全ての記憶を思い出した後は

第13話 私の記憶と謎の紙飛行機の人物

今日は部屋にいた。

記憶を思い出したはいいものの、どうすればいいか分からない。

それに対する回答を見いだせないままで時間が過ぎる。

するとまたあの時のように紙飛行機が来る。


「まただよ、一体何さ」


私は呆れながらも紙飛行機を開ける。

そこには「夏夜中に来て」としか書いていない。

仕方ないから重い体を起こして向かう。


夏の暑さで汗ばむセーラー服。

うるさい蝉時雨

夏夜中付近には誰もいなかった。


夏夜中に着くと私は正門の前で立ち止まる。

夏夜中に行くとしてもどこに行けばいいか分からないからだ。


すると突然、手に持っていた紙が私の手を離れて紙飛行機に変化した。

紙飛行機は何故か浮いていて、まるで「着いてこい」と言っている気がする。

それに私はついて行った。


すると屋上に着く。

私が勢いよくドアを開けると、そこには青く揺れた物が見える。

私は目線をあげる。

そこには夜月先生がいる。


「やっぱり夜月先生がやったんですね」


「完全にバレてたのかあ。

でも謎解きにはなったでしょ?」


そう言いながら彼は無邪気に笑う。

この記憶を思い出すのは謎解きなんかでは無いはずだ。

それに自分は謎解き感覚でこの記憶を思い出したわけなんかではない。


「謎解きに何てなっていないですよ。

どうして夜月先生は私に記憶を思い出させようと?」


私はこれが一番に聞きたかった事だ。

別に私が記憶の追憶が出来なくても、それは夜月先生には一切関係ない。

それに夜月先生が私に記憶の追憶をさせられなくてもそこにデメリット

という物はない。

なら彼は何がしたいのだろうか。


「何でかな。

急にこんなことがしたくなったの」


彼は回答にもなっていない言葉を言った。

多分裏を返せば何かが見えるのだろうけど見えなかった。


「回答になっていないですよ。

私に一人ぼっちだった頃の記憶を思い出させてどうしたいんですか?」


「思い出話がしてみたかったなって。

でも春奈がその記憶達を思い出してないから意味ないなって思ってさ」


思い出話がしたかったのか。

私は何も言えなかった。

私がなぜこの記憶を忘れていたのかがこの言葉で思い出される。

そして私は噤んでいた口を開く。


「どうして私がその記憶達を忘れていたかお分かりですか?」


私は彼に聞く。

多分だけど、夜月先生は分かりもしない。


「それは分からないよ」


予想通りの言葉が出る。

だって真実は本人にしか分かんないのだから。


「私が忘れていた理由は、あの頃の私が惨めに見えたから。

誰にも話しかけずに、一人ぼっちの自分が嫌いだった」


「夜月先生と遊んでいる時、私は夜月先生は私と仕方なく

遊んでいたってほとんどのように思いました」


「だから小3になってから私は友達が出来てからは全てを忘れたのです。

なのにまた思い出すことになるなんてと思うとスッキリした感覚と

嫌な感覚が混ざってとっても最悪な気分です」


私はそう言った。

今言ったことは事実だ。

夜月先生と一緒にいる理由はずっと私が惨めだから

一緒にいるのだと思っている。

でも本当の言葉がなんなんのか分からない。


「一人ぼっちだった頃の春奈は惨めでもなんでもない。

俺は春奈と居て楽しかった」


「お祭りに一緒に行った事、紙飛行機を一緒に作ったこと、

一緒にアイスを食べたことのどれもが嬉しかった」


「俺だって一人ぼっちになった事はあるんだ。

一人ぼっちになる事が行けない事なんかじゃない」


「惨めなんかじゃない。

声を掛けられないのが情けないんじゃない。

1人でもいい事はあるんだよ」


私はまたあの時のように泣いた。

うるさい蝉時雨に掻き消されながらも2人の空間には蝉時雨と泣き声が響く。

そして彼は私の背中をさする。

今までずっと苦しかった。


一人ぼっちの自分は惨めで、友人と話して楽しんでいるであろうクラスメイト

を見ると、惨めな気持ちに苛まれた。

だから本を読んで、惨めな気持ちを振り払った。


でもどうしようもない時だってある。

それは姉たちと比較されること。

夜月先生と松田先生以外の先生にこう比較される。


「夏美さんと雪華さんは友達が沢山いるのに春奈さんはねえ…」って。

その途端心が苦しくなる。

自分が嫌になる。

そして好きだった自分はいつの間にか嫌いな自分へと変化した。


あの言葉を言われると涙が出た。

その度に夜月先生と松田先生は助けてくれて。

でも申し訳なかった。

だから1人で泣いていた。


「私はどうして姉と比較されなきゃ行けない存在になったのでしょう…?

私は姉とは違う人間で、同じなわけがないのに…!!」


私はできるだけの声で言う。

これが今の私に言える悲痛な叫び。


「春奈は春奈でいい所がある。

夏美や雪華とは違うんだ。

春奈と夏美達は違う人間なのは当たり前だ。

それを一緒と思っている教師がおかしいんだ。

春奈は一切悪くない」


「…ありがとうございます」


そのあとは他愛のない話を続けていただけだった。

苦しさからやっと解放された今日の私の心は何処か清々しかった。

夜月先生には感謝だ


本当にありがとうございます、夜月先生。













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