。

 

「あの。シュトラール様‥‥‥」


「シュトラール様じゃなくて、ウィンでいいよぉー! あと敬語けいご使わなくていいよぉ!」


 シュトラール様は俺の心配とは裏腹に、大声で答えた。

 当然、周りの人は一瞬いっしゅんこちらを見た。

 俺はなぜか冷やあせをかいたが、シュトラール様は、にっこりと笑っていた。


 それにしても、ウィンと呼べとは。

 絶対に無理だ。


 だって、シュトラール様は俺のあこがれの存在。

 夢にまで見た、Sランク冒険者だ。

 そんなシュトラール様を、どうして俺なんかが呼び捨てに出来るだろうか。


(まぁ、ウィンは無理だけど、ウィン様ならいいよな‥‥‥)


 俺は、シュトラール様をウィン様と呼ぶことに決めて話しかけた。


「じゃ、じゃあ。ウィン……様?」


 俺は、慣れていない口調で言ってみた。

 すると、なぜかウィン様の表情がくもり、返事も返してくれなかったのだ。

 呼び捨てではなく、様付けしたのが気に入らなかったのだろうか。

 だから次は、少しハードルを下げて呼んでみた。


「ウィン……さん?」


 だが、やはり返事をしてくれない。

 それどころか、徐々じょじょ不機嫌ふきげんそうになってきてしまっている。

 これはまずいと思い、俺は勇気を出して呼び捨てで呼んでみた。


「ウィ、ウィン?」


「なにぃー? レオッチィー!」


 今度は、飛び切りの笑顔を俺に向けながら返事をしてきた。

 一体何がそんなにうれしかったのだろう?

 俺には、その理由はわからない。

 だが、呼び捨てでないと、返事をしてくれない。

 俺は仕方なく、呼び捨てにする事にした。

 そして俺は、気分が良くなっているウィンに気になることを聞いてみた。


「ウィンは、なんで俺をパーティーにさそってくれたの?」


 これは、俺にとって一番引っかかる点だ。

 最弱と呼ばれた俺が、なぜSランクの方に拾ってもらえたのか。

 その理由を聞かずにはいられなかった。

 すると、その質問に困ったのか少し考えた後ウィンは答えた。 


「レオッチが強いからかなぁー?」


(強い? 俺が? 

 神様のいたずらなんてあだ名をつけられて、追放されまくったのに??

 この人は俺のどこを見て言ってるんだ????)

 

 俺は意味が分からず、キョトンとした。

 それを見たウィンは、クスクスと良い笑顔で笑ったのだった。


 

 そうして、しばらく歩いた俺達はどんどん人気ひとけのない方に歩いてきていた。

 一体どこに行っているのだろうか?

 何も聞かされていない俺は、ただ付いて行っていたのだった。

 そんな時。

 ウィンは何かを思い出したのか、ハッとした顔をしてから、俺に話しかけてきた。


「そういえば、レオッチィー! ギルドの中で何か話してなかったぁー?」


 俺はそう聞かれて、トテーボに決闘けっとうを申しまれたことを思い出した。

 

「ああ。明日ね、流れでトテーボと戦う事になったんだ……」


「そっかぁー! まあレオッチなら余裕よゆうだねぇー」


「え、いや……」


(なんで、俺が余裕よゆうで勝つと思っているんだ? 俺、弱いのに?)


「ドラゴンは、まだはやいよねぇ……

 最初は、大蛇だいじゃ討伐とうばつにするぅー? 早いかなぁー? うーん……」


 俺が強いと思っているウィンは、明らかにおかしい依頼いらいを考えている。

 そして、その流れでウィンは何かを思い出したように言った。


「あ! そういえばさぁ、レオッチはどんな魔法を使うのぉー?」


「……」


 俺は、魔法なんて使えない。

 使えていたら、Eランク冒険者でくすぶってはいないだろう。

 だから俺は、ウィンの発言に困り果て、だまんでしまった。

 そんな俺を見たウィンは、表情を曇らせて急に謝ってきた。


「あぁー! ごめんねぇ、レオッチィー。

 あんまり魔法を他人ひとに教えるのはよくないもんねぇ……」


(そこか!?) 


 一体どんな勘違かんちがいをされているのか。

 俺が魔法を使えないという選択肢せんたくしは考えていないようだ。

 ウィンは、俺が強いと本気で思い込んでいる。

 根拠こんきょは知らないが、そうと信じて疑わない。


 俺は不安になった。

 ウィンは、俺が強いと思って勧誘かんゆうしてきたのではないか?

 もしそうなら、俺は、また追い出されてしまうかもしれない。

 俺は弱いし魔法だって使えない。

 もしも、このまま勘違かんちがいされて、パーティーに入ったとする。

 でも、Sランクパーティーで、俺なんて使い物になるわけがない。


(本当のことを言うなら早い方がいいよね‥‥‥)


 そう思った俺は、ウィンに真実を言うことにした。


「ウィン……。ウィンは、きっと勘違いしている。

 俺は、強くないし魔法も使えない。最弱の冒険者なんだ。

 言おうと思ったけど、なかなか言い出せなくてごめんね」

 

 俺は、深刻そうな顔でそう言った。

 だが逆にウィンは、それを聞いてパァっと表情が明るくなる。

 まるで、強さなんて最初っから関係なかったのようないだ。


「本当ぉー!? じゃあ、僕が魔法を教えてあげるよぉー!!

 とっておきの魔法も見せてあげるぅー!!」


 ウィンは、うれしそうな顔をして、今まで進んでいた方向とは反対の方向に歩き出したのだった――

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